ここは都立病院。
北条美菜は性交しすぎによる腎虚で入院中の自分の彼氏有働明の見舞いでそこに訪れていた。ここを訪れるのはもう10回目である。
「美菜。悪いが俺と別れてくれ」
「え!?なんで!?」
「退院のメドが立たないし美菜にこう何度も見舞いに来てもらうのも悪い気がするんだ」
「私は別に大丈夫だよっ?」
「いや、幸いなことに俺たちはHは数えきれないほどしたが付き合ってから日は浅い。情はそれほど深くはないから今別れてもダメージは少ないと思うぜ?」
「そう、明君はそれでいいの?私のせいでそんなんなっちゃって?」
「いいんだ。バチが当たったんだよ。責任を取るつもりもなく中出しセックスを思う存分楽しんでたからな!」
「それは私も納得の上だったんだけどね。まあでもいいや、明君がそういうつもりなら別れてあげる」
「おう、すまんな」
「じゃあね!元気でねっ!」
「おう!」
美菜は有働との最後の挨拶を交わすと振り返ることなくその病室を後にした。病院の出口を出てしばらくしたら美菜の瞳から涙が込み上げてきた。
「うっうっ......んはあ」
涙目で空を見上げると夜空に星が輝いていた。
「ははっ、星がキレイだね~」
◇
「おかえり。ナミカちゃん。本当に迎えにいかなくて良かったのかい?」
「ただいま。思ったより波哉香がぐずらなかったので楽だったわ」
波香は何カ月ぶりかにマンションに我が子と供に帰還する。それを時哉達は玄関で出迎えた。時哉を何日も仕事を休ませるわけにはいかないので波香は単身で子供を連れここに帰ってきたのだ。
「そうか、それはよかった」
「あれ?一人足りないわね?」
波香は玄関で出迎えてくれた面々の顔を見てそう言う。
「ああ、美菜は......部屋にこもりっきりなんだ。」
「そお、ちょっと様子を見てくる」
波香は赤ん坊を背負ったままずかずかと4畳半に向かって歩いていく。
「みなりん?」
「あ、会長。おかえりなさい」
「......なんかあった?」
「......」
「そう、ま、言いたくなったら言って。私で良ければ力になるわよ。仲間なんだしね。同じクローン人間の」
「ううっ」
「あはは、別にイヤミで言ったんじゃないわ。......本当に同じクローン人間なんだから私だけ幸せになるのは不公平だから一緒に幸せになりましょう?」
「!!会長ぉ~!!」
美菜は赤ん坊を背負った波香に抱きつく。それを波香はしょうがないわねっといった表情で受け止めそっと美菜の髪を撫でてあげた。
「あなたは可愛いしスタイルもいい。だからもっと内面を磨きなさい。そうすれば幸せは向こうから近づいてくる。それを逃さないようにするだけよ。簡単でしょ?」
「うっうっっ...内面を磨く......わかりましたあ、わからないけどわかりましたあ.....うっうっ」
「あはは、私はあなたがどうして泣いているのかわからないけどね」
翌朝から美菜は小野寺と供に台所に立つ。
「明日香ちゃん、私も朝ご飯作るの手伝うよっ!何をすればいい?」
「え!?じゃあ、食パンを焼いてください」
「らじゃ~!!」
その様子を見て時哉は不思議に思う。
「どうしたんだ?美菜の奴、今まで手伝いもしなかったのに急に朝ご飯を作るだなんて?」
「ふふふ、まあ、思うところがあるんじゃない?......ん~」
波香は不審に思う時哉にそう言いながら背伸びをする。
「まあ、なんにせよ。私は助かるわ。家族っていうか同居人がいっぱいいるのって楽チンね。波哉香もほとんど夜泣きしないしこんなに楽でいいのかしら」
「本当だね」
波哉香は特別に用意されたおりかごの中でスヤスヤと眠っている。それをにへっとした顔で眺めながら時哉は不意に心配そうな表情となる。
「......まさか、おしめを替える必要もないとか?」
「あはは、まさか。ちゃんと私が替えてるわよ......心配しなくてもその辺は普通だから」
「そ、そうか、すまない、変な事言って」
「ううん、大丈夫よ」
波香はそう言いながら時哉の手を握る。
「......ねぇ」
「ん?」
「二人目、作る?」
「そうだね」
見つめあう二人。そこへ汐海は朝シャワーを済ませ上半身ハダカでバスタオルでくしゃくしゃと頭を拭きながらリビングにやってきた。
「お、おう!時哉殿に波香殿、朝からアツアツでございますなっ!」
「服を着ろっ!」「服を着なさいっ!」
◇
オンボロアパートの一室で香織と谷は目覚める。このふたりはほぼ同棲状態となっていた。
「おはようございます敬一郎さん」
「おはよう香織」
起き抜けに二人は濃厚なディープキスをする。
