バシッバシッバシッ!!
美菜が苦し紛れにバタバタと両足でその女性の胸板に蹴りを入れるがビクともしない。その女性の太い左腕で首を絞められている美菜の顔は次第に紫色に変わっていく。その女性が蹴破ったドアに吹き飛ばされた時哉はその美菜の様子を見て声をあげる。
「ヤバイぞ!!小野寺!!110番だ!!」
「はい!」
ドアに吹き飛ばされた時哉と小野寺は後れをとってしまっていたが時哉は小野寺に指示を出し自らはソファを抱えてその女性に向かって走り出した。
「うおおおおおお!!」
ばこ~~~ん!!バタバタバタッ......
時哉の体当たりにより3人は吹っ飛びようやく美菜はその女性の首絞めから解放される。
「ゲホッ!!ゲホッ!!ゲホッ!!」
「大丈夫か!?美菜!?」
「ん......なんとか。でもヤバかったぁ......」
「アナタ。ドウシテジャマスルネ?」
その女性は今度は時哉に向かってのっしのっしと近づいてくる。
「美菜は家族みたいなものでね。守るのが当然だろう?それよりなんでキミは美菜を狙うんだ?ジェニファー?」
「サッキノオトコモワタシヲジェニファートイッタガワタシハジェニファーデハナイ」
そう言いつつその女性は時哉の首を狙って右手を伸ばしてきた。
「おっと!そんな鈍い動きでは俺を捕らえることは無理だな」
さっと時哉はその女性の腕をかわす。するとその女性は時哉を追うのをやめ美菜にと視線を移し動き出した。
「っひっ!!」
「美菜!!外に逃げろ!!こいつはスピードは遅い!!」
「う、うん!!......イタッ!!」
座り込んでいた美菜は慌てて立ち上がり走り出そうとしたがさっきの時哉の体当たりでその女性の首絞めから解放されて落下した時に右の足首を捻っていた。
「どうした!?美菜!?」
「なんかひねっちゃったみたい」
「まじかよっ!!」
のっしのっしと座り込んでいる美菜にその女性が掴みにかかる。その時再び時哉はソファを抱いて体当たりを敢行した。
ドカ~~~~ン!!
その女性と時哉が吹っ飛ばされる。
「小野寺も今のうちに外に逃げてくれ!」
「はい!」
倒れこんでいるその女性と時哉を尻目に小野寺は美菜を肩に抱えて外に逃げて行く。時哉もすぐさまに起き上がりその女性よりも早く部屋の外に逃げ出した。時哉達の部屋は9階にあるが小野寺達はエレベータを待ちきれずに階段を降りて行ったようだ。エレベータが下から上がってくるので時哉はそう判断する。
(どうする?このタイミングではきっとあの女はエレベーターに乗るだろう。小野寺達より先につく可能性が高い......いや、小野寺のことだからきっとこれはフェイクだ。そうだろ?小野寺!)
時哉は一旦躊躇するがエレベーターが来るのを待ち乗らずに1Fのボタンを押して無人のままエレベーターを発進させる。そして自らは階段を降りて8Fの踊り場にでた。するとひょこひょこと女性の2人組が2人3脚よろしく連絡通路を歩いていた。
「お~い!」
「あ、時哉さん!あの人は?」
「すぐに追ってくると思うが多分エレベーターに乗るんじゃないかな。俺たちが下に行ったと思って。そう仕掛けるつもりだったんだろ?」
「はい。でもひっかかりますかね?」
「まあ、少しくらいは時間稼ぎになるだろう。その間に違う出口から出よう」
「はい!」
「俺が背負うよ」
そう言うと小野寺から美菜を引き離しおんぶしようとする。
「い、いいよ!私、重いし」
「いいから!早くしろ!あいつはまたすぐに追ってくるぞ!」
「むぅ」
困った顔で美菜は時哉の言う通りに時哉の背中におぶさった。
「急ごう!走るぞ!!」
「はい!」
「......もぅ、惚れてまぅょぉ......時哉さんは会長のモノなのに......惚れちゃダメなのに」
「ん?何か言ったか?」
「え?ううぅうん!!なんも!あ!でも、さっき家族みたいなものって言ってくれて嬉しかったかな」
「実際そうだろうに」
「......そうだね」
時哉のおんぶ走りよりも早く先行していた小野寺は走りながら慌てて汐海にスマフォで連絡をする。
「ハアハアハア.....あ!汐海さん?そちらは大丈夫ですか?」
『問題ないが?なんでだ?』
「今、美菜さんを狙った黒くてデカイ女の人に追われているんです!」
