※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

124 / 164
第124話

 波香クローン量産型。

 

 それは北条の研究施設が数多く作り上げたクローンの中でも最も大きな成功を収めたと思われる73号のデータを元に造られたクローン人間である。北条の屋敷の玄関内の大広場ではおよそ100体の波香クローン量産型が波香達を待ち受けていた。

 

 「はっ!」

 

 波香は一番近くにいた波香クローン量産型に走りながら膝げりを繰り出そうとする。がそれはフェイクでありラリアートをぶつかる直前で繰り出した。これがクリーンヒットし波香クローン量産型は波香の左腕を軸に1回転し無様にもんどりうって倒れこむ。その際、波香は相手の片腕を取り受け身を取らせないようにしている。

 

 「ギャッ」

 

 どかっ!!

 

 波香クローン量産型に受け身を取らせず無様に着地した瞬間に波香はかかと落としを相手の延髄に叩き込んだ。波香は1体の自分のクローンを秒殺で仕留めたのである。

 

 「ふぅ、やっぱり戦闘パターンを変えたらあっさりだった」

 

 自分と同じスペックならばせめて今までの戦い方を変える必要がある。波香は瞬時にそう判断したのだ。事実、波香クローン量産型はスピード、パワー供にオリジナルである73号をデータ上は上回っていた。それと膝蹴りを出さなかったのは対キーリア戦の終了時に痛みがあったのでなるべく膝蹴りは温存していこうと波香は考えていた。

 

 「オトトイキヤガレ!」

 

 背後からそんな声が聞こえてきたので波香はその場で瞬時に身をかがめる。案の定、他の波香クローン量産型が膝蹴りを繰り出していた。かがんだ波香の背中をかすめて行く。波香は宙を飛んでいる波香クローン量産型に後ろから飛びつき空中投げを試みる。自分の身体の下に波香クローン量産型をクッションにするように地面に落下する。尚この際も相手の両腕を抱え込んで受け身を取らせないように落下していった。

 

 どた~~ん!!......ボキッ!!

 

 着地と同時に波香クローン量産型の首の骨を瞬時に波香は首締めで折っている。

 

 「は?これが私のクローン?私はこんなにバカじゃない。ふざけやがって!」

 

 何度も言うが波香クローン量産型は身体のスペックはオリジナルを完全に上回っている。だが経験値が違うのだ。レベル表示があるとして波香クローン量産型がLV1だとしたら波香はLV100くらいの経験値の差があったであろう。

 

 「......いきなり成人したクローンよりも幼少から育ってきた私の方が伸びしろは大きかったってことね!」

 

 波香達が戦っている場所よりも階段であがる少し高いところで先ほどまで大河原の傍にいた1万802号は檄をとばす。

 

 「何をやっている!!一度にかからんか!!」

 

 主に波香の戦いの様子を見ていたようで1VS1では経験の差で敵わないと悟ったのであろう。しかし造られたばかりのクローン達がいきなり連携をとって戦えというのは無理な話でその指示があってから波香クローン量産型達は波香との戦いを躊躇していた。どう戦えばいいのか混乱しているのである。

 

 波香が主に玄関広場の中央を主戦場としていたのに対し時哉達はそれぞれ隅のほうで戦いを展開していた。

 

 __壁を背にして戦う。これは多勢を相手にする時のセオリーである。時哉は自分の師でもある宗時の教えを忠実に守って戦っていた。

 

 「くっそう、相手の顔がナミカちゃんだからなんだか戦いにくいぜ!」

 

 壁を背に戦っているため波香クローン量産型は時哉に対し膝蹴りを繰り出してくることはなく2、3体から主に手刀、パンチ、キックなどで時哉を攻撃していた。

 

 「ほっ!はっ!はっ!」

 

 時哉はその攻撃を受け流す。なんとなく時哉にはその攻撃が読めていたのだ。たまにくるキックも自分の急所を狙って来るだろうと時哉は完全に読んでいた。

 

 「し、しかし攻撃に転じる機会がない!」

 

 2,3体の波香クローン量産型の攻撃は徐々に速度が上がっていき時哉が攻撃に転じる隙もほぼなくなっていた。

 

 シュバババババ!!

