ティアマトは、第2の獣は、既に死に絶えた土地となったバビロニアを歩く。
自重を支えられない彼女は、先に泥を土地に流してからそこを掻き分けて進む為、歩くというよりは泳ぐと形容した方が的確かもしれないが、とにかく彼女は前へと進む。
向かう先はもちろん、彼女が破壊せんとする文明。その象徴となるウルクとギルガメッシュだ。
既に彼女を阻む物はいない。
この地に住まう者の殆どは死に絶えた。
守護せんとする戦士たちはラフムに犯された。
そして、異邦の地より来た二人の女神は、僅かばかり足留めをして、あっさり散っていった。
そう、ならば後はこの泥諸共、ウルクを飲み込んでしまうだけである。
というのに、だというのに。
彼女の周囲を巡回するラフムが警戒を鳴らした。前方より近づいて来る物があると。
ティアマトは自身の足元に目を向ける。
そこにはしずしずと優雅にこちらに向けて歩いてくる人影があった。そう、この触れたものは全てティアマトの眷属へと堕ちる、この泥の上を当たり前のように歩いて、こちらへ接近して来たのだ。
一目見て、女性とわかる豊満なフォルム。そしてそれを煽情的に映えさせる衣装。
何もかもが異質なその姿ではあったが、何よりもその、頭から生えた一対の角こそがその女の異常性を顕していた。
「第二の獣とお見受けいたしますわ」
その女性は、ティアマトのすぐ近くまで来ると、静かに一礼し、滔々と語り始めた。
「わたくし、殺生院キアラと申します」
*
彼女の言葉は、甘く蕩ける蜜のようにティアマトの体へと染み込んだ。
既に人とのコミュニケーションを取ることが叶わない体となっている彼女には、キアラが何を言っているかは理解できない。そも、これだけの体格差がある中で、キアラが発した言葉が彼女の耳まで届く筈もない。
だというのに、キアラの声はそよぐ春風のように爽やかに、そして睦言で濡れる蜜のようにねっとりとティアマトの耳まで届いた。
「Aaaa…」
ティアマトは苦悶の声を零す。
それは苦痛から来るものではない。キアラの声を聴いた時から、体の中に生じ始めた熱に煩悶としているからだ。
いいようのない昂りを覚える。
「わたくし、ここから遠く離れた僻地で尼をしていたのですが、どうもこちらに大きな力を感じてちょっと覗きに来ましたの」
キアラが淡々と語るが、その意味はティアマトには理解できない。だというのに、今ティアマトは、彼女の声以外の音が一切入ってこない程に、キアラから発せられる音に聴き入っていた。
「そしたら、なんだかとても面白そうな事をされているのですもの。ついお邪魔してしまいました。
人は全て我が子だなんて…ふふっ、異邦の女神様は、随分と広い心をお持ちなのですね」
事実、キアラの声以外は殆どの音が止んでいることに、ティアマトは気づいた。
彼女が目醒めてからというもの、彼女の周りに常に巡回していたラフム達の羽音がいつのまにか消えていたのだ。それを僅かに疑問に思ったが、今のティアマトにはそれよりもキアラから紡がれる音の方が重要であった。
「わたくし、その話を聞いた時に一つ思いつきましたの。
実はわたくし、恥ずかしながらも尼の身でありながら多くの方々と体を重ねて来た身でありまして。
それはもう沢山の人種の方と愉しんできたのでございますが…」
ゴクリと、声を発する以外の機能を必要としないティアマトの喉が、唾を飲み込む音がした。
それが何からくるものか、既にティアマトは分かりきっていた。今自分はどうしようもなく発情をしているのだ。
目の前にいるこれを犯し尽くしたい。犯して、貪り、呑み干して、抉って、喰らい尽くしたい。
この身はとうに、生殖も捕食も必要ないというのに。
「ただ一つ、いただき損ねた物がございまして。それは親子での睦み合いございます。
わたくしの父というものが、これがまたつまらない男でして、あまり美味しくなさそうでしたから、相手にしなかったのです。
ですから、わたくし恥ずかしながらも近親相姦というものは経験が無いのでございます」
そこまで聞いた時、ティアマトは異変に気付いた。
少しずつ、ティアマトの視点から見えるキアラの姿が大きくなっているのだ。
最初はぼんやりとした粒ほどにしか見えていなかったキアラの姿が、少しずつその身体のラインまで確かめられる様になっていた。
「貴女様は、人類全ての母でございましょう?なら、貴女とわたくしが交われば、それは親娘の睦事となるのではありませんか?」
キティアマトから見たキアラは、加速度的に大きくなっていく。
どういうことかと辺りを見回そうにも、彼女のその艶やかな肢体に目が釘付けになってしまい、目を逸らす事が出来ない。そして、自身と彼女の視線が平行になった所で、ようやくティアマトは理解した。
他ならぬ自分自身が彼女の全てを味わう為に、無意識にサイズを小さくしていたのだと。
