シルクロードオンライン¬(differentiam) 作:hachu
(ああ……これだけの被害を出してしまっては、武官の道は断たれただろうな……)
美しい光と共に、ウェイに走馬灯のような情景が浮かぶ。
(て言うか、この距離、武官とか言ってる場合じゃないんじゃあ……?)
全員が優しい光に包まれ、各々の大切な人を思い浮かべる――――
「ヘレンっちぃ、いけるぅ~?」
ヘレンはゆっくり目を見開き、
「ありがとう、もう落ち着きましたわ――――」
この世界を睨み付ける。
「必中ですわ」
(――――――ッ!! ――――……)
瞬閃が閃光を掻き消すと、地面で少量の岩がはじけ飛んだ。
『――――……?』
目を開けると白霊の上、赤い天使の輪が広がりながら消えていき、
そこに在った物は “ゴロン” と音を立てて転がっていた。
『石に…………なって、ない……?』
大砲を撃った後のような、低音の余韻だけが響いている。
厚い天井が破れ、朝の光が地下に差し込む。
『誰が…………殺ったんだ……?』
ヘレンが呼び寄せた隕鉄が地面を破り、地下に到達し、
呂晶が斬り付けた大刀の峰に正確にヒットし、
『首を撥ねた武器を持つ者が』と言うのなら、
白霊の討伐者とは、いま石ころのように転がり落ちている呂晶という事になるが、
この場にいた全員にとっては――――
『あの子だ…………』
左翼後方――――空中に描かれた真っ赤な『陣』のようなものを、
目を瞑ったまま杖の一振りで火の粉に返す少女。
どう見ても首を撥ねたのは、彼女が放った一撃だ。
自分達の中に『アレ』を放てる者がいないのだから消去法でそうなる。
脳の指令を失った白霊の体は轟音を響かせ、地面に崩れ落ちる。
『オオオオオォォォォーーーッッ!!!』
勝鬨が上がる、今こそ最もドーパミンを分泌させる瞬間である。
この時の為に戦っていたと言っても過言ではないのだから。
『ぅおらああああがぁああーーーーッ!!!』
特に死を覚悟してからの反動、此度の勝鬨は最高の快感だ。
叫ばない方が勿体無い。
「クソッタレ――――……っ!!」
呂晶は白霊の死体に埋もれ、悔しさに震えていた。
右肩が脱臼して痺れている。
天地がひっくり返る衝撃で何も判らなかったが、
(額に傷を付けた……あのガキの攻撃……ッ!!)
切っ先に首を飛ばしたような手応えもあったが、
同時に反対側から山をぶつけられたような重さを感じた。
外で起きている勝鬨は、あのガキに向けられたものだろう。
下手をこき、醜態まで晒してしまった。
“首を撥ねたのは私だ” と言ったところで、失笑に吹かれるだけだろう。
頑張ったのに――――
「くそっ……クソッ……!!」
片腕が使い物にならず、死体から這い出るのに手間取う。
他にもムカつく事がある。
やっとの思いで脱出し、手放した武器を探す――――やはり
「……クッソオォッ!!」
天塩にかけた自慢の『人斬り包丁』が割れている。
二度もメテオを受け止めたのだ、当然と言えば当然だ。
完全に折れなかったのは不幸中の幸いだが、
峰から走る亀裂は切っ先まで達している。
修復できるかは怪しい。
(一体コレに、いくら掛けたと思ってやがる……ッ!!)
破損が広がらぬよう慎重に拾い上げる。
身体中に痛みが走る。くそっ、何もかもイラつく。
(完璧に、“計画通り” だったのに――――……っ!)
