同じような体型をした美女3人と女子大学生ひとり。そこに1人のリーマンらしき男性が近寄ってきた。
「敬一郎さん!」
香織が手を上げ谷のもとに駆け寄る。ここはN空港のロビー。まもなくこの5人は波香と時哉と真樹男のいる沖縄へ飛び立とうとしていた。
「おはつにお目にかかります。谷と申します」
「おお!あなたが香織殿の彼氏でござ.....いますか!」
「はは、うん、いかにも!」
「私は北条汐海だ!」「同じく美菜でっす!」「小野寺です」
「......キミたちもクローン人間なんですか?」
「う、うむ!そうだ!」「うん」
谷のストレートな質問に汐海と美菜は怯む。が汐海はそれが悪いか!と言わんばかりに開き直って返答をする。
「......私は違いますよ?」
「なるほど小野寺さんだけが違うんですね。了解いたしました」
「......谷殿はクローン人間をどう思う?」
汐海は自分よりも少しだけ背の高い谷に上目遣いでちょろっとそう聞いてみる。
「クローン人間をどう思う?か、んー。俺は別にクローン人間だからどうとかって偏見はないですよ?香織さんのことは好きです。大好きです。愛してます」
「やだあ、敬一郎さんたら」
香織が顔面を真っ赤にして谷の左腕に絡みつく。その姿を汐海、美菜、小野寺はぽかんと見た。普段クールビューティを装っているこんな香織の言葉遣い仕草を見るのは初めてのことだからだ。
「ク、クソー!香織殿が凄く羨ましいぞ!」「いいなあ......はあ、Hしたい」「......アハハ」
「大丈夫ですよ。みなさん綺麗な方ばかりですから男がほっときませんって!」
「わた、私はな!谷殿!」
「は、はい!?」
「クローン人間だと知られた途端にフられてしまったのだぞ!」
「それはお気の毒......です」
「谷殿!クローン人間でもいいという男性を紹介してくれないだろうか!?」
「あ!私にも!」
「ちょっと!美菜さんは別れたわけではないんじゃないですか?彼氏は入院中なんですよね?美菜さんはいいから私に紹介してください!......私は普通ですので」
どさくさに紛れて汐海に便乗する美菜を小野寺は咎めた。
「小野寺殿、私は普通ってなんだ?クローン人間をバカにしているのか!?」
汐海が小野寺に噛みつく。
「ちょ、ちょっと喧嘩はやめましょう!」
慌てて谷が汐海を止める。
「ふぅ、なんでそんなに皆さん彼氏が欲しいんですか?」
ギラギラしている女子3人にたじろぎながらも谷は疑問をぶつける。
「わからん!心が欲しているのだ。恋人が欲しい!と」
汐海は握りこぶしをぎゅっと作って見せて谷に力説する。
「はあ、なるほど......美菜さんは?」
「正直に言っちゃうとね、Hしたいのっ!」
「は、ははは」
「私は......そんなに焦っているわけではないですがこれまでにお付き合いしてきた男性とはなかなかうまくいかなくて......お知り合いの紹介の方だったら良いお付き合いができるかな?と思いました」
小野寺の辛辣な表情から繰り出された言葉に谷は頷き納得する。
「ふむ、なるほど」
『誰かいい人いませんかっ!!』
女子3人は谷にそう言いくらいついてくる。
「は、ははは、香織から聞いていると思うけど俺はあまり社交的ではないのであまり友達がいないんだ。残念だけど、キミ達に紹介できるような人はいません」
「そうか~」
汐海達はがっくりと肩を落とす。
「は、はは、でも、さっきも言ったようにあなた達は美人なんだからすぐに男の一人や二人、できるんじゃないかな」
「それで私がクローン人間だって話したら相手が別れたがったらどうする?」
「......クローンだって話さなければいいんじゃないかな?」
「なぜ隠さなければならないんだ?クローン人間はそんなに恥ずかしいものなのか?人に嫌がられるものなのか?なんでこんな差別を受けねばならないのだ!」
「汐海さん、そんなに敬一郎さんを責めないで。敬一郎さんが悪いわけじゃない」
香織が谷をかばい汐海を睨む。
「あ!す、すまん」
香織は谷に視線を戻すと谷の目を見つめ語り始めた。
「敬一郎さん、これから会いに行く人は私達クローン人間の生きる意味を教えてくれた言わば先駆者みたいな人なんです」
「うん」
「でもその人は最近まで自分がクローン人間だということを知らなかったんです。今までごく普通の人間として生きてきましたから」
「......」
「真実を知った時、恋人の赤ちゃんを身ごもっているにもかかわらず私達から姿を消しました」
「なんと!それでその恋人さんはどうしているんだい?」
「沖縄にいるのを探し出して説得しているそうですが連れ戻すことが難しいみたいです」
「それで俺たちも説得しに行くということなんですね?」
「そういうことです。その恋人さんもクローン人間だとか関係なくてその人を愛しています......敬一郎さんと同じです」
