※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

15 / 47
安史の乱 ✛千年に一度の巨乳美女✛

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

安史の乱という時分の事だ――――

 

唐の皇帝『玄宗(げんそう)』その新妻で “傾国の美女” と謳われた『楊貴妃』

玄宗は楊貴妃を溺愛していた、良い歳こいて巨乳が好きだったからだ。

 

玄宗が治めていた唐に対し、同じく良い歳こいて楊貴妃に惚れ過ぎて、

娘ほど歳下の楊貴妃の養子になったサマルカンド出身の『安禄山(あんろくざん)』

ソイツがクーデターを起こし、長安を制圧した。

 

安禄山てのは “楊貴妃が手に入らない嫉妬で反乱を起こした” とまで言われる、

どうしようもなく痛い男だ。

 

 

その際、唐の役人だった『王維』も寝返り、クーデター側に加わった。

玄宗は捕まり、調子に乗って贅を貪っていた楊貴妃も自害させられると、

王維は “自分は捕まって無理矢理働かされていた” と手練手管を駆使し、

二人がいなくなった唐へと寝返り直したのだ。

 

だからアタシは『王維=コウモリ野郎』と覚える事にした。

未だに『送元二使安西』を覚えているのは、この記憶法が良かったからだろう。

 

 

 

 

ちなみに『寝返りを繰り返したコウモリ野郎』とは、アタシの推論だ――――

 

だが間違いない、王維は『安史の乱』以前は昇進したり降格したりで、

卯建(うだつ)の上がらない男だった。

楊貴妃を見せびらかす玄宗がムカついたのだろう、だから反乱軍に寝返り、

玄宗が捕まれば “反乱軍は用無し” と言わんばかりに朝廷へ返り咲いた。

 

『送元二使安西』での『元』に対しての見送りも、打算があるとしか思えない。

悲しい事が起こる度に筆を取る奴だぞ――――? 本当に悲しんでるワケあるか。

 

悲しむ顔の裏で、“良い詩の題材が出来た” と喜んでいたに違いない。

『詩(インスタ)映え』というヤツだ。

 

この説を王維好きの御父に話したら、ぶん殴られた挙げ句に、

『お前は何故そう捻くれてばかりなんだ』と失望された。

だがアタシはこの説を覆す気はないし、女の顔を殴った御父も許すつもりはない。

 

 

 

 

――――楊貴妃だって気に入らない

 

これはアタシだけじゃなく中華の女は大抵そう思ってる。

三百年も昔の女だと言うのに、最近、当時の話が編纂されたとかで一躍有名になった。

 

中華の女は事あるごとに楊貴妃と比較される。

『楊貴妃はもっと淑やかだった』とか『上品だった』という具合にだ。

顔も判らない大昔の女だぞ――――? やってられるか。

 

ナンパの文句まで『君はまるで楊貴妃のようだ』という台詞が流行った程だ。

男にとっては『楊貴妃のようだ』は褒め言葉かもしれないが、

他の女に似てるという理由で好かれても嬉しくも何ともない、

喜ぶ女もいないでは無いが、楊貴妃より生物的に優れたアタシは我慢ならない。

 

当の楊貴妃と言えば、没落貴族の出身で、

取り柄と言えば顔と歌、舞、胸がデカイ――――男に媚びる為に生まれたような女だ。

 

見た目は(私には及ばないだろうが)可愛かったかもしれないが、

頭も良くないし強い訳でもない、アタシは楊貴妃に劣る物ナシだ。

 

なのに私は『人でなし』と蔑まれ、アイツは『千年に一度の美女』と持て囃される。

老いる寸前――――三十半ばで死んだから、噂に尾ひれがついたに違いない。

 

『偶像(アイドル)』ってやつだ。

その偶像に、男共が嫉妬で戦争を起こした。

その偶像に、何百年も経った今も踊らされる。

 

