※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

16 / 47
偶像 ✛二人はアイドル✛

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

「楊貴妃って子はね!! ホントは小便漏らすわ、ワキガはヒドイわ、臭っ……さくてしょうがなかった、てのが歴史的見解――――おぉうッ!?」

 

 

「……。」

 

 

 

 

気付くと、この商隊を率いる十代の小娘、

副長・寒月(ハンユエ)が呂晶の顔を覗き込んでいた。

 

おかっぱの上にお団子を乗せた髪型。

パッチリした大きい目を、ぼんやりさせて見ている。

その顔には『眼鏡』を掛けている。

 

 

 

(呂晶っ……! 挨拶、挨拶……ッ!!)

 

 

 

 

ウェイが必死に肘打ちしている。

 

 

 

 

「ど、ども……眼鏡、珍しいね」

 

 

 

 

多少引き気味に声を掛ける。

突然だった為、最初に目に入った眼鏡の感想を述べてしまう。

 

 

 

 

(ホントに小娘だ……こういう場で自分より年下の女って初めて見た……てか、胸デカッ!)

 

 

 

 

副長・ユエは、眼鏡の奥のぼんやりした瞳に映る呂晶に、

おずおずと言葉足らずの質問を行う。

 

 

 

 

「……誰?」

 

 

 

 

上司が見慣れない新人に声を掛けているのだ。

しかし、その姿は上司とは思えないほど大人しく、あどけない印象だ。

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 

呂晶はその様子にイラついたのか、威圧で返す。

 

 

 

 

(なんだァ、この無愛想な眼鏡は……上下関係舐めとんか? 先輩のアタシが “ども” つったら後輩はだまって “どうも初めましてコンニチワッ!!どうも初めましてコンニチワッ!!” だろうが? 二回だぞ、壊れたエクスマキナみてーに全力で二回言え、でねーとテメーぶっ殺すぞ)

 

 

 

 

――――という声を飲み込む

 

そう、此処での自分は雇われの身、相手が上で下なのは自分だ。

そして此処では、いつもの盗賊のような礼儀は許されない。

 

 

 

 

「楊貴妃が臭かったなんて聞いた事ない、あの人はお香が好きだっただけ……アナタはもっと、歴史の勉強をした方が良い」

 

 

 

 

部下に威圧されて怒ったのか、ユエは “ムッ” とした様子で返す。

教養を示せるという事は、このユエもまた上流階級である。

 

 

 

 

(こんの、ガキィ……ッ!!)

 

 

 

 

歳下に知ったかぶりをされる、

『呂晶が許せないランキング10』に入る出来事。

 

これが盗賊同士であれば大刀の切っ先を口に捩じ込み、

相手が上手く喋れないのを判っていながら――――

 

 

 

 

『あァ? “ごめんなさい” も言えねぇのかテメーは? オラ、口が裂けんぞ……あァッ!? 聞こえねぇーよッ!!』

 

 

 

 

と、謝罪を要求する場面である。

ただしユエは上司であり呂晶は盗賊だった事を口にしてはならない。

 

 

 

 

「へっ……へぇ~! そ、そうなんだぁ~……ごっめぇ~ん……」

 

 

 

 

と、顔をひきつらせて言う他に無い。

様子を見ていたウェイがたまらず割って入る。

 

 

 

 

「(おい、呂晶……!) ちっす、ユエさん! こいつ俺の結盟員なんスよ! 腕も立ちますから宜しくしてやって下さい!」

 

 

 

 

呂晶は嫌悪感丸出しで顔を背ける、どちらが歳下か判らない。

その呂晶をユエは “じっ” と見つめている。

 

 

 

 

「そう……がんばって、アナタは右側中列」

 

 

「へ~~い」

 

 

 

 

わざと嫌味な表情を作り、間の抜けた声で返事をする。

それを聞いたユエは “コクン” と頷き、スタスタと歩いて行ってしまった。

 

 

 

 

「おい……イキナリ、“は?” とか言うのは止めてくれ……頼むぞ、トラブルだけは起こすなよ、責任持てないからな?」

 

 

 

 

責任感の強い男、ウェイは眉間を抑えている。

まだ一合目だと言うのに少し目眩がしたようだ。

 

 

 

 

「あの子、ずいぶんサッパリしてんのね……てかアンタ、何? 惚れてんの? キモイよ?」

 

 

 

 

呂晶は年齢こそ二十歳だが、その精神は少女のままで成長が止まっている。

イラつけば触る物全てを傷付ける。

 

 

 

 

