※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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いっちょ、黄河に橋でも掛けようか

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

「花雪、積み込みは終わった――――渡し代の件は?」

 

 

 

 

同室の副長、寒月(ハンユエ)が遅れて到着し、

備え付けの冷茶を入れる。

 

 

 

 

「|十石$一石…76キログラム$につき一貫文上げるじゃと、替えの家畜も勧められたわ」

 

 

「もっと吹っ掛けられると思ってた、私達の稼ぎは知ってるハズ」

 

 

 

 

ユエも縁側に出て花雪に茶を渡す。

そして、やはり黄河を眺める。

 

 

 

 

「妾もじゃ……船大工に木材、ここでなければ維持費は馬鹿にならんと言うのにな――――」

 

 

 

 

花雪は礼も言わず、当然のように茶を受け取る。

 

 

 

 

「別段困ってもおらぬが、貸しを作れる故、家畜も幾らか――――おいユエ、冷たくないぞ」

 

 

 

 

礼を言わないどころか、ぬるい茶に文句を付ける。

 

渡し代の支出は微々たる物だが、

だからと言って天井知らずに上がっては後々困る。

 

ただし渡し代が上がれば、軍も黄河を渡り難くなる。

それは後々、自分達にそれ以上の益をもたらすかもしれない。

高い安いだけでは物事は測れない。

 

大臣の家系とは有り余る財を贅沢に使う訳ではなく、

節制する所は鬼のように節制しながら、必要な時は躊躇せず全賭けするような、

見ようによっては頭がまともでない家系だ。

 

 

 

 

「大体、元の渡し代が安過ぎる、騙しているようで気分が悪かった――――それ位なら、もう花雪にも出来る。鍛錬の一環」

 

 

 

 

そう言ってユエは、先生のように指を一本立てる。

 

 

 

 

「む……妾は、気孔が苦手じゃと知っておろう」

 

 

「こう」

 

 

 

 

ユエは茶を見せながら、氷系気孔を発現させる。

 

 

 

 

「この辺りと長安じゃ物の価値が違う……彼等は食料に困らない分、お金にも執着が薄いのかもしれない。森にはそういう民族が多い」

 

 

 

 

器を霜が包んでいくにつれ、白い冷気が立ち昇り、

ゆっくり凍る寸前まで茶が冷えていく。

 

一方、花雪は両手で器を持ち、

ユエと自分の物を見比べながら難しい顔で気孔を込める。

 

 

 

 

「治金屋の方はどうじゃった――――アイヤッ!?」

 

 

 

 

白い煙が立ち昇ったが、これは湯気である。

間違って炎孔を込めてしまったようだ。

 

 

 

 

「石炭を使った鋳造なら、洪水でも保つだろうって……こう」

 

 

 

 

器を持つ花雪の手を握り、花雪の手を通して氷孔を発現する。

相手の武器や体内を通過して気孔を発現させる『通し』と呼ばれる技術。

 

これを駆使すれば、鍔迫り行う相手の足を凍らせ地面に接着させたり、

様々な応用が効くようになる。

 

そして、相手を通して流す気孔は、

相手に『気孔の感覚』を教える上でとても有効な方法でもある。

気孔を教わる際には大抵、師父からこういった手ほどきを受ける。

 

 

 

 

「それは嬉しい知らせじゃ、して、金額は? ――――なるほど、こうするのか氷系は」

 

 

 

 

湯気が出る程熱かった茶がキンキンに冷えていく。

 

ユエは氷孔をメインには鍛えている訳ではないが、

それでも花雪より遥に高度な使い手である。

 

ただし、熱したり冷ましたりを繰り返すと、

茶の分子結合がわずかに変わり、つまりは味が変わる。

美味いか不味いかは飲んでみなければ判らない。

 

 

 

 

「炉を作るのに五千、一本三千、以降は半額」

 

 

「鉄骨六本、桁(げた)、両岸の工事も入れたら金三万か……うむ、やはりユエの冷やす茶が一番じゃ」

 

 

 

 

味の分子結合は容器や食器によっても変化する。

アイスを木のスプーンで食べると美味しく感じるのは、

プラシーボ効果もあるがそれだけではない。

 

この茶にはおそらく、その両方が作用している。

 

 

 

 

「多分それ位、どうする?」

 

 

「次回の行商を終えたら取り掛かろう、建設している間も金は増える、足りなければ出してもらう、その為の協賛者じゃ」

 

 

 

 

黄河――――世界で最も高い場所、ヒマラヤ山脈を水源とする。

 

同じ水源で、反対方向に流れるインダス川がインダス文明を作り上げたように、

黄河は黄河文明を作り上げた、中華の祖と言える大河。

 

それは古代より、農耕文明を発展させる代わりに物流を遮断してきた。

現在は宋が河西回廊へ進出するのを拒むように流れている。

 

 

 

 

「楽観はよくない、けど――――」

 

 

「金は運用してこそ、じゃもんな」

 

 

 

 

縁側から望むその壮大な河を眺めながら、

二人は『それ』が建築されていく様を想像する。

 

 

 

 

「うん、それに……早く渡ってみたい」

 

 

「じゃな! 皮筏子(ひはいし)や浮橋など、時代遅れに “してやる” のじゃ!」

 

 

 

 

『皮筏子』とは動物の皮で作った浮袋を幾つも連ねた簡易な小舟。

『浮き橋』はその小舟を沢山並べ、簡易な橋を作る技術。

どちらも人は通れるが、大量の荷物は運べない。

 

 

 

 

「この巨大な河に橋が掛かるなど、誰も、想像すらしておらぬじゃろうよ……」

 

