「わーっはっはっは。豊作じゃ!」
北条のお屋敷の地下の研究施設で大河原は続々と作り出されるクローン人間を見て歓喜の声をあげる。ちなみに日本ではクローン人間の製造は禁止されている。
「大河原様」
大河原を呼ぶ女性はこれまた波香そっくり、すなわち繁一の妻のフランソワそっくりの女性である。
「なんだ1万802号?」
「これからどうするのですか?」
「さてどうしよう?何も考えていなかったぞ」
大河原は毎日、繁一に屈辱的な振る舞いをされ、ついに堪忍袋の緒が切れて逆上してクローン人間を使い繁一を繁一のお気に入りのクローンと供に地下の牢獄へと閉じ込めたのだ。その計画は一過性のものであり後のことは全然考えていなかった。
「......日本を制圧いたしますか?」
「ふむ、できるか?」
「私達にかかればたやすいこと」
「ほうたいした自信だな」
「はい、数が揃い次第準備にとりかかります」
「よし、いいだろう」
1万802号の進言により大河原は日本制圧計画にとりかかることとなる。
◇
「宗時様、行かれるのですか?」
北条宗時はスーツをビシっと着こなし革靴をスッと履く。その姿をせつない顔で伍代沙織は見送ろうとしていた。
「ああ、......腐っていても私のお館様なのだ。このまま放っておくことはできない」
「どうして大河原様が突然、謀反など......」
「奴は私よりもこらえ性がなかったということだな」
「......」
「心配せんでもお屋敷で時哉達と落ち合うことになっている。波香様を筆頭に他の戦闘能力に特化したクローン達も駆けつける手はずになっているんだ」
「じゃ、じゃあ、私も......」
「いや、沙織くん、残念だがキミは戦闘には向いていない。キミはメイドに特化しているクローンのようだ。この後の人生もキミの得意分野で生きていってほしい」
「そんな!もう会わないようなこと言わないでください!」
「ははは、すまん。では、行ってくる」
「いってらっしゃいませ」
◇
「おじいちゃんちってどんなの?」
「......そうね、とても大きいところよ」
「わあ!たのしみ!」
時哉の車の運転で後部座席に座っている波香ははしゃぐ我が子をにこやかに見つめていた。時哉に波哉香は連れていかないほうが良いのではないかと言われたが波香は連れて行くことを決意する。自分の娘も無関係ではいられないことなのだからと。
「あ!あれ、しおみん達じゃない?」
「お!」
屋敷に向かっていたであろう汐海と美菜を波香達は車で拾った。
「本当なのか?大河原が謀反をおこしたというのは?」
汐海はいまだに事の次第を信じていない。
「本当だ。親父のところに報告があったらしい。現地で親父と合流する予定になっている」
「宗時様と合流してどうするのだ?」
「......お館様を救出する」
「え!?本気か」
またまた信じられない表情をして汐海は時哉を見、そして波香を見る。
「会長殿!それでいいのですか!?」
「......複雑なのよね。あのクソジジィは地下牢獄にでもずっといればいいと思うわよ?だけど大河原ごときがクローンを悪用して北条の屋敷を乗っ取っているのは放っておくわけにはいかないのよね」
「......それはそうだが」
「え!?おじいちゃんてろうやにいれられてるの?たいへん!たすけなきゃ!」
みんなの話を聞いて波哉香はそんなことを言う。そんな波哉香を見て波香は苦笑する。
「波哉香ちゃん、向こうにいったら危ないからお姉ちゃんと一緒にいよう」
波哉香の隣に座っている美菜が子守を買ってでるが波哉香は子供扱いされてムッとする。
「へいきだもん。わたしだってたたかえるもん。こどもあつかいしないで」
「いや、だって子供じゃん?」
「こどもあつかいしないで!」
美菜と不毛な言い合いをしている波哉香に波香は釘をさす。
「ハヤカはみなりんと一緒にいて?いいわね?」
