「せめて西か東か、あの子たちが向かった方角だけでもわかれば……」
器用に舵をとりながら、嬢ちゃんは遠くを見つめてそう言った。
嬢ちゃんが心配するのももっともだ。リーザスの小僧どもは、まだ10かそこらだろう?
俺たちは古代船に乗り込み、まずはポルトリンクから南の大陸へ向かってみる。航路をちょっとでも外れると、オセアーノンクラスの魔物がうようよしていやがった。今の俺たちなら、片手でひねることのできる魔物だが、あの小僧どもじゃあ無理だ。うまく逃げていればいいが。
……ったく、世話の焼ける小僧どもめ。俺たちはサヴェッラへ行かなきゃならねえのに。
だが、エイトの兄貴が……、いや、今回は、兄貴のおかしらであるトロデのおっさんのせいで寄り道だ。まあ、寄り道ったって、俺としてもリーザスの小僧どもを放って置くわけにはいかねえさ。
で、俺と兄貴は船に乗ったと同時に戦っている。
「……っ、オセアーノン、約束守って航路を邪魔しないでいるんだねっ。航路に出てくる魔物は、お絵かきチビアーノンとかだけだもん」
「そうでがすねっ。たっ……たまに今みたいに間違って、海竜も出ちまいますが、強すぎってわけじゃねえですね……っと!」
兄貴と俺はおしゃべりしながら海竜2体を海中に放り込み、一息つく。
小僧捜索隊の作戦は、俺と兄貴が戦い、嬢ちゃんとトロデのおっさん、そしてククールがリーザスの小僧どもを海上に探すというものだ。
「ヤン、大丈夫? ホイミかけるね」
「えっ? まだ大丈夫でがすよ。そんなにちょくちょく……兄貴のほうが疲れちまいやす」
「何言ってるんだよ、ヤン! いつでも満タンにしててくれなきゃ。ヤンに何かあったら大変だもの!」
エイトの兄貴と二人、回復は後回しにして戦っている。俺は兄貴の前に立ちはだかり、敵の攻撃を受け止めるから、ダメージを多く受けてはいるが、そんなに大ダメージ受けてる訳じゃねえんだが、戦いのあとはこうして必ずホイミをかけてくださるんだ。
ああ、なんて優しさだ……。「薬草でも使って」なんて絶対におっしゃらない。
俺は兄貴の優しさを独り占めし、ますます士気が上がる。
どれくらい戦っただろうか。俺と兄貴なら大して苦ではないが、いい加減、飽きたし疲れてもきた。
兄貴も、ふうっ、と天を仰ぎなさる間隔が短くなってらっしゃる。
「だいぶ暗くなってきたわね」
「そうじゃな。まだ見つからんか……」
「ったく、迷惑なガキめ」
海を見つめていた3人が、そんなことを言い出したとき、一緒に出ていた定期船が近づいてきた。
「ゼシカお嬢さーん!」
「何? いた?」
「はい!」
定期船の乗組員がカンテラを高々と持ち上げ、ぐるぐると円を描いている。
「ああ! よかった……。無事なの?」
「それが、お嬢さん、舵がきかねえようでして、おまけに海竜5体に囲まれちまってるんです!」
「なんですって!」
そりゃ一大事じゃねえか。
二人は、船のマストにつかまってじっとしているだけだという。
まあ、勝ち目のねえ相手に対しての対処としては最上の策だ。下手に攻撃するより、おとなしくお帰りいただくのがりこうってもんだ。
「もう暗いぜ? 万一風にあおられでもしたら、ひっくり返って危険だ。早く助けねえと」
「そうね、でもどうやって近づいたらいいか……」
夜になってしまったら、この船の明かりがあっても、小僧どもの小さな船はもう見えなくなるだろう。
ロープで牽引するしかねえが、海竜がいるんじゃ迂闊に近寄れねえ。
「……なあ、神鳥の魂であいつらの船に飛ぶってのはどうだ? オレたちなら海竜5体くらいすぐ倒せるぜ」
「ダメよククール。着地できなかったら、海に落ちちゃう。そうなったらもっと大変よ」
ああ、面倒なことになっちまった。
「僕たちの船を襲ってくれればいいんだけど……」
小僧の船から遠ざけるには、こっちから挑発するしかねえが、海竜は、俺たちの船を襲うとは限らねえ。定期船のほうに襲い掛かったら、乗組員じゃやっつけられねえだろうな。
こうしている間にも、どんどん日は落ち、暗さが増していく。
横に付いた定期船の乗組員にも、焦りの表情がみてとれる。
