北条のお屋敷がある敷地内では2体のキーリアと波香達が激闘を繰り広げていた。当然大河原もこの戦いをモニターで監視している。
「......宗時め。話には聞いていたがきゃつがこれほどまでデキル男とは......」
大河原と宗時は同じ主君に仕える身でありながらお互いのことはあまり知らなかった。
「大河原様。西門より新たな侵入者が現れました」
1万802号は律儀にも大河原に何かあるごとに報告をする。が自分の造り出したクローンと波香達の戦いを夢中でモニターしている大河原にはそんなことはどうでも良かった。
「......ん?どこかで見たことのある顔だが......ま、どうでもよい。すておけ」
「はっ!」
◇
「お館様はただいま不在でお会いすることはできません」
「そうですか。ではいたしかたない。日を改めます。ガッハッハ」
「よしなに」
門前払いをくらった武田親子は一旦は引き返すが敷地内から不規則な叫び声が聞こえてくるのが気になり塀をぐるっと一周することにした。そして敷地内の様子を伺う。
「......お父ちゃん?」
「うむ、間違いない。中で何かが起こっているな。美乃梨、行ってくれるか?」
「わかった」
美乃梨は自分の父から少し距離を取り自分の父めがけて走り出す。武田は両手を土台のように結んだ。
「そりゃああああ!!」
走ってきた自分の娘が自分の手を踏み台にして武田はその手を大きく上に振り上げる。3メートルはゆうにあると思われる塀を美乃梨は軽々と飛び越えていった。
ズタン!!
「おおお!!足がしびれるぅ!!」
美乃梨は着地に成功したが着地のタイミングでうまく屈伸するもその衝撃で足がしびれる。その痛みが和らぎ周囲を見渡すと格闘大会が繰り広げられていた。
「格闘大会!?いや、違う」
波哉香の家族が大柄な女性2人と戦っている様を見るがすぐに美乃梨は大柄な女性は本気で波哉香の家族を殺しにかかっている雰囲気を感じ取った。そして横転している車の傍には波哉香が戦況をじっと見つめていることに気づく。
「波哉香ちゃん!!」
「??みのりちゃん!?どうしてここに!?」
「お父ちゃんとここの家の人に挨拶に来たんだけど!」
「え?わたしのおじいちゃんに?」
「え?そうなんだ?で、これはどうなってんの?」
「わかんない、いきなりおそわれたの」
「あなたたち!」
キーリアに放り投げられた波香はよろよろと立ち上がりすぐに波哉香達のそばに駆け寄る。
「みのりんはどうしてここに?」
「へ?みのりん?私の事?」
「他に誰がいるのよ」
「えと、お父ちゃんとここの家の人に挨拶に来ました」
「え?」
「ママ!それよりパパたちが!」
キーリアによって時哉が4たび首を持ち上げられている。そのキーリアのボディを汐海と美菜がパンチを連打しているがびくともしていない。
「くっそおお!いったいどうなってる!?」「全然効いてないよっ!」
「いけない!」
「ママ!!わたしたちも!!」
波哉香は加勢したがるが波香はその言葉に首をふった。
「あなた達はここで見ていなさい!あなた達が主役級になるにはまだ早い!!」
バシュッ!!
波香はそう波哉香達に告げると夫の首を絞めあげているキーリアに向かって猛ダッシュを敢行する。
「狙いは1点!!」
ヒュウウウウウウウ......
波香の走るスピードは風を切る。
「おとといきやがれえええ!!」
バキャアアーン!!
波香の繰り出した膝蹴りは見事、キーリアの顎にヒットする。物凄い音がしたのでキーリアの顎は砕けたようだ。
「しおみん!みなりん!そいつの腕を抑えて!!」
「!!」
時哉の首を掴んでいたキーリアはたまらず崩れ落ちる。そして自らの頭を波香のジャンプの土台として提供してしまうのである。
「はあああああ!」
波香はキーリアに膝蹴りをくらわせた後、崩れ落ちるキーリアの頭を土台にし大きくジャンプする。そして両手を広げてバク宙をし両膝をキーリアの顔面に落とした。
グッシャアアア!!
倒れた際に汐海と美菜に両腕を抑えられていたのでキーリアはその顔面に波香の両膝を受け入れるしかなくその顔面は無残にも潰されこのキーリアは機能停止となる。
「やった!」
「おお!さすがは会長殿!」「やったっ!」
「ママ......やっぱすごい......」「波哉香ちゃんのお母ちゃん......キレイ......」
「よおおし!後は......」
波香は宗時と戦っているキーリアに照準を定める。
「くっ......こいつのスタミナは底知れずなのか......」
宗時はこのキーリアと一人でかれこれ30分は戦っている。キーリアも胴体に100発以上の宗時の打撃を受けていたがダメージはあるものの機能停止に追い込むに至らなかった。
ヒュウウウ.......ドゴォオオオーン!!
