※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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蘭州の蚩尤

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

この商隊の人員は、どこかしら頭がまともでない連中だ――――

世界一危険な道『河西回廊』を誰もが羨む宝箱を引っさげ闊歩する。

 

おまけに『定期便』なる体制を敷き、わざわざ通る日時と場所を予告している。

年頃の娘が、毎日決まった時刻に裸でスラムを往来するようなものだ。

 

この商隊には中華に一握りしか存在しない、

『気功家』と呼ばれる超能力者が集まっている。

 

古代から『暗殺』を生業としてきた彼らは、世界からその存在を信じられていない。

それは彼らにとっても都合が良い事、

気功家が増えすぎてしまえば自分達の希少価値も薄くなるのだから。

 

気功家は軍隊のような画一化された強さを持たず、

修練や才能によりその強さを大きく変える。

その中でも更に強者、エリート中のエリートの強さはまさに、一騎当千。

 

彼等は太古から同門対決を禁じ、群れる事を嫌い、お互いの接触を削って生きてきた。

だが歴史は『中世』という転換期を迎え、世界は商業を中心に回り、

取り分け『行商』という業界が注目された頃から、気功家の体勢にも変化が生じる。

 

一攫千金の仕事に彼らは吸い寄せられるように集まった。

弁護士を目指す者は司法試験を受けるように、医者を目指す者は医大に通うように、

『行商』とは気功家の就職先No1だ。

 

誇り高き気功家が金などに執着する様を嘆く派閥もあるが、

彼らも世界の一部である以上、時代の流れには逆らえなかったようだ。

 

『行商人』に気功家が集まれば、それらを襲う『盗賊』にも気功家は集まっていく。

今や同門対決など当たり前、希少な気功家が消耗品のように死ぬ世界となった。

気功家が行商を縄張りにするにつれ一般人は反比例するように、

行商それ自体に手を出さなくなった。

 

世界と関わりを持つようで、世界と断絶された世界。

誰も見たことの無い遠い地へ旅をする、それを生業とする彼等、

そこで彼等が体験する出来事、それは彼等にしか判らないことだ。

 

そして百名を越える、過去最大規模の気功家が集まるこの商隊は、

その数倍の人員で構成された軍隊よりも遥かに強い。

 

だが、千年先の科学すら越える夢のような力を持ちながら、

その力をちっぽけな物に使っている事を、彼等は知る由もない。

 

 

この商隊の人員は、どこかしら頭がまともでない連中だ。

 

何故なら『気功家』とは、

頭がまともでない連中なのだから――――

 

 

 

 

 

 

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行商四日目――――盗賊から護衛に転向した二十歳の女、呂晶(ルージン)はイライラしている。

 

 

 

 

「遅っせーなぁ……」

 

 

 

 

商隊の進みが遅い、ラクダや水牛に歩幅を合わせているからだ。

一、二日目は知らない事が多く、人前でイカされたりと新鮮な体験が多かった。

だが、四日目ともなるとそうもいかない。

 

 

 

 

「暑っちぃァー……」

 

 

 

 

南に聳(そび)える祁連(チーリェン)山脈、延々と続く乾燥した大地、

たまに人や動物の骨が埋まっている以外、何もない荒野。

 

その荒野をひたすら『南東』に向かって進む。

 

 

 

 

 

 

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湿度が低い代わりに砂漠の直射日光がキツイ。

地面からの照り返しに挟まれ、ジリジリと焼かれている気分だ。

そして――――

 

 

 

 

「右翼中列――――ッ!! ふくらんでおるぞォッ!! しっかり妾の後につけェい!!」

 

 

「アイアイヤー……(アイアイサー)」

 

 

 

 

この指示だ。

 

 

 

 

(めんどくっせ、こんな所で盗賊なんかこねぇよ……ポイントがあんだよ、ポイントが)

 

 

 

 

呂晶は面倒そうに位置を修正するが、

花雪の位置から見ると呂晶のいる右翼中列が膨らんでいる。

 

後続がそれに釣られてしまえば、商隊は益々バラけて守り辛くなり、

砂煙で視界も悪くなり良いことはない。

 

膨らんだ部分を『数十人の盗賊』に襲われたら、

喰われた部分がゴッソリもっていかれるだろう。

 

『右翼』と言ってもその翼を羽ばたかせてはならないのだ。

『安全神話』を誇る花雪象印商隊に失敗は許されないのだから。

 

 

 

 

