※この作品はR-18です。

シルクロードオンライン¬(differentiam)   作:hachu

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奇譚収遺使禄.Ⅸ 「二人の逃避行」
京兆府長安女子監獄所


 

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そこには絶対的なヒエラルキーがある。

 

 

 

「実子を殺した者」は最下層、次が「役人や衛兵の近縁」

 

「体の弱い者」、不倫や詐欺を働いた「嘘付き」

 

「普通の者」

 

「腕っぷしの強い者」

 

賄賂を用意できる「良家の娘」の順に高くなる。

 

 

 

良家の娘ってのは昔の私だ。

 

もちろん一番上にいるのは「重犯罪者」

 

 

 

 

今の私だ。

 

 

 

 

重犯罪者はすぐ死刑になるのが通例だ。

だがなぜか、いつまで経っても死刑にされず、デカイ顔し続けてる奴がいる。

この牢房七不思議の一つ。

 

シャバでは優遇される「容姿の良い女」は、ここではあまり良い目に合わない。

男女から性欲の捌け口とされるから。

 

コネがあったり、賄賂でも渡さぬ限り――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――夏の乾燥した気候、大きな煉瓦で固められた建造物。

 

配益と検断を行う「京兆府長安監獄所・女子棟」は、

天聖令に違反した罪女、及びその疑いがある女が収容される。

 

 

強制労働を強いられる事になった者。

懲罰を与えられる者。

裁判や中央への送還を待つ者。

 

それらがまとめて放り込まれる、悪女の巣。

 

女達が犯した罪は、窃盗、売春の軽犯罪から、

殺人・強盗の重犯罪に至るまで、多岐に渡る。

 

 

刑期は極端に短い。

 

 

死罪にならなければ…まぁなってもだが、

どんな罪でも数年で出られる。

 

理由は獄中の過酷さ、それ故の獄死の多さだ。

 

 

その監獄所の一角にある「渭三号牢房」は、大体一坪ほどの半球空間。

 

中には六、七の罪女がすし詰めになり、

女特有の甘い匂いが充満し、暑苦しさが倍増している。

 

天井には小さな格子があって、雨がそのまま入ってくる。

横の窓は拳が通る隙間しかない。

 

薄暗くて通気性も悪い。空気は最悪だ。

 

 

その狭苦しい空間に、もっと暑苦しい女が加えられる。

 

 

 

 

 

「呂晶(ルージン)、入れ」

 

 

 

看守の声が響き、太い木製の檻が開かれた。

 

狭い通路を歩かされて来た女は、

乱暴に首枷を外され、突き飛ばされるように中に入る。

後ろで木製の檻が勢いよく閉じた。

 

突き飛ばされた勢いで髪が跳ねる。

黒くて先が白い、ストレートヘアー。

 

 

 

その新参者に、牢房の奥に座る、短い髪の女が声をかける。

 

 

「よう、お前…。呂晶じゃねーか」

 

 

壁の真ん中に陣取るその女は、

まるで自分こそ牢房の主である、と誇示しているかのようだ。

 

 

 

「よう、端和。久しぶりね」

 

 

新参者は、主に向かって

馴れ馴れしく挨拶する。

 

 

「まーた何かやったのか?」

 

 

「まぁ、ちょっとね…。」

 

 

「今回も期待してるぜ、脱獄王…あははっ!なんつってな!」

 

 

 

「…」

 

 

脱獄王と呼ばれた二十歳の女、

呂晶はひどく落ち込んだ顔をしている。

 

 

「どうした?らしくねー顔して」

 

 

呂晶は右手で左手を抱え、

うつ向きながら言葉にしていく。

 

 

「…ごめん。わたしね、今まで沢山の人にヒドイ事してきたから、

もうそんな事しちゃダメだって。だから今回は心を入れ替えて、

罪を償おうと思ってるんだ…」

 

 

 

牢房に静けさが訪れる。

 

 

 

『…』

 

 

『ぐ…っ!』

 

 

『ぶほぉ…っ!』

 

 

『ぶふっふふ…っ!』

 

 

 

牢房にいる女達が、

咳払いしながら堪えている。

 

 

 

『ぎゃっはっはっはっは!!似合わねーッ!マジ似合わねーッ!!』

 

