※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

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第113話

 __20年前。

 

 「あはは、トキヤのグズ!ノロマ!」

 

 波香に続いて2人の男の子達が追いかけてくる。片方の男の子は波香に罵声を浴びせられていた。普通はそんなことを言われていたら怒るものだがその男の子は決して波香に怒ることはなかった。なぜならその男の子はその波香のことが好きだったからである。

 

 「はぁはぁはぁ、ナミカちゃん早すぎるよ」

 「お姉ちゃん待って~」

 

 「まったく、トキヤもマキオもそんなに遅いんじゃ競争にならないじゃない」

 「かけっこはナミカちゃんに敵わないから違うのにしようよ」

 

 「しょうがないわね。じゃあトキヤの好きなのでいいわよ。なんにする?」

 「そうだなー。じゃあ、ゴムボール野球は?」

 

 「いいけど野球って3人でやるものだっけ?」

 「3人いるから交替でピッチャー、キャッチャー、バッターをやるっていうのはどうかな?」

 

 「うん、いいよ。それで。マキオもいい?」

 「いいよ!やきうなら僕が勝つる!」

 

 ところが野球になってもその男の子2人はまるで波香の相手にならなかった。波香がピッチャーをやれば2人とも3球3振。バッターをやれば2人の男の子から豪快なホームランと思える大きな打球を飛ばしていた。

 

 「あはは、2人とも全然ダメーーw」

 「ははは、ナミカちゃんには何をやってもかなわないなー」

 

 時哉は自分に向かって勝ち誇りながら笑顔を見せる波香が好きで好きでたまらなかった。

 

 

 __それから数年後。

 

 

 波香とともに同じ中学に進学した時哉。がクラスは違っていた。ある日波香が自分の机で参考書を出して授業の予習をしていると同じクラスメイトの女子3人が近寄ってくる。

 

 「ねえ、北条さんと3組の北条時哉くんは親戚なの?」

 

 話しかけてきたのはクラスのリーダー的存在の渡辺佐紀という女学生だった。

 

 「え?親戚って言えばどうなのかな?遠い親戚かもしれないけど近い親戚ではないよ?」

 「そうなんだ......あの2人はどういう関係?」

 

 「ん?トキヤと私?」

 「うん」

 

 「別にただの幼馴染だけど。どうして?」

 「この子がね時哉くんのこと好きなんだって」

 

 渡辺の後ろからぴょこんと顔をだしてきたのは小柄でぽっちゃりとしてて可愛い女学生だった。

 

 「......どうも」

 

 その女学生はぴょこんと波香に対して頭をさげる。

 

 「え?田中さんが?トキヤのこと好きなんだ?」

 

 波香は驚いた顔をして田中に話す。

 

 「う、うん」

 「へえ~」

 

 波香に見つめられて挙動不審になっている田中をフォローするように渡辺は話し出した。

 

 「放課後に2人でよく一緒に帰ってるから付き合ってるんじゃないかと思って」

 「確かにたまにトキヤと帰るけど付き合ってるとかじゃないから」

 

 「そうなんだ」

 「うん」

 

 「じゃあ、時哉くんに告白していい?」

 「どうぞ」

 

 波香は田中にニコっと笑いそう答えた。その後、女学生3人はきゃあきゃあ騒ぎながら波香の席から離れて行く。

 

 「......へえ~~トキヤのことが好きな子がいるんだ。......どこがいいのかしら?わからないわね~。私は私よりも勉強やスポーツができる人がいいな......あっといけない今日中にこの参考書、終わらせるんだった!」

 

 波香はしばらくボウっとふけっていたが慌てて参考書に集中する。そしてその日の放課後、波香は下駄箱から自分の靴を取り出し履き替えて玄関を出ると時哉が待っていた。

 

 「やあ、ナミカちゃん、一緒に帰ろう?」

 「あれ?トキヤ。今日、告白されなかった?」

 

 「ん?なんで知ってるんだい?」

 「休み時間に私に許可を求めてきたの」

 

 「そうなのか」

 「うん、で?」

 

 「もちろん断ったよ。俺はナミカちゃんが好きなんだ」

 「はあ、って。ちょっと、今日は一緒に帰るのやめない?」

 

 「え?どうして?」

 「......勇気を出して告白してきた子の気持ちを考えてあげて。じゃあね」

 

 波香は時哉を残しスタスタと一人で帰ってしまった。

 

 「......なんだよ。俺の気持ちを知ってるくせに」

 

 時哉はガックリししょぼんとして一人で帰っていった。そしてその時哉に対して翌日から嫌がらせが始まったのである。

 

 「......」

 

 時哉は自分の靴箱を開けてびっくりする。カエルの死骸と新聞紙に包まれた犬の糞が入っていたのだ。

 

 どかっ!!