(数十人規模の盗賊(・・・・・・・・)が、今もいたらの話だけどな……)

 

 

「呂晶、気分はどうだ?」

 

 

 

 

顔色の悪い呂晶を心配し、彼女が所属する結盟『真夜中の旅団』頭領、

アラサーで女心の判る魏・圏(ウェイ・クァン)が声をかける。

 

 

 

 

「干からびて股も濡れねーよ……アソコに氷柱(つらら)をブッ刺してくれ」

 

 

「俺には言えない冗談だな」

 

 

「これはね、女ってのは感じると股が濡れちゃう生き物(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)なんだけど、汗に水分取られちまったから、今、氷柱を刺したら色々キモチイイだろうな(・・・・・・・・・・・)――――っていうジョークなの」

 

 

 

 

卑猥なことを連想する言葉を、

卑猥なことを連想するように強調する。

 

 

 

 

「それは判ってる、俺は童貞じゃねぇ!」

 

 

「魔法使いはいねーのかァー……アタシのアソコを濡らした奴には、童貞を卒業するチャンスをやるぞォー……」

 

 

「濡れんで良い、そのまま干からびてろ」

 

 

「違う」

 

 

「何が違うんだ?」

 

 

「女ってのは、馬に乗ってれば勝手に濡れるもんだ。バレないようにこっそりオナってる奴もいる、恥ずかしいから誰も言わないだけだ」

 

 

「マッ……マジか? ご、ごくりんこ……」

 

 

 

 

ウェイは唾を飲み込み、周りの女性をチェックする。

すぐ隣に一人いるというのに。

 

 

 

 

「暑いのぅ――――……」

 

 

 

 

先頭を征く、この商隊の長で大臣の娘・花雪(ファーシュエ)。

敦煌よりはマシになってきたものの、まだまだ暑い。

 

戦象の背に揺られながら荒野を警戒しつつ、

小さめの剣で『ライチ』の皮に切れ目を入れている。

 

鞘と柄に金の装飾が施された、骨董品のような剣――――

 

 

 

 

「アイヤー……相変わらず不味いのぅ……」

 

 

 

 

本来の『ライチ』は、葡萄の渋みを取って爽やかさを加えたような透き通る甘さだが、

このライチは小ぶりで筋っぽい。

 

行商は時間が掛かるため『行商中も出来る商売があるのでは』と、

様々な植物を各地で栽培させている。このライチがその一つだ。

 

だがライチは本来、亜熱帯気候で栽培される作物で、

気候の違いなのか上手く育たない。

 

最初は『食べていれば解決策が思い付くかも』と思っていたが、

もはや在庫を腐らせない作業に成り果てている。

 

 

 

 

「日傘ではダメじゃァー……日除けでも取り付けるかのぅ……」

 

 

 

 

白磁器のように真っ白な肌の花雪、彼女は『日焼けをしない体質』だ。

日焼けしても黒くならず、次の日に赤くなってしまう。

メラニン色素が少ないからだ。

 

 

 

 

「妾も、日に焼けてみたいものじゃ……」

 

 

 

 

よく周りに、『肌の白さを保つために日焼けを避けている』と誤解される。

自分の肌は他人と比べてあまりに白い為、どちらかと言えば日焼けしたい。

 

でも他人は黒くなるのに、自分は赤くなる、

赤くなった肌は恥ずかしくて威厳を保てない、

だから肌に軟膏を塗ったり傘を差したり、面倒な『日焼け対策』をしなければならない。

 

 

 

 

「そろそろ、髪も染め直さんといかんしのぅ……」

 

 

 

 

花雪の本当の髪色は現在の栗毛色ではなく、艷やかな漆黒であった。

真っ白な肌に、真っ黒な髪。

まるで『幽霊』のような見た目が嫌だった為、薬を塗り込み髪を脱色したのだ。

 

しかし、美しい髪を痛める行為など大臣家で許されるハズも無い、

だから家出した際に方々手を尽くし、まず初めにしたのが『脱色』だった。

親や家臣達が褒めちぎるので、あえて穢してやったという訳だ。

 

現在、この商隊の半数近くの『ファン』を持つ花雪だが、

髪が黒いままであれば更に二割程、その勢力を伸ばしていたかもしれない。

それ程に美しく、ミステリアスで、クールな彼女に似合うコントラストだった。

 

 

 

 

「日除けを作るとなると、素材や重量を考えねばのぅ……視界も悪くなって――――あ、そうじゃった、確かそれでやめたんじゃった」

 

