※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

103 / 164
第103話

 沖縄のとある街にあるニコニコストアは午後2時をちょっと過ぎた辺りで店じまいとなった。真樹男がこの店にある全商品を買い占めてしまったからである。本日の売り上げを見て比嘉オーナーは腰を抜かしてしまった。

 

 「わわわわ......いちおくにひゃくにじゅうさんまんさんびゃくよえん......」

 

 そしてそのコンビニの2Fの一室の4畳半で波香と真樹男が相まみえている。2人がこうして話をするのは久しぶりのことである。もちろん真樹男が性転換手術してからは初めての事だ。

 

 「こんな狭い部屋で寝泊まりしていたのかしら?」

 「私にはパラダイスだったわよ......あんた達が来るまでは!」

 

 「トキヤさんは姉さまがクローンでも関係ないって言ってるし姉さまじゃないとダメだっておっしゃってますわよ?」

 「トキヤは良くても私がイヤなの」

 

 「それは姉さまの我儘ですわ」

 「そうよ?それの何が悪いの?」

 

 「その姉さまのお腹にいるお子さんも半分はトキヤさんの......モノって言ったら言い方が悪いですけれど半分はトキヤさんに権利があるハズですわ」

 「......」

 

 「それを姉さまは独り占めしようとしているのですわ」

 「別に親権を争って裁判でもなんでもすればいいでしょ。そうしたら私は判決に従うわよ」

 

 「なんでそうなりますの!!」

 

 波香と真樹男の話は平行線のままトキヤは階段を上がって波香達のいる4畳半にやってきた。彼は結局、食べ過ぎで腹を下したのだ。

 

 「......はあ」

 「トキヤさん、大丈夫ですの?」

 

 「まあ、なんとかね」

 

 腹をさすりながら時哉は真樹男に苦笑する。

 

 「まったく余計なことはするんだから」

 

 波香はそんな時哉の姿を見てそう悪態をつく。

 

 「......姉さま、そんな言い方はないんじゃありませんか?」

 「まあ、まあ二人とも落ち着いて」

 

 「......ナミカちゃん、もういいだろ?一緒に帰ろう」

 「何がもういいの?帰らないわよ」

 

 「......なんでそんな意地はるんだ?」

 「どうせ私がクローン人間だから哀れみの気持ちでいるんでしょ」

 

 時哉は波香に対してここまで面倒くさい女だったのかと少々驚いているが構わずに話を続ける。

 

 「だからクローンとかそんなのどうでもいいんだ。俺はナミカちゃんがいいんだよ。キミ以外に考えられない」

 「トキヤは普通の人間だからそんなふうに余裕を持って上から目線で言えるのよ。クローン人間の私の気持ちはわからないわ」

 

 「だから、違うんだよ!俺もクローン人間なんだ!」

 「え!?」

 

 「俺は決して歴史の表舞台に立つことが許されなかった裏の戦国武将、北条狂哉のクローン人間なんだ。......今まで秘密にしていたけどね」

 

 もちろん口から出まかせである。時哉の記憶では今まで家族からそんな話を聞かされたこともないのだ。

 

 「嘘でしょ?」

 「本当だよ」

 

 「......証拠を見せて」

 「証拠ったって何もないよ」

 

 「じゃあ、信じられない。だってあなたは今までに私に敵うものなんて一つもなかったじゃない?そんな能力のないクローンをわざわざ造るわけがないわ」

 「うぐっ」

 

 たじろぐ時哉ではあったがこの波香との会話の前、トイレから出てこの4畳半に入る前に、彼は父にSMSでメッセージを送っていた。しばらくしたら電話をするから話を合わせてくれと。

 

 「そ、そうだ、父さんに電話してみる。父さんが俺のことをクローン人間だって教えてくれたんだから」

 

 ピポパ......

 

 『はい、北条です』

 「あ!父さん?今、電話大丈夫?」

 

 『うむ、大丈夫だ』

 「俺が北条狂哉のクローン人間ていう話は本当なんだよね?」

 

 『......本当だ』

 

 外部スピーカーをONにしているため時哉の父、宗時の音声は充分に波香や真樹男に伝わっていた。

 

 「ほら、な?」

 

 時哉はどやって波香の顔を見る。

 

 「ちょっと、貸して」

 

 時哉からスマフォを波香は奪い取り、深呼吸して宗時に話す。

 

 「お久しぶりです。宗時様」

 『!!......波香様、おひさしゅうございます。この宗時、生存の間はもう話すことも叶わぬと思いましたぞ』

 

 「私を随分と探し回ったそうですね。おとう......クソジジィから聞きしました」

 「いえいえ、いいんです。波香様は波香様の人生を歩んでくだされば」

 

 「ありがとう......それで今の話だけれど」

 「時哉がクローンだということですか?」

 

 「ええ」

 「本当ですぞ」

 

 「......神に誓って?」

 「はい、間違いございません......波香様は真実にお気づきになられたのですね?」

 

