※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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戦象 ✛社長専用機✛

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

「すっげぇーっ!! 戦象だぁーっ!」

 

 

 

 

盗賊から商隊護衛に転身した女、二十歳の呂晶(ルージン)は目を輝かせている。

 

 

 

 

(あの小娘達っ! こんなモンまで用意してんのかよ!)

 

 

 

 

象は以前にも見たことはあったが見世物用の小ぶりなヤツだった。

 

 

 

 

「オラッ!! オラァッ!! いいんかッ!? コレがいいんかッ!?」

 

 

 

 

珍しい物が大好きな呂晶。

本人曰く『ただ珍しいだけではダメ』だそうだが、この戦象はお気に召したようだ。

目をキラキラ輝かせ、とても嬉しそうに象の脇腹をボコンボコンと殴っている。

 

と思うと突然、無表情になって後ずさった――――

どうやら臭い匂いがしたようだ。

 

 

 

 

「…………すっげぇーっ!!」

 

 

 

 

離れるとまた目を輝かせ、象の周りをぐるぐる回って観察する。

 

 

 

 

「ケツ……っ! デケェーんだけど!! マジウケるよッ! ねぇ!?」

 

 

 

 

呂晶が所属する結盟『真夜中の旅団』

その首領で引率を行うアラサー、ウェイが解説する。

 

 

 

 

「物見櫓も兼ねてるそうだ、立ったらもっとデカイぞ」

 

 

「アタシ乗っていいっ!?」

 

 

 

 

嬉しそうに振り向く、まるで少女のような顔。

その顔でピョンピョンと跳ねながら、備え付けられた『台座』を指差している。

 

 

 

 

「 ダ、メ――――」

 

 

 

 

ウェイは目を閉じ、ゆっくり顔を振る。

 

 

 

 

「人を乗せるべく調教されし象……その上に備え付けられし台座……一体、その目的は? ……勿論、人が乗るため」

 

 

 

 

呂晶は演劇でもしているような、大袈裟な身振りで語りだした。

 

 

 

 

「あの台座に座りし者……最も相応しき者とは……? それはアレに乗りたい奴――――即(すなわ)ちアタシだ」

 

 

 

 

親指で自分を指す。

『人が山に登るのは、そこに山があるから』というようなことが

言いたいのだろう。

 

ウェイは顔を近付け人差し指を立て、真剣に忠告する。

 

 

 

 

「ダメなものはダメだ。お前は目を盗んでも乗るだろうから言っておくぞ、アレに乗るのは花雪(ファーシュエ)さんだ」

 

 

「なにぃ……?」

 

 

 

 

呂晶は花雪を睨み付ける。

彼女はこの商隊の隊長であり国を動かす大臣のご令嬢でもある。

才色兼美、財力も象も兼ね備える十八歳は、部下の商人達に指示を出している。

 

 

 

 

「三号の滑車が欠けておる、馬鹿者がどこかにぶつけおった――――藁が寄れていないか確認せい、ガラス細工が割れておれば “貴様はクビじゃ” と、三号の者に伝えよ」

 

 

『ハッ! 直ちに荷を開封し、確認いたします!』

 

 

 

 

指示を出された商人長、

彼は一回りも歳下の小娘に大声で返事する。

 

 

 

 

「ああ、待て待て。やはり藁は交換しろ――――何度か雨が降られたじゃろう? 湿気で撓っとるじゃろうからな……カビも生えとるやもしれん」

 

 

 

 

ここで言う藁とは『緩衝材』のことだ。

 

 

 

 

『ハッ! 全て交換させます――――おーい、馬車隊ィーーッ!! 藁を交換するぞーーッ!!』

 

 

 

 

一人に指示を出すと、次の者がお目通し願う。

 

 

 

 

『花雪殿、伝者が参っております。通してよろしいでしょうか?』

 

 

「……通せ」

 

 

 

 

伝者にしては身なりの良い者が通され、礼儀正しく挨拶をする。

 

 

 

 

『花雪様、ご機嫌うるわしゅう、御父君から言伝を預かって参りました』

 

 

「妾は忙しい、手早く済ませ」

 

 

『御父君はこう仰っております――――商売に精を出すのは結構だが、次の誕生会では重鎮にお披露目する故、髪を黒くし必ず長安の別荘にいるように』

 

 

