※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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裸の触れ合い ~中世中華のお風呂事情①~

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

『はじめまして、呂晶さんっ! 宜しくお願いしますっ!』

 

 

 

 

両サイドを細く束ね、後ろ髪を降ろしたツーサイドアップ――――

 

『二つ縛り』と『ロングヘアー』どちらにも憧れ、

どちらも自分の物にしたいけど、どちらの属性にもなりたくない、

優柔不断のムカつく髪型。

 

性格なんて問うでもない、コイツはムカつく女だ。

 

 

 

 

「あっ、ああ……よろ~っ!」

 

 

 

 

体をワザとらしくくねらせ片手を振る。

『対どうでもいい女友達用・営業スマイル』である。

 

 

 

 

「私、いつもは一人で泊まってたのだけど、今日は三人だなんて、何だか嬉しいわ!」

 

 

「えっ、このア……美鈴ちゃんも泊まるんだ?」

 

 

 

 

“このアマ” と言いそうになるのを堪える。

 

 

 

 

『私も、いつもは一緒に泊まる相方がいるんですけど、今回はその子が来れなくて……困ってたら遊珊先輩が誘ってくれたんです!』

 

 

 

 

やはり、可愛らしく元気に答える。

その元気さが癇に障る。

 

 

 

 

『お二人共、お邪魔しちゃってすみません!』

 

 

「そうなんだ~……よろ~っ!」

 

 

 

 

さっきと同じ社交辞令、

それを同じように言うので精一杯だ。

 

 

 

 

(邪魔なのは判ってんだよ……雌豚は牛舎に泊まって藁でも食ってろッ!!)

 

 

 

 

顔では笑顔を作りながら、

心の中では斬って、刺して、爆(は)ぜ殺す。

 

 

 

 

「それじゃあ、お風呂に行きましょっ! 良いお風呂屋さんがあるのよ~っ」

 

 

 

 

遊珊も掌を合わせて体をくねらせている。

呂晶と同じような動作にも関わらず清楚で、それでいて艶めかしい。

 

 

 

 

「私、案内しちゃうんだからっ!」

 

 

 

 

そしてぴょこんと両手でガッツポーズ、本当に嬉しそうだ。

 

遊珊は幼少の折、農業を営む実家から奴隷として売りに出された。

以来、遊郭から一歩も出ずに育った為、

こうやって友人と遊ぶ事は何よりも新鮮なのだ。

 

あくまで、“友人として” だが。

 

 

 

 

「うんー、そだねー、じゃそこいこー……」

 

 

 

 

つい棒読みになってしまう。

せっかく妄想でアレコレ練習したのに全部パーだ。

“友人として” 遊珊といることは、呂晶にはとても辛い。

 

 

 

 

(ガッカリだぜ……こんな事なら、イケメンとしっぽりヤッときゃ良かった)

 

 

 

 

呂晶と美鈴は遊珊に手を引かれ、

三人で手を繋いで浴場付きの宿屋に入っていく。

 

とても仲の良い三人娘だ、傍から見ていればだが。

 

 

 

 

 

 

◆

 

 

 

 

 

 

『あのあの……呂晶さんて、すっごく強いんですよね!? 遊珊先輩から聞きました!』

 

 

 

 

中華では風呂に入る習慣は地域によってまばらである。

乾燥地帯に至っては娘の結婚前日に近所から水をかき集め、

ようやく沐浴を行い、花嫁を清める民族もいる。

 

一方、蘭州は水源が近いため公衆浴室も多く営まれ、

豪族でなくても気軽に風呂を楽しめる。

 

 

 

 

「んまねぇ~、今の中華でアタシに勝てるのはカミタケくらいだ」

 

 

『その人知ってます! 江湖の火霊宮で、師範代の人ですよね! 私の友だちがお茶した事があって……』

 

 

 

 

美鈴は体を布で擦りながら呂晶に話し掛ける。

見た目通り人懐っこい性格のようだ。

 

ここは崖を利用して作られた黄河を眺める公衆浴場の一つ。

面倒だから天井を作らなかった為、露天である。

すぐ先にもここと同じような灯りと湯煙が幾つか見える。

 

露天風呂は千年後であれば貴重だが、

今は経営者ですらその付加価値に気付いていない。

 

日も暮れたため雄大な自然は拝めないが、

満天の星空を黄河が映す情景は、さながら天の川のように幻想的だ。

備えられた灯籠に照らされ、とても贅沢な気分が味わえる。

 