 「ええ......宗時様も私がクローン人間であるにもかかわらず態度を変わらずに接してくれるのですね」

 

 波香はそう話すとうっすらと瞳に涙を浮かべる。

 

 「はい、私も息子同様、波香様のことを想っておりますぞ」

 「ありがとう......ありがとう......時哉に変わりますね」

 

 片手で涙を拭いつつ波香は時哉にスマフォを返した。

 

 「......父さん、ありがとう、助かったよ。そちらの調子はどうだい?」

 『いや、問題ないって言えば嘘になるがこちらもその事で心を痛めておるものがおってな。今、慰めておる』

 

 「そうなんですね......今の話......いや、なんでもない、じゃあ切るよ」

 『うむ、なんとしても波香様を連れて帰るのだぞ?』

 

 「わかってる」

 

 父、宗時との会話を終え、時哉はふと今の自分がクローンていう話は本当なのではなかろうかと不安になる。彼には幼少期以前の記憶がなかったのである。しかし時哉はそれ以上考えるのをやめた。今は波香を連れ帰るのが目的なのだから。

 

 「さ、これでわかっただろ?俺と一緒に帰ろう。俺にはキミが必要なんだ」

 「う、うん、トキヤもクローン人間だったんだ......」

 

 波香の手を取り立ち上がる時哉。その近くで真樹男は呆然と座り込んだままであった。

 

 「ん?どうしたマキ......ナ?行くぞ?」

 「そのいちいちどもってから名前を呼ぶの、やめてくださるかしら?」

 

 「ははは、すまない」

 

 「ごめんください」

 

 下から聞き覚えのある声が聞こえてきた。汐海達がこぞって波香の働いているコンビニに到着したのである。

 

 「あんたたちまで来たの?会社は?」

 「週末ですぞ」

 

 「あ、そっか」

 「あの、会長......」

 

 美菜は汐海の後ろから出てきて波香に謝ろうとした。

 

 「ひどいこと言ってごめんなさいっ!」

 「え?いいのよ。本当のことを教えてくれたのはみなりんなんだしね。貴方が言ってくれなければ私はずっと本当の事を知らないままだったと思う」

 

 波香はそう言うとジロっと時哉を見る。

 

 「は、ははは」

 「あら?貴方は?」

 

 波香は見慣れない中年サラリーマン風の男に気が付き声をかけた。

 

 「谷と申します。宜しくお願いします」

 「会長さん。私のフィアンセ.....です」

 

 谷の隣でおずおずと香織がそう言う。

 

 「へ、へええ~~~~。かおりんの」

 「ハイ、敬一郎......谷さんは全てを知ったうえで私を選んでくれました」

 

 「......香織、選んでくれたってそんなふうに自分のことを下にして言っちゃいけないよ。香織こそが俺が探していたパートナーなんだから」

 「う、うん」

 

 じっと見つめあう谷と香織。その様子を一同は微笑ましく見守っている。

 

 「かおりん。良い人見つかって良かったわね」

 「ハイ!全部、会長のおかげです!」

 

 「は?私は何も......するべきことをしてきただけよ」

 「......さ、もう行こう」

 

 時哉は波香の手をもうこの手を離すものかと言わんばかりに強く握る。

 

 「ちょっと待って。オーナーに言わなくちゃ」

 

 比嘉オーナーは店を閉めた後既に離れである自宅に帰っていた。波香はオーナーの連絡先に電話をかける。

 

 「オーナー。私、やはり帰ろうと思います」

 『そうか~残念だけど仕方ないね。それよりも今日のお金、本当にもらっちゃっていいのかい?』

 

 「はい、どうかお納めください。本当に見も知らずの私によくしてくださってありがとうございました」

 『ううん、いいんだよ。千春ちゃんのおかげでしばらく店しめちゃってもいいかな!あっはっは』

 

 「うふふふ、では、どうかお元気で。みなさんにも宜しくお伝えください」

 『うんうん、また彼氏のことがイヤになったらいつでもおいで』

 

 「あはは、ありがとうございます」

 

 電話を終え、波香は済んだ青い空を見る。なんで私の周りにはいい人ばかりなんだろう。その人達に対して感謝の気持ちに一杯になる。昨日までは暗く淀んだ気持ちでいたのが嘘のようであった。

 

 「さ、いきましょうか......うっ」

 「どうした?ナミカちゃん!?」

 

 「う、生まれる......」

 「ええ!?」

 

 

  ◇

 

 

 ちょうどその頃、神崎電子工業では日曜であるにもかかわらず数人の社員は出社しラインを止めずに新型スマフォの生産をしている。そして社長室では大学受験を控え女子高生でありながらこの会社の社長、神崎恵美と総務兼経理部長の間宮が財務諸表を見つめていた。

 

 「社長、やはりこのままではこの会社は1年と持ちません」

 「......この数字を見たらそうなりますね......一体どうしたら......師匠、早く帰ってきて......」

 

 

 (続く)

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。