 

『大丈夫ッ!!オメーにゃ誰も期待してねぇからッ!!』

 

 

『あざとォーいッ!!あざといよ呂晶ッ!』

 

 

 

足や壁を豪快に叩き、女達がけたたましく笑う。

 

 

そう、これが私達の、

馴染みを迎える歓迎だ。

 

この渭三号は、ここじゃ一目置かれる牢房で、

同時に私の古巣でもある。

 

多少の入れ替わりはあったようだが、半分以上は知った顔だ。

 

 

 

『アンタの償うはあざといよォオオオ!ぎゃっはっはっはっは!!』

 

 

馬鹿な事で笑っているのは判っている。

 

面白いかどうかじゃない。どう面白くするかが大事だ。

私達なら箸が落ちても笑いに変えられる。

ウチら最強。

 

 

外にも仲間はいるが、アイツらは温室育ちで刺激がない。

言っちまえばアタシもそうだが、

さすがに、それはコイツらにも言ってない。

 

だが一つや二つ、秘密があるのは皆同じだ。

 

 

「今(・)回(・)は(・)じゃねーからっはっはぁ!!気分で選んじゃダメ~!ショッピングじゃねぇからココぉっ!…はぁ!…はぁ!」

 

 

この一際デカイ声で笑っているのが楊端和。

ここを仕切ってる。(てゆーかそろそろ笑いすぎじゃね?)

 

 

端和とは以前ここで、体を重ねた仲だ。

ちなみに口癖は血祭り。

 

2年で出るハズが、獄中で強盗や傷害を繰り返し、

今ではダントツの古株だ。

 

投獄最長記録でも狙ってるんじゃ?と噂されている。

 

本当の名はアイシャ。

楊端和という名は、アイシャみたいな可愛い名前じゃ舐められる

という理由で、

歴史上のとても強かった人物にあやかり、自分で付けた名らしい。

 

 

「お前は歴史など知らんだろうけど」と言われたが、

端和こそ、私が歴史の勉強できる家の出とは知らんだろう。

 

 

初めてブチ込まれた時、最初はぶつかりもしたが、

右も左も判らなかったアタシに甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。

アッチの方も色々教えこまれたが。

 

そう、私がバイに目覚めたのは、全部コイツのせいだ。

 

 

腕っぷしが異常に強く、ケンカをしてはよくタコ殴りにされた。

(タダではやられてない)

 

その後は決まって夜這いに来て、

お詫びといわんばかりに天国へ連れていくのでタチが悪い。

 

『皆寝てるから大丈夫だ』なんて言ってたが、周りにはバレバレ。

盗み見てオナってる奴もいたくらいだ。それはそれで興奮したけど。

 

多少痩せたようだが、偉そうな所を見るとまだ腕は健在だろう。

 

 

 

「この前はなんだっけ?」

 

 

「商人を殺った。」

 

 

「その前はなんだっけ?」

 

 

「商人を殺った。」

 

 

「て事はぁ~?今回はぁ~?」

 

 

大きな動きで、

端和がリズム良く質問する。

 

 

「ちょっとさぁ…毎回同じだと思わないでよ。…商人を殺った」

 

 

呂晶は首を、親指でトンと叩く。

 

 

「よくやったァッ!!ぎゃっはっは!この子怖ぁ~いっ!

お前もそう思うだろッ!?おぉッ!?」

 

 

中年のオヤジのように膝を叩きながら、

端和は横にいる、初対面の女に紹介する。

 

 

『強盗殺人か…やるじゃん』

 

 

「まかせろ」

 

 

こうやって初対面同士の仲を取り持つ。

牢房の健全な運営に欠かせない仕事だ。

 

放っておくと大抵トラブルになるからな。

 

 

たまに下手をこいてしょっぴかれるが、

端和がいると思うとそんなに嫌ではない。

 

適度に捕まっておかないと、国中で指名手配なんて事になるしね。

 

 

だがコイツ、人には理由を聞く癖に、

自分がしょっぴかれた理由は絶対話さない。

今回も多分聞けないがそれでいい。実はもう調べて知ってるし。

 

ただ判ったところで意味はない。コイツの口から教えて欲しかった。

 