「そんなんじゃない……ユエさんはな、剣術と気功の達人なんだ。あの若さで大したもんだよ、しかも上流階級の娘さんときた」

 

 

「上流ねぇ、たかが知れてるけど」

 

 

 

 

"ウチに比べれば” という言葉は飲み込む。

 

 

 

 

(まあ、コイツ位の男は、あーいう小娘に塩対応されるのが堪らんのだろう)

 

 

 

 

呂晶は、『気功の達人』という言葉に興味を覚える。

自分は気孔を集中すると破裂させてしまう体質で、

大分前に『あくまで気功は補助』として諦めた経緯がある。

 

その気功を主体に戦う剣士――――

自分と全く違う系統だからか、嫉妬もなく単純に好奇心だけを覚える。

 

それに、あの自分を偽らない感じ、無愛想だが嫌いではない。

近所に住んでいた歳の離れた恥ずかしがり屋の男の子を思い出す。

 

 

 

 

(ただ、あの発育の良い胸だけはけしからん……いかにも “良い物食ってます” って感じだ)

 

 

 

 

そして呂晶は “バイ” である。

よって可愛い女子に出会うと、憎しみと愛情が入り混じった独特の感情を抱く。

 

 

 

 

(ククク……組み伏せてあの胸をムリヤリ揉みしだき、あの無愛想に嬌声を上げさせるのも悪くない……)

 

 

 

 

その憎しみと愛情の相乗効果が悦楽を産む。

手を握っては開きを繰り返し、恍惚の笑みを浮かべている。

 

背中から性欲の視線を向けられるユエは、

その豊満な胸を揺らしてスタスタと歩きながら、

新人達の顔を確認しつつ先程の言葉を思い出している。

 

 

 

 

 

 

――――眼鏡、珍しいね

 

 

 

 

(これが視力を補助する道具だと、しかも名前まで知っていた……初めて見た人は必ず、“それはなんだ?” と聞いてくるのに……)

 

 

 

 

 

 

呂晶の不良のような格好と佇まい、

そしていい加減ではあったが教養がある様子を想い比べる。

 

 

 

 

「……人は見た目によらない」

 

 

 

 

一方、ウェイは、呂晶の狂気を宿す顔が

“一戦交えたい欲求を持っている” ものだと確信する。

 

 

 

 

「ダメだぞ、あの子には手を出すな」

 

 

「なーに、ウェイ、やっぱ惚れてんの?」

 

 

 

 

ニヤリと笑い返す。

 

 

 

 

「別に、あの子に “イイ” と言わせれば、誰も文句は言えないわ」

 

 

「あの子を挑発するつもりだろう……やめておけ、お前でも勝てるか判らん」

 

 

(挑発? 夜這いや誘惑でなく……勝てるも何も、ありゃ確実にノンケだろ。コイツの考えはオヤジ臭くてよく判んねーな)

 

 

「大丈夫だよ、あからさまにアタックしたりしない。自由時間とか、そういう時にするよ」

 

 

 

 

二人の会話は噛み合っていない。

 

 

 

 

「ダメだ――――あの子は隊の副長ってだけじゃなくて、大臣の娘なんだよ」

 

 

「大臣ッ!?」

 

 

 

 

大臣とは、呂晶が親に目指させられていた『士大夫』の中でもトップ。

王維が晩年その地位に就いたレベルであり、

国の権力者の中でも “上から何番目” というレベルである。

 

地方の成金である呂晶の家を軽く飛び越え、貴族中の貴族だ。

 

 

 

 

「確か、戸部の……なんだったかな? 左か右の……」

 

 

 

 

ウェイは意味も判らず聞き、意味も判らず忘れていた知識をほじくり返す。

 

『戸部』とは財務省や経済産業省、その他、色々を合体させたような、

国家予算を一手に動かす執行機関であり、

権力を持ちすぎぬよう『左曹』と『右曹』に分けられている。

 

だが、それでも有り余る権力を持っている組織だ。

 

 

 

 

「嘘でしょ……? 上流どころか、最上級みたいなもんよ……何でそんな子が、こんな田舎で行商してんだよ……」

 

 

 

 

『商隊』とは言うなれば『動く宝箱』である。

人気の無い所で貧しい者がそれを発見すれば、

場合によってはその場で盗賊デビューしてしまう程に魅力的な物。

 

そんな危険物を運ぶような仕事を大臣の娘が行うなど、

余程の事である。

 

 

 

 

「そんなに変か、金持ちなら行商も得意じゃないのか?」

 

 

 

 

