※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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白霊討伐戦④

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

「おい、整形ブス――――お前の相手はアタシだ」

 

 

 

 

 

 

一人の女が両腕を広げ、悠然と歩いてくる。

白霊は顔を動かさず目だけを下に向ける。

 

 

 

 

 

 

「デケー顔しやがって……エラ削んの忘れてんじゃねーよ」

 

 

 

 

 

 

神のように神々しい、巨大な化物――――

 

威勢を張ってはみたが目を合わせるとやはり怖い。

足が震えそうだ、気持ちで負けるな。

 

 

 

 

 

 

「上で神武(カミタケ)を殺ったのは…………アタシだよ」

 

 

 

 

 

 

『フラグ』という言葉がある――――

物語において、特定の展開や状況を暗示させる行動だ。

 

戦いの最中に故郷へ想いを馳せる自分本位な者は『最初に死ぬ』

為政者はその罪が回り回って『身を滅ぼす』

陽気な黒人は『生き残る』

 

これらは根拠も因果関係も無いものの、一種の『道徳観念』のように定着している。

 

 

 

 

 

 

「弱ぇ癖に無様に立ち上がりやがって、惨めったらなかったぜ(・・・・・・・・・・)」

 

 

(――――……)

 

 

 

 

 

 

この女がしている『死者を冒涜する行為』とは、

悪人が自滅する際の典型的な『暗示(フラグ)』である。

 

 

根拠も因果関係も無い、非科学的な『フラグ』――――

なぜ物語の作者達は、その『フラグ』を蔓延させようとするのか。

それは彼らが、幼少期から宗教じみた『道徳観念』を刷り込まれて来たからである。

 

幼少に教わった事を疑いも無く『正義』と信じ込み、

そのまま疑いもせず大人になり、また子供達に同じことを教え込む、

そんなものは正義などでは無い。

 

では、その正義でも善でも無い『偽善者(ウソつき)』達が、

こぞって定義する『悪』とは何なのか――――?

 

 

『悪』の定義とは、『殺傷しても大丈夫な者』である。

 

 

人間(・・)とは誰しも、『相手を悪者に仕立てた時』に最もパフォーマンスを発揮する、

卑劣な生き物である。

 

例えば、『とあるキャラクター』に『善良な市民』などを虐殺させる。

 

ここで言う『善良な市民』とは、主人公に『好意的』

もとい、『主人公と利害関係を共有する仲間』

もとい、『主人公を正義と誤認させる(・・・・・)為の生贄』である。

 

『善良な市民を殺して(フラグを立てて)しまった』為に、

『とあるキャラクター』は『殺傷しても大丈夫な者』へと昇格され、

主人公によって殺傷され、それがさも『当然の報い』かのように断罪される。

 

この一連の流れによって主人公の利益こそが『正義』となり、

『正義の利益』に反する者が『悪』と定義される。

 

 

なぜ物語の作者達が、わざわざこんな定義をするかと言えば、

“相手を悪者に仕(フラグを)立てれば殺傷しても良い”

“相手を悪者に仕(フラグを)立てないと主人公サイド(じぶん)が悪者になってしまう”

という、浅ましい『道徳観』を幼少期から刷り込まれているからだ。

 

これが巷に蔓延する、偽善者(ウソつき)が小賢しく立ち回るための処世術、

反吐が出る『被害者正義(ワンピース)理論』である。

 

法的倫理に則れば、『とあるキャラクター(ドフラミンゴ)への殺傷』が許されるならば、

誰が誰を殺傷しても許されるハズだ。

例えミンゴが統治下の民を虐げていようと、海賊モドキにとやかく言われる筋合いは無い。

 

ルヒーが弁護士、もしくは警察機構の人間であり、

且つ、独自に制裁できる権利でも持っていれば話は別だが、

彼は “自分は頭が悪いので何も判らない” と自白しており、

少なくとも弁護士で無いのは確かだ。

 

 

 

 

 

 

「神武(アイツ)は、生きてる価値なんてこれっぽっちも無(ね)ぇ、死ぬべき迷惑野郎――――ガイジとおんなじだ」

 

 

 

 

 

 

ルヒーがしている事とはつまり、

“障害児は、オレの仲間に迷惑掛ける(オレらの税金で暮らしてる)から許せねぇ、だから殺傷(ボコ)した、一件落着だ”

と言っているのと、本質的に同義である。

 

