※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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送元二使安西

 

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西方と東方を繋ぐ荒れ果てた荒野『河西回廊』

 

その最先端である重要拠点『敦煌』

羌族の西夏と多民族国家の宋に挟まれ、衰退の一途を辿っていた砂漠都市。

 

最近この都市は『ある行商隊』のおかげで経済を立て直し、

かつての繁栄を取り戻しつつある。

 

その行商隊は宋と西夏を交易で繋ぐことにより、

繰り返される両国の戦争をも沈静化させた。

 

その『敦煌の英雄』とも言える行商隊を率いるのは――――

若干、十八歳の小娘である。

 

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 

「ここって、こんなに人いたっけ……?」

 

 

 

 

盗賊から商隊護衛に転職した二十歳の女・呂晶(ルージン)は、

以前とは違う活気に満ちた敦煌に困惑する。

町並みはさほど変わっていないが単純に人が多い。

 

以前、この近くにある石窟を荒らそうと訪れた際は、

出歩く者も少なく寂れた町だと思っていたが、

今は広場に様々な出店が並び、その全てに客が並んでいる。

 

 

 

 

「ああ、ここも様変わりしたよな……ほとんどは一緒に行商する連中だが」

 

 

 

 

長身で長髪を一つに縛る、額に傷のある武侠魏・圏(ウェイ・クァン)が答える。

彼は呂晶が所属する結盟『真夜中の旅団』の頭領であり、

今回、呂晶をこの商隊に誘い出した者だ。

 

 

 

 

「これ全部、商人と護衛!? こんなに殺しきれなぃょ……」

 

 

 

 

『敦煌』は、宋が誇る西の都『長安』の西北西に、

歩きではとても行きたくない距離にある。

 

 

 

 

「誰も殺さんでいい、あと、そういう冗談は絶対にやめろ――――俺まで追い出されるだろう」

 

 

「やっべ……アタシ、緊張してきたかも」

 

 

「それにしてもお前、荷物が少なくないか……?」

 

 

 

 

呂晶はおもむろに『キセル』を取り出し、煙草のような物を吸う。

 

 

 

 

「んぁー? うぇうい、こんあおんえほ (別に、こんなもんでしょ)」

 

 

「お前なあ、場所考えろ……やめたんじゃなかったのか?」

 

 

「やぇてあいよ(やめてないよ) スゥー……プァ~、あぁ……アーシ帰っていいかな?」

 

 

 

 

呂晶が吸っているのは、甖子粟(えいしぞく)の樹液を乾燥させた――――つまりは阿片だ

阿片は煙で吸うと即効性がある。それによる気怠さのせいか、

呂晶の頭に『ドタキャン』という言葉が浮かぶ。

 

 

 

 

「見て見てぇ~、アイツぅ~……ハゲェッ! 頭ハゲてやがんの! アッハッハー! ウケるぅッ!」

 

 

 

 

阿片のせいか、元の性格からか、

大して面白くもない事を聞こえるように笑う。

 

 

 

 

「なんだァ、ハゲェ……? こっち見やがって……やんのかぁッッ!?!?」

 

 

「安心しろ、みんな味方だ――――」

 

 

 

 

ウェイは呂晶の肩に手を置いて静止し、

嘲笑された男の方へ “すまない” という調子で手を上げる。

 

呂晶が落ち着かない理由が、

“敵に囲まれているような気持ち” が原因だと見抜いているようだ。

 

自称『女の気持ちが判る男』だからだ。

 

 

 

 

「……ビビってなんかない、ちょっと驚いただけ」

 

 

 

 

呂晶もウェイの意図を察する。

 

 

 

 

「物流も盛んになった上に、これだけの武侠が色々買い込む訳だからな……相乗効果、つーのか? 景気も良くなるんだろう」

 

 

 

 

心の師が掲げた “天下布武” という夢を受け継ぐウェイにとって、

町の発展とは、とても興味深い事柄だ。

商人家系の出身という事も相まってか、どうしても裏方目線で見てしまう。

 

ウェイが言おうとしているのは、大型スーパーとレジャー施設を融合させ、

どちらか目的で来た客がどちらにも金を落とす、

『シナジー効果』と呼ばれるような事だ。

 

 

 

 

「隊商、様々……ってか」

 

 

 

 

呂晶はそれが気に入らない。町が発展するのは良い事のハズだが、

悪者にとっては、良い事というのは悪い事なのかもしれない。

 

 

 

 

「そういや呂晶、“敦煌の南門” は通ったらダメだぞ、通ると死んじまう言い伝えがあるんだ」

 

 

 

 

ウェイは自慢気に知識をひけらかす。

 

 

 

 

「言い伝えじゃねーよ、歌だろそれ? 多分、送元二使安西(そうげんにしあんざい)だ」

 

 

「え、そうなのか。どういう歌だそれ?」

 

 

 

 