ぴちゃぴちゃくちゅ
「......はあ」
「......ふう......好きだよ、香織」
「私もです」
この時期ふたりは相手に寄せる愛情が最高潮となっていた。
「香織、今後も2人で人生を歩んで行くためにも言っておきたいことがある」
「なんですか?」
「俺と対戦するときは全力でかかってきてくれないか?」
「......気づいてしまったんですか」
「ああ。それは俺を逆に傷つけていると知って欲しい」
「ごめんなさい」
「今夜からは手加減なしで頼むよ?」
「うん、わかりました」
「あの敬一郎さん、私からもお願いがあるんです」
「言ってごらん?」
「Hの時なんですけどもっと乱暴にしてくれて構わないです」
「......」
「敬一郎さん優しいから私のことを気遣ってくれてるなって凄く伝わってくるんです......もっと自分本位になってくれてもいいですよ?その方が敬一郎さんは気持ちいいと思うし気持ち良さそうにしている敬一郎さんを見るのも私は多分......その......私も気持ちいいと思うから」
「そうか、うん、わかったよ。本当にキミは俺の理想の女性だ」
谷はそういうと香織を抱きしめる。
「嬉しいです」
抱きしめられながら谷の胸に香織は顔をうずめた。その後、二人は顔を洗い歯磨きをし香織は軽いメイクを済ませると即座に着替え谷のオンボロアパートを供に出る。
「今日は朝飯どこに行こうか?」
「そうですね、私、お魚が食べたいかな」
「うん、わかった、じゃあ凶野家の朝定食にしよう」
「はい!」
「いや、ほんと香織が食べたいもの言ってくれて助かる」
「え?どうしてですか?」
「『なんでもいい』と言っておきながらどこかに連れて行くと不満そうな顔をする女性が多かったもので」
「なんですか?それ?ありえないですね」
香織は怒ってそう言う。がそれは谷の付き合ってきたと思われる過去の女性に対して嫉妬して怒っていたのだ。
凶野家に入り二人とも鮭定食を頼む。すると定食はすぐに二人の手元に運ばれてきた。お互いの顔を見合わせ食事を開始する。
「はあ、こんなに幸せでいいんですかね」
「いいんじゃないかな」
食事をすませるとお互いに職場に向かう為、駅では違うホームとなるので二人はお別れのキスをした。それをホームの階段のすみっこで座りながらタバコを吸っていた2人のチンピラの目にとまり因縁を吹っ掛けられる。
「朝からお熱いこってすな!」
「俺たちにもわけてくんねえかな?」
「な、なんですかキミたちは!?」
谷はびびってそんな声を出す。
「なんですかチミたちはってか?そうですボク達はチンピラでえ~す!」
そう言ってそのチンピラの一人は口に咥えたタバコを谷に向かって噴き出した。
「敬一郎さん、相手にしないで行きましょう?」
「お、つれないねえ。そこのキレイなオネエサン。そんなオッサンはほっておいて俺たちと遊ぼうぜ?」
「キャア!」
チンピラは香織の腕を掴む。おろおろしていた谷は意を決しチンピラに向かって声を張り上げた。
「やめないか!お、俺はオッサン魔法少女だ!やめないと痛い目にあうぞ!」
「やめられないとまらなぁい」
ぼかっ
チンピラが谷の顔を殴る。
「ううう」
「敬一郎さん!!......よくも!!」
香織は自分の腕を掴んでいるチンピラの腕を容赦なくひねり上げた。
ボキッ!!
「ぎゃあああああああ!!」
何かが折れる音が聞こえる。そして谷を殴ったチンピラに向かって走り寄り左手の手刀を振り下ろす。
ドカっ!!
「うぐあああ」
そして香織は身体を反転させ後ろ回し蹴りをチンピラに向かって炸裂させた。豪快にチンピラは吹っ飛びさらにそのチンピラに馬乗りになり頭を目掛けて手刀を右左と交互にふりおろす。
ドカッメキョッバキャッ!!
「グエッグヘッ...ヘッ......ッ...........」
「か、香織!やめるんだ!!」「う、うわああ!!」
谷を殴ったチンピラは香織の両手から交互に繰り出された手刀により頭が変形し脳みそが飛び出していた。その惨状を見た仲間のチンピラは逃げ出していく。
ウ~ウ~ピ~ポ~ピ~ポ~
誰かが通報したらしくどこからかパトカーがやってきた。パトカーの中から数名の警官が下りてきて慌てて駅の改札口を通り抜けてくる。そしてその無残な死体を見た後、香織の両手にべっとりと血が付いているのを確認した。
「キミか?やったのは?」
「は、はい......」
「殺人容疑で現行犯逮捕する!」
かちゃ
香織の両手にはがっちりと手錠がはめられる。
__人々が行きかう通勤ラッシュ時間帯のほんの数分の出来事であった。
(続く)