終わる。
ようやく終わる。
長い長い戦いが……。
神鳥の杖をかかげ、ラプソーンの結界を壊すところから始まった僕たちの戦い。
七人の賢者が次々に現れ、ラプソーンの結界を無力にしていった。
徐々にその姿がさらされるラプソーン。
魔城で見たラプソーンとは似ても似つかぬ巨大な暗黒の神は、にやりと笑って、僕たちに怪しげな杖を向けた。
「ククール、回復重視だよ。まず防御固めて。ヤンは、何の遠慮もいらないから、いつも通り思い切り攻撃して。ゼシカはヤンへの強化呪文お願い。そのあとは魔力続く限り攻撃してね。僕はみんなを守る。死なせないから!」
「兄貴っ! おまかせください!」
「うん、回復は僕に任せて。テンション上げていこう」
「エイト、わかったわ。あたしね、なんか今ものすごくカッカきてて、いい火が作れそう」
「頼もしいよ、ゼシカ。今までのお返しをしてやろうよ」
「負ける気がしねえ。なんだろうな、すげえ充実してるぜ」
「ククール、頼んだよ」
ククールがスクルトをかける。ゼシカがヤンにバイキルトをかける。僕とヤンは力をためる……。
僕らを乗せているレティスは、足元がぐらつかないように、羽ばたきを止めずに水平を保ってくれている。
しっかりと足を踏ん張って、僕らは力を使った。
魔城の時のラプソーンより強い。格段に強い。
容赦ない攻撃で体力を奪われる。僕は攻撃よりみんなの体力回復に努める。
「『瞑想』ってなによ、反則だわ」
ゼシカが思わずぼやく。
ラプソーンが力をためると、見る間に力が相当量回復していくのだ。
「大丈夫、根気よく攻撃していこう」
ゼシカを励まし、僕も力をためる。
永遠はない。
どんなことも、必ず終わる。
僕には見えている。
この戦いに勝利し、歓喜に震える僕たちが。
何度攻撃されても大丈夫。
僕はみんなを守る。
「トゲトゲもゼシカも踏ん張れよ! オレとリーダーが守ってやるんだから、攻撃の手を緩めんじゃねえぞ!」
ククールが叫ぶ。
僕とククールは防御と回復に魔力を惜しみなく使う。
「よし、リーダー、次は回復大丈夫だから、お前も剣を振れ」
「うん、わかった」
ククールの励ましで僕も攻撃の態勢に入った。
集中……集中……。
身体の中に熱い力が生まれる。
永遠はない……終わらせるんだ!
渾身の力をこめ、剣を振った。
ラプソーンの脇の下をめがけて飛び込む。
柔らかく見えていて、その実、打撃や炎を寄せ付けない表皮。僕は、剣を逆手に持ち、心持ち斜めに、野菜の皮かなんかを剥く要領で皮膚に斬り込んだ。
皮一枚、サクリと内側に入った手応えを感じ、刀身の4分の1を差し入れる。そして首の方向へ一気に斬り上げた。
ラプソーンは一瞬硬直し、ガクガクと震えた。
重い手応えが、びりびりと両手に残る。
「おい! やったぞ!」
「兄貴っ!」
「倒したわ、倒したのよ! エイト!」
みんなが抱きついてくる。
みんなの声が聞き取れないほど、ラプソーンは断末魔の叫びを上げ、収縮し、そして消えた。
「消えた……?」
空が明るくなる。
僕らを、いや、世界を包んでいた黒い空気が一瞬のうちに消え、まぶしいほどの光が注がれる。
空にぽっかり空いていた、闇世界を繋いでいた歪みが見えなくなる。
「さあ、帰りましょう」
レティス……。
多分、間の抜けた顔をしている僕に、ククールが近づいてきて、僕から剣を取る。
「あれ……?」
強く握りしめていた剣が、手から外されると、僕の両腕は、更にふるふると震えた。
肩をぽんぽんと叩かれる。
「ク……」
「……後でな」
声にならない声を聞き取って、そっと答えてくれたククール。
レティスが悠々と羽ばたきながら、ゆっくりと向きを変える。
ああ、勝ったんだ、僕たち。
「やったでがすね、兄貴。最後の攻撃は見事でがした」
ヤン。
「ヤンガスだってかっこよかったわよ。かぶとわり。斧が壊れちゃうんじゃないかと思うくらい」
ゼシカ。
「そうだな、ゲルダ姐さんに見せたかったぜ」
ククール。
「なんでそこでゲルダが出てくるんだ!」
みんなで大笑いして。
そうだよ、ヤン。僕たち4人だけの力じゃない。
ゲルダさんもそうだし、このレティスも、ラジュさんや不思議な泉の賢者さま、オークニスのグラッドさん、リブルアーチのハワードさん、ベルガラックのフォーグとユッケ、アスカンタの……。
「エイト……」
「兄貴……」
「リーダー……」
僕たちは歓喜にむせた。
強く抱き合って、笑顔で泣いた。
つぎつぎに涙が出る。
「みんな、みんな……! 僕たち、勝ったんだ! ありがとう……最後まで、僕と一緒にいてくれて……ありがとう!」
ありがとう。
本当に、ありがとう。
いろんな、いろんな、いろんなこと。
僕たちは乗り越えてきた。
みんなで。
たくさんの人の力を借りながら。
みんなの願いを、僕たちは果たすことができた。
ありがとう。
ああ、世界中の人々の笑顔が見えるよ!
幸せが、世界中に満ちあふれているよ!
絶対的な悪は、もう去った。
平和が、戻った。
僕たちは、また、幸せに生きるために、僕たち一人一人ができる、小さなことを始めよう。
「どこへ降りましょうか?」
レティスの問いかけに、王が大きな声で答える。
「そんなこと、決まっておるわ。いざ、トロデーンへ!」
お読みいただきありがとうございました。短い最終話となりました。この後のお話は別の作品になります。トロデーン城での宴が終わった後から始まります。