再び風を切りながら走る波香は膝を宗時と戦っているキーリアの背中に思い切りヒットさせる。
グラァ...
前方によろめいたキーリアは無防備に顔面を宗時の前に差し出してしまう。
「勝機!!」
宗時は渾身の掌底をキーリアの顔面に放った。
グッシャア!!
顔面が潰れる音がする。さらに宗時は水面蹴りをすかさず繰り出しキーリアをもんどりうって倒させた。
「波香様!!今です!!」
「はああああああ!!......お・と・と・い・きやがれえええ!!」
波香はうつ伏せに倒れているキーリアの後頭部に両膝を落としキーリアの延髄を破壊した。完全勝利である。
「よっし!!」
「波香様!!お見事です!!」
「いいえ、お・義・父・様のサポートあってのことです!」
「あ!そうでした、波香さん」
「うふふ」
爽快に笑う波香であったが自分の膝に痛みがあることを認識するのであった。
◇
「中で何が起こっているのかのう......」
武田は塀の近くをウロウロするだけであったがしばらくして門から自分の娘が自分のところに戻って来た。
「お父ちゃん!!」
「おお、美乃梨!!どうした!?」
「すごいことになってるよ!お父ちゃんが挨拶しに来た人、ここの地下牢獄に閉じ込められているんだって!」
「なんと!それは誠か!?」
「うん、でね、波哉香ちゃん達が救出しに来てたの!」
「そうか、そういうことか。ではみなさんはここに?」
「うん、お父ちゃんも行こう?」
「うむ、私めも行かねばなるまいな」
門の番兵は内部からすでに汐海達によって倒されていて北条のお屋敷の敷地内はフリーパスとなってしまっていた。
「お!宗時か!」
「久しぶりだな。裕司」
「あら~二人はお知り合い?」
波香は意外な2人の再会に割って入る。
「これはこれは会長殿」
「......お義父様と知り合いだったってことは多分、私の事も多少は知っていたわよね?どうして今まで黙っていた?」
「会長殿のことはお話しでしか知りませんでしたので。本当に今までお会いしたことはなかったのです。偶然にも今の会社で会ったのが初めてですので」
「ふん、そうか。私はお前の事を完全に信用しているわけではないが......まあ、お義父様と知り合いなら悪い奴ではなさそうだな」
「ありがとうございます。ガッハッハ」
「裕司、お前も一緒に来てくれるのか?」
宗時は波香とのやり取りをハラハラしながら見ていたがかつての旧友に問いかける。
「ああ、そのつもりだが」
「.....そうか、......波香さん」
「なんでしょうお義父様?」
「この男は味方につければ心強いです。私が太鼓判を押します」
「お義父様にそう言われたらお断りするわけにもゆきませんね。......いいでしょう、同行を許可します」
「ありがとうございます」
◇
「ほぅ、2体のキーリアを葬るか。さすがは73号だ。さすが唯一無二の存在。自らの貪欲な学習能力に加え、強烈なリーダーシップ、柔和なコミュ力で仲間を増やしここまでの困難な状況を乗り越えて来るとは。もはやただのクローン人間ではないな」
「私たちの方が優れていますよ?」
大河原の傍にいた1万802号が嫉妬しているようだ。
「ははは、それはどうかな。偶然で造り出されたとはいえ73号はただのクローン人間ではない。お前達の手に負えるかどうか」
「では、ここからは私達にお任せ願えますか?」
「いいだろう。やってみろ」
「はっ」
これより1万802号は大河原の傍を離れ陣頭指揮を執ることになる。
◇
「いよいよ屋敷内に突入ですな!ガッハッハ!」
「そうね、がははのは」
武田親子を加えた波香達は屋敷内に突入しようとするが玄関の門は固く閉ざされている。
「いよっし、俺の車でぶち破ろう。みんな離れててくれ」
時哉は自分の車に戻りエンジンをかける。横転していた車は自分たちで既に起こしていた。
ブロロロロォン.......ドカアアアーーン!!
玄関に激突する寸前に時哉は車から飛び降り無人の車は玄関の門にぶち当たり炎上する。
「よし!隙間から屋敷の中に入ろう!」
時哉の合図と供に皆が一斉にぶち破られた玄関の門の隙間から突入していく。そして玄関の広場で待ち構えていたのは波香そっくりの無数のクローン人間達であった。
「わあ!私がいっぱい!」
「喜んでる場合かよ、ナミカちゃん!」
たじろぐ時哉に波香は一喝する。
「いくら私の物真似しようとね、こっちはくぐって来た修羅場の数が違うんだよ!」
そう吠えて目先の波香クローンに突っ込んでいく波香。
「ゆくぞ!波香さんに後れをとるな!」
宗時もそう言い、汐海が美菜が武田親子が突撃していく。
「フッ、そうだね、ナミカちゃん。俺も行くぞ!!」「わたしも!」
対波香クローン戦の長い戦いの始まりである。
(続く)