※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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カミタケと1000年さん

 

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この化物と戦い始め、何刻が経っただろうか。

何日も戦い続けているように思えるし、ほとんど経っていないようにも思う。

 

陽の光が届かないため感覚が狂う、急がなければならぬというのに。

 

 

 

 

「なんとも、厳しい攻撃だ――――……」

 

 

 

 

炎帝・神武は乱れる息を整え、

これまでの戦いで得た情報から彼我の戦力差を分析する。

 

 

 

 

――――地中を這い回る尾と降り注ぐ数多の術により、懐に飛び込む事が出来ない

 

炎帝の由来たる炎功も効きが悪く牽制にもならない。

意を決し、捨て身で斬りつけた首の斬り口すらもう塞がりかけている。

こんな小さな槍では奴の首を落とせない。

 

それに奴は、まだ力の深淵を見せてはいない、

おそらく何らかの奥の手を持っている。

 

黒殺竜・楊汀を屠り、

江湖のみならず中華最強と謳われる炎帝がその命を賭していると言うのに、

妖怪一匹に弄ばれているなど情けなくて笑えてくる。

 

もっと真面目に鍛錬を積んでおくべきだった。

 

親友だったアイツのように――――

 

 

 

 

(いいや、こんな化物を想定した鍛錬など……この世界には存在せんか)

 

 

「……。」

 

 

 

 

武人をじっと観察している、千の悠久を生き抜いた白蛇・白霊は、

武人の筋肉がわずかに力を緩めた様子を見て、

象棋で言うところの『詰み』の気配を感じ取った。

 

上半身を人間の女性に擬態している白霊は、

口を動かさずに、どこからか声を発する。

 

 

 

 

「お前は何年生きた?」

 

 

「――――っ!?」

 

 

 

 

化物が喋った。

 

“あの姿なら喋れそうだ” とは思っていたが、

いざ喋られると面食らう。

 

 

 

 

「…………二十六年だ」

 

 

 

 

白霊は無表情のまま笑う。

 

 

 

 

「二十六……あっはっはっはっはっはっは!!!」

 

 

 

 

――――そりゃあ、そうだろう

 

“千年さん” に比べりゃ、俺の人生など笑えるほど短いのだろう。

 

だが奴は人間のような姿をしていても人間では無い。

化物如きに笑われていると思うと無性に腹が立つ。

それ以上に、誰も救えない自分に腹が立つ。

 

すると突然、白霊の巨躯が溶けるように萎んでいく。

 

 

 

 

「なっ――――……!?」

 

 

 

 

唐突な出来事、何が起こっているか理解出来ない。

 

新たな術による攻撃か、

それとも ”コレ” は始めからそういうもので、

幻惑のような物と戦わされていたのか。

 

白霊は萎んでいったある地点から一瞬で消えたように無くなり、

羽織っていた人間の十倍はあろうサイズの着物が、バサバサと音を立て崩れ落ちる。

 

その下に、『小さい何か』が蠢いている。

 

 

 

 

「よいしょ…………よいしょ…………」

 

 

 

 

『蠢く者』は声を発している。

それは着物から這い出ると立ち上がり、自分と神武を交互に見比べ、

人間のように言語を発する。

 

 

 

 

「少し小さ過ぎたか……まあ、丁度いい(・・・・)」

 

 

 

 

真白な肌と真黒で長い髪をした――――裸の幼女

 

それも幼馴染である月英の、

自分が彼女を好きだと自覚した、その時分の姿。

 

 

 

 

(そんな…………馬鹿な……)

 

 

 

 

いや、微妙に違う。

目元が少し大きく、鮮明な記憶を思い出すと他にも違う部分がある。

 

特に腰裏、奴が先程まで居た地点に向かい、

長い『尾』のような物が伸びている。

 

 

 

 

(頭部を、凝縮させたのか……?)

