「さあ、行きますよ!」
「はい」
宮里警部の乗るパトカーで波香と波哉香は時哉達のところに向かう。
「途中で若いの2人、回収しますんで」
「ええ、ちゃんとお灸をすえてあげてくださいね」
「それはもちろん」
「うふふ」
パトカーはサイレンを鳴らし次々と一般車を追い抜いていく。
「あら、パトカーって良いわね。みんな道を譲ってくれて」
「ははは、まあ、時にはさりげなく嫌がらせをする輩もいますがね」
「ふうん」
「まもなく部下のところです」
宮里がそう言うとすぐに道端に光を灯して手を挙げる者がいた。スマフォのライト機能でも使っているのだろうか。
「お!」
宮里がそれに気づくとスピードを緩め車をその者のそばにつけた。
「申し訳ありません!警部!あれ?」
「......申し訳ないです」
新見と東城は即、宮里に謝り車に乗り込む。助手席に波香が乗っているのに気が付いたようで後部座席に座った。
「今はいい。帰ってからちゃんとお灸をすえてやる」
「......はい」
「意外と署から近かったですね」
「そうですね」
「で、新見のクルーザーはこの先の廃工場で止まってるんだな?」
宮里は後ろに振り返り新見にそう問う。
「はい、間違いありません」
新見は自分のスマフォを確認してそう応える。
「......廃工場で人質を盾にたてこもる気か......だとしたら目的はなんだ?」
「いえ、おそらく立て籠もりはないでしょう」
「ん?北条さん何か思い当たる節があるんですか?」
「......父の差し金により私の親戚たちをこらしめに来たのではないかと思います」
「??え??ではあの女の格闘家もお父さんの知り合いなんですか?」
「まあ、そういうことになりますね」
「ふむ......」
「宮里さん」
「はい?」
「これは身内の恥なので身内で落とし前をつけたいと思います」
「はあ」
「それでどうしてもっていう場合以外は発砲をしないで欲しいのですが......」
「つまりこれは身内同士の喧嘩という訳ですか?」
「はい、そんなところです。関係のない皆さんを巻き込んでしまって大変申し訳ありません」
波香がそう宮里に頭を下げると波香の背中におぶさっている波哉香もちょこんと頭を下げたように宮里には見えた。
「あ、ははは。いえいえ、あなたが謝ることではありませんよ。ただ、法に触れるようなことをした場合、我々は連行しなければなりません。もちろんあなたもです」
「ええ、ええ、それは重々承知しておりますわ」
「お話し中すみません!警部、そこの入り口から入ったところが廃工場です!」
「おお!そうか」
宮里は廃工場の奥へと車をすすめる。が、辺りには何もないし誰かがいる気配もない。
「あれ?おかしいな?俺の車の居場所を示す信号はここなんだけど......」
「本当だ」
新見は首を傾げながら自分のスマフォを横にいる東城に見せた。その時、車は音をたてながら沈み込んでいく。
ゴゴゴゴ......
「な、なんだ?」
「きゃああ!なにこれ?」
自分たちの乗っている車が沈没していくような感覚に思わず若手刑事2人は声を発してしまう。
「ほ、北条さんこれは一体?」
「恐らくこの下は道場になっていると思います」
「ど、道場?」
「はい、私はこの下にある道場で幼少期はいろんな格闘技を教えこまれました」
「ほー」
「時哉達はここで戦っているものと思われます」
「それはまた......」
......ォン......
車は階下に降り静かに止まった。そして波香たちの目に映ったものは頭から血を流して倒れている時哉とキーリアにそれぞれの片手で首を絞められている美菜と汐海だった。
「トキヤ!みなりん!しおみん!」
バッ!!
波香は叫び車のドアを波哉香を背負ったまま勢いよく開け外へ飛び出る。そしてキーリアの元へと駆け寄った。
......ドサッ
波香に気が付いたキーリアは両手を離すと美菜と汐海は地面へと倒れこんだ。
「ゴホッゴホッゴホッ......」
「うぇっうぇっ......」
2人ともむせるような咳をしていた。それを見て波香はとりあえず生きていてくれて良かったとほっとする。
「73ゴウ!!オオオオオオ!!ウレシイゾ!!73ゴウハコレマデノナカデサイコウダトイワレテイルソンザイダ!!ソレニアエルトハ!!」
「は?あ、そ。それであなたは何号なのかしら?」
「ワタシハ『キーリア』ダ」
「なるほど。......1000号ってとこかしら。でもあなた。全然お母様に似てないわね?まあ、私も写真でしか見たことないけど」
「サアサア、アソビマショウ。トテモタノシミダ」
「うん、そうね。遊びましょうか」
「......チョットマテ。ナンダソノ、オマエノセナカノモノハ?」
「私の赤ちゃんだけど?何か文句ある?」
「ソンナモノヲセオッテワタシトタタカウトイウノカ?」
「そうよ?良いハンデだと思うけれど?」
「フザケルナ!!」
ブオォン!!
怒ったキーリアのパンチを波香は余裕でかわす。
「ほらね?そんなクソ遅いパンチ、赤ちゃんを背負ったままで余裕でかわせたでしょ?」
「ヌヌヌ」
「さあさあ、来なさいよ?まさかあなた『待つだけの女』かしら?そうね、見るからに異性にモテそうにないわね。ゴツイし」
「ヌヌヌ」
ブォオン!ブオオン!
