「けえれっ!」
時哉はコンビニの店主、比嘉に一喝される。波香はコンビニの2Fに逃げ込み比嘉に匿ってもらったのだ。
「会わしてくださいっ!話せばわかるんだ!」
「あんたはそんなベッピンさんを連れてきて千春ちゃんに何を話すっていうんじゃ!」
「こ、これはおとう、いや妹なんです!」
「そうそう、妹ですわっ!姉さまに会わせてください!」
時哉は真樹男と供に比嘉にくってかかる。
「とにかく千春ちゃんは会いたくないって言ってるんじゃ!これ以上しつこいようなら警察を呼ぶでな!」
「くっ!......警察呼ばれたくらいで引き下がれません。......失礼します」
時哉は比嘉の言葉をガン無視しずんずんとコンビニの店内に入る。
「か、母さん!警察じゃ!」
「は、はい!」
比嘉の奥さんはレジ下にある赤い緊急ボタンを押した。店内にけたたましいベルが鳴り響く。そういう事態になり真樹男は時哉と供に店内に入って波香に会うことをあきらめ店内の入口に立ち、警察に対して対応することを決意する。
ずかずかずか
比嘉の奥さんが震えて立っているのを尻目にレジの裏に入り波香を探す時哉。
「......すみません、すぐにすみますから」
時哉はやがて2Fにあがる階段を見つけ2Fにあがった。2Fには和室2部屋があるが波香はいない。が押入れを開けると大きなお腹を抱えて波香はうずくまっていた。
「......さ、帰ろう」
「どうして探すのよ。放っておいてくれれば良かったのに!」
「ほっとけるわけないだろ」
「クローンなのよ?私はお母様のクローン人間なのよ!普通の人間じゃないのよ!?」
「それがなんだ!」
「それがなんだって......トキヤは私がクローン人間で気持ち悪くないの?」
「全然?ナミカちゃんはナミカちゃんだろ?」
「......私は今までに人に造られたモノでありながらたくさんの人に関わって......迷惑なことしたり偉そうに講釈垂れたり......」
「みんなはナミカちゃんが思うほど気にしていないよ。クローン人間だっていうことを一番気にしてるのはナミカちゃんじゃないのかい?」
「......そうなのかもしれない。じゃ、じゃあ私は一生、自分がクローンだっていう劣等感を持ってトキヤと一緒に生きていかなければならないの?」
「だから、そんなの気にするなって!」
「気にするよ!時哉は普通の人間だからわからないの!」
「そんな......ことを言うなよ」
「今までの私を知っている人達から逃げたい......穴があったら入りたいの!」
「......」
「私は......お腹の中にいる娘と供にこれからの人生を歩んで行くわ。だからもう私のことは忘れて欲しい」
「そんなバカなこと言うなっ!!」
時哉がそう言ったところでドカドカと警察官が2Fに上がってきた。
「キミ!不法侵入罪で現行犯逮捕する!」
波香の目の前で手錠をかけられる時哉。だが波香は視線を落としたまま、微動だにしなかった。警察官に連行される時哉。コンビニの入り口では真樹男が他の警察官に取り抑えられていた。
「ですから!わたくしは妹なんです!妹が姉に会いに来て何がいけないのですのっ!!」
悲痛な叫びも虚しく真樹男は時哉と一緒にパトカーに乗せられてしまう。コンビニの前には何人か野次馬が集まっていた。
「お騒がせして申し訳ありません」
比嘉夫妻は野次馬に対して深々とお辞儀をする。波香は2Fで他の警官に事情徴収を受けたが早々にそれは終わり、布団をかぶって横になった。その波香の瞳からは涙がとめどなく流れ枕を濡らしていく。
◇
家主不在でも、とあるマンションの一室は賑やかであった。
「ああああああ、どうしようどうしようどうしよう」
リビングをウロウロする汐海。口ではそんな言葉を発しているがちゃっかり左手の薬指には進藤から贈呈されたダイヤの指輪をしたままである。
「嬉しい......でも......嬉しい......でも」
同じく香織もリビングでぶつぶつとお経を唱えていた。
「いいなあ、二人ともプロポーズされて......私も明君と結婚したいなあ......はあ、Hしたい」
美菜はポテチを頬張りながらそんなことを言う。そんな美菜の隣で小野寺は大学の教本を見ながらごろんと横になっている。