 

 「くっそう!どうすりゃいいんだ!」

 

 一方で宗時はすでに5体の波香クローン量産型を始末していた。波香の幼少時の師範は宗時なので自分の教え通りのタイミングと呼吸で攻撃を仕掛けてくる。そんな波香クローン量産型をいなすのは宗時にとっては朝飯前のことなのだ。

 

 「それにしてもこんな工場出荷状態で実践に投入するとは......大河原は科学者としては優秀かもしれんが戦術研究家としてはまるでダメだな」

 

 大河原は普段、白衣ではなく軍服を着て繁一に仕えていた。その事は宗時も知っていたが戦術研究家としてもなかなかの者なのではないかとこの日まで宗時は大河原の事をかいかぶっていたのである。

 

 「お父ちゃん!あの技で一網打尽にしよう!」

 「し、しかしあの技は......」

 

 「私の事はいいから!」

 「......ダメだ。あの技は幼児虐待と罵られ叩かれてからは封印することに決めたのだ」

 

 「ええ~」

 「美乃梨、面倒くさいかもしれんが一体一体着実に倒していこう」

 

 「ええ!面倒くさいなもう」

 

 武田親子は連携を取りながら確実に一体ずつ波香クローン量産型を倒していった。美乃梨が先方でチョロチョロと動き回り武田が後方でサポートに回る。隙あらば後方から武田のメガトンパンチやキックが飛んできて仕留めるといった戦い方だ。ちなみに彼のパンチとキックは大木をも悠々と倒す威力のものである。

 

 汐海、美菜、波哉香も武田親子の戦い方をトレースしていたが時が経つにつれ違う戦い方へと移行しつつあった。特に波哉香は実の母親を相手にしている感覚で戦っている。

 

 「ママよりもスピードはあるけど......ぜんぜんやれる」

 「チョロチョロトシヤガッテエエ!」

 

 波香クローン量産型の一体は回転まわし蹴りからそのままかかと落としへと技を変化させるが完全にその攻撃を波哉香に見切られていた。

 

 「え~~い!」

 

 かかと落としを避けられた波香クローン量産型は波哉香の水面蹴りをくらって倒れる。波哉香はそこへ追撃のきりもみ式トペ・ヒーローでとどめを刺していた。幼児と言えども高速で自らの身体を回転させそれを顔面に落とされればいくら大人といえどもたまったものではない。

 

 「ほぅ、見事だな」「すごっ!」

 

 それを自身の戦闘の合間に汐海と美菜は見ている。

 

 「しかしこう数が多いと面倒だな」「だねえ」

 

 汐海と美菜は互いに背中を預け複数の波香クローン量産型と戦っている。

 

 「みんな!!今から私と美菜は人間回転木馬を実行に移す!」

 

 汐海は美菜の両足を持ちぐるぐると振り回す。

 

 「はっはっは!そんな古典的な技をくらうハズがないわ!」

 

 1万802号は嘲笑する。確かにこの大技は避けるのは簡単だが玄関広場を汐海達はくまなく移動しているので波香クローン量産型達はやむなく四方のかたまりになっていく。

 

 「汐海っ!汐海っ!も、もうダメ!」

 

 あまりの回転速度の速さに美菜は汐海にNGサインを出した。

 

 「そ、そうか」

 

 回転木馬をやめてぐったりしている2人に波香クローン量産型は容赦なく襲い掛かる。結局この技はなんの役にも立たずに汐海達を窮地に追い込んでしまったのである。

 

 「なんたる不覚」

 

 敵の手刀を交わしながら自らの不甲斐なさを呪う汐海。美菜と言えば倒れているところをサッカーボールキックで容赦なく蹴り飛ばして来るのでゴロゴロ転がって逃げていた。

 

 「しおみちゃんもみなちゃんもなにやってるのよ~」

 

 波哉香は幼児ながらも波香クローン量産型と対峙しているが相手の攻撃を避けるのに精一杯の様子であった。

 

 「ハヤカ!」

 

 それに気づいた波香が波哉香の援護にいち早く駆けつける。

 