 

牢獄暮らしのコイツは知らんだろうが、

アタシは外じゃもう、そこそこ有名な武侠だ。

 

あまり馬鹿も出来なくなってきた。

 

コイツと会うのはこれが最後だ。

今やったらケンカでも勝っちまう…いや、殺してしまうだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

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「…Θορυβώδης(トリボディス), κλείστε(キィステ) το(ト) (うるさい、口を閉じろ)」

 

 

 

イチャつきムードに水をかけるように、

低血圧、冷たく刺すような、大人になりきれてないハスキー声が、

隅の方から発せられる。

 

言語も、上品な発音も、何もかもそぐわないその声は、

一筋の瞬閃のように、この場を貫いた。

 

 

 

 

おや?

 

 

 

 

『アイツ、今朝入った新人。ガイジンだから言葉が通じねーんだ。なーに話しても仏頂面、

構うだけ無駄だ。なんか目も気持ち悪ぃし』

 

 

女囚の一人が、少女の情報を伝える。

 

 

 

んん~??

 

 

 

少女の髪は埃にまみれているが、それでも白金のように輝いてる。

一目で異質だと判る。

 

その異質な少女と、呂晶の目が合う。

 

 

少女の左目が光っている。

 

 

それは薄くだが、

暗がりだからよく目立った。

 

 

 

「うっそ…まじ?」

 

 

 

 

「…チッ」

 

 

 

金髪の少女・ヘレンは、目を逸らして舌打ちする。

二人共トレードマークの二つ縛りではないため、

お互い気付くのが一瞬遅れた。

 

 

「あらぁ、あらぁ~?」

 

 

呂晶の顔が、ぱぁっと明るくなる。

こんな所で絶対お目にかかれないような奴に、お目にかかってしまった。

 

 

「なになになに~?」

 

 

ヘレンは壁の方を向いて無視する。

 

 

「優等生が柄にもなく、イケナイ事に手を出しちゃったってか!?ぎゃっはっはっは!

ウケるゥー!サイコォー!ヤバァーイ!」

 

 

「…」

 

 

「あの剣士ッ!!まさか切り札をここで使ってくるとはぁああああッ!!」

 

 

やられた~とでも言うような、

大袈裟に苦しむリアクションをとる。

 

 

『ぎゃっはっはっは!!なんだそりゃ!』

 

 

ヘレンと呂晶の第二言語、

ギリシャ語は、他の者には理解できない。

 

だが、呂晶のコロコロ変わるオーバーアクションが面白く、

他の女もゲラゲラ笑う。

 

ヘレンも呂晶と同じく、投獄されて間もないのだろう。

普段の涼しげだが上品な格好をしている。

 

汗と埃で汚れてはいるが。

 

 

 

「どうしたんだい、そんな顔をして。んん~?」

 

 

 

呂晶は彼女の隣に座って肩を抱き、もう片方の手を広げる。

 

 

 

「ここは私の家のみたいなものでね…汚いが好きなだけ寛いでくれ給え、絶対強者よ。

んん~?ぎゃっはっはっは!!ぶわぁっはっはっは!!」

 

 

 

 

「イガイト、ビジンデスネ」

 

 

 

 

笑い飛ばす呂晶と対照的に、ヘレンが中華語で静かに呟いた。

 

 

 

「こいっ…つ…ッ!」

 

 

呂晶が立ち上がる。

眉間に皺を寄せ、怒りを顕にしている。

 

 

『外人が喋った…』

 

 

 

意外と美人っスね、とは、

先日の白霊戦の折、呂晶が絶体絶命の際に口にしてしまった言葉だ。

 

他の者は知らないが、呂晶にとっては苦々しい記憶である。

 

 

(この野郎…、あの後さんざんコケにされたんだぞ。

せっかく定着してきた私の二つ名「シルク王」が、「意外と美人」になりかける程だった。

威厳を取り戻すのに苦労した…この業界舐められたら終わりだってのに)

 

 

 

たどたどしい中華語が、更に呂晶の癇に障った。

 

 

 

「お前…。入ったばかりだろうから教えてやるが、そんな態度じゃ二日と保たないぞ」

 

 

「善良な者は火刑に処されたりしませんわ。神は全て見ておられます…アナタの事も」

 

 

「…ッ!」

 

 

 

私は神が大嫌いだ。

死後や一人でいる時…人間の恐怖につけ込み、勢力を拡大する集団とその象徴。

クソするとこもSEXも見てるってのか?気持ち悪い。

 

コイツら男のタマ掴んだけで手を斬るんだぜ?