もはや同じ身長に落ち着いたティアマトに向けて、愛欲の獣は手を広げて出迎える。
うるうると潤ませた瞳と、その奥に潜む情欲を隠そうともせず。しかし子供が親に向けるような愛欲を抱きながら、彼女は淫惚に囁いた。
「さあ、おいでくださいまし。回帰の獣。
貴女の情は、全てわたくしに向けられるべきなのです」
瞬間、ティアマトはキアラに襲いかかった。
*
「Aaaa--!」
ティアマトは自身の左手でキアラの右手首を掴み、右手で彼女の左肩を抑えると、そのまま仰向けに押し倒した。
バシャリと、英霊さえも汚染する泥が音を立てる。
だというのに、キアラは痛がる素振りを見せず、ただ期待を込めた眼差しで一つ息を吐く。
その息がティアマトの鼻腔をくすぐり、ティアマトは本能のままに彼女の胸元にかぶりついた。
キアラの身を包んでいる胸あてを噛みちぎり、彼女の胸が露出する。
嫋やかに実った二つの胸は、張りもよく真ん中でぷっくりと膨らんだ二つの桃色の乳首が、酷く扇情的であった。
堪らずティアマトは右側の心臓がある位置の乳房に噛み付く。それは愛撫とは程遠い、熱に浮かされるままの衝動であった。
キアラの乳房にティアマトの獣のような歯が刺さり、二チャリと滲んだ血が音を立てる。その音が、ティアマトがキアラを支配しているように思えて、彼女は余計に強い昂りを覚えた。
「んっ…は、あぁ…犬の様に噛み付いて、乱暴なのですね」
キアラは一瞬だけ痛がる素振りを見せたが、それも快楽のうちとばかりに、満足げに息を漏らす。
その息が、ティアマトの耳朶をくすぐり、ティアマトはそのゾワゾワとした感覚に、さっと口を離して顔を上げた。
「ふふっ…可愛らしい。乱暴なのも大変に魅力的なのですが、先ずはこちらからでしてよ。優しくして、くださいませ?」
キアラはそう言って、自由の効く左腕で、自身の口を指差した。そうして、少しだけその唇を尖らせる。
その様子にティアマトはフラフラと、熱に浮かされる様な頼りなさで、ゆっくりと顔を近づけていく。言葉がわからずとも彼女が意図していることは本能で理解できたのだ。
そうして恐る恐る、自身の唇も小さく尖らせて、彼女の唇にピタリと押し当てた。
お互いの柔らかな箇所がひたりと合わさり、ティアマトの中で小さな快楽の種が弾ける。ゾクゾクと、言いようのない昂りが押し寄せてくる。
「ん…はあ、」
すると、キアラはゆっくりとその合わせた唇を開いた。彼女の動きに合わせて、ティアマトの唇も必然開く事になる。
すると、キアラの吐息が彼女の口腔を侵していく。生暖かく、まるで肉で出来た花の様に甘く生々しい香り。
ただそれだけで、ティアマトは自身の思考が大幅に減衰していくのを感じた。この甘ったるさの前では、なにかを考えるだけの力が身に入らなかった。
ティアマトの身体から力が抜けていくのをいいことに、キアラの口から蛇の様に伸びた舌がティアマトの口の中に侵入した。
柔らかく、それでいてザラザラとした触りのある舌が、ゆっくりとティアマトの歯の裏側を舐めとっていく。
それだけで、どうしようもない快楽にティアマトは身を震わせる。
キアラはそんな様子に構う事なく、舌で彼女の歯垢を一つ一つ抉るように、丹念に歯を舐めとっていく。
ティアマトはやがて力が抜け、自身の体を腕で支えることができずに、キアラの上にのしかかる様にして倒れ込んだ。
キアラは、全ての歯を丹念に舐めとると、今度はその舌で、口の奥で小く窄まっている、ティアマトの舌をツンと突いた。
「…a」
ティアマトは驚いて、反射的に退いてしまう。
するとキアラは、そんな彼女を見て面白げにクスクスと笑う。
「そんなに驚かれなくても、よろしいのですよ。さあ、こちらに委ねて…はあ」
そう言うと、再び自身の口へと誘導する。ただし今度は、獲物を迎える罠の様に淫靡に口を開けたまま、ここへおいでと合図する。
ティアマトも少し躊躇った後に、自身の口を大きく開いて、彼女の唇に添わせた。
すると、今度こそキアラの舌が、ティアマトの舌をゾワリと舐めとっていく。
ティアマトの背筋にゾクゾクとした痺れが走る。
「ん…はあ…んふっ…」
クチュ、クチュと二人の口から音が漏れる。
味蕾をなぞる様にして舌を舐めとった後に、今度は口蓋をさわさわと掠める。
その擽られる様な刺激に、ティアマトが体をビクリと震わせている間に、今度は舌の裏側に回り込む。
舌を裏から持ち上げる様に刺激すると、ティアマトは再びビクビクと体を跳ね起こす。
上に行ったと思えば下に行き。右側をなぞられたと思えば左側に移っている。
キアラのベロは、ティアマトの口内を好きなように翻弄し続けた。
やがて、どういう経緯でそうなったのかはわからないが、気づけば彼女達はお互いの舌を軟体生物のようにグネグネと絡ませていた。