オークニスで6つ目のオーブを集めた。これであとはサヴェッラだけか。
「とうとう最後の一つになりやしたね、兄貴。あっしは感無量でがすよ」
ヤンガスが目頭を押さえる。
「泣くほどじゃないわよ、ヤンガス……。それより、オーブが集まったらあのラプソーンと戦わなきゃならないんだから。まだまだ先は長いのよ」
「そ、そうか。嬢ちゃんの言う通りだな。オーブさえ集まりゃって、気が急いちまったよ」
だな。オーブが集まったところで、どうすりゃいいのか、オレにはわからねえが。
「……ね、ククール?」
「どうした? ゼシカ」
ふと気がつけば、ゼシカが不安そうにオレを見上げていた。
「どうしたじゃないわよ。具合でも悪いの?」
「いや、そんなことないぜ?」
めそめそするヤンガスの背中をさすっているエイトまで、ちらりとこちらを見る。
そんなに心配されるほどのツラしてるか? オレ。
だが、オレは具合が悪いんじゃねえ。
気分が悪いんだ。
ここんとこ頻繁に起きるこの頭痛。加えて重いプレッシャー。
サヴェッラのことを考えはじめてからは、胸騒ぎまでしやがる。
「ね、ちょっとリーザスに寄っていい?」
「あっしはいいでがすよ」
「もちろんだよ、ゼシカ。ククールもいいよね?」
「いいぜ」
ここまできて里帰りはないだろうが、実家があるゼシカの気持ちはくみとってやりたい。
杖のない今、何よりも、ゼシカの安定が必要だろう。あの暗黒魔城で震えていたゼシカを思い出すぜ。
杖の力とは、一体どんなものだったのか。最も長く持っていたドルマゲスは、魔物と化した。犬のレオパルドもだ。だが、ゼシカとあいつは、違った。あいつなんて、文字通り顔色一つ変えずに、オレたちに杖を向けやがった。杖から解放された後、何か感じたものはあったんだろうか。
杖について、ラプソーンについて、何を思う?
リーザスでは、ゼシカの母上がいつものように迎えてくれた。
だが、マダムの様子が少し変だった。ゼシカが問い詰めたところ、ラプソーンを放置しているオレたちにしびれを切らしたリーザス警備隊のチビ二人が、討伐に行くと言って聞かないらしい。
「で、お母さん、あの子たちは今は?」
「それが、まずは海の魔物を倒すと言って、定期船に乗り込んでしまいました」
なんだって?
アホか、あのガキども!
「やだ、まさか本気で? でも定期船の海域は、安全なんでしょ? 少しくらいの魔物なら、船の乗組員が倒すだろうし。あの子たちの出る幕ないわよ。心配ないんじゃない?」
全くもってゼシカの言う通りだ。だが、マダムは険しい表情を崩さない。
「いえ、そうならいいのですが、あの二人は乗組員とともに魔物を倒すつもりです。事実、このリーザス周辺の魔物退治は、あの二人に頼っているのです」
「ええっ? 大丈夫なの? まあ、あたしやサーベルト兄さんも、あの子たちの年の頃には、リーザス塔で遊んでたけど……」
おいおい、賢者の魔力が宿っていた君ら兄妹と、ただの村の小僧じゃ訳が違うだろ?
