※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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正当被害者決定戦

 

「…ギルド秘密ですわっ!」

 

 

 

『なんでぃ。お嬢ちゃん、ユダヤなのかい?』

 

 

「え…っ」

 

 

ヘレンの心臓が大きな音を立てる。

そして徐々に、心拍が早まっていく。

 

 

(ミスった…?)

 

 

この反応は、何か下手をこいてしまった時のもの。

 

負の感情を一気に高めてしまった。

 

 

ピントをずらすように、人と違った世界が視えるヘレンは、

感情の変動、いわゆる “その場の空気” もぼんやり目で視える。

 

そのセンサーは一般人より精度が高い為、

彼女のせいでは無い事でも、

彼女は自分が何とかしなければ、と思ってしまう。

 

 

 

「(ギルドとは、ユダヤが追放された集会ではありませんの…?)」

 

 

 

ヘレンの知ったかが、裏目に出た。

 

ギルドとは中華の行のようなもので、

商工業を統括、育成する組合だ。

 

確かにユダヤはそれを追われた。

そのせいで、誰もが嫌がる、高利貸しの仕事を始めた。

 

そして、ギルドを追い出された恨みを晴らすかのように、

高利貸に就くユダヤが、儲けなどを問い詰められた際、

嫌味として、

 

『ギルド秘密だ』

 

と返すようになったのだ。

 

 

図らずしもヘレンは、

ユダヤ芸人ではない事をアピールしようとして、

ユダヤと同じ事を口にしてしまった。

 

地域独特の、一過性の流行のようなもの。

流れ者のヘレンが知る由はない。

 

 

ユダヤ芸人という噂が立てば、

勘違いだとしても、収入に違いが出る。

 

それは、その日暮らしのヘレンにとって、

文字通り死活問題となる。

 

 

 

「…あの “迫害者” と間違われるのは、不愉快ですわっ!」

 

 

大袈裟に指を立て、

怒った演技だと判る、演技をする。

 

ヘレンの処世術の一つである。

 

 

 

昨今のキリスト教とユダヤ教は、

日々 “正当被害者”を決める対決を行っている。

 

これは、どちらがより憐れであるか示す勝負で、

勝利の暁には、世界の同情を勝ち取る事が出来るのだ。

 

 

同情とは、支持とほぼ同じ。

 

支持は、権力とほぼ同じ。

 

 

どちらも絶対に負けられない戦いだ。

 

 

キリスト側のターンでは、

『ユダヤは我らが信仰対象、ハリスを迫害 “し続けている”。悔い改めよ』

 

という、“信仰対象を銀貨で売られた時にのみ” 発動出来るカードを提示する。

 

決まれば、ユダヤにキリストの全てを認めさせ、

丸ごと傘下に納める程のカウンター技だ。

 

元々、ユダヤがハリスの裁判をローマに行わせたせいで、

その罪悪感から、ローマは文字通り十字架を背負う事となった。

傘下に入って然るべきなのだ。

 

ユダヤも嫌なら出て行けば良いのに、

なぜ改宗せず、ローマにはびこり続けるのだろう、と考えている。

 

 

対してユダヤ側のターンでは、

『キリスト教徒は “現在” ユダヤ教徒を迫害している。憐れな我々(こひつじ)よ』

 

という、同情を誘うカードが提示される。

 

嫉妬と銀貨欲しさにハリスを売り、しょうもない “諍い” のキッカケを作り、

その後もローマ帝国に喧嘩を売って来たにも関わらず、

 

“イジメる方が悪いに決まっている”

という、シンプルかつ大胆なクリティカル攻撃だ。

 

安易に放てばブーメランにもなりかねない危険な一手。

 

戦争に負け続け、国を失った彼等のみ発動条件を満たす、

決まれば起死回生の奥の手だ。

 

 

この勝負は先に頭に来て、

相手を虐殺してしまった方の負けとなる。

 

相手を冒涜し過ぎても、自分達の印象は悪くなる。

あくまで、自分達は被害者だと主張し続ける事が肝心である。

 

 

現在の所、権力面では、

『宗教界の殺し屋』こと、キリスト教が大きくリードしている。

 

だが、その短気な性格故に、

『宗教界の闇金帝王』ことユダヤに、じわじわと利権を巻き返されている状態だ。

 

 

お互い高度な人心掌握スキルを備え、

勤勉に励み、日々それに磨きをかけている。

 

非常にハイレベルな、世界すら巻き込み翻弄する、

最高峰の駆け引きの応酬だ。

 

 

 

 

「高利貸しをするユダヤがいたら、ワタクシが追い払って差し上げますわよ?」

 

 

腰に手をあてた前傾姿勢を取り、

ニヤリとした笑顔を浮かべながら、

 

“悪い子はいないか”

 

というように、指先をゆっくり右から左へと動かす。

 

 

 

『YEAHHHHHHッ!!』

 

 

『言うねぇ~っ!』

 

 

 

1000年後なら問題発言だが、この場では歓声が上がる。

 

上手くいった。

 

 

芸を行いながら、観客を一人残らず見定め、

先程の反応で好みも把握した。

 

この都市の者達は、ユダヤに様々なストレスを抱えている。

荒々しい言葉でけなしてやる事が、一番この地の住人と認めてもらえる。

 

観客にユダヤが紛れているかは判らないが、

高利貸し等、している方が悪いのだ。

 

それに、これは処世術であって、

実際に自分が追い出す訳ではないのだから。

 

 

 

 

『ヘレンちゃん!炎は出せないのか?“夕日の魔女” みたいに!』

 

 

 

「…ッ!」

 

 

 

観客の一人から、アンコールを要求される。

これはまだまだ絞り取れる、金儲けのチャンス。

 

である以上に、自分の芸を求められている。

 

アンコールは芸人冥利に尽きる、嬉しい要求だ。

 

 

だが、

 

 

 

 

「夕日の…魔女?」

 

 

 

 

夕日の魔女。

もしくは、炎の魔女。

 

コンスタンティノープルの北にある灯台。

 

そこにひっそりと暮らす、

夕日のように赤いマントを羽織る女性。

 

 

彼女は炎を操る “魔女” と噂され、畏怖されているが、

ヘレンはそれを知らない。

 

 

でも、問題はそこではない。

 

 

 

「炎を灯す、事は…」

 

 

 

火を付ける魔法は、

 

夢でも現実でも、出来る。

 

 

 

 

 

でも、

 

自分の意思で消す事が出来ない。

 

 

 

 

 

夢でも、現実でも。

 

 

 

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