 

 「おっとわりぃ!!」

 

 そして明らかにわざとと思えるような体当たりである男子学生は時哉をどついていた。

 

 「......」

 

 それを遠くで目撃していた波香は時哉に慌てて駆け寄ってきた。

 

 「ちょっと大丈夫?」

 「や、ナミカちゃん。大丈夫だよ」

 

 「今のわざとだったよ。トキヤを見つけてニヤニヤしながら走っていったもの」

 「そうなんだ」

 

 「うん......怒らないの?」

 「怒ったってしょうがないだろ?」

 

 「......ねえ、なんかクサクない?」

 「ああ、下駄箱に犬の糞とか入ってたからね」

 

 時哉は自分の上履きを見てそう言う。

 

 「ちょっとヤダ」

 

 波香は自分の鼻を手で押さえながら時哉から少し距離を取る。

 

 「ねえ」

 「なんだい?」

 

 「なんでそんなことになってるの?」

 「多分昨日、田中っていう子をフッたからじゃないかな」

 

 「え?じゃあ、それは田中さんがやったってこと?」

 「そうじゃないけど俺が田中って子をフッたことが気にくわないって連中が結構いるってことじゃないかな」

 

 「なにそれ?」

 「仕方ないさ」

 

 「仕方ないって......なんか随分と慣れているようだけどこういうことってよくあるの?」

 「......ナミカちゃんには心配させたくなかったから知られたくなかったんだけどたまにあるよ」

 

 「なんで怒らないの?怒らないからナメられちゃってこういうことされるんじゃない?」

 「そうかもしれないけどさ。怒ったところで逆に面白がられてもイヤだしね」

 

 「好き勝手やられるよりも少しは怒った方がいいと思うよ」

 「......そうだね」

 

 ある日の時哉の体育の授業はバスケットボールの実技であった。が、彼にボールは回ってくることはなくひたすらディフェンスに専念していた。

 

 バシッ!!

 

 「いた!」

 

 時哉の目の前でボールを持っていた同級生は時哉の顔面にバスケットボールをぶつける。

 

 「......」

 

 ぶつけた後もその同級生は謝ることもなくバスケの試合を続行していた。あきらかにわざとである。

 

 「北条くん、大丈夫?」

 「ああ、大丈夫」

 

 違うクラスの対戦相手でもある同級生から手を差し伸べられる。同じクラスの生徒はなぜか時哉を助けなかった。その様子を授業中の波香は窓から見ていた。

 

 

 __そしてその日の放課後。

 

 

 「やあ、ナミカちゃん。一緒に帰ろう。もう一週間たったしいいだろ?」

 「トキヤ......」

 

 波香はあたりをキョロキョロし渡辺や田中がいないことを確認する。

 

 「はあ、ま、いいけど」

 

 時哉と波香は並んで歩く。時哉はニコニコして嬉しそうだった。

 

 「トキヤ、今日、ボールぶつけられてたね?」

 「え?見てたのか?」

 

 「うん、あれ絶対わざとだよ」

 「まあ、な、俺くらいになるとプレーの凄さに嫉妬してそういうことをされてしまうんだよなー」

 

 「全然ボールなんてこなかったじゃない?」

 「......全部見てたんですかそうですか」

 

 「......やられたらやりかえせば?」

 「いや、そしたらあんなクソみたいな連中と同類ってことを認めてしまうみたいでね」

 

 「そういうふうに考えるんだ」

 「ああ、同じことしてたらレベルダウンだろ?相手にしないのが一番」

 

 「......まあ、そうなのかもしれないわね」

 「それよりさ。今から俺の家に来ない?」

 

 「トキヤの家に?なんで?」

 「父さんが知り合いから神戸牛をたくさんもらって来たんだ。ナミカちゃんも連れておいでってさ」

 

