※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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奇譚収遺使禄.Ⅶ
白霊討伐戦①


 

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草木も眠る丑三つ刻。

 

地面を乱暴に穿った、みすぼらしい入り口からは想像できない程に、

その施設は広く深く入り組んでいる。

 

そして地下なのに、何故かぼんやり明るい。

 

 

この施設――――遺跡は、始めは権力者を祀るに相応しい内観をしているが、

進むほどに岩だらけの洞窟へと変わり、そう思うと草が生い茂る空間が広がっていたり

大層デタラメ、気にするのも面倒になるような構造をしている。

 

最も奇妙なのが、深く潜るほど頻繁に目にする、

天井や壁面から顔を覗かせた “街のように巨大な生物” の、青白い体躯。

その体躯が壁面を這う深層、洞窟が繋いだ数ある地下空間の一つ。

 

一人の少女が膝に手を付き、苦悶の表情を浮かべている。

 

 

 

 

寒月(ハンユエ):「ハァ……ハァ…………」

 

 

 

 

ショートボブが似合う、眼鏡が知的な印象を誘う十八歳。

容姿こそ幼いが、それに似合わぬエロチックな体型をしている。

 

戦闘を終えた彼女は膝に手を付き、大きく息を荒げている。

 

呼吸と共に上下する、発育した巨乳と肢体。

特に後ろから眺めると、張りと丸みのある尻が袴(はかま)を大層引き伸ばし、

そういった場では無いにも関わらず、男達の情欲を煽ってしまう。

 

その彼女が、細切れになっても蠢き続ける、黒い物体に苦言を漏らす。

 

 

 

 

「なんて…………ハァ……しぶとい生物…………ハァ……驚異的……!」

 

 

 

 

『雷帝』の所以たる、その雷孔を出し尽くしてしまった。

彼女は優秀な剣士だが、肝心な所でガス欠になるキライがある。

 

 

 

 

花雪(ファーシュエ):「誰じゃ、この道にせよと申した不届き者は……ハズレじゃ」

 

 

 

 

同じく苦言を漏らす、モデルのようにスラリとした十八歳。

 

片手を腰にやった軽く見下すようなポーズ、それがとても良く似合う。

やはり体型に似つかわしくない豊満な巨乳が、呼吸で大きく前後している。

 

花雪も剣士ではあるが、職業は『商人』と言った方が正しい。

 

彼女のイラ付きの理由は、いま蠢いている黒い物体にもあるが、

お気に入りの寒月が大層消耗しており、そうなった原因にも起因している。

 

 

 

 

炎暗剣(イエン・アンジャン):「詮索は無しだ。そういう吊し上げは、心が濁った者のする事だと思わないか?」

 

 

「全然思わぬ、お前じゃからな」

 

 

 

 

体格の良い青年・イエンが諭すと、花雪が間髪入れずに反論を行う。

 

イエンは体格の割に、まるで少年のような容姿をしており、

それがコンプレックスなのか必要以上に男らしく振る舞って見える。

 

左眼を『眼帯』で覆っているが、

やはりそれもキャラ作りの一環にしているように見える。

 

何故ならその眼帯にはあまり必要とは思えない、

いわゆる “カッコイイマーク” が刺繍されているからだ。

 

 

 

 

魏圏(ウェイ・クァン):「急ぐぞ、宝漁りは帰りだ。白霊がまだ生きててくれればいいが……」

 

 

 

 

その彼らをイエンよりも大柄な男が統制する。

 

この班のリーダー、額に傷のある、今時ポニーテールで、

それでも頼り甲斐がある印象、自称:女の気持ちが判る男、ウェイである。

 

彼が言った “宝を漁るな” とは、もう一人のおてんば娘に向けられたものだが、

その娘は指示を無視して辺りを物色している。

 

他班に遅れを取る訳にはいかない、よってその娘は放って先へ進む。

 

 

 

 

「この感じ……こっちだ、我が左眼がそう告げている……」

 

 

 

 

蠢く物体が塞いでいた通路。

すぐ先で十字路になっていた道の一つを、イエンは真っ直ぐ指し示す。

 

 

 

 

「他は上りじゃろうがッ! 何が左眼じゃッ! このクソ雑魚平民めッ!!」

 

 

「おいっ! 蹴るなよ、痛いぞっ!」

 

 

「うるさいッ! 遅れるな! 男が前じゃッ!」

 

 

 

 

 

 

 

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「全員、止まれ――――」

 

 

 

 

先頭イエンはある物を発見し、皆を制止する。

 

 

 

 

「また行き止まり……じゃあ、無いようだな」

 

 

 

 

