ベルガラックの噴水にいた大王イカをやっつけたオレたちは、そのままベルガラックに一泊することになった。
ゆうべはラパンハウスで、今夜はベルガラックで宴会だ。
オレたち、オーブを探してんだよな。
まあ、いいか。
頭上のラプソーンは何か悪さするわけでもなし。どうやら機をうかがっているようだ。悪い予感もない。
ない。
ない……んだが。
「ククール? 今日は進まないんだな。違うワインにするかい?」
おっと、いけねえ。
「いや、オーナーのフォーグ殿、お気遣いは無用ですよ」
「やっだー、ククールったら、丁寧じゃない、気持ち悪い」
妹のユッケがバシバシとオレの背を叩く。
その様子を見てみんながゲラゲラ笑う。
いい雰囲気だよな。
今日はフォーグとユッケも一緒。ゼシカもエイトもヤンガスも楽しそうだ。
フォーグとユッケの二人がオレたちと年齢が近いことで、他の場所より盛り上がる。二人はいろいろ苦労もしてるし、さすが客商売には慣れている。話が面白い。
だが。
どうも、誰かが呼んでいる気がする。死ぬのか? オレは。
まあ、暗黒魔城にのりこんでから、死についてまともに考えられるようになったし。
そう、やけっぱちの無駄死になんてしねえ。オレの命はオレのものであり、エイトのために使うんだ。そのために生きている。
「ああ~、楽しい。でも眠くなっちゃった……」
エイトが酒でぽーっとした笑顔を向ける。
「今日はもう寝るべ」
「うん」
頭を撫でてやれば、テーブルにひじをついて、顔をのせる。
笑みを浮かべたまま、ゆっくり目をとじるエイト。
かわいい……。
襲いたい。
「いてっ!」
またヤンガスに殴られたか? いや、ヤツはトロデのおっさんと盛り上がっているし。
頭が痛い。またあの声だ。不思議な遺跡にいたときの。
ガンガンしてきやがる。
そして、『早く…早く』とひっきりなしだ。
「さあ、もう休みましょう。あらあら、エイトったら寝ちゃったじゃない! ほら、起きて! エイト!」
ゼシカがエイトを揺り起こす。だが、エイトはふにゃふにゃと笑うだけ。
「やだー、エイトって可愛いのね。竜骨の迷宮に行ったときの凄まじいバカぢからがウソみたい」
ユッケに笑われ、「んあ? うん、ごめん?」なんて寝ぼけるエイト。
ヤンガスが心配して支えに来る。
ゼシカは笑いすぎで涙が出ている。
平和なパーティー。
安らかな、穏やかな時間。
なのにこの胸騒ぎはなんだ?
みんなが部屋に引き上げた後、オレは一人で表に出た。
雨のベルガラック。
頭が痛い。
早くどこへ行けばいいんだ?
リブルアーチか?
迷わずに、まっすぐ進んで行きたいのに。何かがオレに干渉してきてうっとおしい。
リーザスにいたなら、こんな時、風車の下にお前は来る。
だがここはベルガラック。
まだ客がうろうろしている。
歓楽街らしく、活気に満ち溢れている。
おそらく夜明けまで人通りは途絶えないだろう。
こんな夜に、オレは孤独だ。
月もなく、サアサアと細い雨が天からこぼれる。
ラプソーンも、この雨に打たれているんだろうか。
チェルスのオーブは、ハワード邸にあるだろう。メディさんのはあの離れに。最後の法皇さまのは……。
法皇さまか。
……あいつ、法皇になって何をするつもりだったんだろう。
あの演説を聞く限り、自分が長になり、統治国家かなんかを作りたかったのかと思える。それぞれの国は独立し、神の名ではなく、あいつの……人同士、平等に……。
今、あいつはひとりぼっちで、どこでどうしているのか。
ゴルドに落ちた連中のことを、どう思っているだろうか。
みじめに生きのびているんだろうか。
生きて……いるんだろうか。
雨は優しくオレを打つ。
涙が流れた感覚は嘘だ。きっと、この雨だ。
あいつがオレを追い出した先が、こんなにも苦難の道だとは思わなかっただろう。そして、こんなにも充実しているなんてさ。
あいつは、オレを追い出したことを後悔しているだろうか。野望達成目前にして、剣を交え……。負けて。
バカ兄貴。
オレたちに負けるなよ……。
……共に剣をとればよかったんだ。「みじめに生きのびろ」なんて言って、オレもバカだ。
『ククール……、早く……早く見つけて……』
痛い。あの声。
雨がオレの脳細胞を刺激する。意識は強く、はっきりとして、オレに違う風景を見せてくる。意識が研ぎ澄まされているのに、映像が危うい。目は見えているのに、霧のせいで見えないという感覚だ。
「よお、兄さん、一人かい? なんなら一緒に飲まねえか? それともナンパか?」
酔っぱらいの1組が声をかけてきた。
「あいにく酔いざましなんだ。すまねえな、今日はお開きだ」
オレがそう言うと、酔っぱらいは「ああ、そうかい~」と陽気に去って行った。
そう、お開きだ。
何でもねえ。宴が終わった。
明日はリブルアーチへ行く。それだけの話だ。
部屋に戻る。今日は大部屋だ。エイトもヤンガスもすでに眠っている。エイトはちゃんと風呂に入ったようだな。つやつやした薔薇色の頬……風呂上がりのエイトの顔だ。
オレに寄りかかればいい。お前はただ、がむしゃらに前へ進め。オレが、守ってやる。たとえどんな時でも。
『ククールさ……ん? 早く。お願いします、早く助けて下さい』
誰だ。
『私たちは、団長を信じています……』
この期に及んで、何を言っている?
あいつに与するだと?
自分勝手で、高慢ちきで、人一倍ストイックで、どうしようもない、バカ野郎に……。
『早く……早く……』
うるせえ!
わかったから、寝かせてくれよ。
ちゃんと、探すからさ。
センチメンタルと言うより、謎の声に悩まされるククールなのでした。ククールに訴えかけているのは、ゴルドの底に落っこちた騎士団員です。次はリブルアーチに行きます。