※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

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第114話

 波香を連れ戻す任務の度重なる失敗の為、北条の地下の幽閉施設に長いこと監禁されていた宗時は自室に戻ることを許されていた。毎日の食事は伍代沙織が世話をしている。

 

 「宗時様、お食事をお持ちいたしました」

 「おお、ありがとう」

 

 宗時を見て沙織は微笑む。

 

 「......少しは落ち着いたようだね」

 

 微笑んだ沙織を見て宗時もホッとしたようでそう声をかけた。

 

 「はい、自分がお館様の奥様のクローンだからといって落ち込む必要は全くありませんでした。私にはお茶やお食事、それに掃除や洗濯しかできないですし、こうして宗時様やみなさんのお世話をするだけで生きがいはあります」

 「ん~、キミは他の事をしたことはないのかい?」

 

 「はい、したいとも思いませんし、第一私にはできません」

 「なるほど。どうやらキミは向上心に欠けるようだね」

 

 「はあ、でもやる気がないわけではないですよ?」

 「でも、学習意欲がない。キミは九九はできるか?」

 

 「掛け算ですか?わかりません」

 「ははは」

 

 「おかしいことなんですか?」

 「キミはいくつだっけ?」

 

 「女性に歳を聞くのはマナー違反ですよ?」

 「ははは、そうだったか、すまんすまん」

 

 「でも、宗時様なら特別に教えてあげます。29歳です」

 「......30歳目前にもなって九九もできないのか......」

 

 「なんですか?ダメですか?」

 「ダメだと思うぞ?それじゃあ、この屋敷から出たら生きていけない」

 

 「いいです。一生この屋敷から出るつもりはありませんから」

 「キミは結婚とか恋人が欲しいとか思ったことはないのか?」

 

 「ありません」

 「......でも私の息子のことは気になっていたよな?」

 

 「まあ、それは......宗時様のご子息ですから」

 「ん?私の?どういうことだ?」

 

 「え?宗時様のご子息だからですよ?」

 「......」

 

 宗時はこの娘は自分へ好意を抱いているのではないかと考えるがそれ以上考えるのはやめにした。この娘は5番目に製造されたクローン人間なのだ。思考、感情、其の他様々、人間として必要なものが欠落していると感じとれる。

 

 「......私達夫婦は中々子供に恵まれなくてね」

 「はい」

 

 「やっとできた子供が時哉なんだ」

 「良かったですね」

 

 「ああ......キミは北条狂哉って知っているかい?」

 「知りません」

 

 「......だろうな」

 「誰なんですか?その人?」

 

 「その昔、北条家を影で支えてくれていた武将さ」

 「影で?」

 

 「うむ、特筆すべきは『幻夢罵闘術』」

 「げんむばとうじゅつ?」

 

 「ああ、この術は対象者以外はその瞬間の記憶を失う」

 「対象者以外?対象者はどうなるんですか?」

 

 「『死』だ」

 「死んじゃうんですか?」

 

 「ああ、そして対象者以外の者は全快治癒も発生する」

 「え~と、つまりどういうことなんですか?」

 

 「昔、戦国の世で敵総大将を討てば勝利といった状況で狂哉はその術を発動させ北条家躍進の為に一役買っていた」

 「そんなにすごい武将様なのになぜ誰も知らないんですか?」

 

 「それはこの術を発動させた本人も記憶を失うし死んだ者以外、何があったのかも覚えていない。敵総大将が死んだ後、敵味方の兵はケガも治っていた。総大将を失った軍勢は戦意を喪失し戦は終わるという」

 「はあ」

 

 「ただその技を発動させるには条件があるらしい」

 「条件?それはなんですか?」

 

 「不明だ」

 「はあ......あとひとつ疑問があります」

 

 「なんだ?」

 「なぜそのことを宗時様は知っているのですか?」

 

 「なぜか書物が残っていてな。それを読んだんだ」

 「はあ、不思議ですね。その書物、誰が書いて残したんですかね。はっ!!もしかして狂哉様本人が!?」

 

 「ははは、そうかもしれないね。ただの足軽兵が自分にそんな技をできることを隠していてこっそり後世に書物を残したのかもな」

 「......なんだか可愛そうですね。影では大活躍をしているのに恩賞も与えられないなんて」

 

 「そうだね。きっと奥ゆかしい人物だったんだろう」

 「宗時様、もうひとつ質問があります」

 

 「ああ、なんだい?」

 「そんなすごい人がいるのに何故、北条は天下を取れなかったんですか?」

 

 「......敵対する大名にも同じ能力を持つ者がいたらしい」

 「え?誰なんですか?」

 

 「織田信長だよ」

 「ほへー。あ、じゃあ有名な『桶狭間』なんかその術で?」

 

 「その可能性が高いな」

 「......でもなんであの戦い、知れ渡っちゃったんですかね?」

 

 「一部には記憶を失わない者がいるらしい。その者たちが後世に記憶を紡いでいったのだろう」

 「はあ、そういう人もいるんだ。じゃあ、きっと宗時様がお読みになられた書物もきっとその人たちが書いたんでしょうね」

 