 

 

 

 

槍を握る手に力が籠もる。

今この幼女、もしくは体躯に繋がる尾を切れば、おそらく殺す事ができる。

炎帝・神武は確信に近い直感でそう思った。

 

 

 

 

「ぐっ……!」

 

 

 

 

だが、斬れない。

これを斬る事は、自分の『存在理由』を斬り捨てるのと同じだからだ。

 

親や友人、あるいは今の月英の姿であれば、

逆上して斬る事も出来ただろう。

だが、これだけは斬ろうとしても体が動かない。

 

そんな神武に意を介さず、

裸の幼女は長い尾を引きずりながら、無防備に歩み寄って来る。

 

 

 

 

「二十六、二十六か…………クックック……」

 

 

 

 

白霊は理解している。

相手が逆上し、斬り付けられるといった想定もしていない。

1+1=2のように “2以外の可能性” など、考えていない。

 

例えば猛獣。

腹が満たされていれば、獲物に食らい付きはしない。

つつけば怒りもするだろうが、距離を取っていれば襲われる可能性は皆無と言える。

 

それでも心配なら、

自分より近くに自分より興味を引く物でも置いておけばいい。

それで『100%』襲われる事はない。

 

理論ではなく本能だ。

千年の悠久で人間を観察し、人間よりも人間を知り尽くした蛇が、

『100%襲われる事の無い擬態』を取ったのだ。

 

斬りつける事など、出来るハズが無い。

 

 

 

 

「ワシは千二十六歳じゃ、スゴイじゃろう?」

 

 

 

 

何がスゴイのだろう。

 

 

 

 

「千年生きている事は知っている……知っているから此処へ来た」

 

 

「違う、二十六と千二十六じゃ……ほれ! この ”二十六” のとこが一緒じゃ、すごいじゃろう!?」

 

 

 

 

――――馬鹿だ

 

幼女に擬態したため、知能も幼女並になったのか? いや、違う。

 

千年生きて得られたのが、

恐るべき妖力と確率を越えた本能への理解、そして幼女並の知能なのだろう。

 

コイツは人間のような姿だが、人間ではない。

その成長は、人間が千歳生きたものとは概念が異なるのだ。

 

 

 

 

「――――偶然だ、人間は数十年は生きる。数十に一つは二十六だ」

 

 

「そうかのう、スゴイのに……判らんヤツじゃ」

 

 

「それを言う為に、その姿になったのか」

 

 

「ワシは千二十六年でこの強さじゃ。そのワシに二十六年のお前が一太刀いれた。ワシが二十六年の頃と言ったらそう……こんなんじゃったな」

 

 

 

 

親指と人差し指の間に、一寸ほどの隙間を作る。

 

 

 

 

「それは無い」

 

 

「なんでじゃっ! こんなんじゃったもん! お前は生まれておらんから見た事がないっ!」

 

 

 

 

コイツ、判っていない――――

おそらく自分が縮んだ事を忘れ、縮尺を誤っている。

 

 

 

 

「ワシはこの世界がどれだけ広いか見てみたい、世界の果てがどうなっているか見た事がない、人間がワシの尾を突ついてウザいのじゃ」

 

 

 

 

ガイジか――――?

前後も成り立っていない、支離滅裂だ。

 

 

 

 

「ワシの子は馬鹿じゃから思うように動かん、四聖どもは金魚の糞じゃ、小小はイエスマン」

 

 

 

 

『小小』とは、ここまで案内した黒蛇の擬態だろうか。

 

 

 

 

「そろそろ、“尾を突付く以上の事” をされるじゃろう…………お前がワシを守ってくれ」

 

 

 

 

炎帝が守りし者、

それは ”中華で最も安全な者” を意味する。

 

白霊がそれを見抜いたのかは判らない。

 

 

 

 

(馬鹿はお前だ)

 

 

 

 

神武は再び腕に力を込める。

 

猛獣は満腹であれば襲ってはこない、だが腹が減れば話は別だ。

 

