※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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ルールに支配された世界

ヘレンの見る夢は、人と少し変わっている。

 

現実で魔法が使えるせいか、夢では更に高度な魔法を扱える。

それが現実でのヒントになる事もある。

 

 

鳥のように飛翔する魔法、それは試してはいけない。

 

 

夢の中では風を完璧に制御できる。

でも、人間を飛翔させる程の風とは、石や木の枝を凶器に変えるのだ。

 

アレは夢でも現実でも、試してはならない魔法だ。

 

 

 

ヘレンの夢にはルールがある。変わっているのはこちらの点だ。

 

 

夢を見る為のルールではなく、

夢の中が、ルールで支配された世界なのだ。

 

登場人物達は、皆がルールを守っている。

 

何故なら、『誰もが良心的な心を持たなければいけない』

というルールがあるからだ。

 

更にその世界では、『誰でもルールを設定出来る』というルールもある。

 

自分が『こうしましょう』と言えば、誰もがそれに従う。

誰かが『こうしよう』と言えば、自分もそれに従わねばならない。

 

 

でも、そのルールは納得出来る、

大切な事ばかり。

 

 

皆が良心的な心を持っているからだろう。

 

 

だが、『ルールの循環を招くルールは禁止』というような、

夢にしては妙にリアルな、細かなルールまで決められている。

 

この人はこれが出来ないルールなのに、

それをする時はこの人に頼まなければいけない、というような。

 

所謂、パラドックスを招くルールは禁止だ。

 

 

とにかく、夢の中はルールが支配する世界で、

そこではルールに違反する者は許されない。

 

ルールを守らない者には、

正義の戦士が天罰を下すのだ。

 

 

そこでの自分は、許されない事を正す、正義の戦士。

 

たまに、自分が罰を下される方のシチュエーションもあるが…

 

 

 

少女の妄想を具現化したような “設定” のある夢。

色んな夢を見るが、この前提は基本設定だ。

 

その他は普通の夢と変わらない。

 

ルールに縛られた夢を見るせいか、

何でも出来る魔法を持ちながら、

ヘレンは清く正しく育ち “すぎた” のかもしれない。

 

 

潔癖症のヘレンにとっては、

ルールが支配する世界は居心地がいい。

 

 

ただ、見たい夢が選べないのと、

何回かに1回、月の少女が現れる “ハズレ回”

 

その他にどうしても、

夢の中でも出来ない事が2つある。

 

 

一つはとても当たり前の事なのに、

何故かルールで禁じられている。

 

だから、現実の方で実現しようとしている。

 

 

もう一つは、

夢でも現実でも出来るハズなのに、

やり方が判らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「シクロ様、おはようございますわ」

 

 

寝巻きから一張羅に着替え、

階段を降りた先の男に挨拶する。

 

 

『やぁ…よく眠れたかい?』

 

 

顔色の悪い宿屋の主人、

シクロが答える。

 

 

「ええ、とっても。良い羽毛を贅沢に使ってらっしゃいますのね」

 

 

『フフフ…気付いてもらえると嬉しいよ』

 

 

宿暮らしを始めて、5日が経った。

 

アウグスタイオン広場に面した、町の中心にあるこの宿は、

便利で食事も美味しいが、少々高級で宿賃も高めだ。

 

ここに泊まるのは経済的ではないが、

ずっといる訳でもない。

 

それに、安い宿に泊まっていては、

貴族としての品位が下がる。

 

明日の活力を得る為、こういう所の節約は禁物だ。

 

 

 

「ところでシクロ様…」

 

 

『その、シクロ様ってのはやめてくれないか?お客さんに様付けされるのは

どうもな…』

 

 

 

ヘレンは幼少の時に一度、孤児院を家出した事がある。

 

海岸沿いの町まで行ったが、あまり良い経験はしなかった。

その一つとして、同じ年頃の女の子達と遊んだ。

 

女の子達はママゴトの一種として、

自分達が貴族であるように振る舞う “貴族ごっこ” をしていた。

 

ヘレンも誘われてそれに混ざり、

 

『アナタはどこからいらっしゃったの?』

 

という質問に「孤児院」と答え、

嘲笑された。

 

 

気持ち悪い、汚いですわ、と。

 

 

以来、孤児院出身である事が恥ずかしくなり、

村の外では絶対に隠そうと誓った。

 

家出後、村に戻ったヘレンは、

こっぴどく叱られた後に、孤児達の前で宣言した。

 

「今日から自分は貴族ですわ」と。

 

 

今のままでは、町の女の子達のように、

自分の親も、自分を気持ち悪い、汚いと思うのでは、

そう考えたのだ。

 

変わらなくてはならない、と。

 

 

男子達は『カッケー!俺も貴族になる!』と同調し、

貴族ごっこはブームになった。

 

未だに続けているのはヘレンのみだが。

 

 

自分を馬鹿にした、町の女の子達がしていた仕草や喋り方。

それが、ヘレンが口にする “お嬢様語” のルーツになっている。

 

努力はしているが、

本物のそれとは、やはりどこか違う。

 

 

 

 

「呼び捨てだなんて。そうは参りませんわ、この宿のご主人様ですもの」

 

 

『む、そうか…』

 

 

 

悪い気はしない。

 

この子といると、なんだか自分が、

上流階級のような気分が味わえる。

 

貴族のせいで地獄を見た、自分でさえも。

 

 

 

「シクロ様、あちらの方角にある、大きな建物は何ですの?」

 

 

 

ヘレンは北東の方向を、真っ直ぐ指差す。

 

 

 

『ハギア・ソフィアの大聖堂だね。教会だよ』

 

 

 

「まぁ…あれほど大きな教会があるだなんて」

 

 

 

『ああ、初めて見る人はみんな驚くよ』

 

 

 

「ワタクシも負けていられませんわね」

 

 

 

肩にかかった髪を優雅に払い、

気合を入れる。

 

 

 

『おや…。今日も例のやつ、やるのかい?』

 

 

 

「ええ、日銭を稼ぐのは得意技ですの」

 

 

 

宿の玄関から見える、

アトラス像の噴水に向けて歩みだす。

 

 

 

『そうだ、食事はどうするかい?』

 

 

 

「夕餉だけ頂きますわ。朝は市場で何か食べて参ります」

 

 

 

『了解だ。いってらっしゃい、良い一日を』

 

 

 

「アナタも」

 

 

 

手を小さく振って外に出ると、

目も眩むような光に包まれる。

 

 

暑い。

 

 

故郷で体験した事のないような暑さ。

 

貧血を起こしそうになったが、

そうなる前に目が慣れる。

 

 

 

シクロはとても優しい。

ただ、それもお金を払える内だけ。

 

この世界は毛皮や肉ではなく、お金が最も大事。

お金は神の次に偉いのだ。

 

 

 

(ワタクシは狩人。ならばお金を狩るまでですわ)

 

 

 

 

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