「......はあい」
不満そうに波哉香は応える。その気持ちは波香にはわからないでもなかった。競争意識が高いのは自分ゆずりなのだと。今井伊吹と武田美乃梨の存在が波哉香を焦らせていた。今まで同年代では圧倒的な能力を誇示していたがこの2人が現れてからは自分が後れをとっているように感じているのだろうと波香は思う。今回のこの件で活躍したいと思っているのだろう。
「ま、でもパパがいればらくしょうだよね......」
ボソっと波哉香はそう言うが他の大人全員がポカンとしている。
「時哉殿ってそんなに強かったか?」
汐海が美菜に耳打ちをする。
「ま、そこそこ強いと思うけどそこまでは......」
美菜もとまどいそう応えるだけだった。
「.....なんでみんなおぼえてないんだろう?」
自分以外の周りの大人の反応から波哉香は自分の記憶違いなのかどうなのかわからなくなっていた。以前、自分の親である時哉や波香にそのことを話してもポカンとされていたのだ。
「なぜだがハヤカはトキヤのこと高く買っているのよね。パパ!がんばんないと!」
「ははは、そうだね。.....親父だ!」
やがて時哉達の乗る車は宗時を見つける。宗時は北条の屋敷の近くの森で時哉達が来るのを待っていた。
「お久しぶりです、宗時様」
「波香様、お久しぶりです」
「いや、あの、二人とももう身内なんだからいい加減その挨拶はないと思うのですが......」
時哉は昔と変わらない波香と宗時のやり取りに文句をつける。
「ええ?う~ん、じゃあ、お義父様とお呼びしても?」
「ははは、いいですな。じゃあ、私は波香さんと呼ぶことにしましょう」
「えとじゃあ、わたしはおじいちゃんってよんでもいいのかな?」
「おおお、キミが波哉香ちゃんか!なんと可愛い事か!小さいころの波香さんそっくりですな。時哉に似なくて良かった。うんうん、私はキミのおじいちゃんだよ」
「なんだよ、それ」
「あはは」「わははは」
「あ!じゃあ、こっちのおじいちゃんをわたしたちがまもる!ね、みなちゃん?いいでしょ?ママ?」
「う、うん、そうだねっ」「あはは、そうしなさい」
「やった!おじいちゃん!わたしのそばをはなれちゃダメだよ?」
「わはは、それは頼もしいな。それでは波哉香ちゃんに守られることにしよう」
「うん!」
車内が和気あいあいとする間もなく車は北条の屋敷に到着する。門にて時哉達の乗る車は制止された。
「ここを通すわけにはいきません」
どこかで見たような女性兵士が時哉に引き返すように警告する。
「えと、キミは朝の天気予報のお姉さんだっけ?」
「は?」
ブロロロ!バキャ~~~ン!
強引に門をぶちやぶり車は敷地内へと突入する。
「前方のヴァンパーを強化しといて良かった」
時哉はいつかこんなことがあるんじゃないかと思って自分の車のヴァンパーを強化しておいたのだ。
ドゴオオンン!!
「うわっ!」「きゃあああ!!」
門を突破したのもつかの間、時哉達の乗った車は何者かによって横転させられる。
「痛つつつ、みんな大丈夫か?」
「私は大丈夫だけど......後ろのみんなは!!」
「問題ない、私と美菜の身体をクッションがわりにしたからな。宗時殿?波哉香殿?」
「かたじけない。助かり申したわ」「わたしもだいじょうぶ」
「うわっ」
車のドアを開けて降りた時哉が見たものは2体のキーリアだった。
「あれ?女性総合格闘家のジェニファーじゃないか?どうしてこんなところに?」
「......」
「そうだ!サインをもらおう!えっと、この手帳にしてもらおうかな......ヘイヘイ、サイン、プリーズ!?」
バシッ!
時哉の差し出した手帳を叩き落とし1体のキーリアは時哉の首を絞め持ち上げる。
「グ、グエッ!」
その光景を宗時はいち早く察知し駆け寄る。
「む、いかん!」
ダダダッ、ドカ~~~~ン!!
