シルクロードオンライン¬(differentiam) 作:hachu
『あっ! 遊珊先輩、お背中流します!』
「まあ、嬉しいわ、お願いしようかしら」
美鈴は先輩達に付いて行こうと一生懸命だ、
それが呂晶をイラ付かせているなど、つゆ知らず。
『すごーいっ! 先輩の肌、スベスベ……寒天みたい……』
二の腕や腰の、柔らかい所を突く。
柔らかな光沢を放つほど白く、触れれば滑ってしまうのに、
指で押すと、しっとり包み込まれるような初めての感触。
「それって……褒め言葉かしら?」
同じ人間とは思えない未知の物質、
確かに、肌と言うより寒天に近いのかもしれない。
『どうしたらこんな肌になるんですか? 美容法っていうか……』
「特には何もしてないのだけど……普段は研ぎ汁で洗ってるし、体質かしら?」
平民は米のとぎ汁や塩、灰などをブレンドし、各家庭でオリジナル洗剤を用いる。
対して遊珊が育った『遊郭』とは、
各地から輸送される高級美容品の『最終集積地点』である。
遊女は自分で調達もするし、男客もプレゼントとして貢ぐ。
十代中盤から長らく女王に君臨していた花魁・遊珊は、
同僚に分け与えても余る程の在庫を抱え、
それは何故か、遊郭から旅立った今でも増え続けている。
先程も世界最高級の布、紫の染料で染められたシルクを貢がれたばかり。
とは言え、肌は少なからず体質も影響している。
『えーいっ!』
魔性の肌に耐えきれなくなった美鈴は、
遊珊の後ろから伸し掛るように抱きつく。
「いやんっ! ちょっと、美鈴ちゃん、抱きつかないで……あっ、もうっ! そこは自分で洗うわ!」
『だって、気持ち良いんですもん! こうやって、先輩の垢を擦り付ければ……私の肌もおおおぉっ!!』
冗談とは思えない顔。
貴族が西方美容品に執着するに然り、
女は美容に対し、時に狂ったような形相を見せる。
『あっ! この先輩、イキが良くてなかなか掴めないぞ……よし、掴んだっ! 大漁じゃあああっ! 遊珊エキスを頂くんじゃあああぁーっ!』
美鈴は遊珊の肩と腰を持って固定し、
体を左右に擦り付けながら、訳の判らない事を口にしている。
「ちょっと、もうっ……くすぐったいわっ! 私は魚じゃないのよ――――ええいっ!」
体勢を入れ替え、
今度は遊珊が美鈴を押し倒し、反撃に出た。
『うわっ、ちょ……
「あら? さっきの勢いはどうしたのかしら……抵抗しないなら、好きにしちゃうんだから!」
美鈴は恥ずかしそうに顔を手で隠している。
それを良い事に、今度は遊珊が体を擦り付ける。
『あははは! くすぐったい! これ、マジでくすぐったいですぅ!! あっはっは……あんっ……!』
横隔膜が痙攣して、笑い声が勝手に出てしまう。
油脂石鹸と女の肌が擦れ合う “キュッキュ” “ヌルンヌルン” という音が、
公衆浴室に何度も響き渡る。
石鹸は古代ローマ、ラテン語で『
偶然にも油と灰が混ざって出来上がり、
それが『
(こんの……野郎オオオォ……ッ!!)
その光景を目蓋を痙攣させながら、呂晶は怒りの表情で眺めている。
計画していたイベントの一つが、あろうことか雌豚に先を越されてしまった。
遊珊と美鈴はジャレ合っているだけだが、
呂晶にとっては『目の前で寝取られている』も同じ。
興奮しすぎて右手が股の間に伸びるのを必死で堪えている。
怒りも性欲も、色々と我慢の限界だ。
一方、遊珊はおふざけを楽しみつつ、呂晶の表情も見逃さない。
(物欲しそうな顔しちゃって……でもダメ、アナタのような子には、”これはタダでしてあげない” )
遊珊は中華が三千年に渡り追求し、高めてきた、
武、食、性の三大要素のうち、『性』の集大成である。
呂晶の『バイ』などとっくに見抜いている。
そのため、同じ行為であっても美鈴と呂晶では『値段の基準』がまるで変わるのだ。
(私の後輩をイジメた罰よ……そこで犬のように、お預けしていなさい……)
今も呂晶の情欲を煽りながら、嫉妬で美鈴に辛辣な対応をした呂晶の態度、
それが気に入らないのでワザと見せ付けている。
美鈴にはタダで施す『コレ』を呂晶が受けるには、
相応の対価を支払わなければならない。
金、才能、家柄、人生――――
遊珊への想いが強くなる程、遊珊はそれを狡猾に要求する。
自らは言わず、相手が自分から差し出すように。
呂晶はその内、楊貴妃に傾倒する皇帝が国まで差し出したように、
自分の全てを自分から遊珊に差し出す事になる。
性の化身はそうなるまで、止まること無く情欲を煽り続ける。
(ふふ……でも、これ以上見せ付けると、私に手を出しそうで怖いわ……)
覆いかぶさっていた遊珊は、
優しく美鈴を起こしながら声を掛ける。
「ほら、美鈴ちゃん、観念したなら、呂晶の背中も流してあげなさい」
虜は、生かさず殺さずが基本だ。
『はあ、はあ、はい――――……呂晶さんも、お背中流しますよっ!』
「えっ……、あ、あ~」
呂晶は落ち着き無く、目をキョロキョロさせている。
「アタシ、もう自分でやっちゃったんだ……代わりに、アタシが流してあげるよ」
『良いんですか! ありがとうございますっ!』
桶に座った美鈴の背中を、無表情で擦る。
この女を絶対に許さない――――
『あっ……ちょっと、痛いかも……です』
「うっそ、ごっめ~ん! 肌、弱いんだね!」
『そうなんですよ~、敏感肌っていうか!』
「それに柔らか~い! ぷよぷよして豆腐みた~い!」
『もうっ! 非道いですよ、私太ってなんかないです!』
「アハハッ、ウケるぅー」
狂気に満ちた笑顔を浮かべる。
冷静な判断力など残っていないし、そんな物は邪魔なだけだ。
黙って帰しはしない、何があっても実行する。
それしか、呂晶の頭の中にない――――