ただし灯籠の蝋燭には、利用者が自分で火を付けなければならない。

この露天風呂がある宿のお値段は、食事付きで一泊銀一両。

極東の島国の通貨、日の本の円に換算し一万円程度である。

 

 

 

 

(この雌豚、ブヒブヒ良く響く鳴き声だぜ……耳ん中まで獣姦されてる気分だ)

 

 

 

 

心の邪悪さはさておき、見目だけは麗しい裸体の三人娘の声が、

露天を仕切る竹や岩、湯面、お互いの柔肌に響き合う。

 

自分の声が湿っぽく反響し、湯気で息が苦しいせいか、

ついつい大きな声で喋ってしまう。

 

 

 

 

「やだ……今、あそこで何か動いたわ……誰か覗いてるのかしら……?」

 

 

 

 

髪を濡らし、生まれたままの姿を晒す遊珊は、

手ぬぐいを一生懸命伸ばして縮こまり、

月明かりが照らす黄河を怪訝な表情で眺める。

 

だが、黄河は湖のように広い河なので、

望遠鏡でも使わなければ対岸から覗ける距離ではない。

覗ける視力を有する者はいるが、

その便利な左眼を持つ者は遥か西方にいる、しかも少女だ。

 

そして、『望遠鏡』が作られるのは今から数百年後である。

とりあえず数百年は対岸から覗かれる心配はない。

 

 

 

 

「あはは、先生、ありゃ魚が跳ねたんだ。アタシが見張ってるから大丈夫……ふひっ……」

 

 

 

 

呂晶は頼もしい台詞と気持ち悪い笑いを口にし、

幼女のように穢れない裸体と、それが蠢く様を存分に視姦する。

 

遊珊が唯一つ纏う手拭いは、垢を擦る為のとても小さい物だ。

いくら引っ張って伸ばそうが――――いや、

引っ張るからこそ紐のように捩れ、

せいぜい片方の乳首に、細長いヘソの半分ほどしか隠せていない。

 

頼りない布切れに縋り付く遊珊の姿は隠していない時より遥かに情欲を煽る。

勿論、遊郭で身に付けた仕草である。

 

 

 

 

『魚ですか? この辺だと、花魚ですねぇ~』

 

 

「あはんっ……もう、ビックリしちゃったわ……エッチなお魚さんっ!」

 

 

 

 

黄河の魚に泡水を投げつけ、

伸びた手ぬぐいを太腿を合わせた上で折り畳む。

 

 

 

 

(エッチ! いただきましたッ!!)

 

 

 

 

呂晶は心の中でガッツポーズを決める。

いくら体を強張らせても、自分の一言で容易に弛緩し、

また一糸纏わぬ無防備な姿を晒させる。

 

女同士だから出来る、バイの役得である。

 

 

 

 

『夜の河って怖いですよねぇー……この辺は黄河妖怪が出るらしいですよぉ……? もしかして、今もあの川底に、ウヨウヨと……びっしりと……』

 

 

「やっ……いやっ……ちょっと!」

 

 

 

 

『黄河妖怪』もしくは『黄河怪』とは、

この辺りの河辺に生息する人型爬虫類だ。

獲物を水中に引きずり込み、集団で貪り喰う習性がある。

 

武器を扱う知能があり、人の皮を剥いで被ったり、

持ち物を身に付ける習性まである。

意味を理解しているかは不明だが『言葉』のような鳴き声を出す個体もいる。

 

まるで『人間になりたがっている』かのような黄河怪は、

その容姿も相まり、女性の『キモイ』の代表格だ。

 

定期的に駆除隊が結成されているが、水中を縄張りとしている為、

なかなか根絶に至らない。

 

 

 

 

『泡を投げられた恨みを晴らす為……醜い鱗肌が、集団で先輩に夜這いを……』

 

 

「もうっ! 美鈴ちゃんやめて……! 私、そういうの苦手なのよぉ……」

 

 

『おまえかー……? 泡投げたんは……おまえかー……?』

 

 

 

 

遊珊が縋り付いても美鈴は構わず怪談を続ける。

その一言一言が遊珊に悪寒をまとわせ、体を痙攣させる。

 

 

 

 

(テメッ……雌豚ァ……ッ! アタシの許可なく先生をイジメ……ッ! それはアタシが……ああっ!? お前のせいで、先生が……先生が……また、乳首を隠しちまっただろうがアアアァーッ!!)