 「え?ほんと?行く行く。やったあ!お肉!!」

 

 二人は途端に元気になり駆け足で時哉の家に向かって走りだした。そしてその様子を渡辺と田中は遠くで見ていた。

 

 その次の日、波香の席に鬼気迫る表情で渡辺はやって来た。

 

 「ちょっと北条さん」

 「なに?」

 

 「あなた、時哉くんと付き合っていないって言ってたけど嘘でしょ?」

 「は?嘘じゃないですけど」

 

 「昨日、一緒に帰ってたじゃない?」

 「......そうだけど付き合ってないよ」

 

 「本当に?」

 「ええ」

 

 「......じゃあ、時哉くんはあなたのことが好きなんでしょ?」

 「それは......さあ、わからないわ」

 

 「わかった、質問を変える。あなたは時哉くんをどう思っているの?」

 「だから何度も言っているようにただの幼馴染、それ以上でもそれ以下でもない」

 

 「本当に?」

 「本当よ、あの渡辺さん、申し訳ないのだけれど今日中にこの問題集終わらせないといけないの」

 

 「え?ああ、ごめんなさい。でも北条さん、田中さんの気持ちも少しは考えてあげてね」

 「......わかってる」

 

 そしてその日の放課後も玄関で時哉は波香を待っていた。波香もすぐにそれに気が付く。

 

 「やあ、波香ちゃん、一緒に......」

 「帰らない」

 

 「なんで!?」

 「渡辺さんに言われちゃったの。田中さんの気持ちを考えてあげてって。昨日、私達が時哉の家に行くのを見られちゃってたみたいね」

 

 「なんだそれ?ナミカちゃんは関係ないだろうに」

 「いや、あるでしょ。とにかくしばらくの間、一緒に帰るのはやめましょう?変に誤解されても困るし」

 

 「じゃあ、誤解じゃなく本当にしてしまえばいいんじゃないか?」

 「え?どういうこと?」

 

 「だから俺たちが付き合ってしまえば正々堂々と一緒に帰れるだろ?」

 「なにそれ?付き合うって私達まだ中学生だし早すぎるわよ。お父様だってなんて言うか......」

 

 「じゃあ、お館様がいいと言ったらいいんだね?」

 「え~、ちょっと私はまだ考えられないんだけど。今はそうゆうことする時期じゃないしやらなきゃいけないことがたくさんあるの」

 

 「兎に角、お館様に話してみるよ。お館様がうんと言ったらナミカちゃんも考えてくれ」

 「......わかった、でも考えるだけだからね」

 

 どかっ!!

 

 「おっとわりぃわりぃ」

 

 どこから現れたのかまたしても男子学生が時哉の事をどつき倒して走り去って行った。

 

 「ちょっと!わざとでしょ!?待ちなさいよ!」

 「ナミカちゃんいいよ。俺は大丈夫だから」

 

 時哉をどつき倒した男子学生を追いかけようとする波香を時哉は止めた。

 

 「はあ......ほんと少しは怒ったらいいのに」

 「ははは、俺が本気で怒ったら凄いことになるからね」

 

 「はあ。あ、そ」

 

 冗談まじりに時哉は自分の感情を抑制していていることを波香に話した。しかし自分も本当にそうだとは思ってもみなかったのである。

 

 

 __そして現在。

 

 

 愛する人とその自分との間にできた赤ちゃんを捻りつぶされそうになる光景を見た時、時哉の全身の血液は脳へと逆流しみるみるうちに時哉の風貌は一変する。

 

 

 ダダダダダッ!!

 

 

 爆発的な瞬発力であっという間にキーリアへの間合いを詰め右のパンチをキーリアの左胸に放つ。

 

 「ナ、ナンダ、オマエハ?データニナイゾ!?」

 

 ズボッ!!

 

 

 そしてその時哉の右腕は分厚いキーリアの胸板を貫通し、貫通した時哉の右腕にはキーリアの心臓らしきものが握りしめられていた。

 

 「ククク......握りつぶされたのはお前のほうだったな」

 

 時哉に心臓を握りつぶされズウウンと地面に倒れこむキーリアを見て時哉は不気味に笑うのであった。

 

 

 (続く)

 

 

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