ウェイにとっては『金持ち』とはそれ以上でも以下でもない為、

その異質さには気付かない。

 

 

 

 

(ダメだ、コイツじゃ話になんねぇ……大臣の娘が副長で、気功の達人? そしてこの人数……この隊商、何もかも異常だ……)

 

 

 

 

呂晶が頭を悩ませていると、例の “もう一人” が姿を表す。

 

 

 

 

『花雪嬢が来たぞーッ!!』

 

 

 

 

男の声が上がると、周りがざわ付く。

 

それは上司を迎える声というよりも、

もっと嬉しそうな、“待ちに待った” ようにも聞こえる。

 

 

 

 

「何?」

 

 

 

 

この商隊にとっては恒例行事だが、初参加の呂晶には未知の出来事だ。

 

 

 

 

「花雪さん、商隊の長だ」

 

 

「長(おさ)……」

 

 

 

 

呂晶は声の方向へ振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

優雅で自信に満ちた歩き方。

スラリとした、女性としては長身の若い女が現れた。

 

髪は栗毛色、顔は透明感のある印象を抱かせながら、

目や鼻などの大事なパーツは西方人の良い所だけを持ってきたような顔立ち、

薄い唇――――

 

顎がやや “しゃくれて” いるように見えるのは、性格が出ているのかもしれない。

唯一の欠点と言えるそれだが、もしそれが無ければ、

西方の少女のような幼すぎる顔立ちになっていただろう。

 

その『欠点』があることで、少女と大人の中間のような、

高飛車で妖艶な、吸い込まれるようにミステリアスな印象を醸し出している。

つまり、弱点が強みとなってしまった――――奇跡の調和

 

肌は血管が透けてしまいそうな程に真っ白、

とても戦闘向きな容姿ではないが、美しい。

 

『可愛い』と『綺麗』と『エロ』が同居したような姿、

という表現がしっくり来る。

 

そして、その胸の大きさもまた、戦闘向きでは無い。

 

 

 

 

(あれで十八!? しかもまた、デカイ……)

 

 

 

 

呂晶も形には自信があるが、大きさは中の上程度。

花雪のそれは一目でそれを凌駕する。

ついつい、自分のと見比べてしまう。

 

さっきのユエも、花雪に勝るとも劣らない迫力であったが、

『それ自体の大きさ』は、身長との対比を考えると花雪が勝っているだろう。

 

つまり、長身だけに尚更 “デカイ” のだ。

 

 

 

 

「アイツも……かなりの上流階級だ……」

 

 

 

 

呂晶はゴクリと唾を飲み込む。

どれだけ良い物を食えばあそこまで育つのだろう?

 

 

 

 

「そうだ、あの人も官吏の娘さんらしい――――判るのか?」

 

 

「ああ……アタシと同じ匂いがする」

 

 

「ぶわっはッ!!」

 

 

 

 

唐突に吹き出した。

 

 

 

 

「……何?」

 

 

 

 

呂晶が目を細めて質問する。

 

 

 

 

「いや、ナイスジョーク……」

 

 

「ちっ」

 

 

(まあ、コイツにはウチが金持ちとは言ってないからな、言ったら言ったでウゼーだろうし……)

 

 

 

 

気を取り直して説明する。

 

 

 

「あれは訓練で身に付ける歩き方だ、先生のエロいのとも違う。人の上に立つのが決まってる、そういう奴が受ける訓練」

 

 

 

 

人格や所作、その他もろもろの訓練――――

俗に言う『帝王学』

 

教える内容は家によって様々だが、

先祖代々の集大成とも言える独自教育であり、大体は選任された家庭教師が施す。

 

士大夫が『新興貴族』であるとすれば、

花雪の家は先祖代々続く『伝統貴族』である事を意味している。

 

 

 

 

「そうなのか? 自然体に見えるが……」

 

 

「そう見えるまで訓練すんだよ」

 

 

 

 

――――だが、なかなか良い

 

ああいう高飛車な令嬢を組み伏せて、

あの育ちに育った胸をムリヤリ揉みしだき、嬌声を上げさせるのも悪くない。

 

 

 

 

(やば、ちょっとムラついてきた……)

 

 

 

 

呂晶の趣味は、ノンケの女に自分の性癖を暴露し、

『嫌がる相手を腕力で組み伏せながら女の良さを教え込む』という、

あまり褒められないものだ。

 

呂晶から性欲の視線を浴びる当の花雪は、ユエが待つところまで歩み寄る。

そして、用意された壇上に、やはり優雅な動作で昇る。

 

胸を少し張り、下目遣いで部下たちを見回しながら、

肩に掛かった髪を邪魔そうに払っている。

 

 

 

 

(さあ、お高い子猫ちゃん……その可愛いらしいお口から、どれだけ上品な声を聞かせてくれるのかしら?)