相手が悪者である『フラグ』さえ立てれば、誰が誰をボコしても良いのだから。

『利害関係』が一致する者にとっては、ルヒーは英雄にすら見えることだろう。

 

『利害関係』を共有することが『道徳』であり、

『道徳』を刷り込む教科書こそ『宗教』であり、

『相手を悪者にする行為』とは『殺しの免罪符』である。

 

相手を悪者にした者こそ『正義』であり、

『正義の利益』に反する『悪』は必ず滅びる。

 

だがこの女は、神仏、占い、おまじない、

それら全ての『嘘』を一切許さない『悪(せいぎ)』の人でなし(・・・・)。

特に『道徳観念』などという『奴隷のすゝめ』は反吐が出るほど大嫌いだ。

 

だからそれを『真実』で否定してやる時、

体調最悪でも、ヤクでダウナーになっていても、

足が震えるほど恐怖していても――――

 

いつの日も自分は、『最高のパフォーマンス』を発揮出来る。

 

 

 

 

 

 

「ホント、マジで笑えたよ――――」

 

 

 

 

 

 

この化物――――白霊は、特に悪い事はしていない

 

『悪』と言うのであれば、ひっそりと地下で暮らす化物の住まいを荒らし、

褒賞欲しさに『彼女』やその『仲間』を虐殺している、自分達の方だ。

 

悪人は嘘など付かず、悪人を全うするべきだ。

ルヒーのような “俺は馬鹿だからよく判らないけど” などという、

女々しい免罪符を掲げるな。

 

浅ましい『フラグ』などクソ喰らえだ。

 

呂晶は相手が化物であろうと、相手を『悪者』にはしない、

例え相手に、善悪を理解する知能がなかったとしても――――

 

 

 

 

 

 

「せめて潔く死ねば良いのによ、アイツ、いざ自分がヤバくなったらさ――――」

 

 

 

 

 

 

自分に願い、自分で叶える為に。

 

 

 

 

 

 

「泣きながら “化物は裏切るから許してくださぁ~い” って、命乞いしてやんの!」

 

 

 

 

 

 

自分の心に、折るべき『フラグ』を刻み付けろ。

 

 

 

 

 

 

(――――……)

 

 

 

 

 

 

少しの間、二人の時間が止まっているようだった。

 

 

 

 

 

 

「来ーい、来い、来い――――」

 

 

 

 

 

 

体制を低くし、手を叩いて挑発する。

 

 

 

 

「来ーい、来い、来い」

 

 

 

 

突然、地面から白霊の尾が突き上がる――――

身体を傾け、間一髪で避ける、耳を切られた。

 

突き出た尾がしなり横薙ぎを仕掛けてくる――――

のけぞり、柔らかい体を活かし、バク宙で回避する。

 

 

 

 

「あの野郎……! 見てるこっちが冷や冷やするぜ!」

 

 

 

 

ウェイが横目で心配するが、援護できる余裕は無い。

 

 

 

 

(お前が殺られたら、一体誰が合図すんだよ……!!)

 

 

「来ーい、来い、来い――――」

 

 

 

 

呂晶は再び悠然と歩き、手を叩いて挑発する。

 

 

 

 

(誰かが白霊の相手をしなきゃいけないのは判る……お前が相手するのが理に適ってる事も……)

 

 

「さ、来ーい、来い、来い――――」

 

 

 

 

盗塁を狙う走者のように、どこまで前へ出れるかのチキンレースのように。

呂晶は一歩一歩、未知のデッドゾーンに踏み込んで行く。

 

 

 

 

(だが、例え合図を出せても、お前は逃げ切れるのか(・・・・・・・・・・)? バフってやつの凄さで、舞い上がり過ぎてないか?)

 

 

 

 

尾が引き抜かれ、叩き付けるように上方から襲う――――

側宙で回避する、大きくは避けない。

 

何故なら、ほら来た――――

返す横薙ぎも地面に手を付け、大きく伏せて回避する。

 

 

あの勢いで叩き付けられたら、トマトのように潰されるだろう。

あの勢いを生む膂力に捕まれば、やはりトマトのように握り潰されるだろう。

 

そう思いつつ上を向いた瞬間、呂晶の顔がひきつる。

白霊が腕を振りかぶり『巨大な光弾』を放っていた。

 

 

 

 

(そうだ――――コイツは元々、そっち系(・・・・)だった)

 

 

 

 

爆発音が響く。

 

