山崎遥は保育士の仕事についてから初めて困難な状況に陥っていた。今までみんな仲良くなんとか過ごしてきたのにここに来て2人の園児が孤立しているのだ。
北条波哉香と今川伊吹。
山崎は初め波哉香に新しく入園してきた伊吹の友達になってあげてねと頼んで波哉香は快くそれを引き受けてくれしばらくは2人で仲良く遊んでくれていたが最近2人の様子は険悪なものとなっていた。
「えっと、波哉香ちゃんと伊吹ちゃんは一緒にやらないの?」
「......」
「......」
どうも伊吹のほうが他の園児とうまくいってないようでその伊吹と仲良くなってた波哉香も周りのみんなと距離を置かれることとなっていたのだ。粘土遊びで仲良くなっている子同士が同じテーブルで一生懸命作っている。波哉香と伊吹はそれぞれ1人ぼっちで粘土で何かを造っていた。
早瀬美樹はそんな様子の波哉香をちらちらと見ていた。波哉香もそんな美樹に気が付いていたが伊吹と遊んでいたのに今度はまた美樹へと行くのもムシが良すぎると子供ながらにそう思っていて自分からは美樹に声をかけずらかったのだ。
「はやかちゃん、いっしょにやろう?」
が、美樹はそんなやきもきした状況に耐えられなかったのか伊吹から離れた波哉香にいち早く声をかけた。
「.....みきちゃん、ありがとう」
波哉香の目にはうっすらと涙がにじんでいた。
「よいしょっと」
美樹は自分の椅子を持ってきて波哉香の机の前に置いた。そして持って来た粘土をこねくりまわし始める。
「いぶきちゃんとけんかしたの?」
「......うん」
「そうだとおもった!あの子、へんだよね」
「......うん、まあ、でもわたしもおなじかも」
「え?ちがうよ!はやかちゃんはぜんぜんちがうよ」
「う~~ん、わたしもおなじようにムキになっちゃたしなあ」
「ムキ?」
「うん、まけずきらいっていうか......そんなかんじ」
「へー。はやかちゃんもいぶきちゃんもすごいしね」
「う~ん、そうかな。もっとすごいひともいるかもしれないよ?」
「そうかもしれないけど.....でも、わたしとたのしくやろうよ」
「うん!」
そんな波哉香と美樹の様子を1人でもくもくと粘土でエッフェル塔を作成している伊吹は見ていた。
「ヘっ......わたしはさびしくなんかない。ひとりでいい。なぜならわたしはおまえらよりすぐれているから」
ぶつぶつと独り言を言いながらモクモクと粘土で作業を続けている伊吹であったが意外なことに他の園児達が声をかけてきたのだ。
「いぶきちゃん、それなに?すごいね!」
「......これはエッフェル塔」
「すごおおーい!」「きれい!」
「......」
「わたしもつくりたい!」「わたしも!」「ぼくも!」
「......わたしのこぶんになるならつくりかた、おしえてあげる」
「え?ほんと?いぶきちゃんのこぶんになったらわたしもこういうのつくれるの!?」
「つくれるよ」
「じゃあ、なる!」「わたしも!」「ぼくも!」
そんな会話でいつのまにか伊吹の周りには人だかりが出来ていた。
「あれ?すごいね?いぶきちゃんのまわりにみんなあつまってる」
美樹はあっけにとられて伊吹の席の方を見ていた。
「.....どうせ、いまはいぶきちゃんのほうにいったっていまだけでしょ。またひとりぼっちになるとおもうよ」
そう言って波哉香は粘土の作業に集中する。彼女は金閣寺を作っていたのだ。そしてそれは他の園児にまるで人気がなく伊吹のエッフェル塔のような賛辞を得ることはできなかった。その後、波哉香の思惑は大外れし友鵬園内部の園児の勢力は今川伊吹派と北条波哉香派の真っ二つにわかれることとなった。
◇
「
神崎電子の総務兼人事部長の間宮忍は歳の頃30くらいの面接に来た男性に質問する。
「なんでもできると思います。ガッハッハ」
「ガッハッハって」
間宮はそんな笑い方を平気で初対面にするこの男を信用できなかった。
「そういうことを言う人に限って大したことがない気がしますが大丈夫ですか?」
「ガッハッハ。では試用期間を設けてください。そこで私を試してみてはいかがでしょう?」
「ふむ......では、希望する職種は何かありますか?」
「なんでも!ガッハッハ」
「......ふざけてないですよね?」
「はい、だんじて!どんな仕事でもやり遂げてみせますぞ!」
「ほぅ.....ではちょうど男性向きの仕事があります。それをお願いしたいと思いますがよろしいですか?」
「はい!どんなことでも構いません!仕事があるのなら!」
間宮はこの男を試す為に間接的な仕事をお願いすることにした。庶務雑務的なことである。まずは会社のトイレの清掃。庭の掃除、切れている照明の交換などなど。
「完了!!ガッハッハ。お!間宮部長!おはようございます!」
ところがこの男はそのような仕事を楽しそうにこなしていた。たまに見かけると笑顔で自分に挨拶をしてくるのである。しばらくして間宮は武田に雑務以外にも工場勤務を命じる。
工場勤務になってからも武田は笑顔を絶やさず次第に彼の周りに人が集まってくるようになった。それでも彼は奢らずに直属の上司である汐海に従っているのである。
「ほう、武田という男は中々の者だな」
汐海は素直に関心した。女である自分に部下の他の男性社員はどこかよそよそしい態度であったが武田は分け隔てなく汐海に対して接していた。
「今の旦那よりも先に出会っていたら惚れていたかもしれん」
「汐海は惚れっぽいからねー」
ぼそっと独り言を吐いている汐海の背後から美菜がひょっこり現れた。
「ん?なんだ?美菜いたのか」
「なんか汐海がボーっと突っ立っていたからね。製造係長がそんなんでいいの?」
「美菜のほうこそ、こんなところで油を売ってていいのか?購買係長」
「わたしは材料を届けにきたんだよ。はいっ」
「お、そうか、ありがとう」
「いえいえ、じゃ、がんばってねえ」
「うむ」
「あ!」
行くかと思われた美菜だったが突然振り返った。
「なんだ?」
「武田さん結婚してるし子供もいるよお。残念でした!じゃあねえ」
「......なんだ、そうなのか。......私も子供ほしいな。ハッ!こうしてはおれん。養育費を稼がなくては!仕事しなければ!」
我に返り汐海は美菜の持って来た材料を工作機械にセットする。周りの安全を確認して機械のスタートのスイッチを押し工作機械を稼働させる。
ウイイイイイン......