ウェイがひけらかした知識は、『とある歌謡』が伝言ゲームのように伝わる内、

その意味を大きく変えてしまった物。

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

元々は民間伝承ではなく『送元二使安西』という詩である――――

 

教養があれば誰もが知っている有名な詩なのだが、

まず、教養を得る自体が金持ち以外には難しい。

 

ウェイも字や算盤を扱う程度の教養はあるが、

所詮は田舎の一商人の息子、詩を知らないのも無理はない。

 

対して呂晶の家は成都一の大企業、高級装飾具店『呂礼屋』を経営している。

つまり、呂晶は『ヴィトン』や『グッチ』のような、

高級ブランド会社の “お嬢様” なのである。

 

 

 

 

「くっだらない歌よ、聞かない方が良い」

 

 

 

 

呂晶の両親は地主として勢力を拡大すべく、娘に『|科挙$官僚になる為の国家試験$』の勉強をさせていた。

財ある家の者が科挙を突破し、政治家となって国を動かす、

すると『士大夫』と言って、晴れて貴族の仲間入りを果たすのである。

 

その科挙の科目の一つ『進士科』

文系に相当するような分野の勉強で目にしたのが、この『送元二使安西』という詩だ。

 

その昔、科挙を突破した士大夫が残した詩で、

呂晶が目標とすべき『伝説の先輩』が書いた詩という事になる。

 

当の呂晶は士大夫を目指すどころか、家出をした挙げ句に阿片に溺れ、

ついには盗賊まで落ちぶれてしまった訳だが。

 

 

 

 

「気になるな、そんな言い方されると」

 

 

「とりあえず、南門を通ったら死ぬってのは迷信だ――――ま、あんな所通りたがる物好きは、アタシくらいのもんだろうけど」

 

 

 

 

そう、送元二使安西――――アタシはあの歌が気に入らない

 

今から三百年以上前、中華が『唐』と名乗っていた頃。

長安の高級官僚『王維(おうい)』という “コウモリ野郎” が書いた詩賦(しぶ)の一つだ。

 

西の彼方にあるウイグルの『安西』という、

かつて楼蘭があった辺りに派遣される事になった『元』という友人を、

王維が長安の西門『渭城』まで見送る話――――

 

昨晩さんざん飲んだ挙げ句に、朝っぱらから迎え酒まで飲ませ、

“敦煌の南門、陽関を出たらお前は死ぬんだ” と言って悲しみながら、

その辺に生えてた柳を一本折り、元に餞(せんべつ)のごとく渡す。

旅立つ者を見送るとは、おおよそ思えない内容だ。

 

 

当時からしたら――――まあ、今もそうだが

西方ってのはワケ判んねー奴ばっかりで、ワケ判んないことで殺されるなんてザラだ。

更にその大半は、生き抜くには困難な砂漠地帯。

 

ワケ判らん奴らと寄り添わねば生きていけない。

温室育ちの王維からすれば、元は死にに行くようなものだったんだろう。

 

だが、そんなに心配なら渭城までと言わず、楼蘭に一緒に行ってやればいいし、

苦労してるのは元の方なのに、王維はその歌で有名になって、

唐の、今で言う戸部大臣くらいの地位まで登り詰めた。

 

 

七言……えっと、なんだっけ――――そういう形式の歌謡だ

御父(おとう)に『科挙の勉強だ』と言われ、有名な歌手の舞台に連れて行かれた事がある。

実際は御父が見たくて私を連れ出したのだが。

 

まぁ~~とにかく聞いてて眠くなる、そして途中から、

『帰ったら酒のつまみに何を食おう?』という事しか考えられなくなる、そんな歌だ。

しかも、終わったと思うとまた始まって計三回繰り返す、もはや地獄だ。

 

当の、通ったら死ぬと言われる『陽関』とはここをずっと行った所にある、

半分砂に埋まった南門のことだ。

 

ほとんど門の体を成していないし、みんな別の所から出入りしている。

ウェイのように験を担いで近付かないようにしてる奴もいるが。

 

アタシは石窟を荒らすために最初にここへ訪れた時、嬉々としてその南門を往復した。

そして楼蘭よりもっと西のカラコラムという雪山まで行って、

イシュタルと呼ばれる女型の化物もブチ殺した。

 

でも未だ、アタシは生きている―――やはり文官というのは嘘付きだらけだ。

その文官の中でも特にこの王維は曲者なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




送元二使安西の王維はとても尊敬された歴史上の人物です。
呂晶はそういう物ほど嫌いなので、あえてコケ降ろしています。ので、コウモリ云々はアテにしちゃダメです。

送元二使安西の『お前は死ぬんだ』は、実際には『これが今生の別れとなるだろう』的な意味です。
伝言ゲームで迷信が出来てしまったように、
呂晶も適当に勉強していたので、偉そうに言っておきながら、多少間違って記憶してたという感じです。

ただ、歴史的な詩が、時代によってどのように受け取られていたか?
それは時代ごとの情勢によって変わり、決して一定ではなかったハズなので、そんな所を表現したかった訳です。

