「痛え」
ちくしょう。
頭が痛え。
「ククールどうする? どこか教会がいい? それともドニ?」
「いや……」
しばらく前から続いていた頭痛が、ついに重症になりやがった。
せっかくサヴェッラに来たってのに。
吐き気までするぜ。
「リーザスに行く? うちでしばらく休んでたらいいわ。警備もいるし……」
「いや……」
ゼシカの家に世話になるわけにはいかねえよな。
「ベルガラックはどうだ? あそこならいい医者来てそうだぜ」
「いや……」
確かに、金持ちの集まる街だが、今は雑踏すら痛みに障るのに、あんなにぎやかな所じゃ、治るものも治らねえよ。
「どうした、ククール? まだ治らんか? おっさん呼びのショックじゃあるまいに」
まさかそんなことねえよ。いくらおっさん呼びの後で頭痛がひどくなったからって。
夕べリーザスの小僧どもを探しに行き、ヤンガスとゼシカが海の魔物と戦っている隙に小僧どもの船を定期船に繋いだ。
意気揚々、ポルトリンクに帰った訳だが、どうしたことか、例の頭痛がひどくなった。それでも夜は耐えたんだが、日が登るとともに激しくなっていきやがる。
「うおっ……」
痛え……。頭が割れそうだ……。
脂汗が出る。
もう立ち上がることもできなそうだ。ホイミとか薬草とかで治る感じでもねえし。
「ククール……」
「し、心配すんな。大丈夫だ」
エイトの不安そうな声。
オレは目をぎゅっと閉じているしかねえ。まぶしくて目を開けられねえんだよ。
ったく、なんでまたこんなことに。
「ククール! …………」
エイト。何を言っている?
エイトの言葉が聞き取れねえ。
耳鳴りがキンキンしやがる。
エイトか?
オレを揺さぶるのは……。
頭が痛すぎる。お願いだ、身体を揺すらないでくれよ。
しかし、その感覚すらなくなっていくようだ。
どうなっている?
オレは意識を失った。
……どこだ?
ここはどこだ?
オレは浮いているようだった。
暗いな。
オレは耳を澄ます。
ヒソヒソと小さな声。
誰がいるのか?
「……」
「……」
誰だ?
何人いる?
「……お願い…お願いします…早く…早く」
!!!
あの声!
サザンビークの遺跡や、ゴルドで聞こえた声だ。
お前、誰だ?
「……ククール…さん、ククールさん、早く…早く…」
やはりお前はオレを知っているんだな。誰だ?
叫びだしたいのに、こっちは声が出ねえ。何も見えないし、オレを呼ぶ声もはっきり聞き取れねえし。
「早く……団長殿を…探して…」
何だって? 騎士団の奴か!
「……助けてください…団長殿を…信じています…団長殿を…お願いします…」
あいつを助ける?
オレに長いこと頭痛を送ってきやがった奴はマイエラの騎士団員なんだな。
ゴルドの就任式に同行したか、見学に来たかで、大穴に落ちたんだろう。
こんな深淵に落とされてもまだあいつを心配していやがる。バかなヤツ……。
オレは意識を集中した。ゴルド就任式のあいつの電波な演説を思い出す。そして戦い、ゴルドがめちゃくちゃになって……あいつはどこへ行ったんだ?
見えない…見えない。
ゴルドから去るあいつの青い法衣はズタズタだった。
あの戦いの時、エイトが情け容赦なく拳をふるった。最後はゼシカがエイトにすがって泣いて止めた。ヤンガスもエイトの右手を抑えた。
オレは、あいつが死んでもいいと思っていたのか……。ドルマゲスやレオパルドのように。
いや、あいつはまだあの時力は残っていた。
エイトを殺す気なら、オレは間に割って入り、あいつと相討ちになるつもりだったんだ。絶対にエイトを殺させやしない。
もし……エイトが兄貴を殺すなら、その前にオレが兄貴を殺すつもりだったのか。
何なんだ、オレは!
ああ、頭が痛え。
頭の中に、うっすらと何かが見えてきた……兄貴だ。あの時のズタズタの法衣のままでふらふらとゴルド島をさまよっている。宙には暗黒魔城が浮いている。
兄貴はただひたすらに海岸を歩き回っている。次第に歩みが遅くなり、その姿はどんどん薄れていく。やがて洞窟に入りこみ、わき水を口にするだけの日々。
魔城が崩壊した! どす黒い空が徐々に青さを取り戻し、ゴルド島の周りの海も輝きを取り戻していく。
幻のように薄れてしまった兄貴は、ついに海岸に倒れた。そしてすっと消えた。
死んでしまったのか?
バカ野郎!
なんで勝手に死ぬんだ!
息が……息ができねえ。
兄貴……死ぬんじゃねえ。
自分でオトシマエつけやがれ!
なんでオレまで苦しくなる?
なんでオレまで死にそうになる?
時がすっと過ぎた。
暗闇を映しているオレの頭の中に兄貴が見える。
兄貴は生きている?
パルミドのサウナで酒を飲んでいやがる。オカマに囲まれて……なんでまた……。
時がすっと過ぎた。
頭が痛え……。
これは今だ。
兄貴は生きている!
マイエラか……まだパルミドか?
眠っている……。
バカ野郎、何をやってやがる!
さっさと騎士団助けに行けよ!
あんたの部下だろうが!
法皇になれなかったからって、悲劇の主人公ぶってんじゃねえ!
あんた、現実見ろよ!
ふざけんな!
サウナでのんびりしてる時間はねえんだよ。
!!!
「だ、大丈夫?」
エイト?
「良かった、気がつかれましたか」
誰?
暗い部屋……いや、草っパラか?
目が冷たい。
冷やしてくれてんだな。
「ここは?」
「三角谷よ」
そうか。
ゆっくり目をあける。エイトと、ゼシカ、ヤンガスまで心配そうな顔でオレをのぞきこんでいる。そっと起き上がる。
「わっ!」
ひんやりして気持ちいいと思っていたら、なんと、ギガンテスに抱かれていた。
ニンフのラジュをいつも肩に乗せているあのあいつだ。
「ギ、ギガンテスって……冷たいんだな?」
ギガンテスは無言でそっと草の上にオレを下ろす。
「ずいぶんうなされてたぜ」
「ええ、バカとかいい気なもんだとか、チョー文句言ってた」
そうですか。
「嫌な夢でも見ていたようですね」
ラジュちゃんも近くにいてくれた。
「ラジュちゃんにまで、心配かけちまったな。……なんだろうな、覚えちゃいないが、ものすごく、嫌な気分だぜ」
「とりあえず、良かったよ。ククールが気がついて。今日は無理しないでここに泊まろう。明日以降、ククールの気分がよくなったら、サヴェッラに向かうよ」
「悪かったな、ここへきて足踏みで」
「仕方ないわよ。ククールったら、すごく調子悪そうだもの」
「うん……顔色も悪いよ」
本調子じゃねえんだな。無理して行ってもいいことなさそうだし。ここはみんなの好意に甘えることにするか。本当ならすぐにでもサヴェッラに行くべきだろうが。
ったく、気分が悪い。
本当に、何の夢を見ていたんだろうか。
ここまできて、まさかのククール体調不良。マルチェロ団長の呪い? でしょうか。