※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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ギリシアの火 ~ローマ帝国最終兵器~

『ヘレンちゃん!炎は出せないのか?“夕日の魔女” みたいに!』

 

 

 

忘れられない、苦い経験のある魔法。

使う度に、あの日の事を鮮明に思い出す。

 

なるべくなら使いたくない。

 

 

 

『夕日の魔女はお伽噺だろう?火打金も使わず、火なんて起こせるハズがない』

 

 

『親父が見たって言ったんだよ!』

 

 

『ヘレンちゃんなら出来るんじゃないか?なんたって…』

 

 

『もし出してくれたら、俺は “金貨” を入れてもいいぞ!』

 

 

 

それを聞いたヘレンは、

天使のように明るい微笑みで答える。

 

 

 

「…できましてよっ!!」

 

 

 

『オオオオォォォ!!』

 

 

 

炎は生活に欠かせない物。

今までも必要な時は、嫌々ながら使ってきた。

 

自分の意思で消せないと言っても、それは普通の事だ。

 

水でも消えないが、

永遠に、絶対に消えない訳ではない。

 

あくまで、“水では消えにくい” という位だ。

 

熱や大きさも操れるし、

氷の次に得意な系統とも言える。

 

 

 

何より、金貨と聞いては、黙ってはいられない。

 

一枚あれば、レアカードを引くまでガチャを…ではなく、

一週間は何もせずに、宿暮らしが出来る。

 

しかも一番良い部屋で。

 

 

 

『本当か!?何も使わず炎を出せるのか!?』

 

 

『大変なんだよなぁ~火付けるのって』

 

 

この時代の人々は、

一度火を付けると、何日もそれを絶やさない。

 

料理場のカマドには火が灯り続け、それでスープを煮込み、

食べた分だけ材料を足していく。

炎を灯すというのは、意外と大きなイベントなのだ。

 

 

大道芸で行った事はないが、背に腹は変えられない。

 

大丈夫だ、自分はもう子供ではないのだから。

 

 

 

「それではアンコールにお応えし、これより、あのアトラス像に、炎を灯してご覧に入れますわ!!」

 

 

 

炎とは上に伸びる物。

高い所、アトラス像にでも付ければ、安全のハズだ。

石像なら、熱を抑えれば溶ける事もないだろう。

 

たぶん。

 

 

 

「(大丈夫…焚き火を付けるのと同じ…同じですわ。熱は抑え、炎は大きく)」

 

 

 

アトラス像を、

敵でも見るかのように睨みつける。

 

 

 

 

 

 

 

(熱い、たすけて…)

 

 

 

 

 

 

 

「く…っ」

 

 

 

 

ヘレンは首を振り、再び集中する。

 

先程とは違う、

薄っすらと赤い蜃気楼が浮かび上がる。

 

 

注視しなければ、ほとんど見えないような歪み。

ヘレンの視ている世界を、この世界に映し出すレンズ。

 

 

観客達は息を呑み、アトラス像に注目する。

 

 

 

 

「…ご覧あそばせッ!!」

 

 

 

準備の出来た “そこ” にイメージをぶつけると、

轟音と共に勢い良く、大きな、とても大きな、

 

球体状の炎が灯った。

 

 

 

『オオオオォォォ…ッ!!』

 

 

 

成功だ。

 

炎は勢い良く燃え盛り、

煌々とした輝きを放っている。

 

 

 

『スゴイ!!こんなデケ―炎見た事ないぞ!!』

 

 

 

『ほらなっ!!言った通りだ!炎の魔法はあったんだよ!約束の金貨を入れるぞォーッ!!』

 

 

 

リクエストした男が、高々と金貨を掲げる。

 

 

 

『オオオォォ…ん?』

 

 

『あれ?』

 

 

 

歓声が上がりかけたが、期待外れの声に変わる。

 

 

 

『オイそれ、ソリドゥスじゃねーか!男らしくねーぞッ!!』

 

 

『なんだよ、ソリドゥスの方かよ~』

 

 

金貨を掲げた男は、先程と打って変わっていそいそと、

籠にソリドゥス金貨を入れる。

 

 

ソリドゥス金貨とは、混ぜ物の多い金貨である。

 

数百年、その品質を守り抜いてきたものの、

国家予算の7割に上る軍事費、それによる財政圧迫。

交易による、金の流出。

 

数十年前から、これらの補填を理由に改鋳が行われ始め、

その価値を一気に落としていった。

 

元々は100%近い純度を誇っていたが、今では30%程度。

しまっておくと劣化して、

金貨だった物が、銀貨になっていたりする。

 

 

ついに6年前、発行が停止し、純度の高い別の金貨が発行された。

 

役所に持っていけば価値に応じた新貨幣に交換されるが、

記念として残しておいた物だろう。

 