そして私は、どうしても元の方の気持ちが知りたくなってしまいます。
どんな気持ちで「死地に向かった」のか?それとも死にに行くつもりなど無かったのか?
その辺を、今後、呂晶が死地に乗り込む描写で描いていきたいです。

親に殴られた嫌な思い出があるのに、嬉々として陽関を往復する呂晶には、少し可愛さを覚えます。
なんだかんだ旅が好きな子なので、観光として外せないポイントだったのでしょう。

送元二使安西で検索すると、日本語バージョンの歌が出てくると思うので、
酒のつまみに何を食おう?と考えてしまうか、試してみて頂けたらと思います。

日本語バージョンも何を言ってるか全然判らないのですが、唯一判る所で、おそらく飲みたくなると思います。

最初の挿絵はゲーム内の敦煌で南門から入っていきます。
2枚目の方は実際(現在)の南門、陽関に近い感じですね。
ゲームだと陽関と、もう一つ有名な玉門関は、それぞれ敦煌の南、西門に相当しますが、実際はお互いかなり遠く、
それぞれ100km以上?離れた場所にあるようです。町の門というより関所ですね。

とりあえず小説内ではゲームと実際を混合した、独自の縮尺になっています。
長安から敦煌だけで馬で旅しても2ヶ月位かかると思うので。そこはちょっと1週間くらいに縮めるつもりです。
更に気孔を扱う武功家はある古代遺跡を利用し、身一つであれば更に移動を短縮する事が出来ます。

移動が早すぎる場合はそれを使ったという感じです。


王維に限らず詩を書く人は、悲しい事があると筆を取ったそうです。
しかも詩の出来によって出世が左右されたりするので、詩は本当に重要な事だったようですね。

何かに似ています。そう、芸能人等が行う、「インスタ映え」ですね。
インスタと、戦場カメラマンのような要素も含んでいたのかもしれません。

悲しい事は、悲しいだけでなく、出世のチャンスでもあったのは間違いないと思います。



ゲームでは「盗賊⇔商人」の変更を繰り返すと、一部の方から「コウモリ」なんて呼ばれたりします。
まさに、盗賊から護衛に転身した呂晶にアテはまります。

王維も呂晶と同じように、事情があって「朝廷⇔反乱軍」のコウモリをしていたのですが、
本人はそんなつもりがなくても、呂晶のように悪く思う人はいるでしょう。
同様に、呂晶も目的があって転身しましたが、やはり悪く思う人はいるハズで、
次回はその辺りを言及されるシーンがあります。

呂晶がイラついているのも、自分は、自分が嫌いな王維と同じではないか?
という気持ちがあるのかもしれません。

もう一人の歴史上人物、楊貴妃ですが、
丁度この宋の時代に、楊貴妃伝というか、彼女を取り巻く伝記が編纂されて、

1000年に一度の美女、1000年さん、今で言うアイドルのような扱われ方だったのかもしれません。
やはり呂晶は楊貴妃が嫌いで、楊貴妃にデレデレしてる男達も嫌いです。
女同士の対抗心なんかもあるのでしょう。
そんな中、楊貴妃にように扱われる美しい大臣の娘が現れ、それの護衛をするハメになります。

アイドルとは人気が高い女性で、ファンもいます。
ではファンでない人は、何故ファンにならいのか?

可愛くて、ダンス等なにかしら秀でた特技があり、
好意を寄せる相手としては、本能的に好きになってしまうに妥当なアイドル。

一つ足りないのは、見返り。だと私は思っています。
愛しても見返りがない。ならば逆に、「好きにならないようにしなければいけない」。
減点方式といいましょうか。
「アレが足りないからダメ」、「自分の好みじゃない」、「興味がない」

本人もキレイな女性だとは判っている。
ただ愛しても見返りがない。好きになり、尽くしてしまえば、尽くした分だけ損をする。

『ファンにならない』とは一種の防衛本能で『好きにならないよう努力する』
という点が含まれるのではないかと私は考えています。

呂晶も花雪やユエに対して、
実は好みではあるが、防衛本能で、好きにならない努力をしています。
そして女性なので、楊貴妃に対して同様、そこに「対抗心」というものが加わります。

そういった愛情と嫉妬、憎悪などが絡み合う心的描写に注目してもらえたら嬉しいです。

今後の呂晶の行動に大きく関わってきます。

ちなみに、ちょっと出た「楼蘭」ですが、
私がプレイしていたサーバーがROURANサーバーだったので出しました。
今は統合でなくなっちゃいましたけど。


あと、国家試験を突破した者が士大夫となりますが、
花雪のような伝統貴族は、試験が必要だったのか?
それともコネのような感じで必要ないのか?そこだけ判らなかったので、気になる所です。

楊貴妃はワキガだったのでは?という説は一応あるそうです。
もしかしたら、呂晶のような子が言った出まかせが、そのまま伝わってしまったのかもしれませんね。
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