 

 

 

 

呂晶はその様子を見ながら歯を食い縛り、目を見開いて笑う。

営業スマイルが崩れている。

 

 

 

 

『はあ……でも、副長以外の女性護衛なんて、憧れちゃいます』

 

 

 

 

美鈴が話を戻す。

話を行ったり来たりさせ、オチも結論もなく延々と続ける女の会話。

白黒付けねば気が済まない呂晶とは、同じお喋り好きでも性質が違う。

 

 

 

 

「別に……気孔使えりゃ、男も女も同じだよ――――てか、この石鹸スッゴ!」

 

 

 

 

呂晶は体外気孔が使えない分、体内気孔に秀でている。

筋肉の熱量を操作し、指先に人体で最も強力な大腿筋の力を宿し、

持ち上げる事も難しい大刀を棒切れのように振るう。

 

逆にそれ以外では筋肉質に見えないよう、

胸や尻、太腿の内部、いわゆるインナーマッスルに筋力を集中させる。

 

努力の甲斐あってか、呂晶は二十歳にも関わらず、

服装によっては十代中盤に間違われる事もある。

 

 

 

 

『これ、目の粗い布で擦ると、もこもこした泡が立つんですよ』

 

 

 

 

手拭いは鑢(やすり)のように目の粗い物と、細かい物、

二枚を持ち込むのが女の嗜みだ。

 

 

 

 

「おおおお……スッゲ! 泡立ってきた! 泡が……おっ勃ってきたぁあああッ!! こりゃあ泡風呂じゃーッ!!」

 

 

 

 

呂晶は、遊珊を取られそうな怒りを手拭いにぶつけている。

 

中華屈指の俊敏性で手ぬぐいを擦ると、

高級石鹸がみるみる小さくなる代わりに無駄な泡が大量生産され、

石畳をヌルつかせていく。

 

 

 

 

「もう、呂晶……女の子は、エレガントに」

 

 

 

 

遊珊が指を立て、先生のように指導する。

 

 

 

 

『呂晶さん、面白ーいっ! ホント、こういう所が、花雪さん達の判ってる所ですよね~』

 

 

 

 

美鈴は石畳に広がる泡を眺めて感嘆を漏らす。

この泡は平民は滅多に肌に纏えないものだ。

 

 

 

 

「……シャハル石鹸でしょ、そんなに珍しいもんでもないよ」

 

 

 

 

『花雪』という名前を聞き、呂晶に冷静が戻る。

 

 

 

 

『珍しいですよ~! あとこっちはオリーブの石鹸、平民の私達には、ちょーっと手が届かない代物ですよね!』

 

 

(一緒にすんな、平民はテメーだけだろ……!)

 

 

 

 

三人娘が使っているのは、

地中海周辺で生産されるオリーブと海藻で出来た植物石鹸と、

中央アジア・キルギスの民が丹精込めて作る『シャカ(・)ル石鹸』だ。

 

花雪象印商隊は中華女性の大好物、

西方の化粧品や美容品を数多く商っている。

 

長らく需要を見出されずにいたジャンルだが、

性と美を追求する中華女性の心を捉え、

今では貴族や良家を中心に、富裕層の妻、娘に大流行するに至った。

 

すると女だけで無く、プレゼントや献上品として、

男も金に糸目をつけず買い漁るようになる。

 

今では『申し訳ない値段』どころか、

小さな石鹸一つが『一般軍人の一月の給料』に相当するという、

呆れた値段にまで暴騰している。

 

金というのはある所にはあるようで、

西方美容品は中華の蔵に眠っていた死金を大量に引き出させた。

 

既にある需要を満たすのではなく、新たな需要を作り出す、

花雪と寒月の基本思想の賜物である。

 

そしてこれら美容品の卸先の一つが、

呂晶の実家である成都一のブランド店『呂礼屋』である。

 

 

 

 

『行商って大変ですけど、こういうの使ってると “ここに入って良かった~” って、思うんですよね』

 

 

「そんなの、体のいい在庫処分だよ、恩に感じる必要なんかない」

 

 

『ええ~、でも~っ! 結構、コレ目当てで参加してる女の子、多いんですよ~!?』

 

 

 

 

これらの高級美容品は輸送中の破損、浸水、汚れにより価値を落とす物がある。

花雪の図らいにより、それら『訳あり品』は、

女性隊員の購入希望者に『元値』で販売される。

 