掲げたそれは、黄金の輝きなど無く、

錆びないハズの金が、錆びている。

 

おそらく、銀貨程度の価値しかないだろう。

 

 

 

『しょうがねぇ、俺が銀貨を入れてやるぜ!』

 

 

 

『輪っかだ!細い輪っかが仕込んであって、油が塗られていたんだ!』

 

 

 

『まるで、太陽が現れたようだな』

 

 

 

『第二の太陽だ!!第二の太陽を作り上げちまったんだ!!』

 

 

 

 

 

観客達が盛り上がっている中、

 

ヘレンは目を見開き、戦慄している。

 

 

 

 

 

 

――おかしい。

 

 

自分は確かに、アトラス像に大きな炎を灯した。

でもそれは、あそこまで大きい物ではない。

 

なにより蝋燭のような形で、球体の炎などイメージしていない。

 

 

多くの人々が行き交う、身近な広場の、

身近な彫刻の上に、

 

 

 

誰も知らない、

 

 

 

球体状の “何か” があるとでもいうのか。

 

 

 

 

 

 

 

(ですが今は…、そんな事を考えている場合ではありませんわ)

 

 

 

もっと大事な事を、

皆に伝えておかねばならない。

 

 

 

「この炎は水をかけても消えませんの。ですから絶対に、お手を触れないようお願い申し上げますわ」

 

 

 

ヘレンの注意に合わせるかのように、

 

放水口を覆っていた氷の蓋が溶け、

噴水が水を跳ね上げる。

 

像の真上にある炎球には、直接掛かってはいないが、

飛沫が飛んでも炎は勢いを全く弱めない。

 

 

 

 

『ギリシアの火かッ!ファラリカだッ!!』

 

 

 

「ファラ…?」

 

 

ギリシアの火というのは、

言われた事があるので何となく判るが、

 

ファラリカ…は、よく判らない。

 

だが、客に説明はしても、

教えを乞うようでは、大道芸人失格だ。

 

 

 

「…そういう事ですわっ!」

 

 

 

指を立て、やや溜めてから、軽やかに跳ね上げる。

よく出来ました、と言わんばかりに。

 

また見栄を張ってしまった。

知りもしないのに。

 

 

 

『オオオオォォォ…ッ!!』

 

 

 

兎にも角にも、理解が早くて助かった。

 

 

 

ギリシアの火とは、

ローマ帝国海軍、最重要機密兵器だ。

 

その実態は、水の上で燃える炎。

 

船からサイフォンという火炎放射器で放ったり、

陶器で包み、手榴弾として投擲する。

 

幾多の敵艦隊を、この炎によって轟沈せしめた。

 

帝国民達は代々、

海に煌々と輝くギリシアの火に拳を掲げ、勝鬨を上げ、

誇りとしてきた。

 

 

付いたあだ名が、帝国の太陽・火槍(ファラリカ)

 

 

神話(フィクション)ではない、現実での最強兵器。

 

 

男達のロマン。

 

 

奇しくも、

中華の気孔においても、最強の攻撃方法の名を冠している。

 

 

 

 

「それでは、本日はこれにて…」

 

 

 

後ろ足を引き、

スカートをつまみ上げ、軽やかに腰を落とす。

 

 

 

その様子を遠目から眺めていた、噴水管理人ラビは、

大口を開けて、呆然としている。

 

我がローマ帝国の中心、

神聖な神降ろしの噴水に、火をつけた。

 

なんという冒涜だろうか。

 

 

 

『よっ!帝国一のイリュージョニスト!』

 

 

 

『明日もやってくれよぉ~!!』

 

 

 

 

ヘレンは笑顔で上品に手を振り、稼いだ金を旅館に預けに行く。

 

 

 

 

観客達も芸の余韻に浸り、その場を後にしながら、

 

煌々と輝く第二の太陽を、振り返りながら思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

――この炎、消していかないの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

噴水前には、

 

 

『この炎、触れるべからず、いかなる責任も負いかねます』

 

という看板が立てられ、

 

少しづつ弱くなり、完全に消えたのは、

その日の夜が明ける頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

ヘレンはその夜、宿から見える薄い炎を見て思う。

 

 

 

 

炎を使うのは複雑な気持ちだ。

 

焚き火程度には使ってきたが、

大勢に見せるとなると、やはり違う。

 

 

ただ、ウケた。

 

今までにない程に。

 

 

魔法のアイテム、お金を得る為には、

何かを犠牲にしなくてはいけない。

 

 

お金の為に奴隷になる者だって、大勢いるのだ。

 

 

 

自分はもう子供ではない。

 

安全に留意すれば、大丈夫のハズだ。

 

うまく付き合っていくしかない。

 

 

 

 

 

 

 

あの炎は朝には消えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

でも、

 

 

 

 

 

 

 

自分が人殺しである事実は、一生消える事は無い。

 

 

 

 

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