本当に、上手く行き過ぎたほど『計画通り』だった。
危機に陥ったこの化物は、死に物狂いで
誰もがその発生を予期し、注意喚起したり、走り抜ける余裕さえもある、
あの無防備で
(――――千年生きた化物だ、私達とは戦の概念が違うのだろう)
敵に囲まれた状態でそんな隙を晒すなどあり得ない。
千年の悠久を生き抜いた、神の如し生物に対し――――
(――――千年生きても、やっぱ馬鹿は馬鹿じゃん)
そう思った。
『放った直後』では無い、『放つ直前』こそが最大のチャンスなのだ。
だが、世にも恐ろしい『千年さん』が石化の体勢に入れば、
どうせどいつもこいつも、ビビって逃げ出そうとしやがる。
『二連射の可能性』を告げれば、馬鹿共がグチグチと反論し、
作戦が実行できないのは判っていた。
自分が死ぬかもしれないその時になっても腹を括れない凡愚共、
そんな奴らに足を引っ張られてたまるか。
(だから仲間を人質にして、
共に戦う仲間すら出し抜き利用する、自分以外は全て凡愚、
この女はそんな危険思想を持つ、とても性格の悪い女だ。
誤算があるとしたら、斬り付けた後の『爆功』――――
『爆功』は下手をすれば自爆しかねない危険な技。
特に巫舞の状態で本気を出せば、どれ程の威力になるか検討も付かない。
かつてのトラウマが蘇り、威力を抑えてしまった。
結局の所、自分がビビってしまったのだ。
(だって、死ぬと思ったんだもん…………)
全て思惑通りに運んでも、最後の最後に詰めを誤る。
誰にも転嫁出来ない自分のミスで。
自分はいつもこうだ。本当は出来る子なのに、
どれだけ頑張っても誰も称賛してくれない――――
そうなる理由も理解している、全て理解している。
辛い選択を理解した上で、それでもその道を進んでいる。
でも覚悟してるからと言って、受け入れてる訳じゃないんだ。
「――――……。」
あのガキを睨みつけてやろうと探すが、
ローマチームはすでに背を向け、帰投を始めている。
白霊が死に根が収縮したことで塞がっていた出口が開いたようだ。
それに、彼らは此処に長居できない――――
みだりに使えぬと判っていても、彼等がいれば、
還らぬ者や、これからそうなる者に、それを施してもらいたくなる気持ちを、
抑えられなくなるからだ。
見回すと、他の者は残党処理をしている。
手の空いている者は腕を組み合ったり、死体から鱗や血を採取している。
(……思った通りじゃん)
生前の肉片は生物になるが死後の肉片は生物にはならない。
“自分でちぎった” と聞き、なんらかの『意思』が必要なのだろうと思った。
まあ、生前飛び散ったのはなるだろうが、知った事か。
上下がなければ雑魚共は雑魚だ。
しかし――――ついさっきまでお通夜みたいな顔をしていたのに、
全員、なんと雄々しい面か。
(いつもこーゆう男らしい顔してれば、アタシの股もこうやって濡れようもんなのに……)
違う、オシッコちびってた――――
感触がサラサラしてる、血みどろだから判るまい。
怖かった――――
奴の瞳孔がぎゅーっと細長くなった時、もうダメだと思った。
しばらく夢に出そうだ。
体を見ると、護具が所々石になっている、新調しないと。
前髪も先が重い、これ以上白髪になったらどうしよう。
瞬きすると睫毛がポロポロ落ちる。
前髪はまだ良い――――まつ毛ってまた生えるのか?
