※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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白霊討伐戦②

 

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「ハロォオオオオーーーッ!色目人(ガイジン)サァーーーンッ!」

 

 

Valcs(バルクス):「昨日の女!」

 

 

 

 

無骨で獣じみた顔の戦士、バルクスが叫ぶ中、

呂晶はローマチームが組んだ陣、その中心の地面を突き、

拳の先から水蒸気を爆発させる。

 

 

 

 

「アレは、俺の……!!」

 

 

 

 

呂晶が放ったのは、イエンが得意とする氷系気功『狂夜訣』

威力は彼の半分にも満たない。

 

だが拳のすぐ前、神父・マニュエルの片足が踝(くるぶし)ほどまで凍りつき、

地面に接着される。

 

それを確認した呂晶は気味の悪い笑みを浮かべ、心なしの自己紹介を行う。

 

 

 

 

「マイネーム、イズ……――――マッドネス」

 

 

 

 

呂晶を追っていた大量の子供達がそのまま、ローマチームめがけて突っ込む。

指揮官のヴァリキエが歩み出ながら、チームに指示を下す。

 

 

 

 

「……全員、後退」

 

 

Manuel(マニュエル):「oh、ウゴケマセーン!!」

 

 

 

 

整えた髭をこさえた、二つ分けのマッシュルームカット。

知的な印象のマニュエルが片言で叫ぶ。

 

 

 

 

「ちっ――――各自、ヘレンと身を守れ。神父は私が守る」

 

 

「ヴァリキエ様…………!!」

 

 

 

 

ヘレンが手を伸ばしかけた瞬間、“ドギャッ” という鈍くて嫌な衝撃音と共に、

数百キロはあろう子供が二匹、宙を舞う。

 

ヴァリキエが細い身体に似つかわぬ腕力で盾を振るい、

かち上げたのだ。

 

その後は乱戦になる――――乱戦を、狙っていた。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

Rusila(ルシラ):「きゃあああっ!!」

 

 

 

 

化物に囲まれた中心から、女性の声が響く。

ポニーテールで淑やかな印象、ハープを携える “吟遊未亡詩人” ルシラの叫び声。

 

戦場に音楽家を連れる理由は判らないが、とにかく放ってはおけない。

 

 

 

 

「何やってんだアイツ……――――助けに行くぞ!!」

 

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 

ウェイ組も助力に入り、あらかた倒し終えた後、

ヴァリキエは呂晶を睨み付ける。

 

 

 

 

「すいません神父さん……ウチの馬鹿が迷惑かけちゃって……ケガ無いっスか?」

 

 

「oh......ダイジョブデース」

 

 

「は……離せっ! 女猿!!」

 

 

 

 

ヘレンのハスキーな声が響くと、

ヴァリキエ以外の全員も ”それ” に気付く。

 

 

 

 

「お前、こんな時に何をしているッ!!」

 

 

 

 

只でさえイラついているイエンが、放蕩娘に耐えきれず叫ぶ。

 

 

 

 

「確か―――― “マッドネス” と言ったな」

 

 

 

 

ヴァリキエがギリシャ語で話し掛ける。

呂晶が話せるのを知っているからだ。

 

 

 

 

「は? 言ってねーし」

 

 

 

 

呂晶もギリシャ語で返す。

 

 

 

 

「名前はいい……私が知りたいのは “それ” の意図だ」

 

 

 

 

乱戦を鎮めた先、ヘレンの後ろ手を締め上げ

彼女の首に片刃で大型の矛・大刀(だいとう)をあてがう呂晶。

 

その切っ先は人間相手には不必要なほど大きく、持つことも難しいであろう重量感で、

呂晶がバランスでも崩せば簡単にヘレンの首を飛ばしそうだ。

 

 

 

 

「起点になるのは、その “神父” だろ。チームで動けば無敵とでも思ってんだろうが、その気になればいつでも崩せるって教えておきたかったの」

 

 

「……なんの脅しだ」

 

 

「脅しじゃあ無い、お前らが自慢気に披露している戦法は、アタシらの “善意” で成り立ってる」

 

 

 

 

ローマチームの一人一人を見回し、最後に捕らえたヘレンに言い放つ。

 

呂晶が話すギリシャ語は治安が悪い地域で使われる、

スラングが混じったイオニア訛り。

同じ言語でもローマチームが使う、上品なコイネーやラテン語訛りのそれとは違う。

 

だがこの場では、彼女が中華で “どういった立場の人間” なのか伝えるのに、

この上なく効果的だ。

 

 

 

 

「 “盗人(ぬすっと)” ……猛々しい……ッ!!」

 

 