「またか…………代わり映えのない奴じゃ!!」

 

 

 

 

花雪は美しい顔を歪め、眉間に皺を寄せる。

それだけの事を言うために何度も伝者を寄越す父を嫌悪している。

 

 

 

 

「髪は戻さん、会は一日前倒さねば出席せん、援助を打ち切りたくば好きにせよと伝えよ――――そしてお前はその陰気臭い顔を二度と見せるでない」

 

 

『しかし、御父君にも都合が――――……』

 

 

「ええい、そんなもん妾が知るかっ!!」

 

 

 

 

スラリと伸びた手を大きく振って追い払う。

伝者は礼儀正しくとも父の従者、言伝というより説得に来たのだろう。

花雪にとっては敵のようなものだ。

 

そこへ、この商隊の副長、花雪と同じく十八歳で大臣の娘の寒月(ハンユエ)が、

割って入るように相談を持ちかける。

 

 

 

 

「花雪、三号馬車の人、替えて――――荷の扱いが雑」

 

 

 

 

ユエは主に護衛と戦闘を管轄している。

商人と輜重は花雪の管轄だ。

 

 

 

 

「妾もそう思うのじゃがな、ミスった訳でもないのに替えられんよ」

 

 

「花雪は意外と優しい――――なら、アレ(・・)は他の馬車に乗せよう」

 

 

 

 

『アレ』とはガラス細工のこと、

ステンドグラス製でペルシアから輸送を経由されて来た物だ。

高価な割れ物だけに二人の共通の懸念材料なのだろう。

 

伝者は『取り付く暇ナシ』と思ったか、諦めて退散したようだ。

それを横目で見ながら花雪が返答する。

 

 

 

 

「お前も意外と辛辣じゃからな。まあ、ここまで誰も割らなかった(・・・・・・・・・・・・)のじゃ、妾達が割る訳にもいくまい――――頼む」

 

 

「判った、任せて」

 

 

 

 

ユエは返事をすると馬車へ向かう。

荷を安全に運ぶもろもろを指示しておくという事だ。

 

二人の意思疎通はあまり言葉を必要としない。

ユエがわざわざ確認に来たのも、本当は伝者にイラつく花雪の加勢に来たのだ。

花雪もそれが判っていたので、伝者を無視するようにユエと会話を始めた。

 

一方、象にハシャいでいる呂晶は何とも子供っぽい。

ウェイは『ウチの子はどうしてこう情けないんだ』という態度で呂晶を注意する。

 

 

 

 

「この象はな、商隊の旗印《はたじるし》でもあるんだ、お前が乗ったりしたら俺まで怒られるから絶対にやめろ」

 

 

 

 

戦象は『動く物見櫓』であると同時に、花雪象印商隊の『シンボル』

商隊の長である花雪は社長同然、つまりは『社長専用機』でもある。

 

護衛がおいそれと乗ってはいけないし、遊びに来た訳でもないのだ。

 

 

 

 

「あのご令嬢の愛馬かよ…………じゃいいや、なんかクセーし」

 

 

「お前なぁ……」

 

 

 

 

ついさっきの『おねだり』するような愛らしい態度からの落差に、

ウェイは唖然としてしまう。

 

 

 

 

「うるさい、いい大人が象の一匹や二匹で騒ぐな、昔はアレを並べて横陣敷いてたんだぞ。その様っつったらもうなぁ……」

 

 

 

 

呂晶は目を細め、手を広げ、まるで昔を思い出すように語る。

つい今まで窘められていたというのに、すでに窘める側に回っている。

 

 

 

 

「お前も見たこと無いだろ……」

 

 

(ここん所、メンヘラが激しいな――――阿片のせいか、それともイラつくことでもあったか? イラつき、イラつき、イラつき……ハッ!)