右左とキーリアはパンチを繰り出すがそれが波香に当たることはない。
「当たらないわねーーー。あ!?もしかしてあなたって時哉達とも『待ち作戦』だったの?それじゃあ、勝って当たり前だわ。格闘技って攻撃を仕掛けるよりも相手の攻撃を待ってカウンターのタイミングでも見計らってれば楽だからね。名付けて『ヘタレ作戦』!!あなたが時哉達に勝ったのも納得だわ。あなたそれほど強くないわね。あははのは」
「フッガーーー!!」
逆上したキーリアは波香に向かって走りタックルでもぶちかませんばかりに猛突進してきた。
「......」
波香は突進してくるキーリアに動じることなく眼を閉じ全神経を集中する。おそらくこんな安い挑発に乗ってくるのは最初だけだろう。次回は学習し2度と同じ手は食うまい。ならばこの一撃で確実に仕留めなければならない。波香はそう考えていた。
「フガアアアー!!」
キーリアは波香に向かってタックルをかます。
「おとといきやがれ!!」
そのタイミングを見計らって波香はキーリアの顔面めがけて膝蹴りを繰り出した。
バキャアアン!!
キーリアの頭が波香の右膝と激突し何かが割れるような音がした。
「グアアアッーーー!!」
「ぐっ......」
キーリアの額は割れ鮮血がほとばしり波香は激突後後方に背中に背負っている波哉香を庇うように倒れこんだ。
「むっ、いかん!新見!東城!援護しろ!」
「は、はい!でもどうやって?」
「発砲もやむを得ん!」
「わかりました!」
キーリアはよろよろと歩きながら倒れこんでいる波香を波哉香もろとも踏み潰そうとする。
「警察だ!動くな!!」
新見はそうキーリアに向かって叫び銃を構える。がキーリアはその忠告を無視し波香を踏み潰すべく片足を波香に向かって振り下ろした。
ズゥン......
それを波香は波哉香を抱きながら回転してよける。
「何をしている新見!東城!撃ってかまわん!」
「くっ!東城、撃つぞ?お前も準備はいいか?」
「う、うん」
新見と東城は銃を構える体制のままキーリアに近づいていく。それに気が付いたキーリアは新見と東城に向かってゆっくりと歩き出した。
「う、動くな!!本当に撃つぞ!!」
新見と東城は銃の訓練で発砲を経験しているがまだ人を撃ったことはない。できれば新見と東城はこのままキーリアに降参してほしかったのだ。人を撃ちたくはない。だが2人の願いは叶わずキーリアは降参する気など毛頭なかった。
「ヤッテミロ」
「う、うわあああ!!」
バアァン!!
新見がたまらずキーリアに向かって発砲をする。がキーリアはその発砲の轟音と供に右腕を振り新見の銃から放たれた弾の弾道の軌道を変えて自分の身体に当たるのを阻止する。
「え??な、なんだそれ?」
新見は今起こった現実を受け止めることができない。その隣では東城も信じられない出来事に呆然としている。
「く、くそ!!」
バンバンバァン!!
新見は3発キーリアに向かって撃ちこむがそれもキーリアに当たることはなかった。そしてキーリアの右から放たれた右フックが新見の顔面に入る。新見は自分の腕でガードするが大した意味はなく3メートルほど吹っ飛ばされ気を失ってしまった。
「ツギハオマエカ」
「ひっ!」
その有様を銃を持ってただ見ていることしかできなかった東城にキーリアは襲い掛かる。
「新見!!東城!逃げろ!!」
宮里も自分の銃をホルダーから抜き構えながらキーリアに向かって走り出した。
ガッ!!
東城はその場から逃げようとするが足がすくみ判断が遅れキーリアに髪の毛をむんずと捕まれ横っ腹に強烈なボディブローをキーリアにくらってしまった。
「ぎゃ!!」
「東城!!おのれ!」
パンパンパン!!
宮里はキーリアに向けて何発か発砲するがキーリアに当たることはない。
「ムダダ」
「くっ!!化け物め!!」
宮里はダッシュの勢いの任せ全体重を乗せた右ストレートをキーリアの顔面に向けて放つがそれを楽々とキーリアは受け止めて捻り上げる。
ぎりぎりぎり......ボキッ!!......ドカッ!!
「ぐあわああああああああ!!!」
無残にも宮里の右腕は折られ顔面を蹴り上げられた。そして宮里は失神する。新見がやられてからわずか1分にも満たない攻防であった。
「なるほどね。やっぱりあなたは『待つ女だわ』」
ドカッ!!
キーリアの背後で波香はそうつぶやいてキーリアの背中にキックを放った。
「ハア?ゼンゼンキカナインデスケド」
ブォン!!......すかっ
キーリアは波香から背中にキックをもらった直後にすぐ裏拳を波香に放つが波香はそれをかわす。が、それをキーリアは計算していた。彼女の狙いは波香の背中にいる波哉香だったのだ。キーリアは波哉香を波香から奪い取ると波哉香の頭をギュッと握りしめる。
「ハハハハ、マズハジャマソウダカラコイツヲサキニハイジョシテヤル」
ぎゅぎゅぎゅ......
「や、やめろ!!」
波香は我が子を頭から握りしめられていることに逆上しキーリアの身体に無数のパンチを浴びせるがびくともしなかった。
「やめろやめろやめろ!!」
バシバシバシドカドカドカ!!
無数のパンチが音をたてているがもはやそれは虚しい音の代名詞に過ぎなかった。
「うううう、ん?俺は気を失っていたのか......ん?あれはナミカちゃん?はっ!!ハヤカッ!!」
満身創痍の時哉は自分の最愛の人が我が子を取り上げられていて無駄な抵抗と思える光景を見、そして我が子が握りつぶされようとしている光景を目の当たりにした。
「ウオオオ!!ンンン!!グォォォォォォォ!!」
__時哉の身体の中で何かが弾ける。
(続く)