「美味しいとこだけ持ってこうとしてんのはどっちだ。こっちに危ない役だけやらせて気に入らないんだよ――――」

 

 

 

 

後ろからヘレンを覗き込み、耳に唇が触れる距離で、

やはり脅すように言う。

 

 

 

 

「お前らも少しは前に出ろ」

 

 

 

 

ヘレンは嫌悪の表情を浮かべ、顔をそむける。

 

矢面(やおもて)には立たないが、隙あらば討伐を狙える位置。

そんな有利な場所をキープし、それを他隊の前身具合に合わせ、

相対的に調節しているように見えた(・・・)ことが、呂晶は気に入らないと言っているのだ。

 

ほとんど言い掛かりで|MPK$モンスター・プレイヤー・キル$を仕掛けた。

 

 

 

 

「そんなつもりはない――――が、そう見えても仕方無いだろう」

 

 

「そう見えるって事は、そういう事だ」

 

 

 

 

言いながらヘレンを離す。

 

どうこうするつもりは無いだろう事は周りも察していたが、

掴まれていたヘレンは収まる訳がない。

 

憤怒の表情で杖を構え、威嚇する。

 

 

 

 

「ウチらのシマで勝手されると困るんだよ。少しは意思疎通も必要だと思うが? 知らずに迷惑掛けちまう事があるそうだしな?」

 

 

(勝手も何も、元々競争だがな――――……)

 

 

 

 

ウェイは理解している為、彼らには悪いが呂晶に指摘はしない。

 

余所者で、慣れない土地に少なからず疎外感を感じているだろう彼らに、

イニチアシブを取るための発言だ。

 

確かに、もし何処かの班が決死の特攻でもして、活路が生まれたとしても、

そのチャンスを制すのは常に良い位置にいる彼らだ。

 

と言うより、そういったチャンスを強(したた)かに狙っていたハズ。

ならばそこに、少なからず負い目も持っているハズ。

 

 

 

 

『北西組が来たぞォーーーッ!!』

 

 

 

 

最後の援軍が到着する声が響き、ヴァリキエが指示を出す。

 

 

 

 

「一旦離れるぞ」

 

 

「殺されかけたお礼にお茶会でもいかがかしら? ――――冗談はおよしになってッ!!」

 

 

 

 

ヘレンはワザとらしいジェスチャーで反対する。

 

 

 

 

「先に吹っ掛けたのはお前だ(・・・・・・・・・・・・)。調子に乗るとこういう目にも合う、皮肉は可愛くないぞ」

 

 

 

 

ヴァリキエはヘレンの頭にポンと手を乗せる。

『先に』というのは、昨日の一件を指している。

 

ヘレンは内心ショックを受けた後、恨みの籠もった様子で呂晶を睨み付けた。

 

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 

二チームは離れた岩陰に身を潜め、

花雪が見張りを担当する中、情報共有を行っている。

 

 

 

 

「で? アタシら後から来たから判らない事だらけだ」

 

 

 

 

呂晶が切り出す。

ヴァリキエは男のような動作で水をあおり、一息付いてから口を開く。

 

 

 

 

「我々、南東組が降りた時、奴は一人だった。最初に二十人ほどが斬り掛かり、飛び散った肉片から大量の子供達が生まれた。同時に ”閃光” が放たれ、二十人は石になった」

 

 

「――――あの白い光か」

 

 

「おそらく奴が持つ、最も強力な “奥の手” だろう。初弾で使うあたり性格は大雑把だ」

 

 

「性格だと? 手の内を隠す知恵が無いんだろ」

 

 

「そうとも言えん。実際、最も効果的なタイミングではあった」

 

 

「その後は?」

 

 

「救助のため第二波が続いた。子に阻まれ苦戦し、二度目の ”閃光” で更に犠牲者が出た。それで大方の射程は判ったが、以来、それ以上近付けないため決め手が無い」

 

 

 

 

ヴァリキエは素早くもハッキリした口調で伝える。

軍隊経験者の喋り方だ。

 

 

 

 

「よって我々はヘレンの大規模魔法で仕留める算段を立てたが、魔力を集中すると奴と奴の子供が反応し、標的にされる。そのため可能な準備だけ進め、安全な隙が出来次第、発動するつもりでいる」

 

 

 

 

そこまで聞き、呂晶が口を挟む。

 

 

 

 

「私達を囮にしてか。コイツに反応するならコイツを囮にすれば良いんじゃないか?」

 

 

「――――ッ!」

 

 

 

 

嫌悪な表情で呂晶とヘレンが睨み合う。

この場で昨日の続きを始めてもおかしくない雰囲気だ。

 

 

 

 

「――――なんて言ったんだ?」

 

 