 「ごめん、ママ。もうちょっとやれるとおもったんだけどよけるのにせいいっぱい」

 「ま、仕方ないわね」

 

 波香と波哉香は敵の攻撃を避け、又はいなしながらじりじりと壁際に寄っていく。壁際に寄れば多方向の攻撃を受けるリスクが減っていくからだ。

 

 「何をやっている!そいつらを中央に引きづり出して一斉攻撃しないとダメだと言ったろうが!」

 

 1万802号は仲間の不甲斐ない動きにイライラして声をあげる。

 

 「そろそろ自分の心配をしたらどうですかな?」

 「なに?」

 

 1万802号の目の前にはいつのまにか宗時が立っていた。

 

 「き、貴様、いつのまに」

 「どうやらあなたがこの連中の指揮を執っているようですな」

 

 宗時は1万802号を睨み目をギラつかせる。

 

 「だからどうした?」

 「無益な殺生はいい加減やめたらどうですかな?ただちにここから撤収してください」

 

 「バカな、ここまで来て引くとお思いか?このまま引いて帰っては大河原様に合わす顔がない」

 「ならば仕方がない。あなたを潰すのみ」

 

 ゴワァァァ!!

 

 有無を言わさず宗時の豪速掌底が1万802号の顔面へと放たれる。

 

 「ふっ」

 

 不敵な笑みを漏らしそんな攻撃が当たるものかと余裕で避ける1万802号。

 

 バゴッ!!

 

 しかし避けた先で背後から武田裕司の剛腕パンチで首の骨ごと折られて1万802号はあえなく機能停止となった。

 

 「お!昔よりも威力あるんじゃないか?裕司」

 「そういう宗時殿も昔より凄みが増していますな」

 

 自分達の周りに敵がいなくなったので2人は誰に気を使うことなく言葉を交わした。

 

 「お父ちゃんとおじさん、すごいなあ」

 

 美乃梨は素直に感想を言葉にする。

 

 「ははは、ありがとう。裕司、お前の子供か?」

 「ああ、俺の宝だ。やっとできた子供だからな!ガッハッハ」

 

 「そうか、良かったな。さて時哉達は......」

 

 宗時の視線の先の時哉はヘロヘロになりながらも波香クローン量産型数体を相手にしていた。いまだ一体も倒せていないようだ。

 

 「宗時殿の息子はだいぶ苦戦しとるようだな!ガッハッハ!」

 「......」

 

 波香と波哉香は前衛と後衛を入れ替わりながら巧みに相手の攻撃をかわし隙あらば反撃をしていた。その攻撃方法は波哉香の水面蹴りで相手を転ばせて追撃が間に合うようなら波香のかかと落としで着実にダメージを与えるという戦術だ。

 

 「すぴーどはあるけど......」

 

 波哉香は最初こそ波香クローン量産型の繰り出す技の速さに苦戦していたが今ではすっかり目が慣れてその技の単調さに飽きてきていた。充分に反撃のチャンスはあるけど自分はまだ幼児で大の大人には力では敵わないことを自覚しているので攻撃は自分の母親に任せている。

 

 「ハッ!」

 

 溝落ちにパンチを叩きこみ、周囲の様子を見渡す波香。どうやらこれが最後の一体のようだ。足元に倒れている波香クローン量産型にとどめの一撃で終わらせようとすると足首を掴まれる。

 

 「ズ、ズルイ......アナタダッテワタシタチトオナジナノニ......アナタダケシアワセニナルナンテ......ワタシタチモシアワセニナリタカッタ......」

 「え?」

 

 一瞬攻撃の手をやめた波香の隙をついて波香クローン量産型は反撃の機会を伺おうとしている。

 

 「ママ!」

 

 ドカカカカ、バヒューン!