「いいんじゃないですかね。汐海さんの彼も香織さんの彼もいい人そうだし結婚しちゃっても。はあ、私もマジでお祓いいったほうがいいのかな......」
今日の昼間、元カレの差し金で拉致されそうになった小野寺は己の男運のなさに嫌気がさしてきていた。
「っけけけけけ、結婚!いやしかしな.....私達は......結婚しちゃってもいいのだろうか?」
汐海はうろたえながら香織の反応を待つ。
「......私は敬一郎さんと一緒に生きていたい。それとここにいるみんなと......もちろん時哉さんや会長さんとも......それだけで幸せです。別に結婚という形にこだわらなくてもいいのかな」
「でも、それで谷さんは納得するんですかね」
パタッと教本を閉じ小野寺は香織に言う。
「......」
「あの、ちょっと疑問なんですけど汐海さんも香織さんも彼の事がすごく好きなんですよね?」
「ああ、好きだ。愛している」
「......大好きです」
「それなのになんで『結婚』となるとそんなに迷うんです?」
「......それはだな。......実は私達は......」
「汐海!それ言っちゃっていいのっ!?」
ポテチの袋をバサッと放り出し美菜は汐海に向かって慌ててそう言う。
「......どのみちこのままでは進藤殿をはじめたくさんの人を欺くことに繋がってしまうと思うから私は......全てぶちまけようと思う。......香織殿いいか?」
「そうですね......私は構いません」
「......美菜は?」
「ん~~~~しょうがないね、いいよっ」
香織、美菜の承諾を得、汐海は小野寺に自分達が北条繁一によって造られたクローンだと明かした。ただし、波香の母フランソワではなく波香のクローンだということにした。
「.......そうだったんですか。でも、それじゃあどうして先生は家出したんですか?」
「そ、それは......」
「......汐海さん嘘ついてませんか?どうにも話が通じません。もしかして先生もクローン人間なんじゃないですか?先生はそれを知ってショックを受けて家出をしたんじゃないですか?それなら合点がいきます」
「それは私の口からは言えん!」
「......もうその言い方は認めたようなものですよ」
「ぐぬぅ」
「クローン人間か......」
「.......」
「確かに気持ち悪いですね。普通の人間じゃないし、そのことがわかったら結婚なんてしないかもしれないですね!」
「はぅううう」
汐海と香織はその小野寺の言葉にグサッと来る。
「な~~~んて、今のは今まで私だけに秘密にしていた仕返しです」
「は?」
「悩んでいたって仕方がないと思いますよ。正直に全てを話したらいいんじゃないですか?理由も言わずにこちらから断るなんて勿体ないですよ。汐海さんも香織さんも相手の事が大好きだって伝えてそれから本当の事を言えばいいんじゃないですかね?それで断られたらそれはもう仕方がないですよ」
「......やはりそうだな。私は小野寺殿の言う通りだと思う」
「間違っても秘密にして結婚するっていうのはナシですよ?お二人とも結構気にする性格だから秘密をもったまま図太く結婚生活なんておくれないでしょ?」
「うむぅ」「......確かに」
「......私ははじめクローン人間だって聞いて、えっ?て思ったけどそれだけですよ。汐海さんは汐海さんだし香織さんは香織さんだし美菜ちゃんは美菜ちゃんだしもちろん先生だって......先生を尊敬する心は今も変わりません」
「......小野寺殿......年齢設定は私達より下のハズなのに大人だな」
「なんですか?その設定って?」
「いや、ははは」
「とにかく2人とも早く返事した方がいいですよ?こういうことはお待たせすると相手を不安にさせると思うから」
「そうだな。私は進藤殿に電話してこれから会って来ようと思う」「私も敬一郎さんに......会ってきます」
「うん、二人とも頑張ってください!」
「頑張ってねえ~......はあ、Hしたいなあ~~~」
◇
汐海は進藤の住んでいる場所の近くの公園を待ち合わせ場所に指定し先にその場所に着き会話のシミュレーションを始めた。