宗時はランニング掌底をキーリアに見舞った。その衝撃でキーリアは吹っ飛び首を絞められていた時哉も一緒に転ぶが首締めからは解放された。
「ゴ、ゴホッゴホッ!!」
「時哉!!大丈夫か!?」
「な、なんとか。父さんこれは一体?」
「大河原が造った戦闘用クローンだろう」
「戦闘用クローン?」
波哉香はその一部始終を見ていた。
「す、すごい!あのおじいちゃんってつよいんだ!むかしママたちがぜんぜんかなわなかったのにいっぱつで......」
すぐに2体のキーリアが無言のまま時哉達親子を襲う。両腕を振り回しながら接近していく。
「お義父様!トキヤ!」
ようやく波香も横転した車を脱出し時哉達の援護に向かう。波香は腕を振り回しているキーリアの背後から音もなく走り寄りその腕の反動を利用して飛びつき一本背負い投げを成功させた。
ズダーーーーーン!!
見事に1体のキーリアは波香によって投げられ無様にも地面に叩きつけられる。
「う、うまい!!さすがママ!」
その技の華麗さに波哉香は歓喜の声をあげた。
「おとといきやがれ!!」
間髪入れずに倒れたキーリアの顔面めがけて両膝をジャンプして落としにかかる波香。これが決まればまずは1体倒せただろう。
バシッ!!
しかしキーリアは両手でそれを受け止めた。そしてそのまま波香を放り投げる。
ブウン!......ドカッ!!
壁に全身をしたたかに打ち付ける波香。
「ママ!!」「ナミカちゃん!!くっそおお!!」
走りながら見様見真似で宗時のランニング掌底をキーリアにぶち込む時哉。
「......」
しかしびくともしなかった。再び時哉は首を絞められ持ち上げられる。
「グ、グエエッ!!」「パパぁ!!」
波哉香は怖気つきながらも時哉を助けに行こうとするが汐海&美菜コンビに制止させられる。
「波哉香殿、ここは私達に任せろ!!」
「もう、しおみちゃんたちおそいよ!!」
横転した車から一番最後に出てきた2人に波哉香は不満そうに言う。
「すまんすまん。美菜、用意はいいか?」
「うんっ!いいよっ!......ミサイルだね?」
「ああ、それ!」
汐海は波哉香の腕を持ちそのまま高速回転を始める。次第に美菜の足は地面からふわっと浮き上がっていく。
「すまんが軌道修正は美菜のほうで頼む!!」「わかったっ!!」
「おおおおおおおお!!いっけええええ!!」
汐海に振り回された美菜はキーリアめがけて放たれた。
ブオオオオオオオッ!!
「ミサイルキイック!!」
ドカアアア~~ン!!
再び、キーリアは時哉もろとも転倒する。もう1体のキーリアは宗時との戦いに応じていた。なんと宗時はキーリアを相手に互角、いや優勢に戦っていた。
「はっ!!はっ!!はっ!!」
「......」
掴みにかかってくるキーリアの腕を受け流し隙を見て宗時はキーリアのボディに掌底を叩きこんでいる。それがじわじわとキーリアには効いているようでキーリアの立つ姿勢が段々と低くなってきていた。
「あっちはおじいちゃんにまかせておけばだいじょうぶね。もんだいはこっち」
波哉香は横転した車の傍で戦況をじっと見つめていた。
「......」
汐海と美菜の合体技によるミサイルキックをくらったキーリアはすぐに起き上がり三度時哉のところに向かう。
「なんなんだ、なんで俺のことばかり狙うんだ」
時哉はキーリアの執念深さに怖気づく。
キーリアの先行量産モデルは時哉が覚醒した時に消滅させられている。この事で時哉が最重要ターゲットとしてキーリアタイプのクローンにはインプットされているのだ。
ペシペシペシ
時哉が掌底を繰り出すもまったく問題にならない。
「ああ、もう、パパ。はやくへんしん?しちゃえばいいのに」
波哉香は遠目に自分の父親の不甲斐ない戦いにやきもきするのであった。
◇
北条のお屋敷の敷地内でそんな戦いが繰り広げられているとはつゆ知らずにある親子が北条繁一を訪ねてやってきた。武田親子である。
「お父ちゃんここ?」
「そうだ。ここに住んでいる人は俺が昔、世話になった人でな。せっかく近くに引っ越してきたのだから挨拶せんと。ガッハッハ!」
(続く)