 

 

 

今までの経験から象の装備は最良にしてある。

飽くなき向上心は持ち歩いているが、『思考のループ』は効率が悪い、

メモしておかないとダメだ。

 

 

 

 

「ぺっ……!」

 

 

 

 

ライチの種を布に吐き出し、優雅な動作で放り捨てる。

たまに下の護衛に当たったりするが気にしない。

 

彼等にとってそれは、とてもとても貴重な物らしいから。

地面に植えるよりも、ずっとずっと。

今も下の護衛が、落ちた種を物欲しそうに眺めている。

 

 

 

 

(平民には妾の唾すらありがたいのじゃろう、気持ちの悪いコトじゃ……)

 

 

 

 

優雅な動作は体に染み付いてしまい、

種を捨てる時にも表れる自然な動きになっている。

 

でも、これは髪のように直そうとは思わない。

親から褒められた事がないからだ。

 

 

 

 

「やっと、見えてきおったか――――……」

 

 

 

 

遠くに深い森が見える。

そして蜃気楼ではない、本物の水が流れる『黄河』が見えてきた。

今まで荒野だったと言うのにこの違いは何なのだろうか。

 

 

 

 

「蘭州が見えたと伝えよォーーッ!」

 

 

『蘭州が見えたぞーーッ!!』

 

 

『蘭州が見えたぞー!』

 

 

『蘭州が見……』

 

 

 

 

 

花雪の指示がリレーのように伝達され、

長い隊列の後ろへ伝わっていく。

 

 

 

 

「やーっとかよぉー……もうケツが痛てぇーよぉー……」

 

 

「山場は越えたな、蘭州より先はもう楽なもんだ」

 

 

 

 

呂晶とウェイにも嬉しい知らせだ。

商隊が目指していたのは敦煌と長安の中間、旅の中継地点である『蘭州』という地だ。

 

南方にしつこく見えていた『祁連山脈』

その険しい山々を縫って流れていた黄河が、最初に出会う『平地』である。

 

ウェイの『山場を越えた』という発言は、

過酷な荒野を抜けたと同時に『祁連山脈の終わり』という意味も含んでいる。

 

 

 

 

 

 

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水を塞き止める祁連山脈が無くなる為、東へ流れていた黄河は蘭州で急転換し、

西夏から宋への道を阻むように、ほぼ直角の北へと流れを変える。

 

 

 

 

「ホント、つまんねー道中だったぜ、干からび損だ――――ガラララ、ぺッ!」

 

 

 

 

呂晶は砂を含んだ唾を吐き出す為か、ここまでの旅をけなす為か、

残った水を口に含み贅沢に吐き出す。

もう水は、貴重な物資ではないからだ。

 

 

 

 

「そうか? 景色も良かったじゃないか。祁連が平らになっていくのを見守り、砂漠にだんだんと草が生えていく――――自然の壮大さっつーのかな」

 

 

 

 

いきなりポエムのような事を言い出す。

自分達が移動した道のりを、自然が変化していく様子に例えている。

ウェイはこう見えて感受性が高いのだ。

 

 

 

 

「判ってない、人間が自然に感動したように(・・・・・)思うのは、“此処を縄張りに出来んじゃねーか” って期待と、絶対潜んでるだろう猛獣を警戒する本能が混ざり合ってんだ」

 

 

 

 

雄大なポエムを、偏屈な哲学でぶち壊す。

 

 

 

 

「お前、たまに本能とか難しい話するよな……どうでもいいじゃないか、感じようぜ、ナチュラルを」

 

 

 

 

ウェイはどこかで聞いた西方の言葉を使う。

 

 

 

 

「確か、蘭州で一泊するんだよな。何が美味いんだ、あの森ん中じゃ?」

 

 

 

 

呂晶はそれをスルーし、遠くに見える森林地帯を指差す。

 

 

 

 

「麺類だな、ソバとか」

 

 

「気功が出来た場所なら、変わった気孔の使い手とかいるんじゃないか? アタシは ”闇” とか、そういう気功が使ってみたいんだ」

 

 

「そんな系統はねぇ、自分で編み出せ」

 

 

 

 

 

 

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蘭州は気功家が一日一回だけ使える『巫舞』そして気功自体の発祥地と言われている。

『巫舞』とは気功家にとってのメジャー技術だ。

師父から伝授される者もいるし、訓練中や生死の境で自然と覚える者もいる。

 