「アローザ殿、大人は何をしておるのじゃ?」
おっさんの問いももっともだ。リーザスはトロデーン領なんだから。
しかしマダムは、少し言いにくそうにおっさんを見た。
「……昔からトロデーンの勢力下にあるわがリーザスには、自衛しようという考えがないのです。このあたりの魔物も、村の者に襲いかかることもありませんから。気をつけるとすれば、リーザス塔周辺とポルトリンク付近の海岸くらいです。お城の兵士のかたがきちんと見回ってくださるので、このリーザスとトラペッタは、優しい人間が多いのです」
「では、トロデーンの機能していない今は……」
エイトの言葉に、マダムはすっと息を整え、次のような話をした。
完璧ともいえる治安維持を行っていたトロデーンが機能しなくなってもう大分たつ。一時は、サザンビークが治めるという噂もあったが、リーザスもトラペッタも、行方不明のトロデ王とミーティア姫が見つからないことを一番心配しており、すぐにサザンビークの勢力下に、というのも納得いかない。そこで、サヴェッラが、騎士団を派遣することになった。リーザスとトラペッタには自治を促し、当面サヴェッラ預かりという扱いという流れになっている。このまま時を経れば、トロデーン領はサザンビークが統治する線が濃厚だが、東のリーザス村はアスカンタ領に入る可能性もある。
当面、自治を、ということで、トラペッタとリーザスの大人たちは交代で見回るのだが、ここのところトラペッタ北海域の魔物が強く、人員をそちらに多く回さざるを得ない。
そのため、村周辺の陸地を見回る人数が減ってしまうのだ。ポルトリンクから南の大陸へ渡る定期船の就航海域も同じこと。
「沖に住む魔物が沿岸部までやってきておるということじゃろう。わがトロデーンは北の海の警備もしておったからのう……。定期船の海域に来ていなければよいが」
トロデのおっさんがため息をつく。おっさん、ちゃんと王さまやってたんだな。
「皆さん、ちょっと様子を見てきていただけないでしょうか。朝から出ていってまだ帰らないそうなのです。定期船も、そろそろ最終便が戻る頃です。帰り道で何かあったら……」
「もちろんじゃ。アローザ殿の頼みとあらば、おい、お前たち、行くぞ」
張り切るおっさんを先頭に、オレたちはポルトリンクへ向かった。
「平和に見えるこのリーザスも、問題を抱えてるってことだね」
「エイトの兄貴、兄貴のせいじゃねえですよ。そんな悲しそうな顔をなさらないで下せえ」
これは、早くぷよぷよラプソーンをやっつけなきゃならねえな。自治をったって、限界があるだろ。
「しかし、兄貴、トラペッタもリーザスも、トロデーンを慕ってるんでがすね」
「うん。王の人柄だよ」
人柄ね。王たる者、ただ単に威張ってる訳じゃねえ。生まれながらに王の地位だとしても、生まれながらに王の実力があるわけじゃねえ。幼い頃から教育されて、行動が思いっきり制限されるんだ。楽な道じゃねえ。逃げる訳にもいかねえし。
なあ、好きで王をやる訳じゃねえんだよ。生まれながらに大きな責任もとらされてるんだ。
姫さんも、サザンビークのバカ王子も。
何不自由ないように見えて、何の自由もない。
王族ってのは、そういうんだろうな。
海を渡り、他地域の人間が集まるからだろうが、リーザスに比べればまだあか抜け感のあるポルトリンク。そのポルトリンクが、今日は雰囲気が違う。
「あっ! ゼシカお嬢さん!」
早速ゼシカがつかまった。荒くれたちも宿屋の従業員も、港で働く者が皆、群がってくる。
「さすが嬢ちゃん、この辺の親分て感じでがすね」
「しーっ! ヤンたら、親分だなんてゼシカに聞かれたら燃やされちゃうよ」
いや、ヤンガスの言う通りだ。女親分は、ごちゃごちゃ言うやつらを一喝し、話をまとめているようだ。皆、ゼシカの話をうんうんうなずきながら聞き、やがて数人の荒くれを残して静かに散って行った。
女親分ゼシカは、荒くれに何か指示を出し、こちらへ戻って来た。
「あの子たち、船を一艘かりて二人で海に出たって」
なんだって?
「始めはおとなしく定期船に付いていたらしいんだけど、定期船の乗組員が魔物退治で目を離した隙に、姿をくらましたって」
なんてこったよ。
「海は危険だよ。隠れるところがないし」
「ええ。まあ、操縦は上手いから、逃げることはできるとしても、限界はあるわね。……エイト、船だけど、いい?」
「もちろんだよ。今回もゼシカに操縦任せるね」
てなわけで、オレたちは、リーザスちびっこ警備隊を探すため、海へ出ることになった。
次はポルクとマルクの二人を救出しに行きます。