最後の自分の言葉にポッと香織は顔を赤くする。
「ということはその人は自分がクローン人間だということを恥じているということか」
「......そういうことになるのでしょうか」
「......香織」
「はい?」
「すまないけど俺にはその人をどうやって説得すればいいのか全く見当もつかないよ。その人は多分、自分の子供と供に極力誰とも関わらずひっそりと暮らしていくことを望んでいるんだろうね」
「いいんです。それでも。人間関係って離れちゃったらそれで終わりになっちゃうでしょ?どんなに仲が悪くてもそばにいればなんとかなる......そう思いませんか?」
「まあ、それは一理あるかな」
「何をこそこそと話しているんだ?谷殿香織殿?そろそろフライトの時間だぞ」
汐海に促され谷と香織は自分のバッグを持ち席を立った。
◇
「姉さま、いつまでこんなところにいるんですの?」
昼過ぎにようやく真樹男は波香の働いているコンビニに来店していた。
「こんなところって......綺麗な顔して随分なことを言う妹さんだなあ」
比嘉店長は真樹男の放った言葉に反応し険しい顔をする。
「いつまでってずっと居るに決まってんでしょ。あんたは早く帰りなさい......そこにダウンしている人を連れてさ」
波香の視線の先には弁当を5個も食べ、食いすぎで気分が悪くなってテーブルに突っ伏して伸びている時哉がいた。
「うううう......ナミカちゃん。一緒に帰ろう」
「......ちょっと姉さま、こちらに来て下さる?」
真樹男はレジにいる波香の手を引っ張る。
「ちょっと!今、仕事中だからダメに決まってんでしょ!あ!」
波香は拒否するがお構いなしに真樹男はグイッと手を引っ張って店の隅っこに波香と供に移動する。
「なんでですの?そんなに自分がクローン人間だっていうことが恥ずかしいのですか?」
「......うん、恥ずかしいわよ。あなたは恥ずかしくないの?」
「べ、別に恥ずかしくはありませんわ!」
「あっそ。じゃあ、仕事に戻るわね」
「まだ話は終わってませんわ!!」
真樹男は店内で大声をあげる。店内にいた客は驚いて真樹男達を見ている。
「ちょっと!大きな声を出さないで!他のお客さん達の迷惑でしょ!」
「迷惑なのは姉さまじゃなくて?」
「はあ?なんで私が?」
「ちょっと前までは傍若無人な振る舞いで散々人に迷惑をかけて自分の気まぐれで人を助けて期待させて......そしてまた自分勝手に姿を消そうとする。周りの人達をなんだと思っていますの!?」
「......そうね、その通りだわ。私が悪かった。......だからもう私には関わらないで」
「なんでそうなりますの?姉さまには責任がありますの。だから姉さまの思う通りにはさせません」
「ふぅ、しつこいわね。あんたがねなんと言おうとイヤなものはイヤなの。あんた達があきらめてくれないのなら私は南極でも北極でも行くしかないわね」
「なんでそんな強情ですの?」
「ふん、さあさあ、何も買わないなら出てってくださいな?他のお客さんに迷惑ですから」
冷たい視線で真樹男を見つめ波香はそう言いレジに戻ろうとする。
「......このお店はカードは使えますの?」
「使えるわよ?」
「じゃあ、今こちらの店にある物全部くださるかしら?在庫の物も全部!!大人買いですわっ!!これでゆっくりとお話ができますわね!!」
「......は~い、全部でいちおくえんになりま~す」
「安いですわ~~~~~~!!おーっほっほっほ」
そのやりとりを見ていた比嘉はあわてて波香に駆け寄る。
「ちょ、ちょっと千春ちゃん!いいのかい?さっきのキミの彼氏からも弁当代200万もらってるし店の物全部で1億円ってもらいすぎじゃ......」
「いいんです。迷惑料ということでどうか納めてくださいオーナー。私のせいで申し訳ありません」
深々とお辞儀をする波香を見て比嘉はこの娘の為ならなんでもしてあげたいという気持ちにますますなっていく。
「さて、今日はもう店じまいですわね」
真樹男はそういいつつ準備中の札をドアに張り付け勝手に自動ドアの電源を切った。
「......早く詰め込むなりなんなりしてくれませんかしら?」
「ちょっとあんた商品を持って帰るつもりなの?」
「あらそうでしたわね。4トントラックでも手配しないと持ち帰えられませんわね」
真樹男は自分のスマフォから電話をかけた。
「あら、イヤだ。ここは沖縄でトラックは無理ですって。どうしようかしら」
「ったく、あんたは!なんも考え無しに!」
「直情的なのは姉さまゆずりですわ。私達は姉妹なんですからね!」
「......姉弟ね......」
__真樹男の言った言葉に波香は苦笑し商品を分類し大きなビニール袋に詰め込んでいくのであった。
(続く)