行き止まりの中心にぼんやりと光る『歪み』

彼らが普段お世話になっている、彼らにしか見えない、

ある『遺跡』を小さくしたような物だ。

 

イエンはそれに手をかざし、感触を確かめる。

 

 

 

 

「これも “次元門” みたいなもんか……この感じ、一方通行だな―――――本当だ! 信じてくれ!」

 

 

 

 

花雪の冷たい視線を感じたイエンは正直に訴え掛ける。

人はこうやって厨二を卒業していくのだ。

 

 

 

 

「おそらく炎帝神武が使っていたもの、通って問題ない」

 

 

「やはり妾(わらわ)のユエが一番信用できるな――――何をボケっと突っ立ておる?」

 

 

「早くして、後がつかえてる」

 

 

「判ったよ! 男が前だろ!」

 

 

 

 

歪んだそこに飛び込むと、床が自分に向かって起き上がる。

 

床が自分をすり抜けると、今度は落下しているような感覚に襲われるが、

歪んだ景色が像を結んでいくのに比例し、坂道を下るような感覚へ、

そして、いつもの慣れ親しんだ重力へと戻る。

 

これを使う時は、いつもこんな気持ち悪い感覚を覚える。

 

 

 

 

「おい、死体の山じゃないか――――何だありゃ、石像か!?」

 

 

「アレが…………白い方の “千年さん” ……」

 

 

 

 

景色に焦点が合っていく中、

イエンとユエが最初に見た物を報告する。

 

 

 

 

「やはり人間の顔…………近くにいるのか……遠くにいるのか…………判らない……」

 

 

「眼鏡がズレているからじゃ――――もう、しょうがないのう」

 

 

 

 

花雪は、ユエの鼻に引っ掛かっているそれを取り、

胸の汚れていない布でレンズを拭き、また顔にセットする。

 

自分の物ではないけれど、自分の物より優しく扱う。

 

 

 

 

 

 

秦始皇帝陵・地下六階:大空洞――――

半径|一里$500メートル$ほどのドーム状空間、赤黒い光が内部を照らしている。

 

『地下六階』とは便宜上の呼称であり、

次元門を経由した今、正確な場所は判らない。

 

そこには既に百名近い気功家達が集結し、

それに匹敵する蛇と人間を混合した “異形の生物” が戦を繰り広げている。

 

我方は一目で劣勢と判るほど押されている。

 

道中見かけた巨大生物の体躯はどうやらここが終着――――発生源のようだ。

壁際の地面から幾本も伸び上がり、

空洞を網の目のように張り巡り壁を貫通している。

 

太さは家ほどもあり、その長さはとても想像が付かない。

 

そして空洞の奥に佇む、色白で髪の長い女性。

此度の討伐対象、千年の悠久を生き抜いた白蛇『白霊』

その “頭部” に相当する部位だろう。

 

あまりに精巧な擬態、綺羅びやかな衣装まで着込んでいる為、

空間を歪ませる妖気と足元から伸びる蛇の体躯がなければ、造形は完全に人間、

いや、それ以上だ。

 

ただし女型と言ってもその大きさは人間の十倍(ガンダム)ほどはある。

似たような個体は道中にもいたがそれより遥かに美しい。

 

十三輪の大きな光背装飾が蜃気楼のように揺れ、

妖怪や人間の域を越えた、“神” のような存在感を放っている。

 

 

 

 

「孫玄の言った通りだ。思っていた程デカくないのは嬉しいが、なんと言うか……」

 

 

 

 

白霊の足元は妖怪で固められ、周囲には大量の人間の死体、

それと石像のような物体が幾つも配置されている。

 

地下にも関わらず明るいせいもあるが、不気味としか言えない光景だ。

 

 

 

 

「ウジャウジャいるぞ……ここで産み出されていたのか……?」

 

 

 

 

彼女が産み出した子供達を見回し、イエンが嫌悪の表情を作る。

 

 

 

 

「北東組、ウェイ隊のウェイだ! 教えてくれ、どうなってる! 始まってどれくらい経つ!」

 

 

 

 

結盟の頭領・ウェイが、隊長らしく他隊と情報交換を行う。

傷の手当を受けている男が応えるが顔色は悪い。

 

 

 

 

『こっちだ、ウェイ……俺たち南東も来たばかりだ。そんなに経ってない』

 

 

「そんなに経ってない? そんなに経ってないのに、ボロボロじゃないか……」

 

 

『だが逃げられん……出口が無い、多分アイツの『根』が塞いでる……その所為(せい)でアイツもアソコから動けないようだが…………ぐっ!』

 

 

 

 