 

 

 

彼女達の目下の目標は、『蘭州を流れる黄河に橋を掛ける』こと。

 

此処から長安・渭水までは黄河の中流域に入り、

朝廷はこれに橋を掛ける事が出来ない。

正確には歴史上、何度か橋が掛かった記録はあるが、その度に洪水で流された。

 

黄河は氾濫によって度々その形を変え、

橋を掛けるにはそれを安定させる『治水工事』が必要なのだが、

河をどのような形に治めるか結論が出ていない――――

 

というのが、橋を掛けない(・・・・)理由だ。

 

所謂、お役所お得意の『棚上げ状態』になっており、

『朝廷が手を拱いているのなら、各都市に先駆け民間で架けてしまおう』

という寸法である。

 

 

 

 

「思ったのじゃが、気孔で砂鉄を溶かせば安上がりではないか?」

 

 

「花雪……鉄に必要なのは炎じゃなくて、風、それに彼等はそういう仕事はやりたがらない……私も嫌」

 

 

 

 

『彼等』とは、自分達が雇用している、自分を含めた気功家の事だ。

一瞬の炎功を起こすのも大変なのに、長時間の使用などまっぴら御免なのだろう。

 

 

 

 

「ふむ、良いアイデアと思ったんじゃがな」

 

 

 

 

この地は森の木々が地盤を安定させ、橋を掛けるのに適したポイント、

そして橋は『鋼鉄製』でなければ流される。

鉄を作るには風が必要で、風を作るには水車が有効だ。

 

 

 

 

「そんな事を考えなくても、“炉” は大きな利益を上げる……」

 

 

 

 

蘭州に水車と石炭を使った最新鋭の『溶鉱炉』を建設する。

 

渡し業と宿泊施設で細々と生計を立て、

特産品と言えば何処でも取れる麦しか無い『鬼怒川』の如き蘭州を、

橋建設に合わせて『鉄の名産地』に変えてしまう計画だ。

 

 

 

 

「フッ、当然じゃ…… “あの黄河に橋を掛けた” という実績が付随するのじゃからな」

 

 

 

 

蘭州産の鉄は大ヒットするに違いない、いや――――させてみせる

橋が掛がれば渡し船は廃業だが、橋の通行料に『鉄』という新たな産業。

蘭州は生まれ変わる。

 

橋さえあれば行商人も、軍隊も、一般人までも、皆が気軽に往来するようになる。

人が増えれば物流は更に安全な物となる。

 

橋でも『安全神話』を作ったとなれば、花雪隊の名声は益々高まる。

人々は『花雪橋』と書かれた石碑を見て、彼女達を英雄と称えるだろう。

敦煌でもそうだったように。

 

費用は莫大だが、大規模な行商を繰り返したおかげで目処は立っている。

行商の過程で培った各分野へのコネクションにより、

建設に必要な職人の確保も可能だ。

 

今まで国にしか作れなかった物、

それはもう、国にしか作れない物では無くなるのだ。

 

 

 

 

「橋の次は道や関所、見張り台の整備じゃ、盗賊達も迂闊に襲ってはこれん――――」

 

 

 

 

それ以上に彼女達は、

『メリットなど後から付いて来る、来ないなら自分達で作れば良い』

そう考えている。

 

 

 

 

「いっそ、蘭州を買い取って国でも興すか?」

 

 

「良い考え、そろそろ橋の後を考えないと……まだ建ててないけど」

 

 

「あっはっはっは! お前の言う通りじゃ、まずは目下の行商じゃ!」

 

 

 

 

蘭州から少し行くと『虎穴山』という、

呂晶がよく張っていたポイントがある。

 

 

 

 

「護衛の統率、ぬかりなく頼むぞ――――そろそろ “出る” 頃じゃ」

 

 

 

 

盗賊にとっての餌場だけに、行商隊にとっても警戒地点。

 

 

 

 

「了解、親分――――」

 

 

 

 

ユエは最大の警戒地点を前に落ち着き払っている。

護衛は抜け目ないユエの担当であり、慢心もぬかりも無い警備体勢を敷いている。

絶対に、花雪を守る自信がある。

 

 

 

 

「ここまで来れたのも、お前のお陰じゃよ」

 

 

「花雪の願いは、私が何でも叶えてあげる」

 

 

「期待しておるぞ、我が第一の子分よ――――」

 

 

 

 

夕日に照らされた縁側、二人が杯を鳴らすが響く。

 

橋を掛ける公共事業は『国作り』の始り、

無限の利益を生み出す運送業『行商』はそれすらも可能にしてしまう。

 

 

 

 

「子分になった覚えは、ないけど」

 

 

「お前……今、“親分” と言っておったじゃろう」

 

 

 

 

ただし彼女達は、行商が何故それ程の利益を生むのか、

理解しているつもりでも、理解していない。

 

 

 

 

「皮肉で言っただけ、いつも偉そうにしてるから」

 

 

「ダメじゃもーん! 親分て言ったら子分なんじゃもーん!」

 

 

 

 

行商によって輸送された物は、同じ重さの金よりも高い値が付けられる。

だが『物』とは本来、金のように、ただ光るだけの、

電気を通すしか能が無い物質よりも――――遥かに貴重な物なのだ

 

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 

「えー、どーしよっかなぁー」

 

 

 

 

盗賊から護衛に転向した二十歳の女、呂晶は、

もじもじして、勿体ぶっている。

 

 

 

 

『出発の時から良い女だって思ってたんだ、酒盛りでもして、俺と楽しい夜を過ごそうぜ』

 

 

 

 

久しぶりに、ナンパをされているのだ。

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