時哉達は宮里の部下である
「うん、大丈夫。軽い捻挫だと思うわよ」
「あ、ほんと?良かったあ」
東城の言葉に美菜はホッとする。そんな2人のやりとりを見て、時哉や汐海もホッとしていた。
「すまないな2人とも。私の警護ついでにこんなことまでしてもらって。非常に助かる」
そう、新見と東城は汐海の尾行をしていた刑事だった。2人は波香と汐海がマンションですれ違いになった時、汐海にそっくりの子連れの波香を尾行をし署まで戻って来てしまっていた。そして宮里の命により汐海、美菜、時哉の警護にあらためて任命されたのだ。
「いいえ、仕事ですから」
車のハンドルを握りながら新見は言う。
「あ、そうそう途中で私達、あなたの尾行を間違えちゃって北条波香さん?だったっけ?あなたとそっくりね?」
美菜の診断を終えた東城は今度は汐海に向かって話しかけた。
「うん?ああ、親戚なのでな」
「ていうか北条美菜さんも顔以外あなたと同じような体型じゃない?」
「ま、まあ、美菜も親戚なのでな」
「そうだよっ」
汐海と美菜の様子を見て東城はちょっと不審に思う。親戚だからといってこうも似るものなのか。自分の親戚には自分にここまで似てる人なんていないからだ。
「それにしても随分と広い車だな」
新見の車の内装をしげしげと見つめて汐海は言う。
「張り込み用に車内で寝られるようにね。自腹で買ったんだ」
「とかなんとか言って本当はいやらしい目的の為に買ったんじゃないの?」
「断じて違う!」
東城はムフフ顔で新見の顔を覗き込むようにして言う。
「......2人とも仲が良いようだが付き合っているのか?」
そんな二人の様子を見て汐海は率直に自分の疑問をぶつけた。
「は?つきあってないわよ。新見とは刑事になった時期が同じだから......同期ってだけの関係よ」
「まあ、そうだな」
「なんだ付き合ってないのか。そんなに仲が良いなら付き合えばいいのに。セックスは気持ちいいぞ?」
「は!?何言ってんの!」
東城は顔が少し赤くなったような感じがしたが新見のほうは顔色ひとつ変えずに車の運転に集中していた。
「さ、もうすぐ病院につきますよ!」
新見がそう言って車のスピードを緩めた瞬間。
どか~~~ん!
「うお!」
「きゃああ!!」
左横から猛烈な衝撃を受け新見の運転する銀色のワンボックスカーは中央分離帯に激突しそうになるが新見は慌ててハンドルを切りなおし態勢を整えようとする。が、ハンドルを切りすぎて左側の歩行者通路まで乗りあげてしまう。幸いスピードが出ていなかったのと他に歩行者がいなかったので死傷者はでなかった。
「なんなんだ一体」
新見と東城は車から降りて状況を確認する。その一瞬のスキを狙って暗闇から突如として現れた謎の人物が銀色のワンボックスカーの運転席に乗り時哉達を乗せたまま走り去ってしまった。
ブロロッロォーーー!!
「お、おい!!」
新見は追いかけるが当然追いつくことなどできない。
「やっべええ、やっちまった!すぐに緊急手配しないと!」
新見は慌てて自分の携帯を取り出し連絡をする。
「あああ、一緒に車外に出ないで私だけでも乗ってればよかった。失敗したあ......」
路上に取り残された2人は走り去っていく新見の車を呆然として見えなくなるまで見つめていた。
◇
銀色のワンボックスカーをジャックした謎の人物は女子総合格闘家ジェニファーによく似た例の人物だった。彼女は車に飛び乗るや否や全ドアの扉と窓のロックをすばやく施錠していた。
「いったいどこに連れて行く気だ。お前はいったい何者なんだ!?」
時哉は彼女の運転席のすぐ後ろから怒鳴っていた。
「オマエハカンケイガドアヲアケルト37ゴウヤ403ゴウガニゲテシマウ」
「......お前は何をやろうとしてるんだ?」
「オマエハナゼワタシノコトヲ『オマエ』トヨブ?ワタシニハ『キーリア』トイウナマエガアルノダ」
「キーリア?」
「なんだと?お前はまさか千番目だと言うのか?」
汐海は驚きの表情で運転席に座っているキーリアと名乗る女性を見る。
「汐海?なんだその千番目っていうのは?」
「時哉殿、『キーリア』というのはギリシャ語で千という意味なのだ」
「なるほど......やはりこいつもクローン人間なのか......波香ちゃんには似ていないけどジェニファーのクローンということなのか?」
キキーーーッ!!
