コツンコツンと足音が響く。
オレとエイトは、ラパンハウスでの宴を抜け出し、ベルガラック南東、不思議な遺跡に来ている。
不思議な遺跡は、エイトを落ち着かせる力があるようだ。
二頭の竜に守られた祭壇がエイトを迎える。オレはエイトから少し離れたところで待つ。
竜は、歓迎するでもなく、拒否するでもなく、エイトの存在をただ静かに見守っている。決して、オレには表さない、独特の世界をエイトには見せている。
今夜は嫌に霧が濃い。祭壇が白くかすんできやがった。
と、急に、エイトが竜に捕らわれて消えてしまう感覚を覚えた。半分は霧のせいもあるんだろうが、オレは不安になり、捕らわれまいとエイトに近づこうとした。だが、身体が動かねえ。一瞬、稲妻がオレを通過し、ピリピリとした余韻を残した。
「エイト……」
やっとのことで声を出せたが、その声は小さくて、エイトには届かない。
竜は白い幻影を作り出し、エイトの周りをぐるぐると回る。
「やめろ……エイトを連れていかないでくれ……」
声とは言えないほどの声が、喉の辺りで止まる。くそっ、オレのエイトが……。
すると、ふっとエイトの姿が戻って来て、オレの硬直も解けた。
なんてこった。ここへくるたび感じる呪縛が強まってやがる。
この竜はオレを拒否してやがるんだ。
霧が薄くなり、祭壇に向かってひざまづき、祈り……エイト風に言えば宣言をしている姿が見えた。オレはゆっくりと祭壇に近づいた。
エイトの細い首が月夜に照らされる。きゃしゃな肩は呼吸にあわせてゆっくりと揺れる。
オレは神聖な生き物を見るような感覚でエイトの後ろ姿を眺めていた。
考えてみたら、エイトほど稀有なヤツに会ったことがねえ。親どころか、一人の身内もいない、出生地すらわからない捨て子。
トロデーン領の草っぱらで保護されたという。
出会った頃は、大した腕前もなかった。それなのに15、6歳にはいっぱしの兵士になっていたというのだから、トロデ王の引き立ては半端ない。……まあ、姫さんと同い年で、姫さんのお気に入りだから、トロデのおっさんとしては、引き立てざるを得なかった、というところか……。
それにしても、計り知れない強さを秘めたヤツは……オレになついている……いや、なつくなんてペットじゃねえのに……。
そんなことを考えているうちに、エイトがゆっくりと立ち上がった。気が済んだようだな。
「何を祈っ……宣言していたんだ?」
「ククールを愛しています、って……」
「バーカ」
「あっ、待って……」
待てるもんか。
オレは、エイトを抱き上げ、祭壇から離れたところにそっと横たえる。
「んんっ……」
唇を合わせる。
「……あっ……ん」
舌をつかまえ、誘いこむ。
「はあっ……ん……っ」
息苦しいほどの刺激を与えてやる。
「っん……ククール……あぁん」
舌を絡め合い、互いの唾液を吸い上う。ピチャピチャといういやらしい音が耳に心地よい。
唇を、舌を吸い合えば、勢いで歯がぶつかる。構わず角度を変えて深く口付ければ、身体の芯がどんどん熱をもち、胸の鼓動が高まる。
エイト、愛してる。オレだって……。
誰の声もしない、どんな鳥も来ない、無音の遺跡。
しかし咆哮のような声が、地鳴りに似た振動をオレに伝えてくる。
……エイトをわたすものか。誰にも。
オレは、見えない力に対して誓った。
……オレはエイトを守る。
エイトの身体から徐々に力が抜けていく。
「はあ……んっ……ほし……い……早く」
エイトはオレの中心に手を伸ばす。
「ククールの、ちょうだい……」
騎士服の上からオレのモノをなぞる。
「言われなくたって……」
いくらでもやるさ。
なんだってやる。
お前の望むもの全てを。
「……すごい……いつからこんなに?」
エイトは根元のほうから形を確かめるように撫で上げながらそう言った。
「わかんねえ……お前だって」
乱暴に脱がせた服の中から現れたエイトのそれも、固く屹立していた。
何度も重ねた身体は、すぐに熱をもち、互いを激しく求める。
なぜ、こんなにもエイトが好きなんだろう。
なぜ、こいつのためなら何でもしたいと思うんだろう。
誰を抱いても単なる欲望の吐き出しでしかなかったのに、だ。
いとおしい。
オレの髪をすく指も、息継ぎする間も惜しんで口づけてくる唇も、黒曜石みたいな濡れた瞳も。オレを信じて投げ出されたエイトの全てがいとおしい。
ただ、いとおしい。
互いの愛撫で我慢の限界を越えたオレたちは、相手の口腔に思い切り放出する。
大量の精を飲みこみ、そのまままだ愛撫を続ければ、再び血液が集まり力強く形を変えていく。
言葉なんていらなかった。
いとおしい、愛したい、と思う気持ちだけで相手を求めればいい。
優しく……。
薄くあいた唇からは熱い吐息。
時おり硬直したかと思うほど、弓なりにしなる身体。
優しく触れているのに、行為はどんどん激しくなる。エイトの中は熱くオレをつつみこみ、いくらでも欲しがるのだ。
黒い瞳は潤い、まっすぐにオレを映す。
「ちょうだい……」
オレを振り返り、声を絞り出す。
「……お前も……な」
オレはすでに限界が迫っていた。エイトもさっきからずっと解放感に耐えている。力が先端に出ていこうとするたび、オレは根元にぎゅっと刺激を与える。
「っ……、もう……もうっ、だめっ、出るよ……」
はあはあと息が荒くなる。
「ああっ!」
「うっ……」
同時に吐き出される精。
オレはエイトの中に、エイトはオレの手の中に。
満ち足りた時を全身で感じるこの瞬間……。
『早く! 早く! 助けてください!』
あの声だ。
ゴルドで聞いた、あわただしいあの声。
早くラプソーンを倒せってのか?
オレはエイトを抱いたまま、不思議な声をよく聞こうとした。
『早く、早く、追ってください』
なんだこれは?
「……ククール、どうかした?」
やべえ、エイトに心配かけちゃならねえな。
オレは不思議な声に集中するのをやめた。代わりにエイトの乱れた髪を撫でる。
「無理だよ、ククール。すごい癖っ毛なんだから」
「なんかやらしーな。気持ちよすぎてこんなに乱れましたってか?」
エイトは真っ赤になって「ばか!」と言う。
「ククールはさ、まっすぐだね。きれいだな。……さらさらって僕の指の間から、こぼれていってしまう……」
エイトは静かにそう言って、オレの髪を鋤く。
言葉のないまま、しばらく抱き合っていたオレたち。その間ずっと、エイトはオレの髪を鋤く。
『早く!』
!!!
なんだってんだよ!
誰だ!
『ク……クール……』
オレの名を知っているのか?
誰だ、言えよ!
『わ……たしは……』
頭が痛え。
オレを呼ぶ声はオレを殺そうとしているのか?
『助け……』
「痛いよ、ククール……そんなにきつくしないで」
「あ……わりぃ……」
抱きしめていた腕に思わず力がはいっちまった。
「そろそろ行こうか?」
「ああ」
ラパンハウスへ到着する頃には、頭を痛めていた不思議な声のことはきれいさっぱり忘れていた。
ククールの頭痛はまだ続きます。