どっちが蛮族だ。

 

神聖であると偽り、その実、最も狡猾な吐き気を催す悪だ。

 

その大っ嫌いな神の名が、

大っ嫌いな奴から出てきた。

 

 

 

――私の全てを賭けて、コイツが信じる物を、否定し(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)

 

 

 

 

呂晶は何も言わずに離れる。

 

言い合いをしてる内はジャレ合いで、

ケンカでも無ければ殺し合いでも無いからだ。

 

 

(慣れない暮らしだろうから色々教えてやろうと思ったが止めだ。

とことん追い打ちをかけてズタボロにしてやる。

刑と言えば火刑しか思い付かないガキ!ここでも人生でも、アタシは先輩なんだよッ!)

 

 

 

兎にも角にも情報収集だ。まずはここから始める。

呂晶は檻に掴まり、外にいる看守に声をかける。

 

 

「看守…!看守ぅ~!」

 

 

一人の看守がこちらに近付いてくる。

 

 

「おお、立枷(リーチアン)じゃん!奥さんと子供元気?群賢だったよね、家は」

 

 

立枷と呼ばれた看守は、他の看守に聞こえないよう、

小声で無愛想に答える。

 

 

『残念だったな、もう引っ越した。いつまでもお前らの言いなりになると思うな。

お前には今までの礼をたっぷりさせてもらう』

 

 

「ああ、そうだった。確か…」

 

 

呂晶は目を細め、囁くように言う。

 

 

「利人市だったね。」

 

 

看守の顔色が青くなる。

 

 

『お前…何でそれを?』

 

 

「よく聞きなクソッタレ…アタシがそんな事も調べずここに来ると思うか?」

 

 

『…家族に手を出したらお前を殺してやる』

 

 

「なに怖い事言ってんのよ!元気か聞いただけじゃん!…外にいるアタシの仲間は判んないけど。

それよりさ…」

 

 

明るく声を張り、他愛ない会話というアピールをした後、

呂晶は看守に長々と耳打ちする。

 

 

「…に取りなしてくれ、タレコミがあるってな」

 

 

看守が怪訝そうな顔をしている。

 

 

「私が来るのはこれで最後だ。シャバに出たらお前が憎んでる奴をまた殺してやる。

今までの礼だ、遠慮はするな」

 

 

『本当か…?なら站籠(チェンロン)だ。光徳の站籠。留守にした間に妻を寝取ったクソ野郎だ』

 

 

「光徳の站籠だな、任せろ。それより今の件頼むぞ」

 

 

『ああ、しばらく待っていろ』

 

 

そう言い残すと、

看守・立枷は狭い通路を歩いていった。

 

 

 

…危なかった。

 

頭に地図を展開し、立地や奴の給料から、引っ越し先を二つに絞ったが、最後は勘が当たった。

 

手段を選ばず出る事も可能だが、リスクは避けたい。

やることも残ってるしな。

 

 

(それにしても弱みをペラペラ喋りやがる…懲りない奴だ。なぜ私が報酬もなく

殺し等せねばならない。しかもそんな使えそうな相手を)

 

 

 

看守へ根回しを済ませ、次に牢房の女達からも情報を集める。

 

 

「この外人の子、何やったの?誰か知らない?」

 

 

『看守が話してるの聞いたよ。榷場(カクバ)の外じゃなくて、中から来たんだ。

密輸だろうけどコイツは道を間違えたって主張してる。でも見つからずに入れるハズあるか?

