※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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蘭州の渡し場にて

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

「なんじゃと――――……また渡し代を高くしたと言うのかッ!!」

 

 

 

 

コチラは同じ蘭州の黄河、船を係留する河川港の『渡し場』

商隊長の花雪(ファーシュエ)が、渡し組合の頭領と商談を行っている。

 

 

 

 

『すまんな、象の重さで船床が軋んで、毎回それを直すのが大変なんだよ』

 

 

 

 

この河川港には大小様々な船が十数隻と、

海にも乗り出せそうな大きい船が二隻係留されている。

 

この二隻は象と行商隊を運ぶため、花雪と寒月が家の財力で拵えた――――

と言うより、親に強請(ねだ)って買ってもらった船である。

 

 

 

 

「ふざけるなッ!! それはお前達が、この船を他にも貸しているから(・・・・・・・・・・・・・・)じゃろう!」

 

 

 

 

巨大なタラップを持ち、接岸能力が高い他、

バラスト水を排出して喫水線を調節する機構、後部が展開して積み下ろす機能、

船壁には矢を一方的に撃ち込む為の狭間(さま)が付いている等、

様々なギミックが搭載されており攻城兵器だろうと運ぶ事が出来る。

 

その代わりメンテナンスも相応の手間が掛かる。

渡し船には勿体無いほどの性能であり、ちなみに一隻は予備だ。

 

 

 

 

『コイツを使う商隊はアンタら位さ、それに、貸し出すのも承知で提供したのはお前さんだろう』

 

 

「それは、妾の行商に支障が無い範囲じゃッ!! 」

 

 

 

 

船の係留には維持費が掛かる。

花雪商隊は『レンタル可』にする事でそれを相殺させているのだ。

 

 

 

 

「お前達が、コレを “軍” に貸しておる事を、妾が知らんとでも思っているのか……!」

 

 

 

 

肩を突くように指を差し、敵を見るような目付きで睨む。

 

この船は『軍船』としても利用可能な為、蘭州を領土とする宋軍が用いている。

敦煌を領土とする西夏に対し、侵攻準備を整える為に。

 

そして、時には西夏に貸し出すこともある(・・・・・・・・・・・・・・・)。

蘭州とは宋と西夏、どちらの味方でもあるのだ。

 

花雪はどちらの味方でも無い――――

両国の関係を悪化させ、行商をやり難くする、全てが敵だ。

 

 

 

 

『そう言われても、維持してるのは我々だ。交渉したいなら何日でも泊まっていけば良い、こちらは一向に構わない』

 

 

 

 

花雪商隊にとっての蘭州とは、商売相手であると同時に敵でもあるのだ。

 

 

 

 

「行商が長引けば、それだけ妾達の損害が増えると知っておろう……!」

 

 

『まあまあ、お前達も沢山稼いでいるんだろう――――?』

 

 

 

 

渡し場の頭領は顔を寄せ、声の大きさと低さを落とし、

囁くように口にする。

 

 

 

 

『我々が、それを知らんとでも思っているのか?』

 

 

「クソッ! 足元を見よって!」

 

 

 

 

花雪も声の大きさと低さを落とし、返答する。

 

 

 

 

「いいか……渡し業を行っておるのは、蘭州だけではないのだぞ……!」

 

 

 

 

一触即発――――そう思った瞬間、

渡し場の頭領は一歩引き、『怖い怖い』とでも言うように手を広げる。

 

 

 

 

『それなら……家畜の交換を西岸(ウチ)の行(ギルド)でやってくれ、そっちは余ってるから値引きが効く』

 

 

 

 

行商中は輸送動物の換装を頻繁に行う。

 

体力や怪我、病気などの具合の他、

平地は馬、砂漠は駱駝、湿地帯は水牛など得意とする道が異なり、

更には同じ馬でも地域によって質の違いまであるからだ。

 

そして同じ蘭州でも幾つかの派閥が凌ぎを削っている。

 

 

 

 

「農家と提携しておるとは初耳じゃな……」

 

 

『この間一本化したんだ。心配無い、この辺りは飼料が良いから家畜も皆、壮健だ』

 

 

「それは黄河が澄んでいた時の話じゃろう――――これ以上渡し代を上げたら、二度とここを使わんからな!!」

 

 

 

 

『黄河』は元々澄んだ綺麗な川だったが、

森林伐採の影響か土砂が流れ込み、今では文字通り『黄色い河』となっている。

 

 

 

 

『判った、判った……渡し代は高くなるが家畜は安くなる、アンタらの出費はほとんど変わらんし、ウチは家畜を買ってもらえる』

 

 

 

 

そう言いながら、渡し場の頭領は右手を広げる。

 

 

 

 

『これは懸命な取引だ』

 

 

「フン、それで商売が上手いつもりか――――」

 

 

 

 

花雪はその手を掴み、つまりは『握手』を交わした後、

髪をなびかせ後ろに振り返る。

 

そして、スラリと伸びる手足を振り優雅に去る。

 

 

 

 

『ふう……相変わらず、スゴイ剣幕だな』

 

 

 

 

肩に掛けた布で汗を拭いていると、部下が声を掛ける。

 

 

 

 

『頭領、花雪嬢は了承したんですか?』

 

 

『ああ、大した損は無いんだ。あれは社交辞令のようなもんだ』

 

 

『でも、羨ましいですよ。あの絶世の美女に、あんなに顔を近付けて怒鳴られるなんて』

 

 

『ふふふ……あんまり近くで叫ぶもんだから、顔に唾をかけられちまった』

 

 

 

 

頭領は自慢気に、自分の顔を指差す。

 

 

 

 

『うわ、頭領それ……逆に羨ましいッス』

 

 

『逆にじゃない、普通に(・・・)良いんだ。俺はあの子と話がしたくて、ついつい、いらん値を上げてしまうのかもしれん……』

 

 

『うわ、頭領それ……やっぱ普通にキモイっすわ……』

 

 

 

 

ここ蘭州は、表面上は行商人にも寛容だが、

キナ臭い者が多く住む、信用ならない土地である。

 

 

 

 

『なんと言うか、美人てだけじゃ無くオーラが違うんだよな……さすがは貴族だ』

 

 

『渡し場の頭領に、オーラとか判るんスかぁ~?』

 

 

『馬鹿野郎ッ! 俺はな、あの哲宗様にお目通りした事があんだぞ!!』

 

 

『うわ……それ、普通に嘘松っすわ……頭領引きますわ』

 

 

『うるせぇ若僧ッ!! 積み込み帳簿が上がってねぇぞ! 油売ってねぇで仕事しろ!』

 

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 

全ての指示と商談を終えた夕刻――――

 

花雪は黄河が一望出来る見晴らしの良い宿で休んでいる。

蘭州に来た時は必ずここに泊まり、縁側から雄大な黄河を一望する。

 

 

 

 

「花雪、積み込みは終わった――――渡し代の件は?」

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