 「かもな」

 「あ!?宗時様。お茶がすっかり冷めてしまったので淹れなおしますね」

 

 「おお、すっかり喋りすぎてしまったな」

 

 宗時はそう言うと冷めたお茶を一気に飲み干した。

 

 「んっんっんっ.....ぷはあ、さ、熱いのをもらおうかな」

 「はい!」

 

 

  ◇

 

 

 波香と時哉達が北条の地下の闘技場でキーリアと激闘を繰り広げてから5年が経過していた。無論この事はキーリアを失った北条繁一らしか何が起こったのかはわからない。無論繁一も何故、キーリアが消息不明になったのかは詳細は知らない。波香達が関わっているだろうという事しかわからないのだ。それ以来、繁一は行動を表だってすることはなかった。

 

 「......ただいま」

 「おかえりトキヤ。大変だったね」

 

 「いや、そうでもないよ。大体父さんがやってくれちゃったしね」

 

 母の葬式から時哉は帰ってきた。

 

 「真哉(まや)様......亡くなられる前にもう一度会いたかったけど残念だわ」

 「母さんもナミカちゃんに会いたがってたよ。でも仕方ないね」

 

 「パパーおかえりなさい」

 「お、ハヤカ!ただいま!」

 

 「ねえねえ、一緒にお風呂はいろ~?」

 「もうすぐ小学生になるのにパパと一緒に入るのは恥ずかしくないの?」

 

 「なんでぇ?別にいいじゃん!いいでしょ?ママ?」

 「ええ、いいわよ」

 

 「やった!じゃあ、先に入って待ってるね!」

 「うん、わかったよ」

 

 波哉香はスキップしながら風呂場へと走っていく。それを見ながら波香と時哉は顔を見合わせる。

 

 「最近、ハヤカはトキヤにべったりだね」

 「ははは、どうしてだろうね」

 

 波香の顔は面白くなさそうなので時哉はびくびくしている。

 

 「赤ちゃんの頃は全然トキヤに慣つかなかったのにねえ。はじめてあの子が泣いたのはトキヤにだっこしてもらった時だったわ」

 「そうだったけか?」

 

 「うん、それまで泣くことをしなかったので、もしかしたら口がきけないのじゃないかと思ってすごく心配したわ」

 「うん」

 

 「あ、それはそうと明日かおりんが出所するのよ」

 「そうか、あれからもう5年たったのか」

 

 「そうね、5年......」

 「それじゃあ、みんなで香織さんを迎えに行くか」

 

 「うん、しおりんと谷さんには現地で待ち合わせって連絡を取ってる」

 「そうなんだ。美菜は?」

 

 「明日は夜勤だから私達と一緒に行くでしょ」

 「夜勤なのに大丈夫なのか?」

 

 「『私は若いから大丈夫っ!』って言ってたわよ」

 「......俺たちと同じ歳だろ。自分だけ『私は若い』とか言われてもな」

 

 「あはは」

 「香織さんはこれからどうするんだい?」

 

 「もちろんウチの会社で働いてもらうわよ」

 「ほー」

 

 「メグミ社長も喜一郎様も納得済みよ」

 「そうなのか、良かったね」

 

 「うん、かおりんにはこれから目一杯働いてもらう」

 「うん、それがいい」

 

 「谷さんも5年間かおりんのこと待ってたしね」

 「よく待てたよな」

 

 「時間の許す限り面会に行ってたそうよ」

 「ほう」

 

 「かおりんにそんなに頻繁にこないでいいって言われたらしいけど......」

 「はあ、そうなんだ。さぞかし香織さんの心の支えになっただろうね」

 

 「自分がこうと思ったらクローンだろうとなんだろうと関係ないのね」

 「谷さんは香織さんがクローンだって知ってるんだっけ?」

 

 「知ってるわよ」

 「そうか......そうだな」

 

 

  ◇

 

 

 その頃、汐海と美菜は神崎電子の工場で夜勤に入っていた。汐海は製造部係長、美菜は購買部の係長として存分にその手腕を振るっていた。

 

 「どう汐海?材料はこの配分で足りそう?」

 「ああ、問題ないぞ購買部係長」

 

 「あ、そう。で......冶具はこれとこれだっけ製造部係長?」

 「いや、あとこれも頼む購買部係長」

 

 その会話を通りがかった一里塚がケタケタ笑いながら近寄ってきた。

 

 「あはは、どうしたの?そんな役職名で呼び合っちゃって?」

 「これはこれは製造部部長!」

 

 「あはは、そんなに昇進したのが嬉しかった?」

 「嬉しいです!給料が上がったのが!」「ですです!」

 

 「あはは、そこかー。じゃあ、頑張って部長にならないとね!」

 「部長になったらいくら上がるのでありますか?」

 

 「あはは、なに?その話し方。普通に喋ってよ」

 「いえいえ、部長に向かって恐れ多いで、あります!」

 

 「あはは......2人とも大学でてるんだっけ?」

 「はい!」「はい!」

 

 「そうねぇ、多分、今のお給料からこれくらいかな?」

 

 一里塚は両手を開きさらにその後指で3本を示した。

 

