「またおいでなされよ」
ラパンハウスで宴会をした俺たち。一夜明け、今度こそベルガラックへ向かう。
二日酔いのせいでスタートが遅れたが、まだ昼を少し過ぎたばかりだからいいか。
まあ、早寝早起きのエイトの兄貴も目をこすってらっしゃるし……。
兄貴……。夕べはいつの間にか消えてらした。ククールの野郎とまたドニでも行かれたんだろう。……最近、消えるのがうまくおなりじゃないですかい?
「ちょっとヤンガスってば、なにニヤニヤしてるのよ、気味が悪いじゃない?」
「えっ? そうか、すまねえ」
いけねえいけねえ。兄貴の昇天シーンをつい想像しちまったぜ。
……それにしても、ゼシカの嬢ちゃん、二人が夜遊びしていることを知っているんじゃねえだろうか。俺は、二人が連れ立って遊びに行くのを黙認しているが、嬢ちゃんだけには気づかれまいとしていたんだが。あの勘のいい嬢ちゃんだ、いずれ気がつくだろうとは思っていたんだが、まさかこんなに早く……。
夕べだって、俺が気づいたのは二人の姿がすっかり消えてからだった。だが、嬢ちゃんは「ああ、エイトとククールなら仲良くお出かけしたわよ」だと。
女ってのはつくづくおっかねえ生き物だ。ただ、生死をわけた戦いの合間に女遊びしている仲間がいるなんざ、15、6の小娘には刺激が強くねえだろうか?
……いや、今どきの娘はそんなウブじゃねえのかもな。嬢ちゃんだって、破談になったとはいえ、婚約者がいたわけだし……、それ、そういうことは……。
「……ン! ヤンたら!」
「へっ? へい、何でがすか?」
「何でじゃねえよ、ギャリングの家か、カジノ、どっちだと思うんだ?」
「いてえな、メットを叩くんじゃねえよ。……なにがどっちだって?」
ククールは再び俺のメットを小突く。俺も痛いが、てめえの拳もただじゃすまねえぜ。
「だから、話聞いてろよ。ギャリングのおっさんのオーブがカジノにあるか、家にあるか、トゲトゲはどっちだと思うんだ?」
「ああ、そういうことか。そうさなあ……今までは賢者が命を落とした場所にあったから、やっぱり部屋じゃねえのか?」
オディロ院長もマスターライラスも、サーベルトも殺害現場だったからな。
ギャリングだってそうだろうよ。
「でもね、サーベルト兄さんのオーブはリーザス像の前にあったけど、兄さんが刺されたのは、厳密にいえば、フロアの中央なのよ。兄さんのオーブは、リーザス像の前に誰かが置いたのよ。目印みたいに」
兄貴の話となると、目くじらたてやがる嬢ちゃん。ったく、ブラコン発動だ。
まあ、殺害現場とオーブの発見場所がちょっと離れてたからって、特に問題ねえだろうけどな。
しかし、珍しくエイトの兄貴が反論なさった。
「いや、違うよゼシカ。きっとサーベルトさんは、忌の際、最後の力を振り絞って、リーザス像の前まで行ったんだよ。像に願いをこめるために……」
そう考えりゃ、女神さまのお膝元に召された瞬間は、リーザス像の前だったかも知れねえしな。
うーん、と黙り込む嬢ちゃん。
「なあゼシカ、サーベルトの第一発見者は誰だ?」
「ええと、うちの護衛よ。リーザス像のある場所で亡くなってたって……うっ……うっ」
泣き出す嬢ちゃん。
「ちょっとククール? ゼシカにそんな話させるなんて、君にはデリカシーってものはないの? ……大丈夫? ゼシカ。言わなくていいよ、サーベルトさんが亡くなった厳密な場所なんて」
「いいえ! エイト、言わせてちょうだい。兄さんが見せてくれたあの悲しい名場面では、兄さんはド、ドルマゲスの杖……杖に……うっ……うっ」
嬢ちゃんは大粒の涙をポロポロこぼしながら、あの回想シーンを語る。
「……まあ、とにかくだ、ゼシカの話は説得力がある。そう考えれば、ギャリングはカジノに違いないぜ」
「どうしてそうなるの? ……いや、仮にそうだとしても、先に部屋を訪れるのに問題ある?」
兄貴とククールが一触即発だ。
俺はハラハラしている。兄貴、ククールとケンカしたら、ドニ遊びがしづらくなりやすぜ?
どっちだっていいじゃねえですか?
「あの、兄貴? 別にどっちも行けばいいんじゃねえんですかい? どっちかじゃなきゃ笛が吹けねえわけじゃありやせんから」
「そうなんだけどさあ……」
「絶対カジノよ。ギャリングさんはカジノをこよなく愛していたんだし、魂が宿るとしたらカジノだわ」
「いや、ゼシカ、ギャリングさんがこよなく愛していたということを考えれば、やっぱり家だよ。フォーグとユッケの二人に違いないんだから」
なんだってまた、こんなめんどくせえ話になってんだ?