道中の巨大な体躯は、全て白霊から伸びる『尾』である。

遠くへ行くほど枝分かれし、末端にはもはや彼女の意思は介在していない。

 

彼女が吸収する栄養とは人間を含めた『生物』であり、

その様子と形状から、頭部以外は便宜上『根』と呼称されている。

 

触れた者を取り込む性質だけが暴走し、存在が長安住民に認知され始めた。

それが今回、討伐隊が編成された理由である。

 

 

 

 

「あそこで倒れている奴! 覚えてる、“北” に行った奴だ!」

 

 

 

 

イエンが倒れている者を指差し、もう意味の無くなった情報を報告する。

 

一度は東西南北に別れ、新たな通路が開き、

今度は『北西・北東・南東』に別れ、今に至るからだ。

 

官・民・無法者、様々な者が迷宮のように掘り進み、

しかも巨大な根の気分次第で開閉するため、イエンでなくとも経路の把握は困難だ。

 

 

 

 

「南東は壊滅か?」

 

 

『いや、アソコに元気な奴もいる――――』

 

 

 

 

指し示された左翼。

前衛三人、後衛三人で構成された、ローマ帝国・聖騎士民間混成チームが戦っている。

 

前線やや後方に陣取り、力強い剣術と気功に似た魔法を振るい、

化物をほとんど一撃で殺している。

 

その為か、彼等の周りだけは子供の数が少ない。

 

 

 

 

「例の胡人(こじん)か……」

 

 

 

 

味方だと言うのに、ウェイは警戒した表情を作る。

 

遥か西方から訪れた彼等には “胡人” や “異邦人”

差別的な意味で “色目人” など様々な呼び名があるが、

中華では『大秦人』と呼ぶのが正しい。

 

秦の始皇帝は中華の西の都、この長安に咸陽という国都を定めていた。

ローマ帝国は世界の西の都、そのため大秦と呼ばれている。

 

 

 

 

『此処に降りる前、やたら硬くてデカイのがいたんだが……奴らがあっさり倒しちまったよ』

 

 

「アイツらはどうして傷も負っていない……弱そうな奴も多いのに!」

 

 

「隊列……ね。軍師が使う戦術を小規模で実現してる……かなり訓練してる」

 

 

 

 

納得のいかないイエンに、武術全般に造詣の深いユエが、

“軍隊でもなければ使う事は無いだろう” と、頭の片隅に捨て置いた知識を掘り返す。

 

 

 

 

「訓練だと!? そんなの俺だって、みんなやってる!」

 

 

 

 

狼狽するイエンを差し置き、花雪が歩み出る。

 

 

 

 

「うろたえるな――――妾(わらわ)は象棋(じょうぎ)を学んでおる、平民のお前と一緒にするでない」

 

 

 

 

貴族らしい佇まいで髪を払い、下目遣いに言い放つ。

 

 

 

 

「あれは遊びだッ! 俺だってやった事はあるッ!」

 

 

「妾のは象牙職人が彫刻したやつじゃ、お前達のは板とかに墨で書くタイプじゃろう」

 

 

「そうだよッッ!!!!」

 

 

「私達は寄り集まっても足し算、彼らは掛け算……戦術ってそーゆうもの」

 

 

 

 

数名の逼迫した大声が同時に響く。

 

 

 

 

『アレ(・・)だーーーッ!!』

 

 

『アレが来るぞォーーーッ!!』

 

 

「――――っ!?」

 

 

 

 

声が注意した先は討伐隊の最前線。

 

つまり白霊が、

胸の前へ平行に掲げた両掌で『何か』を圧縮するような構えを取っている。

 

 

 

 

「なんだ…………アイツ、何をしてる……?」

 

 

 

彼女の『構え』は蛇でも人間のそれでも無く、

生命力を攻撃力へ変換する『人でなし』、気功家の構えに似ている。

 

真っ黒な歪みを潰していったある瞬間、それが真っ白な光へ変わり、

彼女を中心に閃光が走る。

 

 

 

 

「ぐあっ……――――なんの光だ!?」

 

 

 

 

太陽にそうするように、眩しさの元へ両手をかざす。

 

その隙間から垣間見えた異形の景色。

白霊に攻撃を仕掛けた最前線のチームがみるみる堅いもので覆われ、

いや、人体が周囲の物質を巻き込み堅い物質へと変異していった。

 

 

 

 

「固まっちまった……? もしかして――――アレ(・・)は全部人間なのか!?」

 

 

 

 

“アレ” とは、まばらに配置されていた石像を指すのだろう。

 

 

 

 

「石に、なったのね……?」

 

 

 

 

ユエが眼鏡の位置を調節し、確認する。

 

 

 

 