時が経てば決心も固まる、

斬れなかったのはさっきの話だ、化物め――――

 

 

 

 

「……。」

 

 

 

 

神武が槍に力を込める際の、

首筋から肩へ伝わる力を白霊は見逃さない。

 

 

 

 

「んん~~~っ!!」

 

 

(――――なんだ? 背伸びをして、槍を……)

 

 

 

 

幼女が『抱っこ』をせがむような愛らしさに、

固まりかけた決心が吹き飛ぶ。

 

目をぎゅっと瞑(つむ)り一生懸命に腕を伸ばして、

片足でよろよろと背伸びをする様子に――――

 

つい、槍を差し出してしまう。

 

 

 

 

「おお、すまんのう」

 

 

 

 

戦闘中、しかも敵に武器を差し出すなど、

とんでもない失態であるにも関わらず。

 

 

 

 

「武器なぞ触るのは、もう何年ぶりじゃろうな」

 

 

 

 

武人の命とも言える槍を、白霊に掴まれる。

 

 

 

 

「瓶は持っておろう?」

 

 

「瓶? あ、ああ……」

 

 

 

 

腰に括り付けていた、白霊の血を詰めようとしていた革の水筒を差し出す。

もはや化物の言いなりだ。

 

 

 

 

「はあ? そんなんじゃダメじゃ、お前もけっこう馬鹿じゃのう……――――よっ!」

 

 

 

 

白霊が自分の腰、人間で言う腎臓のある辺りに ”ずぶり” と手を突っ込む。

そして禍々しい揺らめき、妖怪が使う気孔『妖気』を発する。

 

 

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 

 

それを目視し、神武はようやく我に返る。

 

 

 

 

(そうだ…………俺は化物と戦っていたんだ……)

 

 

 

 

白霊は術を使いながらも、伏せた顔から上目遣いで覗き、

神武の表情を見逃さない。

 

 

 

 

「――――よし」

 

 

 

 

”しゅぽんっ” という気の抜けた音と共に、白霊が何か取り出した。

 

 

 

 

「持て」

 

 

 

 

硝石で作られたであろう『透明な筒』

 

気の抜けた音と可憐な声に気を取られ、

我に返り掛けた神武は、また化物の言いなりにそれを手に取る。

 

 

 

 

「でりゃああっ!!」

 

 

 

 

白霊は突然、槍の切っ先に『左手首』をあてがい、

倒れ込むようにして

 

 

 

 

「――――ッ!?」

 

 

 

 

手首を切った。

 

 

 

 

「なっ……何を!?」

 

 

 

 

神武は魂とも言える己の武器を捨て、よろめく幼女を支える。

槍が地面に落ちる “ガラン” という金属質の音が響く。

 

自分はこれ(・・)を成そうとしていたと言うのに、

まるで過ちを犯してしまったかのように、

 

槍を離してしまう。

 

 

 

 

「ほれ、これが欲しいのじゃろう……?」

 

 

 

 

神武が持つ瓶にそれ(・・)が注がれ、みるみる溢れていく。

溢れているのに、それは一向に止まる様子が無い。

 

 

 

 

「お前、血が……腕が…………」

 

 

 

 

傷口が深い、深いなんてものじゃ無い。

左手は手首とかろうじて皮で繋がり、ぶら下がっている。

 

 

 

 

「あー……」

 

 

 

 

白霊はキョロキョロと見回し、

神武が腰に括っている『革の水筒』に目を付ける。

 

 

 

 

「それを寄越せ――――」

 

 

 

 

右手で奪い、乱暴に左の肘関節に叩き付け、

握り飯でも握るように再度、禍々しい妖気を発する。

 

 

 

 

「……。」

 

 

 

 

神武は、もうその意図が判っている。

だから斬り付けようなどとは考えない

 

――――考えたく、無い

 

 

 

 