まあ、生き残っただけでも上等だろう。
「うん、そうだよ…………あのガキに、泣きべそかかせる楽しみが…………出来たんだし……」
そう思いながら、心の安定を図る呂晶の顔は、
様々な感情が交錯し、ちょっぴり泣きべそをかいていた。
「ぐすっ……」
彼女はまだ知らない。
白霊の生き血が身体中の穴から吸収され、肉体が変化を始めていた事を。
◆
「よくやったヘレン。さすがだ」
肩に手を置かれ、ヘレンは頬を紅く染める。
「んっ、そんな、今回は調子が悪くて……皆様に助けられましたわ」
ヴァリキエが剣をかざすと、ヘレンも杖をかざし、
お互い『乾杯』するように軽く叩かせる。
二人は共に聖騎士であり、貴族だ。
「勝鬨を挙げる逞しい男達――――ああ、クラクラしちゃう……ダメっ! 私には夫がいるのよ……っ!」
「よし――――ならば皆、今宵は朝まで飲み明かそう」
「それな……」
人類屈指の腕力を誇り、酔うと更に強くなるヴァリキエを止めるのは、
バルクスといえど容易ではない。
「私は遠慮しておきます――――神父ですので」
マニュエルもキャラを捨て、キッパリと断る。
本当の神父では無いが、こういう時に神父を装えるのは便利だ。
彼等も彼等なりに勝利を喜んでいる――――
だが、勝ち戦だと言うのにルリアの顔は険しい。
(蛇達のヘレンっちへの反応は、異常だった――――)
あれは襲い掛かっていたのではない。
まるで
『ヘレンを囮に使う』という呂晶の読みは正しかった。
(この地の妖怪すら従えるのであれば、あるいは――――……)
険しい顔に笑みが宿る。
だがその笑みは勝利を喜ぶ物では無く、
普段のマイペースな彼女のものでも無かった。
~あとがき~
主人公:Lv90代前半
補正:力極
マスタリー:槍90、炎70、氷30、雷5、内功85
秦始皇帝陵の解放はLv90キャップの解放と同時でした。
トップランカーが90前半では、あの人数で白霊は倒せないです。画像データでは白霊のLvが100になってますが、仕様変更後のもので、この時は105になります。
「わーっ」といって倒せる敵でも無く、実際の討伐風景はもっと漫然としたものになっています。
ギリシャ語の訛り云々はかなり適当です。
「巫舞」は「闘神」というシステムで1分間移動と与ダメが倍になり、
Lv95くらいからは「蒼神」にランクアップして、仲間と同時に使うと効果が伸びます。
EUPTはカースガード(状態異常防御魔法)があるので氷系気功で凍りません。当時はEU黎明期でカースガードのLvを上げてない人、上げてても忘れてる人が多かった為、神父が凍りました。
PvPを意識するようになりカースガードの掛け忘れは無くなっていきますが、ようはあんな感じの事があって意識するようになっていきました。(MPKは滅多にないですが)
ヴァリキエが舌打ちするのは、自分は装備が壊れそうなほど負担がかかっているのに、神父がカースガードすら忘れていた為です。実際にこんなような文句はよくありました。実際は装備が壊れ易いのはクレリックの方ですが。
「我々も後がない」というのは、余裕があるように見えたEUPTも、ヴァリキエがかなり疲弊し、ヘレンの調子も悪く、メテオを一度外してしまった事に起因します。
8人編成が基本のEUPTですが、黎明期ということで6人となっています。
中華は元々ソロプレイ用なので、PTに入ってもあまり恩恵が得られません。
EU登場時からの「キャラ作成時にEU選ばないとゲームオーバー問題」は現在も継続しているようで、残念ながらもう治らなそうです。
花雪の象棋の質問ついては、これから大一番に向かう呂晶を励まそうとしています。
花雪は呂晶を密かなライバルと思っています。嫌いだけどちょっぴり好きです。
呂晶なら(家が良家なので)象牙だろうと予想し、引き分けにしてあげようという優しさです(しし座のアナタは絶好調的な)
「勝たせてあげる」といった感覚は彼女は持たないため、引き分けでも優しくしてるのです。
もし象牙以下の板や何かなら、それはそれで勝てるからOKという打算もありました。
ただ瑪瑙と聞いて「それ良いかも」と思う精神的な敗北+「自分と一緒じゃなくて寂しい」を感じてしまい、なんとかあら探しして「自作」の点で自分は職人に作ってもらったから勝ってる、つまり最初の予定通り引き分けだと主張しています。
けど、「自作」というのも楽しそうと一瞬思ってしまい、悔しそうな感じになっています。
裏の意味では、お前の戦術は、板(素人の奇策)か? 象牙(玄人の定石)か? という占いに対し、瑪瑙(私は自分の道を行く)という結果です。