「うわっ!!」
車は廃工場の中に入りちょうどその中央付近で急に止まった。
「ナニヲブツクサトイッテイル?ツイタゾ」
「こんなところに来て何を始める気なんだ?」
「キマッテイルダロウ」
キーリアはそう言って運転席から振り返りニッと時哉に向けて不敵に笑う。
ズモモモオモ......
ワンボックスカーの止まった地面が割れて行きそのままワンボックスカーは地面に飲み込まれるようにして地下へと吸い込まれていく。
「37ゴウト403ゴウノキノウヲテイシサセテオヤカタサマニケンジョウスル」
「そんなことはさせない!!」
「オマエハカンケイナイ。オトナシクシテイレバナニモシナイ。ダガジャマスルヨウナラヨウシャナクオマエモハイジョスル」
ゴゴゴ......オン......
やがて車は下に進むのを止め車の下がってきた上方はまるで蓋を閉ざすような音を立てていた。キーリアは車を降り時哉達に向かって手招きをした。
「サア、ココナラダレニモジャマスルコトナクアソブコトガデキル。3ニンマトメテアソンデヤルゾ。ワタシヲタオセバウエノカイニモドルコトガデキルダロウ」
「何だと?」
時哉達は車を降りキーリアの方を見るとそこは闘牛場のようなちょっとしたコロシアムだった。
「何だここは?都心の地下にこんな闘技場が......北条家の地下施設と繋がっているのか?」
「......時哉殿は知らないのか?」
汐海は美菜と顔を見合わせ時哉にそう言った。
「知らないな」
「......ここはかつて私達がいた訓練施設だと思う。小さいころここで戦わせられて成績の悪かった私達の仲間たちはどこかに消えて行った......多分、処分されたんだと思う」
「なんだって!そんなことが......」
「......」
汐海と美菜は俯きかつての仲間達の無念さをその身に感じていた。
「ナニヲハナシテイル?コナイノナラワタシカライクゾ?」
ドドド......
「ま、待て!美菜はケガしているんだぞ?そんな状態で勝っても嬉しくないだろうが!?」
「ケガヲシテイル?ソンナノカンケイナイ。ショウブトハヒジョウナモノ」
キーリアはそう言って美菜めがけて突進してくる。
「わわわわ」
後部座席に乗ったままの美菜はそう言うだけで動けずにいた。
「やめろ!!」
時哉は美菜の前に立ちふさがり美菜を守ろうとするがキーリアの体当たりにより吹き飛ばされその身体もろとも美菜のほうに吹き飛び激突する。
「うわ!」
「ぎゃん!」
その様子を傍で見ていて阻止できなかった汐海はワナワナと身体を震わせ言葉を発する。
「おのれ......私が相手だ」
「403ゴウカ。チュウカンロットノナカデハソノセントウリョクハサイキョウトノコト。タノシミダ」
「なんだそれは?自分が上のつもりか!!」
ダダダダッ!!ヒュン!バシィ!!クルン!ドカッ!!
汐海はキーリア目がけてダッシュしそのまま勢いに任せて膝蹴りを繰り出すがキーリアは半身のまま左手一本でその攻撃を捌いた。そして汐海の身体はくるんと宙を舞いそのまま無様にも落下しもろに背中から落ちた。
「ぐわあ!」
「ナンダソノコウゲキハ?ツマランナ」
ドカッ!!
キーリアは地面に落ちた汐海の腹部を踏み潰す。
「ぐぼお!!」
汐海は口から血を噴き出してしまう。
「イガイトモロイモノダナ」
「やめろ!!」
時哉は叫びキーリアに飛び蹴りを放つがキーリアはびくともしない。
「......ツマランナ」
ドカッ!!
「ぶぼあああ!」
キーリアの裏拳をもろに顔面にくらった時哉は3メートルほど吹っ飛ばされた。
「汐海!!時哉さんっ!!......許さないっ!!......イタッ!!」
美菜は声を上げ足首の痛みに耐えながらも立ち上がった。
「サテト。37ゴウノバンダナ。サッキノツヅキヲシヨウカ。サッキハジャマガハイッタシナ」
キーリアはそう言い美菜の喉元に右手を伸ばしはじめる。
「......ありったけの全力で搾り上げてやるっ!」
美菜はキーリアの右手に飛びつきスタンディング十字固めの形に持っていこうとするがキーリアは先ほどのように空いている左手で美菜の喉元へ手を伸ばす。が美菜は左右に首を振りながらその左手から逃れる。
「捕まらなければどうってことはないのっ!!」
美菜はそう言いさらに両手を使い全力でキーリアの右手を絞り上げる。
「ヌヌヌ......グオオオオ!」
「きゃあああ!!」
くるん!......びた~~~ん!