どうせ助かりたくて嘘付いてんだよ。あ、最後のはアタシの推測だ』

 

 

女囚の一人が答える。

娯楽の少ない牢房では、探偵ごっこも立派な暇つぶしだ。

 

 

(…例の消える技か。大方盗賊に見つからないよう使い、そのままうっかり

関所も越えちまったって所か。文化の違いもあるだろうが、運もなかったな)

 

 

榷場とは関所を兼ねた市場のことだ。

 

国外から来た商人は、

そこで税を納める代わりに証明書を受け取り、貿易を行う。

 

中華からは絹、茶、陶器、最近では特に過剰供給の銅銭が輸出され、

国外からは宝石や家畜、地方特有の珍品が輸入される。

 

国外の商品を、“外から中” へ運び込む事はあっても、“中から外” へ運び出す事はおかしい。

その意図を調べるため、ヘレンは拘留されたようだ。

 

 

(あれ以来、姿を見せないと思ったら行商に手を出していたとは。にしても、あの仲良しこよしが一人ってのは妙だ。コイツは聞き分けも悪そうだし、あの剣士から捨てられたのかもな)

 

 

 

『獄吏(ごくり)はラオだって。豚の老虎凳(ラオフーデン) 』

 

 

「ラオ?にしちゃキレイなもんだな。」

 

 

呂晶は眉をひそめる。

獄吏とは取り調べを行う担当官だ。

 

 

『なんか、大秦(ローマ)の貴族かもしれないって。いいよなぁー上流階級は。アタシの時は貧民街ってだけでロクに言い分も聞きゃしなかったのに』

 

 

『アタシもあのオヤジ嫌い。アソコに何か隠してんじゃねーかって、

中までほじくり返してジロジロ見てきやがったぜ』

 

 

『あのナリじゃヤル女もいねーから溜まってんだよ。シャバでもゼッテー何人か犯ってる。

あの豚を捕まえりゃいいんだ。すぐ殴るし』

 

 

その獄吏の話題になった途端、女囚達から不平不満の嵐が起き、

端和もそれに参加する。

 

 

「外人つっても、こんな子供じゃさすがに同情しちまうな…」

 

 

それを聞いて呂晶は微かに笑う。

 

 

(コイツは姉御肌っていうか、意外と優しいんだよな。まぁそこも嫌いじゃないんだが)

 

 

 

…ん?

 

 

 

「年少じゃないのか?コイツの歳なら」

 

 

『成人らしいよ。なぁ、おい』

 

 

女囚の一人が、

隣で用を足している女を肘で突つき、質問する。

 

 

『ん?ああ、18っつってたよ…おい!ひっこんじまっただろ!』

 

 

『ぎゃっはは、クソッタレ~』

 

 

本来の意味で使うには憚られる言葉を、本来の意味で使う。

不自由の中でのせめてもの自由だ。

 

 

(18…いいとこ15~6ってとこだ。まぁ、それ位でもなきゃ女が旅など出来んか。

アタシでも16の頃ったら、計画練ってた程度だ。外人は見た目より若くみえると聞いたし)

 

 

 

呂晶は考えながらヘレンを見る。

 

 

(いや…確か逆だ。コイツ、サバ読んでやがる!…何のため?舐められないため?

…それだけの為に?)

 

 

 

『はしゃぐなッ!!囚人共ッ!!』

 

 

 

看守の怒号が飛ぶ。

女囚達は声の方を睨む。

 

 

 

『呂晶、出ろ』

 

 

思ったより早く準備を終え、看守・立枷が声をかける。

 

 

 

(早いな、頑張りすぎだろう。まぁ必要な情報は揃った。後は…)

 

 

 

数人の看守に首枷を付けられる呂晶に、

端和が不機嫌そうに話かける。

 

 

 

「もう行くのかよ!何だってんだ、つまんねぇなぁ…」

 

 

 

不機嫌そうな端和に、

呂晶はいつもの調子で返す。

 

 

 

「端和。弟はお前の事、もう許してるっつってたよ」

 

 

 

「なっ…!」

 

 

 

端和が口を開け、唖然とする。

 

いつもヘラヘラしてる端和のこんな顔は、中々お目にかかれない。

思わずニンマリする。

 

 

 

「わざわざそれ言いに来たのかっ!?死人にでも聞いたのかよ気持ち悪ぃ。

イタコかテメーは」

 

 

 

首枷が付け終わる。

名残惜しいがもう行かなければならない。

 

呂晶は振り返らずに言う。

 

 

 

「ここの王はお前だよ。じゃあな」

 

 

 