効果は単純に力が『倍』になる。筋力も、気孔も、俊敏も。

激しく使えば消耗も速く平均的な持続時間は一分钟(かん)。

 

『火事場の馬鹿力』のようなものだが、誰かが使えば彼らにはすぐ判る。

巫舞を使うと、『赤黒い独特の気孔』が迸るからだ。

 

使った負荷は、自身へモロにフィードバックされる。

耐え難い疲労感が襲い、翌日は筋肉痛でまともに動けない。

そのため気功家にとっては『未来の自分から借金をする』感覚らしい。

 

使い所を誤れば、まさに『逆境』に陥る。

だが使い所を見極めれば、気功家にとって『最後の切り札』となる。

 

巫舞とはそれ自体の力では無く、『どの場面で使用するか』

その『先見眼』を問われる、気功家にとっての試金石だ。

 

もし、赤黒い気功を迸せる者がいたら、

その一分はその者にとって何にも変えられない時間。

命を燃やしている最中だ。

 

 

 

 

「それに、麺なんて何処でも喰えるだろ――――他にないのかよ、虎肉とか美味そうなのは」

 

 

「おま……っ! 麺料理ってのはな、“具が美味い” とか “スープが油っぽい” とか、そういうんじゃない、小麦の風味っていうのか――――此処の麺を喰わなきゃ “麺通” とは言えないんだぞ」

 

 

 

 

『気功』とはこの巫舞を『体に負荷が無いよう操る技術』として

確立されたと言われている。

 

生み出したのは蘭州でも特殊な、古来より暗殺を生業としてきた『羌(きょう)族』

特に女性だけで構成される『九黎(きゅうれい)』の末裔、

『蚩尤』という暗殺集団は気功を更に発展させ、死体を蘇らせる術さえ使うと言う。

 

昨今、巷を騒がせ、殭屍(キョンシー)と呼ばれる『目を瞑って戦う女型の剣士』こそ、

その蚩尤が作り出した兵器ではないかと噂されている。

 

 

 

 

「おい麺王、小麦ってのはな、“寒いトコが美味い” と相場が決まってんだよ。ここのは美味いんじゃない、単に一杯取れるだけだ。麺料理てのは、いかに味のない麺を美味く食うかに懸かってんだよ」

 

 

「あー、判ってねぇ、判ってねぇ! この小娘ときたら……牛肉を煮込んだスープと、小麦のハーモニーはたまらんと言うのに……」

 

 

「牛肉って、具は関係ないんじゃなかったのかよ……」

 

 

 

 

蚩尤は強く、その血を遠くでも引く者は気功を発現し易い。

もしくは『気功を発現出来る者』とは、この地の末裔だけなのかもしれない。

 

ここ『蘭州』はそういった暗殺民族など、キナ臭い者達が住む信用ならない土地。

表面上は行商人にも寛容だが、怒らせると何をするか判らない不気味さを纏っている。

 

 

 

 

「ところで、それ――――辛い?」

 

 

「おう、辛いのもあるぞ」

 

 

「よし、今日の晩飯はそれだ」

 

 

「お前は色々ウルサイ割に、結局は何でも辛くしちまうからな」

 

 

「違う、辛けりゃ良いってもんじゃない――――あ、そうだ。着いたら先生と打ち合わせしとかないと」

 

 

 

 

気功家以外の名産と言えば、『化物のように大きい虎』が生息している。

 

蘭州の虎退治は気功家の『登竜門』と言われており、

どれだけ大きい虎を倒せたかが一種の勲章になる。

近隣の町には気功家が倒した巨大虎の毛皮が記念のごとく飾られている。

 

他には、黄河が貫く肥沃な土地柄を活かし『麦』が名産である。

麺類はどれもコシがあって美味い。

中華麺――――即ち『ラーメン発祥の地』とも言われている。

 

 

 

 

 

 

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町はそこそこ発展しているが、旅の中継地点『宿屋街』という面持ちが強く、

長安に比べれば遥かに田舎だ。

 

あとは森ばかり。

蘭州とは、そんな土地である。

 

 

 

 

『遊珊(ユーシャン)嬢ォーーッ!!」

 

 

 

 

その蘭州の宿屋街に、男の叫び声が響き渡る。

離れた所で沢山の気功家がその様子を見物している。

 

 

 

 

『蘭州一の宿を取りましたアアアアァッ!! どうか今宵は! この俺と付き合って下さいィイイイッ!!』

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