 

 

 

 

呂晶もその雰囲気に飲まれて心の声が上品になる中、

安全神話を誇る『花雪象印商隊』の長、花雪がその第一声を発する。

 

 

 

 

「そこの貴様――――……“来た” ではない、“いらっしゃった” ……じゃろう?」

 

 

(ジャローンッ!)

 

 

 

 

呂晶が目を見開いて口をすぼませ、“ひょっとこ” のような顔で驚く中、

長を称える世辞が飛ぶ。

 

 

 

 

『よっ、商隊長ッ!! 今日もお美しい!!』

 

 

「黙れ――――皆の者、今回も妾(わらわ)に付き従えることを光栄に思え」

 

 

(わら……えっ? 冗談?)

 

 

「今回の商人、輜重兵は――――合わせて五十じゃ」

 

 

 

 

花雪は、紙に書かれた参加者のリストを読み上げる。

 

 

 

 

『おおぉ~~っ!!』

 

 

 

 

その数に感嘆の声が漏れる。

 

 

 

 

 

 

「そして護衛の数は―――

 

 

 

 

――― “百” じゃ」

 

 

 

 

 

 

『オオオオォォォーーッ!!』

 

 

 

 

更に大きな歓声が上がる。

 

 

 

 

(百だとォッ!?)

 

 

 

 

驚かざるを得ない。

いくら腕に自信がある呂晶でも同時に相手出来る数は四人、

それが五十人の商人と輜重兵、更にそれを百人体勢で守っている。

 

一人で突っ込みでもしたら、

触れる前に弓矢でミンチにされる数――――

 

 

 

 

「毎回、増えてるな……今回は今までで一番多いかもしれん、二人の名が知れ渡ってきたんだ」

 

 

 

 

恩人が掲げていた天下布武を夢見るウェイ。

名が知れたり上がったりとは、心が踊る事なのだろう。

 

 

 

 

「俺達も活躍して、二人に認めてもらおうぜッ! ウオオオオォォーッ!!」

 

 

 

 

拳を握り、周りの大勢がそうしているように高らかに掲げる。

 

 

 

 

(なにが、“認めてもらう~” だ、相手は小娘だぞ?)

 

 

 

 

呂晶が嫉妬とも呆れとも言える感情を募らせる中、

花雪は優雅に手を滑らせて言い放つ。

 

 

 

 

「お前達の積荷の安全は保障しよう――――平民共、今回も妾の手となり、足となるのだぞ?」

 

 

 

 

一際大きな雄叫びが轟く。

 

 

 

 

『YEAAAAAAAAAAAAAAHーーーーッッ!!!!』

 

 

 

 

男達が拳を上げ、“我こそは” と飛び上がりながら、

どこかで聞いた西方の言語で叫ぶ。

 

その声は耳を塞ぐ程の大きさ、とても気合が入っている。

これはこれで士気が高いのかもしれない。

 

 

 

 

(おいおい、家庭教師……お前、一体どんな教育したんだ? 親の顔が見てみてーよ……)

 

 

 

 

盛り上がるウェイや周りと対照的に、

呂晶は耳を塞ぎながら一気に冷めていた。

 

 

 

 

(タイプじゃない)

 

 

 

 

この隊商の人気がどういったものか、判った気がする。

 

“一度も落ちた事が無い” と言うから気になったのに、

長も副も小娘、やはりママゴトだ。

 

 

 

 

(……しかし、男はあーいうのが良いのか?)

 

 

 

 

花雪のそれは “媚びる” とは対照的な、“突き放す” といったもの。

前者を砂糖とすれば、花雪のそれは塩だろう。

 

 

 

 

(塩対……ってんなら、私だってそっち系だと思うが……まあ、アタシは先生一筋だけど)

 

 

 

 

呂晶はこれ以上考えるとまたイラ付きそうなので、

小さな声で――――

 

 

 

 

「ダッセ……」

 

 

 

 

とけなして、終わりにした。

 

 

 

 

(まともにやったことも無いから判らんが、こりゃ、長い交易になりそうだ……)

 

 

「……」

 

 

 

 

花雪は壇上から、

一人、冷めている呂晶を怪訝な顔で見つめる。

 

 

 

 

(あの生意気な顔、どこかで見た――――……)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。