「わわわわたっ、しも好きです。愛してます!結婚してください!」
「永遠の愛を誓います!一生あなたについていきます!」
「で、でも、私、クローン人間なんです!」
「それでもよよよよよよければ.......」
シミュレーションは汐海の納得した形で終わらぬまま進藤はやって来た。
「汐海さん!」
「しししし、真一さん、こんなところに呼び出してしまってすまない!」
「いや、いいよ。プロポーズの返事をしに来てくれたんだよね?」
「うううん、いかにも!」
「ははは、そんなに緊張しなくてもいいよ。......もしかして断られるのかな?」
「違う!断じて違うぞ!」
「ん?」
「わわわわ私も真一さんが好きです!愛してます!これからも供に生きていきたい!結婚もしたいと思っとります!」
「それじゃあ......」
「でででも、ひとつ問題があります!」
「うん、なんだろう?」
「実は私はっ普通の人間ではありませんっ!」
「??」
「私はっ北条財閥の総帥、北条繁一という人物に造られた繁一の妻だったフランソワという人物のクローン人間なのであります!」
「なんだって!?」
進藤は驚きのあまり言葉を失う。その進藤の様子を見て汐海は全身からすうっと力を抜けて行くのを感じた。
「や、やっぱり気持ち悪いのだろう?」
「い、いや、そんなことは......」
進藤はどうしたらいいのかわからずにオロオロとしていた。汐海はそんな進藤を見ているのが辛くなりそっと左手の薬指からダイヤの指輪をはずす。
「無理しなくていいぞ。しん......進藤殿。......これはお返しする」
「えっ?」
「それでは私は失礼する。進藤殿もどうかお幸せに」
汐海はそう言い残すと立ちすくんでいる進藤を残し公園を後にした。やがていたたまれなくなり全速力でダッシュを汐海はし始めた。
「.......うわああああ~~ん」
◇
「ごめんなさい、突然押しかけてきちゃって」
谷のボロアパートの一室で香織はそう言って谷の対面にテーブルを挟んで座った。
「いや、嬉しいよ?こないだの返事をしに来てくれたんだよね?」
「はい、率直に言うと返事はYESです」
「ほんと?やった!」
「で、でも、私には問題があります。それで敬一郎さんが私と結婚をとりやめたいと言っても私は敬一郎さんのことを恨んだりしませんので......正直に全てをお話ししますね」
「う、うん」
「私は北条財閥のトップである北条繁一によって造られたクローン人間なんです。普通の人間ではありません。それでも私と結婚してくれますか?」
「クローン人間?一体誰のクローンなんですか?」
「繁一の奥さんのクローンなんです」
「なななな、なんということだ。日本の科学はそこまで進歩していたなんて」
「......それでも大丈夫ですか?私と結婚してくれますか?」
「ごめん、無理」
「えっ!」
「というのはウソでした。今のは俺の事を信用しないで隠し続けたことに対しての罰。香織さんがクローンだろうとなんだろうと俺は気にしないよ。俺は香織さんがいいんだ」
「もう!ドキっとしたじゃないですか!ひどいです!」
どすっ
テーブル越しにいる谷に香織は体当たりをしそのまま身体を谷に委ねる。
「はははっ、ごめんごめん。香織さんとは普通にHだってできるし普通の人間と変わりないじゃないですか......子供だって別に俺はできてもできなくてもどっちでもいい。ただ、香織さんの変わりはいないんだ」
「私も敬一郎さんだけ......じゃあ、します?」
一気に気を落とし一気にそれを引き上げる。香織の心は完全に燃え上がっていた。谷はエロゲマスターなのである。
「はあはあはあ、んっんっんっ!す、好き!大好き!敬一郎さん!結婚してください!私とっ!」
「うん、香織!愛してる!結婚しよう!ずっと俺のそばにいてくれ!!」
「あああああ~~~」
◇
「クソがっ!」「参りましたわ~、もうお腹ペコペコ」
5時間にも及ぶ取り調べを終えぐったりと沖縄警察署を出る時哉と真樹男。時哉の腕時計の針は深夜2時を超えていた。
(ナミカちゃん。俺はもう絶対にあきらめない。何年か前とは状況が違うんだ)
__時哉はそう決意しつつも未だに波香を連れ戻す手段を思いつかないでいた。
(続く)