『なんだって?それで美菜は無事なのか?』
「足首を捻ったみたいで時哉さんにおんぶしてもらって3人で外に逃げてます。でもまだマンション内で」
『わかった。私もすぐそちらに行く。小野寺殿の携帯のGPS機能をONにしておいてくれ』
「はい!」
時哉達はちょうど反対側のエレベーターにたどり着くが下からエレベーターが上がってくる。
「これってもしかして」
「ああ、そうだな。アイツが乗ってるかもしれん。だがここは8階だ。戻るとすれば9階まで行くだろう。ここは隠れてやりすごそう」
時哉の言葉で3人は乗り場を離れ階段のところに身を隠す。
ガーッ
ところがエレベーターは8階で止まり中からその女性が下りてきた。その女性は連絡通路を見渡すと今度は階段の下を覗き込み時哉達を探すが時哉達は見つからなかった。そしてその女性はエレバーターに乗り9階に上がっていった。
「ふぅ」
「危なかったですね」「ひゃー」
「よし、このエレベーターを使って下に降りよう。あいつは多分俺たちの部屋に戻っていったと思う」
「いえ、時哉さん。ここは大変ですけど念のため階段で下まで行きませんか?」
小野寺は申し訳なさそうな態度で時哉にそう進言する。
「お、そうか。そうだよな!」
「時哉さん変わりましょうか?」
「いや、大丈夫だよ」
時哉は美菜をおんぶしたまま階段を降りていく。それを申し訳なさそうに後ろから小野寺はテクテクと歩く。
7階のエレベーター乗り場に来たところで小野寺はエレベーターを確認するが動いている気配がない。ここはエレベーターを利用してみてもいいのではという思いに駆られるが自ら首を振ってその考えを否定した。
(私が相手の立場なら乗ったまま動かないでいる。そうすれば居場所の階にたどり着くと思うから......だからここはエレベーターを呼んではダメだ)
しかし小野寺の頭の中でいずれはまたあの女性と対峙することになる予感がしていた。汐海には申し訳ないがこの現状では3人ともやられる可能性のが高い。だから汐海に助けを求めたのだ。もしかしたら汐海が援軍に加わっても太刀打ちできないかもしれない。それほど力の差は歴然としていた。が、その心配をよそにパトカーのサイレンが聞こえてきたところで小野寺は少し安心する。
「時哉さん、警察が来ましたね」
「ああ、これで助かるかな?」
「警察が来るまでなんとか見つからずにやりすごしましょう」
「そうだね」
やがて慌ただしくエレベーターから警察が数名バタバタとしている様子が伝わってくる。あの女性が警察官に対しても抗戦的な態度を取るのか時哉達は心配したがそれは杞憂に終わった。ほどなくして数名の警察官が階段の踊り場の隅に隠れている時哉達を見つけて近寄ってきたのだ。どうやらあの女性も警察官をやりすごしどこかに行ったのだろう。
「大丈夫ですか!?通報したのはあなた達ですか?」
「そうです」
しばらくの間、その場で時哉達は警察官の事情徴収を受けるがその間に汐海はやってきた。
「時哉殿!......美菜、足の具合はどうなのだ?」
「うん、痛いけど捻っただけだから。骨は折れてないよ」
「そうか。一体何が起こったのだ?」
「私もぜひお聞きしたい」
汐海が時哉達にそう話すと汐海の後ろからひょこっと宮里が現れた。
「あなたは?」
「ああ、この人は警視庁の宮里警部だ。下で偶然会ってな」
汐海が時哉に宮里のかわりにそう答えた。
「こんばんは。あなたが北条波香さんの恋人の北条時哉さんですか?」
「はい、そうです」
「なるほど。で誰に襲われたんですか?」
「今、こちらの警察の方にもお話ししたんですがあの女子総合格闘家のジェニファー・ロドリゲスにそっくりな女性にです」
「ほぅ、証拠はありますか?」
「......これです」
時哉は自分のスマフォを宮里に見せる。
「時哉さん!いつの間にカメラ撮ってたんですか?」
「まあ、ね。ある人に......教えられてね。何かあったらすばやく写真を撮るっていうのは条件反射になってる」
「はあ、すごぉい」
小野寺が感心してる中、宮里は時哉の撮影したスマフォの画像を見る。
「ふむ、確かにあのジェニファーによく似てますな。ジェニファーの所在をいますぐ確認させましょう」
「はい」
宮里は部下と思われる人物に話すとその人物はすぐにどこかに電話をかけた。しばらくするとその人物は宮里に報告をする。