「北条係長!!」
「うわっ!」
汐海の後ろで大きな声で呼ばれる。汐海は驚くがすぐに冷静になり工作機械のスイッチをオフにして後ろを振り返る。
「お!武田か!」
「あっと、すみません。お仕事中に?」
「いや、かまわん。それより何の用だ?不倫のお誘いか?貴殿とは歳も近いし......」
「ヘ?」
一人で先走る汐海の話に武田はなんのことだかさっぱりわからないでいた。今のジョークは自分の理解に及ばないものなんだなと勝手に勘違いをしていた。汐海は本気で不倫だと思っているとは武田には思いもよらないのである。
武田があっけに取られている様を見て汐海は不倫の相談ではないということを理解する。
「あ、いや、すまん。勝手に勘違いをしていたようだ」
「いえいえ。基盤のハンダ付け終わったのですが次は何をやりましょう?」
「お!もう終わったのか。早いな」
「はい、疾きこと風の如くですわ」
「お!風林火山だな。......失礼だが武田は.....」
「ガッハッハ。あの武田とはなんの関係もありません。苗字が同じだけですわ」
「なんだ、そうなのか」
「そういう係長こそどうなのです?」
「私のほうもあの北条とはなんの関係もない。少なくとも私はな」
「おう、そうでしたか。この会社は『北条』姓が多いので何かあるのかと思いましたわ。ガッハッハ」
「ううむ。お主はなかなか鋭いようだ。見かけの体力ばかりではなく頭も切れるようだな」
「ありがとうございます」
こんな感じの2人だったが1週間経つと2人の関係は逆転していた。
「おはようございます!北条係長!」
「おはようございます」
「今日も楽しくやりましょう!ガッハッハッ」
「はい......」
なんと武田は製造課長になっていた。入社して1カ月である。
「......」
汐海は納得がいかなかった。5年以上もこの仕事を頑張ってきたのに入って1カ月の男性に課長への昇進を先に越されたからである。
このまま自分の中で不満を溜め込んでいても仕方がないと思い、彼女の足は社長室へと向かって行った。
「どうしました?北条汐海係長?」
社長室の机の椅子には神崎恵美がどっしりと座っている。ここ数年で社長の風格が恵美には備わってきていた。
「あの、どうして私よりも後に入ってきた武田さんが私より早く課長になったのでしょう?」
「うん、それは武田さんは掃除雑務をこなし工場でもそつなく仕事をこなし周囲の信頼も高い。だから上にあげました」
「そ、そうですか......」
「あんたの頑張りが足りないからよ!」
奥から波香がコーヒーカップを2つ持って現れた。
「会長。いたのでありますか」
「ええ、社長にお茶をいれにね。あんたも飲む?」
「いえ、私は......」
「さっきの話だけど最近のあなたは旦那とたまに仕事中でもイチャイチャしてるようね。話は聞いてるわよ」
「うっ!......それは......」
「どちらが仕事できるかではない。あんたが仕事に対して手を抜いているから武田を上にあげることにした。文句ある?」
「うっうっうっ......私はなんということを......」
「昇進チャンス逃したわね。月々約7万のお給料アップだったのに」
「な、なな!7万円も?」
「うん、そうよ」
「うわあああ!!私はなんという失敗を犯してしまったんだ!!」
「そうとわかったら仕事に精をだしなさい?」
「くそう!納期のスケジュールと生産工程の見直ししてきます!!」
「ふっふふふ、はい、がんばってね」
ばたん!
汐海は慌てて社長室を出て行った。その姿を恵美と波香はじっと見送る。やがて恵美が口を開いた。
「いいんですか師匠?あんな嘘言っちゃって」
「半分くらいは本当ですよ。社長」
「まあ、確かに汐海さんはこのところ仕事に身が入っていなさそうな感じでしたね」
「南との関係がマンネリなのかもしれないですね」
「そうなんですか?」
「いえ、知りませんが。だけど本人が昇進昇級に興味を示していますのでこれからは心を入れ替えて仕事するでしょう」
「そうだといいんですが」
「それと社長」
「はい?」
「来週、お暇をいただきたいんですが。子供の授業参観......と言っても保育児ですが一度見ておきたいので」
「ええ、構いませんよ。いってらっしゃい」
「ありがとうございます」
お互いににこっと微笑み2人はコーヒーを飲んだ。
◇
「は~い、今日はまたまた新しいお友達を紹介しますね!......武田さん、はいって!」
「はい!」
山崎遥に呼ばれた保育児は教室の扉を開けて教室の中に入ってきた。
ざわざわ......
保育園の子供にしては随分と背の大きいがっしりしてる女の子が皆の前に立った。
「
(続く)