※この作品はR-18です。

DQ8 勇者と寄り道の旅   作:ぽんぽんペイン

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ククールを心配するメンバー。サヴェッラといえば法皇。法皇とくれば兄マルチェロ。複雑な胸中をゼシカが語ります。


やっぱり、あの人のこと

ククールの頭痛が治るまで、三角谷にいることになったあたしたち。なんとなくみんな元気がなくて、それぞれに過ごしていた。散歩でも行こうかとバーをのぞいてみると、なぜかヤンガスがマスターの掃除を手伝っていた。王さまはソファに座ってなにやら書き物をしている。錬金レシピか何かかしらね。エイトの姿はない。

 

「ねえ、ヤンガス、エイトは?」

「ああ、兄貴なら散歩に出られたぜ」

 

エイト、一人で散歩に出たのね。あたしも村の外へ向かう。

 

……複雑よね。

サヴェッラ目前にしてのククールのあの状態。

 

夕べククールは、ラジュさんのギガンテスに寄りかかって眠った。もううなされたりしなかった。

今もあの壁画のところでギガンテスと一緒にいる。

 

嫌でも思い出す。

ゴルドでのこと。

大穴に落ちかけたマルチェロを、ククールが助けたのよね。

 

何を話していたか知らない。

ただ、分かち合わないままの別れが、そこにあったんだろうと思う。

 

全てを悟ったような、マルチェロのうつむいた顔を覚えている。負傷したままゴルドを去り、今もその行方はわかっていない。生きているのかさえ……。

 

あの時のククールは穏やかだった。ただ静かに見送った。引き止めることも、あとを追うこともしなかった。マルチェロから投げ渡された騎士団の指輪は今もまだ、ククールの手元にある。あれはマルチェロの形見。二人だけが知る過去をあの指輪が象徴している。マルチェロは、ああして過去をククールに預けたんじゃないかしら。恨むも、懐かしむも、ククールの勝手にすればいい、という意味で。

この後の自分に関わるなとか、探すな、ということだわ。

マルチェロは、ククールの思い出の中だけに生き続ける、そういうつもりね。

 

でも、そんなわけにいかない。

 

だって、マルチェロがしてきたことは、決して忘れられないわ。あたしたちを含め、多くの人々にとっても。

 

それを放り出して、うやむやにしようなんて虫がよすぎる。

 

第一、マイエラ修道院はどうするのよ。乱れたあの騎士団は。

 

一緒に戦えばいいじゃない!

そしてゴルドに落ちた人たちを助けに行けばいいじゃない!

 

どこで何してるのよ!

 

 

 

……ねえエイト、ククールが愛しているのはあなたなのよ。

お願いだから、悲しそうな顔をしないでちょうだい。

 

きょうだい何があったか知らないけど、あのきょうだいは特別おかしな関係かもしれないけど。今、一緒にいるのはあなたじゃない?

 

ククールがマルチェロを選ぶなら、とっくにパーティー抜けてるわ。

 

ねえそれともククール?

あんたまさか、ここへ来てエイトを裏切る気?

 

気を失うほど、マルチェロのことを考えていたの?

 

それとも、マルチェロへの感情を押し殺しすぎたせいで、こんなことになっちゃってるの?

 

うわ言で「バカ」とか言ってたのって、マルチェロのことなの?

 

 

……風が吹き抜ける。どこまでも優しい風が。

 

ホント、ここにいると麻痺しちゃうわ。レティシアでもそうだったけど、幸せすぎて……。

 

 

さっき、あたしは村を一回りしてきた。

ラジュさんは、ギガンテスの肩にいない。

ククールがギガンテスに寄りかかっている。そして遠くを見つめている。時おり飲み物を運んでくれるラジュさんに、サンキュと言うだけ。

 

 

「ゼシカ?」

呼ばれて振り返ると、谷の入り口にエイトが立っていた。

 

「一人で散歩、飽きちゃったよ」

 

えへっと笑うエイト。

黒い瞳がいつもより潤んで見える。

エイトの辛さ、あたしにはとても背負いきれないけれど……。

 

 

「じゃ、あたしも行くわ」

そう言って、二人で村の外へ出た。

 

 

 

「三角谷っていいよね。のんびりしてて平和でさ。みんな仲いいし」

「そうね」

木々の生い茂る森を、ゆっくり歩く。木漏れ日がキラキラと視界を照らして。小さなモンスターたちが楽しそうにはしゃいでいる。

 

サク、サク、とゆっくり踏みしめる足元は柔らかく、癒しを与えてくれる。

 

 

「でも、穏やかな日常だけじゃ、進歩はないね。どうしたって、思いがけないことや理不尽なことは起きる。そうしたら、どうにかしようともがくじゃない?」

「そうね。人間だもの」

 

「それに、人の感情は変化する」

「エイト?」

あたしはびっくりしてエイトを見た。

 

どういうこと?