白霊が右手を開くと、小さな塊が出来上がっていた。

それで先程の瓶に栓をする。

 

 

 

 

「うむうむ」

 

 

 

 

白霊は栓をポンポンと叩きながら、満足気に頷く。

 

 

 

 

「そうやって……何でも身体から作ったのか? 着物や装飾も……」

 

 

 

 

つい、今聞くようなことでは無いことを聞いてしまう。

 

 

 

 

「うむ、腹から糸を紡いでな」

 

 

 

 

半ば不可能と諦め掛けていた、

一瓶百貫文は下らぬだろう白霊の血液を手に入れた。

 

何でも創り出してしまうような、その源を。

 

 

 

 

「何せ暇じゃからな、織物はかれこれ五十年ほどやっておるのじゃ」

 

 

(これがあれば、月英は――――)

 

 

 

 

月英を凌辱した挙げ句に毒を飲ませ、

親友の楊汀に反逆を強制させた苗族の暗殺者達。

 

地上で拷問した奴が言い残した、月英を救える唯一の『万能薬』

おそらく、先程の『自分を守れ』とは、この見返りで――――

 

 

 

 

「効果は、月が一回満ち欠けるまで(・・・・・・・・・・・)じゃ」

 

 

 

 

――――っ!!

 

 

 

 

「お前の体に付着した、お前のつがいに付着した毒……生き物を殺す為の物では無い」

 

 

 

 

細く先の割れた舌を素早く出し入れし、難しい宿題でも考えるような顔で喋る。

 

神武にわずかに付着した月英由来の繊維や分泌物。

それに含まれる更に微量な毒の分子、

更にそれが発する『中性子線』をその舌ですくい取り、解析したのだ。

 

 

 

 

「もっと大それた事をする為に作られ、それを成す事が出来なかった不完全な物じゃ」

 

 

 

 

月英が含まされたのは只の毒では無い。

 

気功家達が世話になっている遺跡の『歪み』

それとウランを半端に生成した物を混ぜ合わせた放射性物質(・・・・・)だ。

 

それは月英の肺を始めとする臓器に蓄積され、

この時代はおろか、千年後でさえ身体から排除する方法は無い。

 

 

 

 

「戦っておる時から気になっとったが、それを治すのが目的じゃろう? 無理じゃ」

 

 

 

 

そもそも白霊の血でさえ万能薬では無い。

驚くべき効能はあっても、見方を変えれば毒と同義だ。

 

 

 

 

「……――――っ!!」

 

 

 

 

神武が崩れ落ちる。

 

友を殺し、奴等を拷問し、陰気な洞窟をここまで降り、

やっとの思いで手に入れたと言うのに。

 

 

 

 

「ひと月しか…………ひと月しか保たないと言うのか…………」

 

 

 

 

あんまりだ。

門家の闘争に巻き込まれた親友の妹、そして自分の想い人。

 

何の罪も無い月英が、凌辱の挙げ句、遊ばれるように毒まで含まされ、

苦しみ悶えて死ぬ運命など。

 

 

 

 

「これを飲ませても……ひと月後に月英は…………ぐっ……!!」

 

 

 

 

苦しみを一ヶ月伸ばしたとして、何の意味があるのだろうか。

 

恨みは既に果たしている。

奴らは四肢を断つ拷問を加え、既に殺してしまっている。

 

 

 

 

「俺の……俺の所為で…………俺の……」

 

 

 

 

自分が楊汀を殺したから。

妹を人質にされ、門家に反逆した黒殺龍を自分が殺したから、

月英は毒を含まされた。

 

自分が殺されていれば、親友と想い人は死ななかった。

この化け物にさえ、ただ晴れない自分の恨みをぶつけていただけ、

この化け物でさえ、何の罪も無いのだ。

 

自分が死ねば良かったのだ――――

 

なんて、あんまりな仕打ちだ。

 

 

 

 

「また来れば良いじゃろう(・・・・・・・・・・・)」

 

