シルクロードオンライン¬(differentiam) 作:hachu
『蘭州一の宿を取りましたアアアアァッ!! どうか今宵は! この俺と付き合って下さいィイイイッ!!』
身なりを整えた男が花束と絹を差し出し、女性に告白している。
『絹』は女性にとって宝石に匹敵する価値を持つ、ようはプレゼントだ。
「ありがとう、嬉しいわ……――――」
花雪象印商隊は黄河を『船』で渡る。
船への積み込み作業を行うべく毎回この蘭州で一泊するのだ。
その時間を利用してナンパや告白、逢引など、
『男女の恋模様』が盛んになる場所でもある。
行商は明日をも知れない危険な業務、意中の相手を前に迷っている暇などない。
生死を賭けた社内旅行とも言える、商隊独特の文化である。
「でも、ごめんなさい――――私、今夜は結盟の女の子と泊まるの……ホントにごめんなさいね」
男は崩れ落ち、この世の終わりのような声を上げる。
『ああ……もうだめだぁぁぁ……おしまいだぁぁぁー……ッ!!』
こういった『告白の噂』は、その日の内に商隊全てに駆け巡る。
この男は今夜、蘭州一の宿に一人寂しく泊まり、
明日からは『盛大に振られた奴』として肩身の狭い思いをするだろう。
『ほーら、やっぱりだ、アイツに落とせる訳が無いんだよ』
その様子を見ていた護衛達が、金銭のやり取りをしている。
『ちきしょう……でも、失敗して逆に良かったわ』
『ああ、男もいない事が判った。負けても損はしてねぇ』
『おい、何で “男がいない” と言い切れる?』
『遊珊嬢は、“女の部屋に泊まる” と言った。男がいたらあんな美人を行商に行かせるか? つまり、導き出される答えは――――……』
『おお……確かにそうだ!よし、次回は俺が……っ!』
告白が成功するかの『賭け』も大いに繁盛する。
娯楽が無い為、自分達で作り出さねばならないからだ。
『あの男が遊珊を落とせるか?』のレートは、意外にも『成功する』が優勢。
何故なら『成功する』に賭けておけば、
告白が成功した場合、悔しいが金は得られる。
告白が失敗した場合、金は失うが美女が誰かの物になる喪失感は避けられる。
つまり、『成功する』に賭けた方が得なのだ。
ただし勿論、この賭けには『裏で糸を引く者』が存在する。
「おら――――アタシの取り分よこせ」
呂晶は賭けの胴元に肘打ちする。
『おう、銀二両だったな、取り分は六だ――――しかしお前、何で判った? 普通は銀なんて賭けないぞ』
「……お金」
無愛想な顔で、賭けの報酬を受け取りながら更に手の平を広げる。
『情報が欲しければ金をよこせ』という事だ。
『まだ取る気か! せっこいなぁ――――で、どんな魔法を使った?』
「別に、“美人な子を誰かに取られて、おまけに金も取られたら男はどんな気持ちだろう” て、話してただけ、聞こえるように」
『そういう事か……なーんか偏ってると思ったぜ……』
「じゃね」
軽く手を振り、呂晶はその場を後にする。
(へっ……今夜、その “先生と泊まる女” ってのはアタシだ、馬鹿共――――)
呂晶は出発前、あの男が告白する事を聞いていた。
『事前にそれを遊珊に伝える』というノーマナー行為を行い、
その上で遊珊の分の賭け金も預り、二人分を賭けている。
あとは周りを誘導するだけ誘導し、二人で儲ける。
ただの出来レース、告白する者の気持ちを踏みにじる非道いイカサマだ。
(しかし、先生とお泊りか……楽しみだぜっ! いやっほうっ!)
呂晶は小さくガッツポーズする。
(この期にいっそ、『バイ』だとカミングアウトしちまおうか――――?)
あの落ち着いた先生がアタシの性癖を知って、
しかも、自分がずっと『そんな目』で見られていたと判ったら、
一体どんな顔するのかオラ、ワクワクしてきたぞ。
(いや、早まるな――――まだ慌てる時期じゃない)
良い線イッてる自信はある、だが失敗すればアイツのように人生が終わる。
思い出せ、初恋の女に告った日を、
思い出せ、周りにバラされてハブにされた日を、
そして思い出せ、初めて力任せに犯した、あの日の快感を。
(違う違う……これは、いま思い出したらいけない事だ――――)
そう、アタシは自分から告って、上手く行った試しが無いんだよ。
どうでも良い奴には惚れられるのに、惚れた相手とは上手くいかないタイプだ。
これはどうしようも無い、アタシはそういう運命なんだ。
あれだけの上玉を力任せに一発ヤッて、それで終わりってのは勿体無さすぎる。
先生が結盟辞めたりしたら、この楽しい日々も終わりだぞ?
ダメダメ、カミングアウトは却下――――圧倒的却下だ
旅ってのは人を浮ついた気持ちにさせるもんだ。
だからあの男だって、あんな身の程知らずな告白をする。
なァーにが『お付き合いして下さいィ~』だ、鏡で自分の顔見てから告りやがれ。
まず、あの見た目で終了だし、例え上手く行ってもアタシがお前を殺して終了だ。
お前は初めから『詰んで』いたんだよ。
(とは言え、馬のせいで大分ムラついてるし、先生と一晩一緒で耐えられるだろうか――――?)
アタシがムラつく訳だから、先生もムラついてる可能性が微レ存?
そして、我慢出来なくなった先生が、恥じらいながらもアタシに夜這いを……
なんて、まさかそんな、キャーッ!
……柄にも無く何考えてんだアタシは
アタシはそういうキャラじゃないだろう、
もっとこう、『頼り甲斐がある』のがアタシの魅力っつーか――――
(ヤッバ……こりゃ、一発オナっとかな、保たんッスわ……)
『メンヘラバイセクシャル』という属性を持つ呂晶は、
商人達が忙しく積み込みを行う中、自分を慰められそうな茂みを探す。
盗賊から護衛に転身したものの、
本人が言うように、上手く隊商生活に適応しているのかもしれない。