女の奴隷みたいな男共も気に入らない。

だからアタシは、そういう教養のない男が楊貴妃の話をする度、

『楊貴妃は小便を漏らす小便娘、おまけにワキガでだから盛んに香を炊いていた』

と、教えている。

 

 

――――もちろん嘘だ

 

だが、教養の無い奴はこんな嘘すら見抜くことが出来ない。

夢が崩れたのか、揃って顔を青ざめやがる。

 

アタシが軍師だったら、

“『楊貴妃に限ってワキガなど……』群臣達が動揺しておりますぞ”

という報でも聞こえきそうな勢いだ。

 

そう、アタシは密かに楊貴妃の流言を流している――――だから勝てる

 

奴はもう死んだ女、付けられた傷は決して修復しない。

対して、生きてるアタシは傷を付け放題だ。

 

楊貴妃だって人間なのだから鼻もほじればクソもする、

アタシは現実を教えてやってるんだよ。

 

 

 

 

「……おい、聞いてるのか呂晶?」

 

 

 

 

そうだ、この隊商も若い女が仕切ってるらしい。

 

てコトは、それにヘラヘラ付き従ってるウチの頭領であるコイツも、

玄宗や安禄山みてーなもんじゃねーか――――?

 

 

 

 

「な、なんだよ……」

 

 

 

 

そんな事を考えながら、呂晶はウェイの顔を睨みつける。

 

 

 

 

「……アタシは、あの歌が気に入らない」

 

 

 

 

ウェイを睨みつけながら、呂晶はその視線で様々な不満をぶつけている。

 

だが、そのほとんどはここの所燻っている感情や、個人的な主義趣向によるイラ立ち、

おおよさウェイとは無関係のことだ。

 

 

 

 

「まあ……お前が “気に入らない” ってんなら、スカした内容なんだろ――――俺達、人でなしにゃ似合わねぇなっ!」

 

 

 

ウェイは、自称『女の気持ちが判る男』である。

呂晶の不満までは判らないが、深く追求せず共感してやろうと、

彼女がよく他人から言われる『人でなし』という言葉を使った。

 

人を斬り殺すことが生業の武侠全般にも使われる為、

『俺達』と加えることで連帯感を生もうとしたのだ。

 

しかしこの図らいは、呂晶にとっては逆効果となる。

 

 

 

 

「はあ!? テメーみたいな田舎商人と一緒にすんなッ!! ウチは皇室にコネ持ってんだぞッ!?」

 

 

 

 

この、黒人がお互いを “ニガー” と罵り合う類のスラングは、

同類にしか許されない行為だ。

 

二人とも、今は行商に参加する同類の立場ではあるが、

呂晶の本質は今でも『盗賊側』であり、

ウェイに対しても『お前もどうせあっち側だろ』という、

裏切り者を見るような感情が残っている。

 

 

 

 

「お、おう……悪かったな……」

 

 

(なんだコイツ、せっかく慰めてんのに……反抗期か?)

 

 

 

 

呂晶の機嫌はどんどん悪くなる。

そのイライラは周りに、ウェイにも伝播していく。

女とはそういう物である。

 

 

 

 

「なあ、この後イラつく事があっても、絶対に悪態だけはつくなよ、絶対だぞ? あと、この間まで盗賊やってた事も絶対に言うな」

 

 

 

 

呂晶が問題を起こす気配を察知したウェイは入念に注意する。

 

これから参加するのは結盟がする呑気な行商ではなく、

沢山の人間が一つの目的を達成すべく動く『団体行動』である。

正直、この女が一番向いていない場所だ。

 

 

 

 

「大丈夫だ、アタシはどこでも上手くやれる」

 

 

(その得体の知れない自信が一番心配なんだよ――――あっ……)

 

 

 

ウェイはハタと思い付いたように、

懐から『紙切れ』を取り出し、呂晶に渡す。

 

 

 

 

「ほらよ」

 

 

「何だコレ、膠泥(こうでい)活字か?」

 

 

 

 