大刀から “無いハズの盾” に持ち替え、内部で腕をクロスし、

後ろに転がって衝撃を逃し、何とかブロックした。

 

得意の装備スイッチ――――にも関わらず、大量の鼻血が溢れる。

 

 

 

 

「ペッ…………ノロイんだよ、ダイエットしろ、ブスッ」

 

 

 

 

立ち上がって鼻を拭い、また悠然と歩き出す。

光弾は炎功では無く、毒を伴う術。

 

だが気分が悪くならない、体が軽い。

バフってやつのせいか。

 

 

 

 

「来ーい、来い、来い――――」

 

 

 

 

白霊の左肩が燃え上がる。右翼の誰かが援護の気孔を放った。

着物が燃え、火傷していない肌が露出する。

 

右翼が片付き始めている、もうすぐコイツは丸裸だ。

 

 

 

 

「来ーい、来い、来い――――」

 

 

 

 

今まで一人を一、二撃で処理していたであろう白霊。

無表情のままだが、首を真下に傾けねばならないほど接近した呂晶に――――

明らかにイラついている。

 

 

 

 

「来ーい、来い、来い」

 

 

 

 

盾を “布” にしまい、代わりに大刀を引き抜く。

 

 

 

 

「来ーい、来い、来い」

 

 

 

 

それをゆっくり振り上げ、ゆっくり振り下ろす。

 

 

 

 

「来ーい、来い、来――――」

 

 

 

 

瞬間――――叫びながら反転し『一日一回の巫舞』を解放、

全力で地面を蹴る。

 

 

 

 

「来たぞオオオオオォオオオオオォーーーーッ!!!!」

 

 

 

 

身体から青白いオーラが迸る。

 

 

 

 

『――――っ!!』

 

 

 

 

全員、声に合わせ雷功・神歩幻影でバックステップする。

ここまで生き残った精鋭達、閃光の射程距離は完全に把握している。

 

陽の光のような残像が扇状に広がっていく中、

その後ろを唯一人、自力で走り抜ける。

 

 

 

 

一、二、

 

触った、触ってやったぞ……!

あの女キレてやんの、よく判んねーけどザマーミロッ!

 

 

 

 

三、四、

 

後ろは片付いてたのか、やるじゃないか。

 

 

 

 

五、六、

 

速い、今のアタシの速さは、大陸一だ。

 

 

 

 

七――――

 

景色が明るくなる。

 

 

 

 

 

 

「ルージィイイイイイン!! 急げえええええええぇーーーッ!!」

 

 

 

 

(任せろ、薄顎――――ッ!!)

 

 

 

 

八、九歩目で気孔を爆裂させ、走り幅跳びのように大きく跳躍する――――

 

なびくマフラーが石に変わり、着地の衝撃で割れる。

同時に反転し、今度は全速力で前へ駆ける(・・・・・)。

 

 

 

 

「大体無事だなッ!? 突っ込めえええええぇえええええぇッ!!!!」

 

 

(大体って、おま――――ッ!)

 

 

『オ゛オオオオオオオォォォォッ!!!!』

 

 

 

 

全員巫舞を解放し、決死の突撃を敢行する。

それは相乗効果により各々の力を限界以上に引き出す。

 

もう一度、赤青黄の気功、剣気、矢が一斉掃射される。

 

距離を意識せざる得なかった牽制とは違い、

踏み込み、威力を倍加させた中距離攻撃が炸裂する。

 

 

 

 

『出し尽くせッ!! これで最後だッ!!』

 

 

『オ゛オオオオオオオォォォォッ!!!!』

 

 

 

 

下半身では近接組が肉薄し、

今までのお礼とばかりに刃を突き刺し、最大出力の気功を流す。

 

 

 

 

(――――……っ!!)

 

 

 

 

白霊の筋肉が大きく引きつる。

 

 

 

 

『効いた……! 強靭なのは皮膚だけだ!!』

 

 

『死ねええええぇ……化物ォーーーーッ!!』

 

 

 

 

尾で払い除けようとするが、続け様の攻撃により上手く的が絞れない。

その場から動くことも――――出来ない

 

 

 

 

(――――……ッ!!)