「......ふむ、北条さん」
「はい」
「ジェニファーは今アメリカにいるそうです。よってこの人物はジェニファーではないですね」
「それは確かなんですか?」
「ええ、ウチの鑑識がアメリカにいるジェニファー本人と国際電話で話したみたいですよ」
「そうでしたか......そうするとコイツは.......」
「ええと北条さん。この人に狙われる心当たりは?」
「......いえ、部屋でみんなとくつろいでいたら突然、ドアを蹴破って侵入してきたんです」
時哉はそう答える。ジェニファーもどきが襲ってきたのは美菜ひとりという事実を隠して。
「ふぅむ。あ、そちらの女性はケガを?」
「はい、足を捻ったみたいですが......」
「病院まで部下にお送らせしましょう」
「え!?」
「うん、美菜、送ってもらったほうがいい。俺も行くから。あ、それと汐海もついて来てくれないか?」
「わかった」
「え!?え!?そしたら私一人になっちゃうじゃないですか!怖いんですけど」
小野寺はたまらずそう声をあげる。
「あ、そうしたらお嬢さんは私と一緒に署まで来ませんか?今晩は保護しましょう。波香さんにも会えますよ」
「え?本当ですか?宜しくお願いします宮里警部!」
「え!?」
時哉は宮里の言った言葉に敏感に反応する。それを汐海は感じ取り時哉を気遣い時哉に言う。
「時哉殿。なんなら美菜は私に任せて波香殿のところに行かれたらどうか?」
「......いや、そうしたいところだけど美菜は足をケガしてるし汐海一人だけでは......」
「そんなに強いのか?そのジェニファーによく似ているという女性は?」
「うん、パワーはケタ違いだよ。あやうく美菜は片手で首を絞め殺されそうだった」
「ほう。でも私には刑事が2人尾行している者がいるので心配には及ばん」
「うーむ、やっぱり俺も行くよ。ナミカちゃんと小野寺は署にいれば安全なんだし」
「そうか、では頼む」
警察の用意したそれぞれの車に時哉達は乗り込み。時哉、汐海、美菜は病院、小野寺は宮里警部の運転する車に乗り警察署へと行くのであった。
◇
宮里は小野寺を自分の車の助手席に乗せ走り出す。
「すみませんね。後ろの席はいろいろ荷物があるもんで」
「いいえ、こちらこそお世話になってすみません」
「あなたは学生さん?」
「はい、そうです」
「北条波香さんとあなたの関係を聞いても良いですか?」
「あ、はい。私が高校の時、波香さんは先生だったんです。私の恩師です」
「ほぅ。今は一緒に住んでいると?」
「はい、お世話になってます」
「どうして一緒に住むようになったんですか?」
「はい、私が交際していた彼と別れようとしていたらその彼に暴力やストーカー行為をされて困っていたら匿ってくれたんです。このことは警察にも相談しているんですが」
「そうでしたか。それは大変ですね」
「はい......」
「......ああ、なるほど」
「え?」
「いや、昨日、北条汐海さんが言っていた友人ってあなたのことだったのですね」
「はい、多分そうだと思います」
「いやはや、......なんとも」
宮里は貴方たちはいろんな人に狙われて大変ですねという言葉を飲み込む。
「んんんんっ」
宮里は軽く咳ばらいをして話題を変えることにした。
「波香さんという人はどんな人なのか、教えてくれませんか?」
「私の主観で構いませんか?」
「構いません」
「えっと、超効率主義で何でもできる人です。それでいてすごく面倒見が良くて......私にとっては頼りになる姉のような存在です」
「ほう、なんでもできる?」
「はい、海外のH大卒ですし、スポーツも料理もなんでも......お酒は弱いけど」
「酒は弱いのですか?」
「はい、いつも一杯で寝ちゃってますね」
「ははは、なるほど......波香さんの事、好きですか?」
「え?......好きですよ。変な意味じゃなくって人として好きです。リスペクトしてます」
「人として......ね」
「......え?」
__小野寺はその最後に言った宮里の一言が気になった。もしかしたらこの警部さんは自分の恩師が実は人によって造られたモノであることに気がついているのではないかと。
(続く)