昨今の宋は『印刷技術』の発展がめざましい。

『膠泥』という煉瓦のつなぎ目に使うセメントで文字を型取り、

それを並べて文章を作って活版印刷を行っているのだ。

 

 

 

 

「 ”花雪象印商隊、掟、近接護衛の項” ……こんなもん配ってんのか?」

 

 

 

 

この商隊ではそれを使って新人への初期講習を行うのだ。

ウェイは人差し指を立て、

おそらく自分が過去に受けたであろうレクチャーを呂晶に行う。

 

 

 

 

「いいか呂晶、“積荷は人の命より重い” んだ、よく覚えとくんだぞ? この商隊のルール、其の一だ」

 

 

 

 

団体行動に向けての予習である。

 

 

 

 

「へっ……そりゃ、そう思ってる奴にはそうだろうけどね」

 

 

 

 

呂晶は聞く耳を持たないどころか鼻で笑って紙を放り捨てる。

ルールや決まりといった言葉はこの女に使ってはならない、

絶対に破るからだ。

 

レクチャーは其の一で終わってしまった。

 

 

 

 

「あっ……そーゆうトコだぞ、お前っ! 俺には構わんが、絶対に花雪(ファーシュエ)さんと寒月(ハンユエ)さんには言うなよ!?」

 

 

 

 

ウェイが紙を拾いながら出した、花雪と寒月という名。

それを聞いた呂晶の顔が険しくなる。

 

 

 

 

「それ……この隊商仕切ってるっていう、十代の子達?」

 

 

「そうそう、その二人だ――――初めは普通の行商隊だったそうだが、それをここまで大きくしたんだ。お前にも、あの子達を見習って欲しいよ……」

 

 

「ふーん……」

 

 

 

 

呂晶は他人と比べられるのが嫌いだ。

比べられる自体は構わないが、自分が下にされる事が許せないのだ。

 

 

 

 

「小娘が仕切る隊商ねぇ……アタシはこれから、ママゴト(・・・・)に付き合わされるって訳か」

 

 

 

 

当然、悪態を付く。

 

 

 

 

「言うと思ったぜ、だが――――そうでも無いぞ」

 

 

「は?」

 

 

「この商隊は今まで一度も荷を奪われた事がない(・・・・・・・・・・・・・・・・)」

 

 

「なんだと……?」

 

 

「言うなれば “安全神話” だ、みんなその話にあやかろうとしてる。それで商隊がいくつも傘下に入ってデカくなった、実力は折り紙付きだ」

 

 

「安全、神話……」

 

 

 

 

ウェイが言った言葉を反芻する。

『安全』とは即ち、『呂晶のような盗賊に対して』という意味だからだ。

 

つまり、一度も盗賊に負けた事がない。

 

 

 

 

「安全ならリスクがない訳だから、乗れば確実に儲けられるだろ? 金だけ出資する協賛者も増えてるって話だ」

 

 

「確実、か……どんな奴だ? その十代の女ってのは」

 

 

 

 

呂晶は真剣な面持ちで質問する。

“確実に盗賊に勝つ” とまで言われては、敵として無視する訳にはいかない。

 

今回は味方だが――――

 

 

 

 

「なんつーかなぁ~、こう……楊貴妃みたいな人だ! 上手く言えんが、これが一番しっくりくるぜっ!」

 

 

(出たなァ……)

 

 

 

呂晶はニヤリと笑う、禁句が出た。

禁句ではあるが流言を広めるチャンスでもある。

 

 

 

 

(可愛い女を見れば、すぐ楊貴妃――――ッ! そのナンパ文句は、もはや死語だと判らせてやるッ!!)

 

 

 

 

周りにも聞こえるように、呂晶は大きく息を吸う。

 

 

 

 

「いーい、ウェイッ!? 歴史の勉強したこと無い、アンタは知らないだろうけどッ!!」

 

 

「おい、おい……! 呂晶っ!」

 

 

 

 

ウェイは聞いておらず、呂晶に『高速肘打ち』をしている。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。