どっちだっていいんじゃねえの?
???
そうか。
ククールだ。
ヤツを見ろ、カジノと言い張る嬢ちゃんに味方していやがる。
兄貴はおそらく、カジノにヤツを行かせたくないんだ。
俺は怒った。
「ククールてめえ、カジノで散財するつもりだな?」
「なっ? なに言ってんだよ、んな訳ねえだろ?」
「ええっ? そうなの? ククール」
「いや、そうじゃねえし……ゼシカ、にらむなよ……」
ククールめ、この期に及んでまだ遊ぶことを考えてやがるのかっ!
てやっ!
「わっ! バカ、なにしやがる? いてえだろ! 真空波なんて!」
「うるせえ! 文句があるならかかって来やがれ!」
俺の起こした真空波は、ククールの長髪を何本かみじん切りにしてやった。
俺は捨て身の構えをとり、再び真空波を起こそうと力をためた。
「ヤン、ヤン、やめて! いいんだよ、もう。ちょっとカジノ行くくらいなら……」
「そうよ、ヤンガス、ほんのちょっとやり過ぎよ、気合い入りすぎ」
兄貴に両手を優しく握られて、俺のテンションは一気に別の種類へ変わった。
「ぶほっ!」
「ヤン!?」
俺は、横たわっている……。静かな……森の中のようだ……。
耳をすませば、人の話し声。誰だ……?
「……バカじゃねえ? ちょっとリーダーが手を握っただけで鼻血なんてよ。チュウでもされたら死ぬんじゃねえの?」
「あはは、それって悶絶死?」
「萌え死だな」
なんだ? 何の話しだ?
クスクスと笑い声まで聞こえる。一体、何を話してやがる?
すると、兄貴のかわいらしい声が聞こえてきた。良かった、兄貴のお側にいられて……。
「もうやめてよ二人とも。カジノが先でいいから、早く行こう? 今日中にリブルアーチに行きたかったのに、もう日が暮れちゃう」
日が暮れるだって?
俺はガバッと起き上がった。
「わっ! なんだよ、急に! びっくりするだろ?」
「ヤン、急に起きちゃダメだよ、貧血なんだから!」
「出血多量よ……ふふっ」
「日が暮れるっておっしゃいましたか、兄貴!」
「え? あ、うん」
なんてこった!
「すいません、兄貴……。あっしのせいで……」
「いいんだよ、それより大丈夫?」
ああ、なんて優しさだ……兄貴。
女ができた後でも、俺にこんなに優しくしてくださる……っ、涙がっ……。
「今度は涙かよ、水分出過ぎじゃねえの?」
「お前には言われたくねえ!」
「あーはいはい、わかったから、早く行こうぜ」
うるせえククール! 全ててめえのせいだ!
誰のせいであっても、てめえのせいにしてやる!
俺たちはベルガラックで食事をし、まずカジノへ行ったが、オーブはなかった。次に部屋へ行こうとしたんだが、表で声がする。何か騒ぎが起こったらしい。外はぽつぽつと雨が降り始めていた。
「か……かっ……いっ……かっ……いかっ!」
ギャリングの屋敷の使用人があわてている。何を言ってるんだ?
さすがに困っている人を無視していくわけにもいかず、というより、エイトの兄貴はすでに人だかりの中へ。兄貴、もしかして兄貴はお人よしじゃなくて、ただの野次馬なんじゃねえでがすか……?
仕方がないので俺たちも後を追う。見れば、噴水でバカでかいイカが行水をしていやがった。
「ああ、こんなモノを見た日にゃ……」
ククールが額に手を当て、天を仰ぐ。
「あたしたち、オーブ探してるのよね?」
嬢ちゃんもため息交じりだ。
全ての観衆の目が、兄貴に期待している……。
『そいつをやっつけるのは、キミだ!』と。
にこやかに振り返る兄貴に従い、俺たちはそれぞれ武器を構えた……。
「すみません、お礼をいたしますから、フォーグさまとユッケさまにはどうか内密に……」
ちょちょいと大王イカをやっつけた俺たちは、屋敷の使用人からたんまりと報酬をうけとった。
やっと部屋へ向かう。
ピロリロ~。
……ピロリロ~。
あった。オーブだ。
「さあ、ヤン!」
兄貴に促され、俺はオーブに触れる。ちょいと緊張が……。
「熱っ!」
「熱い? あわただしいじゃなく?」
嬢ちゃんが不思議そうに俺を見る。
「ああ、あわただしいどころじゃねえ、今しがた、ここに置かれた感覚だ。ちょいと前だ。大急ぎの逃走だ」
「逃走ねえ……」
ユッケによれば、直前にお参りしてくれた人がいたらしいが。そのせいであわただしくなったんだろうか。
ともあれ、ようやく4つ目だ。
今日はベルガラックに泊まるらしい。ふう。
やっと4つ目ですが、次もまだベルガラックにいます。