 

「そんな顔しないで、ゼシカ。大丈夫だよ、一般論を言っただけだ。僕らは暗黒神を倒す。それだけだ。人の根底にある、平和を求める気持ちに変化はないよ」

エイト……。

 

「僕は欲張りなんだ」

?

 

「前、不思議な泉の賢者さまに言われたんだ。全てうまくいくことを望んでるって」

「それは……みんなそうよ。あたしだって」

 

「うん。でもさ、うまくいかないことだってあるよね。結局、オディロ院長や、チェルスやメディさん、法皇さまを助けられなかった」

「だって、あたしたちは神様じゃないもの。そんな力ないわ。それに、神様だって、あの7賢者をお助けにはならなかった」

 

「なんでだろうね。運命って決まってるのかな……。僕らは永遠には生きられない。いずれ死ぬ。いつ、どんなふうに死ぬのか、運命で決まっていたら、それより早く死のうと思わないでしょ?」

「まあ、そうかも知れないけど……でも、死ぬ日を知ったら、あたしなら怖くて怖くて、病気になっちゃって、予定より早く死んじゃいそう」

 

「死ぬ直前まで、僕は僕らしく生きたい。みんなを幸せにしたい。みんなが後悔しないような一生を送れるように……ね」

「エイト、あたしだって、エイトに幸せになってもらいたい。同じよ」

 

「ありがとう。……みんながゼシカみたいな気持ちになれば、きっともっと優しい世界になるんだろうね」

 

お互いがお互いを思いやって生きたら、この三角谷のようになるだろう。

でも、同じ人を愛してしまったら、どう決着つけるの?

二人に愛されて、どちらかを選ばなければならないとしたら?

ねえ、どうするの?

自分の感情より、世界平和なの?

 

「……今はさ、ラプソーンだよね。優先順位ってあるじゃない? 決着をつけなきゃいけないことは、今は考えないようにしてる。一つ一つ、順番にやってくよ」

「そうね。あたしもそんな器用じゃないもの。一度にいろんなことできないわ」

 

エイト。優しくて、強くて……。あたしとは違う次元に生きてるひと。

自分のことはいつだって後回し。

やるべきことを知っている。いえ、エイトにしかできないってことを知ってる。

 

「ゼシカは優しいから、僕のこともいろいろ心配してくれるんだよね。でも大丈夫。ゼシカほどじゃないけど、みんな、それなりに強くなった。抱えて耐えるだけの度量がついたんだと思う。確かに、ククールは心配な状況だけど、信じて待とう。今まで耐えてきたんだ。もう少しくらい大丈夫だよ。ククール……多分、マルチェロさんの意識と交差して、混乱してるんだと思う」

「交差?」

 

「うん、いつだったか、ゴルドの大穴のそばで祈ったとき、違和感を感じたみたいだった。何か、ククールに訴えかけるような」

「ククールがそう言ったの?」

エイトは、ううんと首を振る。

 

「なんかさ、たまに、何かに怯える……ちがうな、何かに呼ばれてるんだよね、ククール。ゆうべうなされてたでしょ。あれ、初めてじゃないんだよ。ゴルドに行ったあの時からなんだ」

……。

 

「『わかった、わかったから、待ってくれ』とかよく言うんだよね。ゴルドに落ちた騎士団の人が、マルチェロさんをどうにかしてくれって、ククールに頼んでるような……さ。……とにかく、何かを抱えたよ。ククールは。だからと言って……何も変わりないさ……」

エイトは、木から降りられなくなったスライムをそっと下ろしてやる。

 

何も変わりないさ……。

エイトはもう一度、今度は自分に言い聞かせるように、小さく呟いた。

 




ブラコンのせいで具合が悪いククール。このパーティーはブラコンを大切にしておりますので、ブラコンが発生すると自動的に「休業」となります。次はサヴェッラです。
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