 

「――――ッ!!」

 

 

 

 

化け物のその言葉で、神武は顔を上げる。

 

 

 

 

「いや、違うな……ひと月に一度、その月英とやらの元に赴くことを許す(・・)」

 

 

 

 

白霊は千切れ落ちそうなその手で命ずる。

いや、手首から先は垂れ下がっているので、腕で命ずる。

 

 

 

 

「以外はワシを守れ」

 

 

 

 

その腕からは止め処なく血液が溢れ落ちている。

その雫に釣られ下を向くと、地面に大きな血溜まりが広がっていく。

 

神武が考えているのは、命令そのものに対してでは無い。

この化け物の溢れる生命力、

そして “月に一度” という『継続性』のある言葉。

 

 

 

 

(そういう事か……月英を生かし続けたいなら、”生涯化物の配下になれ” と……)

 

 

 

 

世界を敵に回せ――――と

 

 

 

 

思っていたものとは違っていた。

だが、例えそうなったとしても『助ける』と誓ったのだ。

 

 

 

 

「――――腕の血を止めろ」

 

 

「かすり傷じゃ、こんなもん」

 

 

「止めるんだ」

 

 

 

 

神武は白霊の千切れかけた手を優しく持ち、

傷口を合わせる。

 

 

 

 

「守ってくれるか?」

 

 

「ああ、だから止めろ」

 

 

「裏切らない……?」

 

 

「しつこいぞ、早くしろ」

 

 

「むぅ」

 

 

 

 

白霊が不満気な表情を作ると、傷口が融合するように接着していき、

千切れる前のキレイな肌に戻った。

 

 

 

 

「それと、その姿にはもうなるな(・・・・・・・・・・)。混乱する」

 

 

 

 

神武が発したのは命令でもお願いでも無い、『交換条件』だ。

世界を敵に回すための。

 

 

 

 

「ダメじゃ、この姿はお前の欲望そのものじゃ(・・・・・・・・・・・・・・・)」

 

 

「――――なんだと?」

 

 

「お前はひと月に一度、つがいの元へ赴き使命を全うする。そしてこの姿を見続ける事で、永遠に使命に束縛される」

 

 

 

 

 

 

 

 

今、『永遠』と言ったか――――?

 

 

 

 

 

 

 

 

何年経とうと、例え月英が老いさばらえる年齢になったとしても、

自分が使命を投げ出さないよう、生涯を縛るつもりだ。

 

月英が ”もういい” と言っても、

自分が ”もういい” と投げ出したくなっても、

もっと愛する者が出来ようと、

 

そういったもろもろの可能性を潰す気なのだ。

 

 

 

 

「二十六年でこれじゃからな、ワシの年になればワシを越えるかもしれん、人(・)間(・)は(・)そ(・)ん(・)な(・)に(・)生(・)き(・)ん(・)ぞ(・)と(・)い(・)う(・)顔(・)を(・)し(・)て(・)お(・)る(・)な(・)」

 

 

 

 

心に思うと同時に心を読まれた。

もうすでに、心まで支配しているのだろうか。

 

 

 

 

「お前にもワシの血を飲ませる」

 

 

「……。」

 

 

 

 

月英を永遠に生かし、自分を永遠に束縛させる『自信』があるのだ。

『欲望』がどうのと、その『方法』にも検討が付いている口ぶりだ。

 

人には意志があり、永遠に束縛することなど出来ない。

『もう嫌だ、やめた』と思えばそれまでだ。

 

だがコイツは人間には不可能な、

『もう嫌だと思わせない方法』すらも、持ち得ているのかもしれない。

 

月英を生かし続けられると言うのに喜ぶべきことか判らない。

自分は今、恐ろしい契約を交わしているのではないだろうか?

