※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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アリストテレス曰く、ゼロはゼロではありませんの

 

 

「…それではっ!本日のフィナーレッ!!この放水を全て凍らせ、見事消し去ってご覧に入れますわ!」

 

 

その場の空気や時事ネタと絡める。

 

この手の即興は、

応用の効くヘレンの大道芸の持ち味だ。

 

 

 

『本当か!?』

 

 

『なんだ!?凍らせて消すって事か!?』

 

 

『だからそう言ったんだよ!どういう事か判らんが!』

 

 

 

ヘレンは踊り子のようにクルクルと回り、

自分を抱くように屈み、念力を入れるように力を入れる。

 

その前方に、円状の蜃気楼が浮かび上がっている。

 

 

 

「ハァアアアア…ッ!」

 

 

 

この “溜め” は、本来必要の無い動作だ。

蜃気楼が出た時点で、全ての仕込みは終わっている。

 

後は、体を反り返させ、

優雅に力強く両腕を伸ばす。

 

口では別の事を言いながら、

意識を、イメージを顕現させる事に集中するだけだ。

 

 

 

「ご覧あそばせッ!!」

 

 

 

噴水の放水口から、無数の玉のような氷が、

勢い良く、ポポポン、という奇妙な音を立て、

クラッカーのように噴出する。

 

 

高い。

放水の勢いだけではない。

 

別の力が加わっている。

 

 

 

「くっ…うぅ…っ!」

 

 

思い付きでやってみたが、やってみると意外と辛い。

連続的に魔法を使用し続けるのは、思ったよりも集中力がいる。

 

 

 

『雹だ、雹が降ってくるぞ!!』

 

 

 

舞い上がった氷の雨が、放物線を描いて落下を始めた。

 

当たったら結構痛いかもしれない。

観客達が手で頭を守る。

 

 

仕上げだ。

 

 

 

「ええいっ!!…ですわ!」

 

 

ヘレンが勢いよく杖を振ると、

雹のように降り注ぐと思われた氷が、

空中で音を立て、ポップコーンのように一斉に弾けた。

 

 

『オオオオォォォーッ!!』

 

 

氷が弾けた影響か、

涼しげで柔らかい風が吹く。

 

 

『薬品だ!きっとすでに、水が凍る薬品を混ぜていたんだ!』

 

 

歓声と、タネを予想する声が上がるが、

ヘレンが仕込んだイリュージョンは終わりではない。

 

弾けた氷、

それが細かい屑となり、ゆっくり舞い落ちる。

 

 

 

『…? 雪だ!!雪が降ってるぞ!』

 

 

 

コンスタンティノープルは北半球の真ん中、

極東の島国よりは湿度が低く、過ごしやすいが、

典型的な四季の国。

 

現在は暑くなり始めた、ジューノの月。

 

この地でこの時期、雪が降るなど、

もう何万年ぶりだろうか。

 

 

観客達が両手を広げ、

舞い落ちる雪に触ろうとする。

 

 

ヘレンは細い指に力を入れ、腕を振りながら弾く。

高くてよく通る、ヘレンの声にも似た音が響く。

 

本来は必要無い動きだ。

仕掛けは、左手に持つ杖から発生している。

 

 

 

『おおっ!?』

 

 

 

『うわっ!』

 

 

 

雪が更に細かく弾ける。

 

光をプリズムのように乱反射させ、

キラキラと、虹色の輝きを放って消えていった。

 

 

 

『オオォ…あはははっ!』

 

 

溜息が漏れ、笑い声がする。

 

何が起こったのか判らないが、

皆が同じように驚いている様を見合って、

何故か楽しい気持ちになってしまう。

 

 

 

「お集まりの皆様方…、少しは涼しくなりましたかしらっ?」

 

 

足を揃え、大きく両手を広げる。

とても自慢気な笑顔だ。

 

魔法だけではなく、

この上品で可愛らしい動作も、

パフォーマンスの一つと言える。

 

 

 

『ウオオオオッ!!』

 

 

『ヒェアッ!!ヒェアッ!!ヒェアーーッ!!』

 

 

 

氷魔法は、ヘレンが最も得意とする系統だ。

 

氷は様々な分子結合を作れるので、扱いやすい。

 

生み出した氷の分子結合…

本人は分子結合など知りもしないが、

 

放水された水を媒体に、

二層の、非結晶質の結合を持つ氷を生み出し、

その結合を崩壊させる風を当て、弾けたように見せる。

 

弾けるタネは氷だけではなく、視えない風にもあったのだ。

 

 

一定の時間、一定温度と圧力でなければ溶けない氷。

魔法の副産物で起きる科学現象。

 

この分子結合の相を取る氷は、本来地球上には存在しない。

 

 

 

『何をやっとるんじゃ…』

 

 

噴水の管理人ラビは、

自分の住まいから遠目でそれを眺め、

頭を掻いている。

 

この時間、しばらく放水され続けるハズの水が、

止まっている。

 

雪に目を引く為かは判らないが、

おそらく放水口を凍らせて、ムリヤリ蓋をしているのだ。

 

詰まって壊れたりしないだろうか。

 

神聖な噴水で遊んだりして、

とんでもない事だ。

 

あとでしっかり注意をしておかねば。

 

 

 

『一体どうやってんだい、これは?』

 

 

 

見物料を入れに来た男が、タネについて質問する。

 

タネを聞くのは、無粋と言えば無粋だが、

さすがにコレは聞いてしまうのも無理はない。

 

 

 

「アリストテレス曰く、ゼロはゼロではありませんの」

 

 

指を斜めにピン、と立て、

授業を行うように説明する。

 

 

『どういう事だ?』

 

 

『ゼロじゃなきゃ…1か2だろ?』

 

 

 

前列の男達が顔を見合わす。

 

 

 

(やはり皆様、ここからそう言いますのね…)

 

 

 

故郷でもそうだった。

 

ゼロに見えるそれは、

見方を変えればゼロではなくなると言うのに。

 

ただこの感覚は、どうにも言語化し辛い。

 

あまりくどくど説明すると、

故郷のように『またヘレンがオカシな事を言い出した』

と、からかわれてしまう。

 

一度でも良いから、皆も視る事が出来れば良いのに。

 

 

 

「…仕掛けは、ギルド秘密ですわっ!」

 

 

 

最近覚えた言葉を使ってごまかす。

 

謎めいていた方が、

ミステリアスな雰囲気を醸し出せるだろう。

 

ヘレンはそう思っているが、

彼女にとっては当たり前の魔法も、

他の者にはそのままで、十分ミステリアス過ぎる。

 

 

 

『なんでぃ。お嬢ちゃん、ユダヤなのかい?』

 

 

「え…っ」

 

 

ヘレンの心臓が大きな音を立てる。

 

そして徐々に、

心拍が早まっていく。

 

 

 

(ミスった…?)

 

 

 

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