キーリアは自らの身体を美菜によって右腕を搾り上げられている方向に回転させると美菜もその方向に回転させられ背中を打つ。そして汐海にしたことと同じようにキーリアは美菜の腹部を踏み潰そうとするが美菜はすばやく身体を回転させそれを回避した。
「ナルホド。37ゴウハソノカンセツワザニトッカシタワンリョクトスピード。データドオリダナ」
「げほっげほっ......私の事も忘れているぞ」
汐海はよろよろと立ち上がってキーリアにそう言う。
「403ゴウ。マダヤレルトイウノカ」
「俺もな!!」
「......」
キーリアは強がる時哉のことなどは全く相手にせず今度は汐海に向かってゆっくりと歩き出した。
◇
「先生!」
「ん?小野寺?どうしたの?こんな時間に」
小野寺は宮里に案内され波香の留置されている部屋へとたどり着いた。
「実は......」
小野寺はここまでのいきさつを全部波香に説明した。
「そう、そんなことが.....」
「時哉さん達大丈夫でしょうか?」
「まあ、大丈夫でしょ。警察の方も護衛についているんだし」」
ドタバタドタバタ......
そこへ宮里が慌てながら波香のもとへ駆けてきた。
「北条さんすまない!私の護衛の人選ミスだ。あなたの恋人の時哉さんと美菜さん汐海さんが何者かに連れ去られた!」
「は?」
「申し訳ない。私がもっとベテランの人に頼めばよかったんだが......でも場所は特定できていますのでご安心ください。我々は特殊部隊と一緒に今からそこへ行きます。無事に救出しますので!」
「黙ってれば私にはわからないのによく話してくれましたね?」
「え?いや、それはもう......嘘はつけないのと隠し事はできない性格なもので」
「損な性格ですね」
「そうですか?自分では損したと思っておりませんが......」
「私も連れてってください」
「......なるほど私が黙ってればあなたにそう言われることもなかったのですね」
「そうですね」
「通常はそんなことできませんが......いいでしょう。教えてしまった私が悪いので」
「あら、意外」
「......その子に見つめられるとどうも断ることができないですね。ハハハ」
「え?あら、起きてたのね」
波香は我が子を振り返って見るとその眼差しはキュッと宮里を睨んでいるようにも見えた。
「小野寺はこの署にいて?いいわね?」
「わかりました」
「それと宮里さん。お願いがあるのですが......」
「なんでしょう?」
「北条香織を仮釈放できませんか?」
「北条香織を?」
「ええ」
「それはどうしてですか?」
「彼女の戦闘力は役に立ちそうなので」
「......北条香織もあなたの知り合いなんですか?」
「ええ、彼女は私の会社の部下です」
「......なるほど、わかりました。上に掛け合ってみますがあまり期待はしないでください」
◇
キーリアは汐海に向かってパンチを放つがその速度は遅く汐海は余裕を持ってかわしていた。が、その一発は当たるとどうなるかわからないほど重い。現に誤ってコンクリート
の壁を殴った際には殴った場所の穴を中心にして直径約50センチほどが粉々になっていた。
ペシペシペシ
キーリアの背中には時哉がパンチを当てているが蚊ほどにも効いていない様子だった。なのでキーリアは時哉に対しては無視、完全無防備状態なのだ。
「くそ~~~なぜなんだ」
パンチを放ちながら時哉は己の非力を呪う。
ブオン...ブオン!!
「くっ......遅いといえどアレを喰らったらただでは済むまい。こちらから攻撃をしても相手の間合いに入るには危険すぎる。一体どうしたらいいのだ」
汐海はキーリアの攻撃を避けながら戸惑っていた。そしてその汐海の視界には足を引きずりながらそろ~っとキーリアの背後に忍び寄るものがいた。そう美菜である。
「とりゃああ!!」
三度、美菜は汐海に向かってパンチを繰り出そうと振りかぶったキーリアの右腕に飛びつく。
「37ゴウ。マタソレカ。ムダダ」
キーリアは左手で美菜の首を掴もうとする。
ドカガアアア!!
美菜に注意を奪われたキーリアは顎に汐海の膝蹴りを喰らう。
「グオッ!!ナニ!?」
キーリアは一瞬怯んだ。今までで初めてのことである。
(手ごたえアリいける!)
汐海は追撃として飛び蹴りを選択しキーリアの顔面目がけて飛ぶ。
バシィ!!
だがキーリアは左手で汐海の右足首をキャッチする。右手は美菜、左手には汐海を掴み自らその場で回転し始めた。
「きゃああああ!!」
「うわああ!!」
ヒュウウ.......ズザザザザッ
キーリアは汐海だけを投げ飛ばし美菜の首を左手で掴もうと手を伸ばし始めた。
「サア37ゴウ。リョウリノジカンダ」
(続く)