 

 

ギリシャ語に乏しいイエンが、ユエに通訳を求める。

 

 

 

 

「 “あの子を囮にしろ” って」

 

 

「おまっ……こんな女の子に、よくそんな事が言えるな!!」

 

 

 

 

ヴァリキエが返答する。

 

 

 

 

「彼女はこの戦場で最大の攻撃力を持つ、我々の切り札だ――――最優先で守る」

 

 

 

 

それを聞いたヘレンは、拗ねたような顔で目を逸らす。

“今更そんなこと言っても遅いのよ” という乙女心だろうか。

 

 

 

 

「栄光の勝利に犠牲はつきものだ、全滅するよりマシだろう……もっとも、隙を作る前に我々以外(・・・・)が全滅しそうな有様だが」

 

 

 

 

ヴァリキエは氷のような視線を向ける。

まるで “我々以外が全滅” しても、一向に構わないと言わんばかりに。

 

 

 

 

「呂晶――――」

 

 

「分かってる」

 

 

 

 

ウェイと呂晶が横目でアイコンタクトを取る。

『アイツは全て判っている、体よく利用はできないぞ』という確認だ。

 

 

 

 

(中華の連中(アタシたち)は功を競い、班を越えた連携が取れない……一班で討伐する力を持つのはコイツらだけだ)

 

 

 

 

今回の討伐戦は、白霊の首級を挙げた一班に多大な報奨が贈られる。

 

その報奨とは大きめの『宝くじ』に当たったような額だ。

だが『宝くじに当たった成金』とは、自分でのし上がった貴族などとは違い、

得てして身を滅ぼすものだ。

 

そうならいよう、ふんぞり返っているだけで大金が舞い込む武官職に、

貸し出すだけで賃貸料が入ってくるような領地までサービスされる。

これらは全て国民から徴収された税金で支払われる。

 

つまり、この討伐戦は白霊との戦いであると同時に、

他隊との討伐戦(レース)でもあるのだ。

 

ローマチームと共同戦線を張るなら、彼らへのメリットを提示しなければならない。

金より大事な “自分達の命” が危機に晒されている状態では、

首級を渡す程度しかそのメリットが思い付かない。

 

 

 

 

「――――おいっ! アイツ、怪我したとこ引きちぎってバラ撒きおったぞ! ……あっ、なんか動いとるっ!!」

 

 

 

 

見張り役の花雪が顔を出し、状況を伝える。

 

 

 

 

「子供の発生条件は?」

 

 

「二種類ある。下半身から産み出す、今のように飛び散った肉片が成長する」

 

 

「マニュアルとオートか……」

 

 

「前者は攻撃されない限り前に出ず、減ると補充される。後者は焼いたり凍らせた場合は産まれ難いが、そもそも精霊の効きが悪い」

 

 

 

 

精霊とは、彼等で言うところの気孔全般を差すのだろう。

 

 

 

 

「子は親を守っているのか?」

 

 

「今、親を取り囲んでいる女型がそれだ、さしずめ親衛隊だよ。知能もあるようで強さも他の比ではない。肉片は無秩序に行動し、何処かへ行ってしまった物もいる」

 

 

「強さは悪趣味さに比例するってか」

 

 

 

 

鱗や肉片、オートで産まれた個体ほど人外、岩石生命体のような造形をしている。

実際に成長する際、無機物すら取り込んでいるのだろう。

 

親衛隊は女性の面影が強く、ちょうど ”不気味の境界” にあたる造形。

どちらも下半身以外は蛇の面影すら無い。

 

 

 

 

「子は無限に沸くと思うか?」

 

 

「産む際に少なからず体力を消耗している。が、それでも無限と大差ない」

 

 

 

 

“消耗戦ではこちらが先に全滅する” という話だろう。

 

 

 

 

「スネ噛りは、一気に潰さないとダメか……」

 

 

 

 

二人の言葉は同じ言語でも微妙に違う。

それでも構わず進めるため、端から聞いている者には理解し難い。

 

疲れもある為だんだんと、

“終わったら教えてくれ” という気分になってくる。

 

 

 

 

「石化の射程距離は?」

 

 

「白霊を中心に、半径は大体あの死体までだ。高さは知らん」

 

 

「クソッタレ、アタシらの射程の倍だ」

 

 

「コチラも似たようなものだよ」

 

 

 

 

ヴァリキエが指差した死体は、白霊から五十メートル程の位置。

 

的が巨大で感覚が狂うが気功の有効射程を越えている。

威力減衰は免れず、そもそも気功の効きは悪い。

 

 

 

 

「石化を解く方法は?」

 

 

「無い。死ぬと少しづつ戻る、死因はおそらく窒息だろう」

 