『訳あり品』であろうと、末端価格の数十分の一とあっては希望者は後を絶たない。

過酷な旅であろうと『女は美に気を配るべし』という、

長が貴族の女性である花雪象印商隊ならではの配慮。

 

こういった配慮のおかげか、この隊は女性の離隊率が低く、

女達に釣られて優秀な男達も集まって来る。

 

安全神話以外にもこういった先見性こそが、この隊が繁栄した理由だろう。

 

 

 

 

『私もこういうの使ってれば、花雪さんみたいに白くなるかな……西方の人達って、ビックリするほど肌が白いですよね』

 

 

 

 

自分の体を見て、少し恨めしそうに呟く。

絶世の美女が間近にいる職場では、気になる事も多い。

 

 

 

 

「何言ってん “ろ” ーっ! 美鈴ちゃんはぁ、そんなの気にしなくてもぉ、十分、可愛いよ~!」

 

 

『えーっ!? 全然ぜんぜん! 私なんか、全っ……然ですよっ!! お二人の方が、何っ……百倍も可愛いですから!!』

 

 

 

 

両手を広げ、左右の二人へぶんぶんと振る。

湯を浴びたせいか、美鈴の顔は真っ赤だ。

 

 

 

 

(ウケんだけど――――ちょっと褒めたら調子に乗りやがって、平民の馬鹿女はからかい甲斐があるよ)

 

 

『あの、それって……戦闘の傷ですか?』

 

 

 

 

キョロキョロしていた視線に映った、呂晶の左腹部。

小さいけど、深い傷が付いている。

 

 

 

 

「……まあね、けっこう強い商……盗賊だったんだ」

 

 

 

 

駆け出しの頃、一人で襲った商隊――――

矢を掻い潜り弓手に肉薄し、勝利を確信した際、

相手が弓を射ずに矢を掴んで刺してきた。

 

相打ちのような形で殺しはしたが、

こちらも腹を抉られてしまった、その時の傷。

 

体に傷を付けた商人と、未熟な自分を心底恨んだ。

 

 

 

 

(クソ、めざとい女だ……傷の事なんて普通聞くか? デリカシーがねぇ……)

 

 

 

 

美鈴は呂晶が盗賊だったとは露程も思わず、

護衛として商隊を守った名誉の傷だと思っているだろう。

 

 

 

 

『私も、神隠し? は、視えるんですけど、気孔はからっきしで……やっぱり、霊宮で修行しないとダメなんですかね』

 

 

 

 

気功家達が『神隠し』と呼ぶ、世界に点在する歪み。

気孔によく似たそれを視認出来る者にしか、気孔は扱えない。

 

視える者が少ないため研究もされておらず、

自然発生したのか、何者かの手によって作られたか、

歪みについては何も判っていない。

 

諸説あるが、『古代の遺跡』という事でカタが付いている。

 

 

 

 

「そんな事ないよ~! 先生なんて、半年でアタシより上手になったもんね?」

 

 

 

 

顔を乗り出し、隣の隣にいる遊珊を覗く。

 

 

 

 

「あら、ホント? 呂晶がそう言うなら、自信付いちゃうわね」

 

 

 

 

頬に手をあてて顔を傾ける。

あざとく艶めかしい動きは遊珊の基本動作である。

 

 

 

 

「 “アレ” を使える弓手は中華でもそういないし、“ソレ” を当てるセンスがスゴイんだ」

 

 

『――――??』

 

 

 

 

二人にしか通じない言葉でワザと話す。

美鈴に疎外感を感じさせるための意地悪だ。

 

 

 

 

「私、アレしか取り柄ないのよ……なんて言うのかしら、性に合ってるのかしらね」

 

 

 

 

遊珊は手をくねくねと蛇行させる。

 

 

 

 

『お二人共、スゴイですね……私なんて、“親には大商人になって帰ってくる~” なんて言って出てきたのに、いつまで経っても下っ端です』

 

 

(誰の許可取って喋ってやがる……お前の貧乏臭い身の上なんてどうでもいいんだよ、空気読んでさっさと爆ぜろ)

 

 

 

 

すると美鈴が、ハタと気付いたように声を上げる。

 

 

 

 

『あっ! 遊珊先輩、お背中流します!』

 

 

「――――ッ!?」

 

 

 

 

呂晶は弾丸のようなスピードで顔を向ける。

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