 

 

 

 

左翼の誰かが放った十字弓(クロスボウ)が、揺れる右目を貫いた。ナイスだ。

白霊は斜め後ろに傾いた首をすぐ様元の位置へ戻す。

眉一つ動かさないのが気持ち悪い。

 

 

 

 

(だが、これは――――……)

 

 

 

 

ウェイは気孔を収束させながら周囲に目を配る。

 

飛び散った鱗や肉片が岩土と混ざり、うねうねと動き始めるが、

生物の形を成すにはまだ掛かる。

 

 

 

 

(いけるかもしれん…………てか、イケるわこの作戦ッ!!)

 

 

 

 

そう思った時――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャアアアアアアァアアアアアアァアアアアアーーーーーーッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うわあああぁっ!!』

 

 

『なんっ……つー、声だ…………クソォッ!!』

 

 

 

 

景色を歪ませる甲高い咆哮により、全員が耳を塞ぐ。

白霊が自分を抱え込むように閃光の体勢に入る(・・・・・・・・)。

 

あれほど大規模な術にも関わらず、二撃目が思ったよりずっと早い。

やはり、アイツを信じたのがいけなかった。

 

 

 

 

(どう責任取れば良いんだ!? とにかく逃げ――――……)

 

 

「逃げんなアアアアアアァーーーッ!!!! 計画通り(・・・・・)だアアアアアアァーーーッ!!!!」

 

 

 

 

鼻と耳から血を流し、白霊の肩までよじ登った呂晶が、

上からだと響くせいか白霊にも及ぶ叫び声を上げる。

 

 

 

 

“計画通り” なワケがあるか――――誰もが思う

 

 

 

 

だがこのタイミングでは、懐に入った近接組が逃げ切れない。

飛び散った鱗や肉片は新たな生物を成そうとしている。

 

これ以上戦力が低下すれば、もう手立ては無い、

ここで倒し切るしか道は無い、

 

何より、前方の戦友を見捨てては――――武侠がすたる!

 

 

 

 

「師よ……ッ! 俺に力を与えてくれええええええぇーーーッ!!」

 

 

 

 

ウェイは残りの全巫舞を収束し、助走を付けたやぶれかぶれの雷孔を放つ。

それは一本の線となり、無数の線が同時に走る。

 

 

 

 

(――――ッ!!)

 

 

 

 

おそらく、どれかが弱点を突いたのだろう。

難攻不落の固定砲台が轟音を立て、ついに地面に手を突いた。

 

『真上から見下ろす者』には、うなじ(・・・)がガラ空きだ。

 

 

 

 

「もらったあああああああああああぁッ!!」

 

 

 

 

白霊の頭上を跳躍していた呂晶が、空中で炎功を爆裂させる。

 

 

 

 

「――――……ッ!!」

 

 

 

 

加速された斬撃が無防備な首をギロチンの如く斬り裂き、

赤黒い鮮血が吹き出した。

 

 

 

 

「まだまだあああああああああああぁッ!!」

 

 

 

 

矛先からダメ押しの『爆功』が炸裂する。

この女の抜け目無さはこういう時頼りになる。

 

一瓶百貫文は下らぬだろう白霊の血液が爆散し、

呂晶はそれを滝のように浴びる。

 

 

 

 

(首に入った!! うおおおおっ――――……!)

 

 

 

 

此度の討伐戦は『白霊の首を落としたチーム』に、

莫大な報奨が支払われる。

 

ウェイは力強く拳を握り、その力が――――緩む

 

 

 

 

(浅い――――……)

 

 

 

 

首から吹き出した血液が炎を消し、煙を上げている。

 

人間なら即死の深さ。

だが相手は人間の顔をしていても、人間ではない。

 

 

 

 

「そうだった…………アイツの気功は…………」

 

 

 

 

見た目と衝撃は派手だが、溶かし斬るほどの熱を込められない。

 

 

 

 

「げっ――――!?」

 

 

 

 

千切れたうなじの筋肉が蠢き、矛を締め付けるように融着した。

黒蛇・小々と同じ『肉体再生術』

 

柄にしがみ付いて垂れ下がると同時、呂晶の青白いオーラが弾け飛ぶ――――

 

 

 

 

 

 

「ちょ……っ…………」

 

 

 

 

 

 

白霊の巨大な片目がぐるりと回り、文字通り『目の前の者』を捉える。

 

 

 

 

 

 

「あっ……あはは…………」

 

 

 

 

 

 

その生命を握り潰すように、巨大な瞳孔が力強く収縮する。

巫舞もバフも切れ、力が入らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「い、意外と美人……っスよね…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

閃光が走る――――

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