 「それって最後のは掛ける3ということでありますか?」

 「あはは、そう、で、あります」

 

 「うひゃーーーー」「うひょーーーー」

 「2人ともそんなにお金が欲しいの?」

 

 「欲しいであります!」「欲しいですぅ!」

 「あはは、そっか」

 

 「子供が出来たらお金がかかるであります!」「私は彼とのデート代!」

 「ほうん、なるほどね」

 

 「製造部長殿!!」

 「あっ、はい!」

 

 「どうしたら部長になれるでありますか!?」

 「うわっ、やっぱり聞くよねえ」

 

 「ぜひ聞きたいであります!」

 「いやあ、自分で言うのなんか恥ずかしいなあ」

 

 「そんな事をおっしゃらずに胸を張っておっしゃってください!」

 「ううう~ん、じゃあ私がケニーの会長さんに言われたことを言うね」

 

 「はい!ありがとうございます!」

 「もちろん仕事は出来て当然だけどそれ以外にも仕事場の雰囲気を明るくさせて周りの人達のやる気を引き出しているんだって......私が」

 

 「おお、素晴らしい!!」

 「私は別に普通にしてただけなんだけどね、あはは」

 

 「いえいえ、それこそご謙遜ですぞ!」

 「仕事もそれほどできるとは自分では思わないんだよね。ケニーにいたころは杉も......会長さんと一緒に働いて入力ミスを指摘されちゃったし」

 

 「おお、会長と一緒に働いたことがあるんですか?」

 「うん、あの頃は若かったなあ」

 

 一里塚は西川のことを真っ先に思い出したがすぐに首を振って忘れようとした。

 

 「??何かあったでありますか?」

 「え?なんもない」

 

 「そうだ製造部長殿」

 「なんですか?」

 

 「明日、香織殿が出所するのだが......そうか部長殿は日勤なので無理だな。一緒に迎えにどうかと思ったのですが......」

 「そうなんだ。香織さんが明日......」

 

 「私から会長殿にお願いしてみましょうか?」

 「え?いいよ。会社には汐海さんと美菜ちゃんがいないから私がいないとダメでしょ」

 

 「それもそうでございますな」

 「じゃあ、私は今日はこれで帰るね。二人とも夜勤頑張って」

 

 「はい!お疲れ様でございました!」「お疲れ様ですぅ」

 

 

  ◇

 

 

 「小野寺なら大丈夫でしょ」

 「まあ、ね。俺もそう思う。じゃあ、校長には俺からもクラス担任を任せても大丈夫だと進言しておこう」

 

 「まさか、小野寺が先生になるとはねえ」

 「まったくだな」

 

 『パパァーーー!!まだぁーーーー!?』

 

 風呂場から波哉香の声が聞こえてくる。

 

 「あ、いけね!」

 

 『ママがヤキモチやいてるんだったらママも連れておいでよー!!』

 

 「......だってさ」

 「まったく生意気言っちゃって。誰に似たのかしら」

 

 時哉は黙って波香をジッと見る。

 

 「な、なによ?私じゃないわよ」

 「ははは、まあ、そういうことにしとこうか」

 

 「なに?その言い方。むかつくわねー」

 

 バシッ!!

 

 波香は時哉の背中を叩く。

 

 「イ、イテッ!ぼ、暴力反対」

 「早く行きなさいよ」

 

 波香は顎で時哉を風呂場へといざなう。時哉はすごすごと風呂場へと向かって行った。

 

 

 ◇

 

 

 「パパ!いざ!NOW!」

 

 時哉はそう言って風呂場のドアを開ける。波哉香は湯船にどっぷりとつかっていた。

 

 「もう、パパ遅いよー」

 「ごめんごめん」

 

 「ママと話してたの?」

 「うん」

 

 「何を話してたの?」

 「うん、パパとママ達の友人たちのことだよ」

 

 「友人ってともだちのこと?」

 「そうだよ」

 

 「パパ達のともだちってたくさんいるの?」

 「どうだろね?たくさんてほどでは......まあ、普通かな」

 

 「ハヤカはね、まだミキちゃんしかともだちがいないの」

 「そうかー」

 

 「しょうがくせいになったらともだちたくさんできるかな?」

 「うん、ハヤカだったらたくさんできると思うよ」

 

 「ほんと~?」

 「うん、本当」

 

 「やったあ!でもともだちがたくさんできてもハヤカが一番好きなのはパパだからね!」

 「そうか、それは嬉しいな」

 

 「うん!」

 「なあ、ハヤカ」

 

 「なに?」

 「赤ちゃんていうかそんくらいの時はパパの事あんまり好きそうじゃなかっただろ?なのになんで最近になってパパの事そんなに好きになったんだい?」

 

 「......うん、昔はね、本当の事を言うとパパの事すごく怖かったの。でも最近になってパパがとても優しくてカッコイイ人だってわかっちゃったから」

 「わかっちゃった?」

 

 「うん!それにとても強いしね!!」

 「強い?パパが?」

 

 「うん!!すごかったよ!私が赤ちゃんだった時のパパは!」

 「え!?」

 

 

 (続く)

 

 

 

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