「ランランラ~~~ン♪」
一里塚恭子はスキップしながら出社していた。
こんなにすがすがしい気持ちで会社へ行くのは彼女にとって久しぶりのことだった。
「あ~悩みが解決してよかったあ」
昨晩、一里塚の携帯に根津川真樹菜から連絡があったのだ。
あの女のスマフォから全て調べだし利用していたクラウドやらなんやらの写真や動画などを全て削除したと。
「さすが真樹菜ちゃんとこはすごいな♪」
一里塚はこの時ほど自分の友人を誇らしげに思ったことはなかった。
この後の問題は杉本千春こと謎の女に対してどういう態度をとっていくか、だ。
以前、購買の里中よりも自分のほうが女として魅力があるような発言をボイスレコーダーに録音されてしまったが里中にそれを聞かれたとしても精神誠意謝れば里中も許してくれるだろう。
あの女の要求はすべて断る方向でいこうと一里塚は決意した。
だが、その決意は杞憂に終わった。
あの女が出社してこないのだ。
連絡もつかない。
一里塚は杉本のスマフォは根津川真樹菜に取り上げられたことを知っていたが一週間も出社してこないと心配になった。
「あ~、一里塚君。キミちょっと杉本君ちへ行って様子を見てきてくれないか?」
経理の西川課長がそっと一里塚の席のそばに行き耳元でそう言った。
「え~~~!?」
「え~とはなんだ。え~とは」
「西川課長、・・・スマフォ貸してください」
「ん?なんでだ?」
「以前、あたしが課長にしたフェラ・・・Hな画像を消すためです!」
「なんで?いやじゃよ!ワシのお宝画像なんじゃ!」
「アレを消したら西川課長のいやらしい画像も消しますよ?」
「なに?本当なのかそれは?」
「はい。ウソでしたらあたしの身も心も全て課長に差し出します」
「・・・本当のようだな。ほれ」
西川はロックを解除して一里塚に自分のスマフォを渡した。
「削除っと。・・・これだけですよね?他にコピーなんてとってないですよね?」
「ないない、第一ワシにはやり方がわからん」
「あはは。で、西川課長が強請られてた画像ですが実は既に全部消えてます!」
「なに?本当か!?」
「はい、あたしの友人が全て処分してくれましたので!」
「おお!よくやった、一里塚君!・・・1000万は既に払ってしまったがもう心配しなくていいんだな!?」
「はい!心配ごとがなくなるっていいですよね!」
「そうじゃな!ガハハハ!」
「あははは!」
「よし!そのお礼とはいってはなんだが今晩は一里塚君のなんでも好きなものをご馳走してやるぞ?」
「本当ですか!?」
「ああ、本当だ。高級焼肉でもふぐでもなんでもいいぞ!」
「やったああ!」
「ガハハハ!」
「でも、け っ こ う です!」
◇
「大山係長」
「ん?なんだい一里塚さん」
「あたしは自分の上司と西川課長に許可を得たのですがこれから杉本さんのアパートへ様子を見に行こうと思うんです。・・・大山係長も一緒に行ってくれませんか?」
一里塚は経理の大山係長にそう告げた。
「え?」
「大山係長の分も西川課長の許可をとっていますので」
「そういうことなら行こう。俺も杉本さんが来なくて困っていたんだ」
大山係長は杉本のデスクの上に山積みになっている伝票を眺めながらそう言った。
「ここです」
一里塚は大山を連れて杉本が住んでいたアパートに着いた。
「うわっ!随分古いアパートに住んでるんだね。ちょっとイメージが違うな」
大山はそのボロアパートを見て驚いた。
コンコン!
一里塚はドアを叩く。
が、応答がない。
がちゃり。
「あ、あいてる!」
一里塚はドアノブを回すとドアが開いたのでびっくりして思わず声をあげた。
2人はドアを開けて部屋を見渡すともぬけの殻だった。
「いない?なんで?」
「杉本さんどこへ行っちゃったんだ?」
「さあ?」
2人は呆然として部屋で立ちすくんでいるとコツコツコツと足音が聞こえてきた。
「誰か来る?」
がちゃり。
その人物はやけにでかいリュックサックを背負ったあの女だった。
「杉本さん!」
「あら?」
「杉本さん!なんで会社へ来ないんだ!」
「・・・やめますわ」
「え?」
「・・・やめるにしたって社会人としてのマナーがあるだろう!連絡くらいしろよ!」
「うっせえ!クソ野郎!マナーマナーうるせえんだよ!会社が私の人生まで責任もってくれるのかい!マナーなんてクソくらえだ!」
「なっ!・・・杉本さんてそういうキャラだったのか?」
「ああ、そうだよ!今頃気がついたのかい!」
「・・・」
「杉本さん、本当にやめちゃうの?」
そう言う一里塚をギロっと睨み女は言った。
「うちの弟を使ったのあんただろ?」
「え?弟?」
「・・・ま、いいわ。ほれあんたの分。カレシと旅行でもいきな」
そういってその女は札束を一里塚に投げ渡した。
「え!?え!?」
「あんたのこと最初は気に食わなかったけど・・・今は嫌いじゃないよ」
女はそういうと台所の流しの下の扉を開けて財布を取り出すと大事そうにリュックにしまった。
「じゃあね!もう会うこともないだろうけど」
コツコツとその女は歩き出した。
「あ!あ、あたしも!ハラハラさせられたけど杉本さんと出会ってからいろいろあって楽しかったかも。。。」
「あっはっは!」
女は笑いながらその場を去っていった。
一里塚はハッと我に返り、女から渡された札束を数え始めた。
「・・・え~!100万円もある!わーい!」
喜びで小ジャンプを繰り返している一里塚を尻目に大山はただ呆然と立ちつくしていた。
「・・・あのたまりにたまった伝票・・・これから俺が入力するの、、、か?」