 

「で、あの死体の山か……」

 

 

 

 

呂晶は砂の地面に、矛の柄で布陣の様子を描いていく。

足元の子は△で「衛」、肉片は○で「肉」の一文字が付け加えられる。

 

描きながら炎孔で黒く焦げつかせ見易くしている。

この女は大雑把に見えて意外と手先が器用だ。

 

 

 

 

「フッ――――つまり、ここは俺の出番だな」

 

 

 

 

布陣を見下ろしたイエンが、冗談か本気か判らない事を言う。

どちらにしろ構っている余裕は無い。

 

 

 

 

「奴があそこから動けんのは幸運だが、不自由しいてる様子も無い。千年生きた化物だ、私達とは戦の概念が違うのだろう」

 

 

 

 

押し黙る呂晶。

沈黙により空気がだんだんと重たい物になっていく。

 

元々競争相手であるため、軽い会話も出来ない。

辛うじて意思疎通しているのはヴァリキエと呂晶だけだが、

一方が黙ってはそれも続かない。

 

“何でも良いから早く喋って欲しいもんだ” と、ウェイは思う。

 

 

 

 

「――――私達が一斉に攻撃を仕掛け、懐に入る」

 

 

 

 

呂晶がハッキリした声で切り出す。

 

 

 

 

「お前さあ……」

 

 

 

 

やっぱり喋って欲しくなかった。

 

子供達の印を上書きするように、半円状の位置から何本も中心へ線を引く。

多い、隊の人数を越えた。

 

私達(・)とはローマチームを除く中華種族全員を指しているのだろう。

責任を取れない事を考えている、ウェイは軽く目眩を覚えた。

 

 

 

 

「囮の件はそれで済む、お前達は魔法でも何でもやればいい」

 

 

「玉砕覚悟か?」

 

 

「そうじゃない、もちろん倒す気で行く。ただし私達(・)にも可能な限り、お前達がお前達同士でしている事をしてもらう。こっちは全滅必至だが、お前達を道連れにする戦力は残ってる」

 

 

「脅す必要はない。判った、シーナにもバフを掛けよう」

 

 

 

 

“バフ” とは、彼らにとって容易く与えてはいけない神聖な物なのだろう。

ヘレンが耐えきれずに立ち上がる。

 

 

 

 

「もう聞いていられませんッ!! あんな蛇女などワタクシ一人で十分ですわ! “我らが最強なる御使いよ”!!」

 

 

「待てッ! まだ落とすな!!」

 

 

 

 

ヴァリキエが声を荒げる。

 

ヘレンが魔法を発動すると同時、目を瞑り無防備になった彼女の顔めがけ(・・・・・・・)、

呂昌が気孔の爆発力で加速させた “渾身の槍投げ” を放つ。

 

 

 

 

「――――危ないっ!!」

 

 

 

 

爆発音で攻撃された事に気付き、ヘレンが目を見開く。

 

 

 

 

「――――っ!!」

 

 

 

 

ヘレンが仕掛けた天空からの物体落下攻撃、炎の小道・そこに在る(フレイムレーン・メテオロッス)は、

空洞に穴を開け侵入し、白霊の光背装飾を何本か折り、

何もない地面に深い穴を開けた。

 

脳天に直撃すれば戦いを終結させたであろう『切り札』は、

投げ付けられた大刀のせいか、何らかの準備が足りなかったのか。

どちらにしろ本来の成果を挙げる事は無かった。

 

 

高い天井に空いた穴から、陽の光がわずかに差し込む。

白霊は天井の穴を少し眺めた後、それを開けた本人へ視線を移す。

 

 

 

 

「シィイナアアアアァーーッ!!!!」

 

 

 

 

ラテン語で中華種族を指す言葉を叫びながら、

バルクスが毛深い腕で双剣を抜き、呂晶に襲い掛かる。

 

 

 

 

「……待て」

 

 

 

 

ヴァリキエが干し肉を放ると、

バルクスは素早い方向転換でそれに飛び付いた。

 

 

 

 

「戦闘の許可をッ! このシーナを黙らせる!! ……あとこれは何だッ!? 馬鹿にしているのかッ!!」

 

 

 

 

ヘレンは言葉を失い、固まっている。

ツインテールの片方が首の辺りで断絶され、断たれた白金の髪が宙を舞い落ちていた。

 

 

 

 

(お……オシッコちびりましたわ……)

 

 

 

 

使用済みの大気の乙女(イルマタル)と、左眼の光が薄らいでいく背後から、

白霊の子供が一匹、ヘレンに伸し掛る。

 

 

 

 

「……――――ひっ!!」

 

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