 

 

 

 

自称、女の気持ちが判る男・ウェイはピンときて、

呂晶の肩に手を置く。

 

 

 

 

「フッ……まぁ女ってのは色々大変だもんな(・・・・・・・・)、俺はちゃんと理解してるぞ……」

 

 

 

 

目を閉じ、首をゆっくり振りながら、

囁くような二枚目声で呟くと――――

 

 

 

 

「ん、どうした?」

 

 

 

 

呂晶が眉を八の字にして、ドン引きしている。

 

 

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 

 

直後、火薬が弾けたような爆発音と共に、

ウェイの右手が勢い良く弾かれる。

 

 

 

 

「痛ってえええええッ!! なんだぁッ!? ヒステリックかッ!?」

 

 

 

 

周りの者が音に驚いて見回したが、忙しいのですぐ作業に戻った。

 

 

 

 

 

 

<img src="/storage/image/qNICGRIYP6ZoW8kx7lx2p600ch7MdXtxb70sNEsW.jpeg" alt="qNICGRIYP6ZoW8kx7lx2p600ch7MdXtxb70sNEsW.jpeg">――――炎壁術・赤塔

 

体表から炎孔を噴出させ、気孔耐性を高める防御術――――なのだが、

それを維持できないため炸裂させたのだ。

 

呂晶の炎功は見た目と衝撃は派手だが、大した熱をこめられない。

爆発加速させた斬撃は脅威だが、気孔自体の威力はウェイや他の者より遥かに貧弱だ。

 

だがいくら貧弱でも、密着した所で弾ければかなり痛い。

今の『火壁』も手加減はしている、でなければウェイの指が飛んでいただろう。

 

 

 

 

「騒ぐな、汚物を消毒しただけだ――――」

 

 

 

 

とは言え、そもそも気功とは明確な殺意をもって放つ『武器』

冗談でも仲間に矢を射掛けないのと同様、

町中で気功を放つようなモラルの無い気功家は少ない。

 

 

 

 

(呂晶……お前、反抗期ってやつなんだな……)

 

 

 

 

ウェイはヒリヒリする指を加え、“シュン” としている。

呂晶はというと目を合わせず、

自分の下着を父親の物と一緒に洗われた時のような顔をしている。

 

 

 

 

ここは西夏と宋をつなぐ河西回廊の重要拠点、敦煌――――

花雪と寒月を筆頭に総勢百五十名が、

宋の西の都『長安』に向け積荷を運ぶ旅に出ようとしている。

 

積荷はこの敦煌では、あまり価値を持たない。

だが長安以東に運べば申し訳ない値段で売れる物や、

輸送を繰り返される内にいつしか同じ重さの『金』を上回る値が付く物すらある。

 

他には学術的な資料や、値打ちは無いが大切な贈り物などを託される。

 

 

 

 

(私が思わずくすねたくなるような、宝石もな……)

 

 

 

 

綺麗で珍しい物が好きな呂晶は、

馬車に積まれた宝石箱にそろりと手を伸ばす。

 

 

 

 

「呂晶……」

 

 

 

 

西夏と宋は『敦煌』を奪い合っている――――

その戦争状態の両国を堂々と往来しているという事、

それはひとえに行商人が、国の枠をも越えた『権力』を持つことを示している。

 

彼等が行き交う『河西回廊』は長安から敦煌だけではなく、

敦煌から西方のウイグルやもっと西方、

八千メートル級の山々が連なるヒマラヤ・カラコラム山脈を越え、

ペルシアや、もっと西の『ローマ帝国』まで延々と続いている。

 

たまに嘘か誠か、エジプトやアフリカ由来の物まで紛れ込むらしい。

今回、呂晶達が長安へ運ぶ積荷も、ほとんどは敦煌よりもっと西方由来の物ばかりだ。

 

 

 

 

「――――喝ッ!!」

 

 

「うわぁっ!! ビックリしたぁ!!」

 

 

 

 

宝石に手を伸ばす呂晶にウェイが “喝” を入れる。

 

『商人』はラクダや水牛、馬が引く車に積み込み作業を行っている。

積荷は陶器等の割れ物も含まれるので、物によっては箱に藁を敷かねばならない。

 

『輜重兵』は矢を始めとする消耗品、水、人と家畜の食料、

他にも薬や天幕など、生活用品の管理で大忙しである。

 

対して、呂晶のような『護衛』は楽なものだ。

簡素だが食事も出るし最低限の水も支給される。

必要なのは武器と装備、それで同行するだけでたんまり報酬が頂ける。

 

盗賊も出てこなければ旅行気分で丸儲けだ。

一見、穀潰しにも見えるが、多くの護衛を従える商隊はそれだけで盗賊を萎縮させる。

 

呂晶も盗賊時『この隊商を落とすのは無理だ』と諦めていたが、

商人達はその『諦めさせる』という『安全』を買っているのだ。

 