「ね、こういうのはどう? 僕が定期船に乗り換えて、とりあえず二隻で近づいて行く。海竜はきっと気づいてどちらかを襲おうとするはず。そうなったら、ヤンは口笛をつかって海竜を挑発してみてよ。興奮して古代船に襲いかかってくるよ。ヤンが戦っているその隙に、僕がポルクたちの船を定期船に係留する」
「リーダーが係留する間に他の魔物が来ないとも限らない。オレも行く」
「いいわ。時間ないもの。それで行きましょう。定期船は舵取りの乗組員一人残ってあとはこっちに来てくれる? こっちに人が多いほうがいいわ。エイトとククール、あの子たちをお願いね」
「わかった。その作戦でいこう」
そんなわけで、俺たちは定期船と古代船にそれぞれ分乗し、海竜が作る渦を目指してゆっくり進んでいった。
小僧たちの船が見えてきたぞ。二人はマストの半分くらいの位置にしがみついていた。
ほとんど泣きそうだ。
「ポルク! マルク!」
嬢ちゃんの声に、海竜がちょっとこちらを向く。
「ゼシカ姉ちゃん! おれたちなら、大丈夫。戦う!」
「何間抜けなことほざきやがる、クソガキ! そこにしっかり捕まってろ!」
俺は思い切り口笛を吹いた。
ヒューッというその音は見事に海竜を挑発し、奴らは水しぶきを上げてこっちへ向かってきた。
兄貴を乗せた定期船が反対側から小僧たちの船に接近していく。兄貴、ご無事でっ!
「ちょ……スゴいわ、ヤンガス!」
小僧たちの船は、海竜の餌のおこぼれにあずかるつもりだったらしい、何体かの魔物に襲われ出したが、ククールの剣がいい音を出しているし、大丈夫だろう。
兄貴のためだ。いっちょやってやるぜ!
「いくわよ、双竜うちっ!」
嬢ちゃんは乗組員に舵を任せ、鞭を振るう。俺はオノ無双をぶちかます。
「手強いわね、次はイオナズンよっ!」
船が焼け焦げるかと思われるような大爆発に、海の魔物どもは暴れ狂う。
俺も真空波で切り刻む。
他の乗組員は、魔物が弱ったところで海へどんどん放り出す。
「っ!! ちょっと待って、祝福の杖を……」
海竜にくっついてきたヤツの直撃を受け、嬢ちゃんがかなりのダメージを受けた。
「エイト! そっちは?」
「もうちょい! 二人とも頑張って!」
ああ兄貴! 兄貴のその励ましは俺をスーパーハイテンションに押し上げた。
「むううっ!」
渾身の爆裂拳!!
でゅん!
でゅん!
でゅん!
でゅん!!
「いやーっ! なんなのこれ!」
「どわーっ!」
爆裂拳は決まったはずなのに、俺たちは猛攻を受けた。
おいおい、何体いやがるんだ?
「ヤンガス、あたしの回復術じゃ間に合わないわ!」
何てこった!
俺は世界樹の雫を使った。
「何なのよ! この魔物の数は!」
今さっきまで甲板で暴れていた海竜はいねえ。だがしかし、別の海竜が6体甲板に上がっていやがった。
「ゼシカお嬢さん、ひょっとするとここは海竜の棲かもしれません。さっきのお嬢さんの爆発攻撃で集まって来たようですぜ?」
「いやぁー! あたしのイオナズンのせいだわ! ヤンガス、どうしよう!」
どうもこうも、どうにもならねえよ。
「ああ、もう少し人がいれば……」
「どういうことなの?」
「ええお嬢さん、海竜は人間が嫌いなんです。だからこう、どやどやーっと人が大勢いれば。今この船には5人しかいませんからね。海竜も調子に乗ってるんでしょう」
「そんなこと言われても……」
どやどやーっと人が?
どやどやーっと?
「あるぜ! 任せろ!」
俺は深く深く息を吸った。
「おっさん!!!」
声は辺りに響き渡り、俺の隣に異空間の扉が現れるのを感じた。
どやどやどやどやーっ!!!
荒くれやら店員やら坊主やら、色んなおっさんが15人ほど現れ、海竜に体当たりをぶちかましながら通り過ぎる。そして再びおっさんたちが異空間の扉から帰って行くと、甲板はおろか、海中までがしーんと静まり返った。
「……すごいのね……『おっさん呼び』って……」
「お、おう……」
俺も発動したのは初めてだ。……ラプソーン戦でも来てくれるんだろうか……。
まあ、そんなこんなで、リーザスの小僧どもの船を引っ張りながら、無事にポルトリンクへ帰ることができた。
おっさん呼びがやりたかっただけでした。二話も使ってしまいました。次こそはサヴェッラに行ける……かも。