 

 

 

 

「ワシの血は解毒薬ではない、ワシの意思を伝えるものじゃ」

 

 

 

 

コイツは人間のようなナリをしていても、

人間では無いのだから。

 

 

 

 

「お前達の体に入れば、お前達の意思を体に伝える」

 

 

「……。」

 

 

「意思によって体は繋がっている、それは判っておろう?」

 

 

 

 

そんな事判るか――――

 

 

 

 

「 ”生きたい” という意思の塊が生き物じゃ。ワシの血を入れ続ける限り、多分、その生き物は死すことはない……いや、絶対」

 

 

 

 

生涯どころでは無い、悠久の時を縛るつもりだ。

まるで蛇のように狡猾な奴だ。

 

 

 

 

「ああ、心配するでない。ワシもたまに舌を噛んで、ワシの血を飲んどる。だからワシも死なん(・・・・・・)」

 

 

 

 

一つも笑えないジョークだ。

 

 

 

 

「……御託はいい、俺は早速、これを月英の元に届けるぞ」

 

 

「猶予はきっかり一日じゃ、それを過ぎれば此処への道を『根』で閉ざす」

 

 

「脅す必要など無い――――」

 

 

 

 

――――俺は約束は守る男だ

 

そう言いたいが、言ってやることは出来ない。

親しい者との約束すら、守れなかったのだから。

 

 

 

 

「一つ言っておくが……」

 

 

 

 

だが、人間を言い成りに出来ると思い上がっている、

この頭の悪い化け物に言い返してやりたい。

 

 

 

 

「月英の目はそんなにデカくない、お前の擬態も完全では無いようだな」

 

 

 

 

どうやって『その姿』を知ったのかは知らないが、

本当の『その姿』は、自分が誰よりよく知っている。

 

 

 

 

「ぶっ……あっはっはっはっはっは!」

 

 

「――――何が可笑しい?」

 

 

「ククク……強い上に面白い奴じゃ、お前は……あっはっはっは!」

 

 

「俺は冗談など言っていない」

 

 

 

 

化け物の笑いのツボなど判るか。

 

 

 

 

「ワシはお前の欲望を形作っただけじゃ……そう言ったじゃろう」

 

 

「そう聞いた、だから――――」

 

 

「あー、やめよやめよ、天丼はお腹いっぱいじゃ」

 

 

 

 

訳が判らない事ばかり言う、話にならない。

 

 

 

 

「お前のような遺伝子は、こういう姿形と動きに発情するからのう」

 

 

「遺伝……子?」

 

 

「ワシは月英とやらを真似てはおらん、月英とやらがお前の欲望に近いのじゃ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)」

 

 

「――――っ!!」

 

 

 

 

やっと理解した。

 

自分は、幼女並の知能しか無い畜生如きに、

『お前は月英の心ではなく顔に惚れた、しかもロリコンだ』と言われている。

 

 

 

 

「……。」

 

 

 

 

何も言い返せない、実際に斬ることが出来ないのだから。

何も言わず、月英の元へ歩み出す。

 

 

 

 

「あっ……! ちゃんと戻ってくるのじゃぞ! 裏切ったら食べちゃうんじゃからな!!」

 

 

「――――心配するな、誰にも触れさせはしない」

 

 

 

 

神武は悠然と歩きながら、両腕を広げる。

 

 

 

 

「黒殺龍亡き今、この炎帝神武が中華最強の男だ……今にお前も上回る、そしてお前は永遠に俺の物だ」

 

 

 

 

月英を生かす、その為だった行為が、

行為の為に、月英を生かす事へと変わっていく。

 

 

 

 

(誰の追随も許さなんだ天賦の才を持ち得し雄が……最も弱いと認識する子供の雌に蔑まれ、嘲笑われる……)

 

 

 

 

白霊は恐怖と束縛により、人間の心を操る。

 

 

 

 

(お前の知らない、抗う事の出来ぬ欲望――――可愛く嘲笑う練習でもしておくか)

 

 

 

 

人間よりも、人間を知り尽くしているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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