 

その代り、護衛の命は積荷より軽い――――

 

盗賊が現れたら体を張って守らねばならないし、

負傷の度合いによっては生きたまま砂漠に打ち捨てられる。

『介錯』を頼む程度の権利はあるが。

 

砂漠での『物資』とは、『人の命』より重いからだ。

 

 

 

 

「お前、今盗ろうとしただろ」

 

 

「し、してねーよ……! スリなんてダセー事はしない、ちょっと見ようとしただけだ」

 

 

 

 

呂晶の声は不自然に上ずっている。

 

 

 

 

「俺達は見張りをするのも仕事だ、お前が盗んでどうするんだよ」

 

 

「だから、してないって……そんな奴がいたら、アタシが真っ二つにしてやるんだからっ!」

 

 

 

 

ツンデレのような事を言いながら周りを見渡す。

 

 

 

 

(コイツら、毎回こんなお宝運んで、よく魔が差さないな。関心するよ……それとも価値も判らず運んでるのか、もしくはそれ以上の報酬を頂いてるのか……)

 

 

 

 

さっき、一番遠くから来たという『大秦(ローマ)』の積荷を覗いた――――

ローマはアタシが最も興味を持つ国だ。

だがラテンやギリシャで書かれた書物と、絵画だけだった。

 

内容は神を祀る物――――一番つまらない物だ

 

前に、敦煌の近くにある『石窟』っていう場所に乗り込んだ時も、

隅々まで深したのに結局こういう物しか見つからなかった。

 

『旅費の足しにでもなれば』と、出来の良い物だけ盗み出し、

ここの役人に売り払った。

 

後で聞いたらその役人『仏教』を信じてる奴らしくて、

盗品だとは気付かず『これは石窟に納めるべきだ』とか抜かして、

ご丁寧にも元の場所へ納め直したらしい。

 

神に携わる人間てのはどうしてこう馬鹿なんだろう。

盗んで売ってを繰り返し、永久機関でも出来上がるかと考えた程だ。

 

 

こっちの方の神は海を蒸発させたり、山を吹っ飛ばしたり、

死ぬほど手があったりする、もはや妖怪だ。

 

一方、ローマで信仰される神は随分人間味がある――――と言うかほぼ人間だ。

一応、海を割ったり自己蘇生できる『設定』らしい。

神話など所詮、愚民を扇動するための作り話(フィクション)なのだから、

盛りに盛った方が騙しやすいと思うが。

 

逆にローマの民は愚民では無いからこそ、

あまり人間離れした神は信じてもらえないのかもしれない。

 

 

アタシはいつかローマの女と、

『兄弟の契りを交わす』という目標を持っている――――

 

故郷でアタシと同じ武器を使っていた『髭オヤジ』が、

同じく『髭の王』とそういう事をしていたからだ。

 

だったらアタシは『異国の女』とだ。

皆が憧れる西方のもっともっと西、大陸の反対側の奴と契りを交わすんだ。

 

人間は強い子を作る為『自分と違う強さを持つ相手』を求めるらしい。

子を作るつもりの無い私だが、異国の姉妹なら何かを託すに申し分ない。

地元の奴とつるんでもつまらないし、古き王と同じでは癪に障る。

 

私は今にこの河西回廊の王、『シルク王』となるのだから――――

 

 

 

 

「呂晶、どうした? 一人で頷いたりして……」

 

 

 

 

コイツはキモイから無視しよう――――

 

だが、まあ、大事なのはそこじゃない。

遥か西方のローマ帝国から運ばれた、おそらく公的な学術資料。

こんな物の運搬すら任されるほど、この隊商は信頼されてるという事だ。

 

領土を拡大する『軍隊』、内政を司る『官吏』、民衆を扇動する『宗教』

それらと違う新たな勢力となりつつある、物流を統べる『行商人』

 

この隊商はその中でも、おそらく最先端を切り拓いている。

ここまで勢力を拡大した理由は『象』と『護衛の数』だけでは説明が付かない。

他にも何か理由があるハズだ。

 

 

 

 

(そうなると……おそらく大臣の娘である、あの二人……?)

 

 

『ファー殿……――――どうぞッ!!』

 

 

 

 

呂晶が戦象の方を向くと、そこから気合の入った声が響く。

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