「呂晶。」

 

 

 

端和が立ち去る背に声を掛ける。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

わかってる。

誰かに言ったら血祭り、だろ。

 

言わないし、言った所でどーでもいいような

 

 

 

「たまには家に帰ってやれよ。シルク王」

 

 

 

呂晶は口を開けて、唖然とする。

 

そして、軽く笑う。

 

 

 

「(何が気持ち悪いだ。この負けず嫌いめ)」

 

 

 

ふり向かずに手を上げる。

 

 

 

今回は端和に別れを言う為に来た。

でもやはり、しみっ垂れたのは似合わない。

 

最後までカッコ良く去らせてもらう。

 

 

 

 

 

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呂晶の戦場は徐々に広く、激しい物になっている。

 

今までの家出まがいの武侠旅ではなく、これからは本格的に華僑となり、

独り立ちせねばならない。

 

戦友の死の報を一人、二人、三人と聞くうち、怖くなった事もある。

別れは言える内に言わねば、二度と言えなくなるかもしれない。

 

彼女が生きようとしているのは、そういう世界だ。

 

 

 

『アイツほんとに何しに来たんだ?』

 

 

「さぁな。自分の家とでも思ってんじゃねーのかここが。ぎゃははは!」

 

 

『ぎゃははは!マジで思ってそ~。』

 

 

 

家も国も捨てた、悪人の呂晶にも、心の拠り所がある。

それは悪人以外にとっては、悪なるものである。

 

 

そして悪人の呂晶にも、譲れない矜持がある。

それは悪人以外にとっては、

 

やはり、悪の矜持である。

 

 

 

 

――私の全てを賭けて、コイツが信じる物を、否定し(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)な(・)ら(・)な(・)い(・)

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一刻後。

 

 

渭三号牢房の前に、醜く太った獄吏・ラオが立っている。

 

ラオは鼻息を荒くし、

牢房内の少女へ威圧的に命令する。

 

 

 

『ヘレン・アプリケント!!出ろッ!これより貴様の取り調べを行うッ!!』

 

 

 

 

 

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楊端和ことアイシャは、私のギルドでかつてエースだった人がモデルです。最後の方にちょっと映っている、アイシャタイプのキャラで御伽草子という人ですね。
性格は普通の優しい方で、世話を焼いてくれたのは本当ですね。
(アッチの方は教えられえないです)

レベルが高くて、一緒に戦っても足手まといになってしまって、
力になりたいなぁとずっと思っていた人です。

彼が引退した後、次にエースとなったのが私です。
引退と言っても宣言する事は稀で、最近あまり見なくなったと思っていると、もうINしなくなったりが普通です。

彼を見なくなってしばらくして、
御伽さんのレベルまで@3、2、1…そして越える。
目標にしていたのに、あまり嬉しくなかったのを覚えています。

MMOは初期が一番賑わって、後は衰退するだけなので、
御伽さんだけでなく、私がエースになる頃にはけっこうな人がいなくなっていました。
新しい人も入って大分様変わりはしてましたが。
以後は彼に習って、そんな新人の世話を焼いたりしてました。

この監獄は、呂晶にとって、そんないなくなった人達がいる、思い出の場所という事になります。
皆メインは盗賊だったので監獄です。

別れを言える機会など滅多にありません。
こんな場所があったらいいな、という場所です。監獄だけど(笑)

シルク王というのは、私がロールプレイングの一環で自称していた呼称です。(呼称を付ける機能があります)

自分で言うのも何ですが結構強くて、同LV帯のギルメン二人相手に一人で勝つ程でした。
でも相手が落ち込んじゃったので、

「俺が1番強いから気にすること無いんやで」
という感じで付けたのが始まりでした。

仰々しい呼称ですが、しばらくすると浸透してきたのか、からかわれていたのか、
職業戦など行くと「王が来たぞー!」みたいに言ってくれる方もいました(笑)


ギルドのエースとしての自覚を持つように、かつての御伽さんのようにならなければ、という自分への戒めですね。
海賊王とか空の王とかもいますからw

でも不思議な物で、その名に恥じないようにと思っていたら、実際にその名に恥じないような実績を残す事が出来た、
と、少なくとも自分では思っています(笑)
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