『くそっ! まただ……仲間がアレにやられた……あの光をモロに受けて……まだ前の方で石になってるんだ…………誰でも良い、早くあの化物を殺してくれ……っ!』

 

 

 

 

男は腹部から肩にかけて凄惨な傷が刻まれ、血が滴っている。

動くと命に関わる。

 

それでも助けに行きたい仲間がいるため、早く排除して欲しいと言っているのだ。

 

 

 

 

「加勢する!! ファーとユエは負傷者の救助! 今の光には注意しろ! 呂晶(ルージン)は何処だ!?」

 

 

「注意って……どうしろと言うのだッ!?」

 

 

 

 

イエンが当然の質問を行う。

 

 

 

 

「知らん! 光ったら後ろにでも飛び退け!!」

 

 

「飛び退けと言われても……」

 

 

「行くぞ――――ッ!!」

 

 

 

 

不安を抱えたまま交戦中の班へ助太刀に入る。

いざ戦闘を開始すると、子供達の相手に手一杯で本命を見る余裕が無い。

 

光ったらマズイと判っていても、急に避けられるだろうか。

あれこれ気にしていると、目の前の相手にも集中できない。

 

 

 

 

Valkyrie(ヴァリキエ):「収まったか……前進、1隊列分進む――――ヘレン、どうだ?」

 

 

 

 

金髪碧眼、中性的で役者のように美しい容姿だが、

近寄り難い冷徹な印象を放つ女性聖騎士。

 

彼女が問い掛けると、同じく金髪碧眼、

こちらは愛らしいツインテールの少女が答える。

 

 

 

 

Helen(ヘレン):「まだ……もう少し……!」

 

 

 

 

 

 

 

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「コイツら……強いぞ! 上の階より遥かに強靭だ!」

 

 

「盾で受けるなッ! なるべくスカせッ!」

 

 

「だから “盾などいらん” と言ったのだ――――ッ!!」

 

 

 

 

イエンとウェイが白兵戦を開始する中、

花雪は光が来ないかチラチラと白霊を見ながら、負傷者を引っ張り後退する。

 

その負傷者の腹を突き破り、鮮血と共に刺々しい触手が飛び出す。

 

 

 

 

「きゃああああっ!!」

 

 

 

 

触手が、いや、地面を潜ってきた白霊の尾先が

突き破った負傷者の腹を通り、再び地面の中へと引っ込んでいく。

 

これは最初に分岐した、本物の尾という事だろう。

 

 

 

 

「どこっ!? どこじゃっ!? この下かっ!?」

 

 

「――――そいつはもういい! 別の奴を!」

 

 

 

 

正面上方の白霊、周囲の子供達に気を取られている隙に、

地面から飛び出す尾が一人づつ気功家を刺し殺す。

 

強引で強力な立体的布陣、作戦などではどうしようもないレベルだ。

そもそも作戦を立てようにも、隊を越えた連携など不可能だ。

 

 

 

 

「ウェイ……もう討伐などと言わず戻ることを考えるべきだ。投石機でもあれば楽勝だろうが、ここはアイツに有利すぎる」

 

 

 

 

イエンが撤退の提案を行う。

 

 

 

 

「だから、出口がないと言われただろう……!」

 

 

「なっ……じゃあ何か、俺達は調子に乗って奴の巣へまんまと落ち、化物に喰われるまで戦うしかないってか!?」

 

 

 

 

状況を分析したユエも苦言を漏らす。

 

 

 

 

「ここまで上手くいき過ぎてた……早く降りなきゃって、退路なんて考えてもなかった」

 

 

「クソッ……なぜあの異邦人達は、ああも淡々としていられるのだ?」

 

 

 

 

他の者が傷つき疲弊していくのに対し、ローマ帝国チームは苦戦する様子が無い。

 

昨日の一件もあり、得体の知れない者達とは思っていたが、

結果の違いを見せつけられ、実力の差を痛感する。

 

今の状態で一番頼りになりそうだが、昨日の一件もあった以上、

意思疎通できる見込みもない。

 

 

 

 

「――――そういえば、呂晶はどこだ?」

 

 

 

 

ウェイはその原因を作ったメンヘラ放蕩娘を探す。

さっきまでその辺りにいたハズだが。

 

 

 

 

「奴ならあそこだ、何故かスゴイ数に追われてる……大丈夫か…………おい……そっちは……!」

 

 

 

 

背が低め、白黒の髪を二つのお団子に結んだ女。

彼女はダッシュからの勢いそのまま、ローマチームに向かって跳躍する。

 

 

 

 

呂晶(ルージン):「ハロォオオオオーーーッ!色目人(ガイジン)サァーーーンッ!」

 

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