 

 それに気が付いた波哉香が自分の身を捻りながら回転し身体ごと波香クローン量産型の顔面めがけて飛んだ。

 

 「ヒギャ!」

 

 こうして波香クローン量産型の最後の一体は機能停止となった。

 

 「ママ!だいじょうぶ!?」

 「う、うん」

 

 「ママ?」

 「......」

 

 急にふさぎ込んでしまった波香の様子を波哉香は不思議に思う。

 

 「ナミカちゃん!ハヤカ!大丈夫か!?」

 

 しばらくすると時哉が波香達のもとへ走ってくる。どうやら時哉は宗時と武田の援護により窮地を脱したようだった。

 

 「トキヤ......しおみん達は?」

 「無事だ」

 

 「そう、......良かった」

 「......ナミカちゃん?」

 

 

  ◇

 

 

 「くそがっ!!」

 

 ドカッ!!

 

 監視室で波香達の戦いをモニターしていた大河原は机をぶっ叩く。

 

 「1万802号め。100体以上のクローンを無駄にしやがって!」

 

 そしてペットボトルの水を一気に飲み干した。

 

 「大河原様」

 

 今度は波香タイプのクローン人間とはまた違った美しい女性が大河原の元にはせ参じる。

 

 「エカトミリオか。なんだ?」

 「武力でダメなら知力で......いかがでしょうか?」

 

 「ふむ、お前はそういうのが得意だったな。いいだろう、お前に任せよう」

 「はっ、あわよくば、かの者達を大河原様の傘下に......」

 

 口では控えめな口調であったがその美しい女性の表情は自信に満ち溢れていた。

 

 「......エカトミリオ......元、精神科医の医者のクローンか。通り名が『サイコ・アタック・ソルジャー』。ククク......そのお手並みを拝見させてもらおう」

 

 

  ◇

 

 

 最後の一体の自分のクローンを倒した時、何故自分も同じクローンなのに自分だけ幸せになるのか。波香はこの言葉に苦しむ。確かにそうなのだ。生まれた時からクローンの性能に若干、差があるもののみんな同じなのだ。言うなれば皆、兄弟なのかもしれない。

 

 自分の知り合いのクローンだけ幸せになり他のクローンは殲滅する。自分の行動は間違っていると波香は悩み、苦しむ。

 

 他のメンバーはそんな波香の様子がおかしいことに気づくが取り合えず玄関から先に進むことにした。そしてその先で彼氏彼女らを待ち受けていたのは黄色いローブを纏った1人の美しい女性であった。

 

 「き、君は?」

 

 先頭を歩いている時哉はたじろぎながらもその女性に話しかけた。

 

 「私はエカトミリオと申すものです。私には戦闘の意志はありません。この無益な戦いを収拾する為にお話がしたいのですが......波香さんはいらっしゃいますか?」

 「いるにはいるが......しかし」

 

 時哉はためらう。そんな時哉の心配をよそに波香は時哉の後ろから声を挙げた。

 

 「私はここにいるわ」

 「波香さん......2人きりでお話がしたいのですがこちらの部屋に来ていただきますか?」

 

 「それはダメだ!」

 

 時哉が思いっきり拒否る。その女性は困った顔をした。

 

 「何も怪しいことはございません。同じクローン人間の仲間として腹を割って私は波香さんとお話がしたいのです」

 「だったらみんながいる前で話をすればいいだろう?」

 

 「いえ、それでは......皆さんの前ではなかなかお話しにくいこともあるでしょうし」

 「話しにくいことってなんだ!?」

 

 「......いいのよ、トキヤ。私、この人と話して来る」

 「ナミカちゃん、大丈夫なのか?」「ママ......」

 

 「大丈夫、大丈夫」

 

 波香はにっこりと自分の夫と子に微笑んだ。

 

 「じゃあ、こちらのお部屋にどうぞ」

 

 波香はエカトミリオに案内され良い香りのする部屋に入った。

 

 「......随分と良い香りのするお部屋ね」

 「ええ、気分を落ち着かせてじっくりとお話をしたいので」

 

 エカトミリオはそう言うとハーブティを波香の前に置いた。

 

 「さて、波香さん、あなたの幸せとは一体何ですか?」

 「......やっぱりその質問なのね」

 

 「やっぱりということはあなたはそのことについて悩んでいたのですか?」

 「......ええ」

 

 「あなたの幸せはなんなのか、わからない?」

 「そう......わからなくなったわ。でも、最近になって自分の目標を設定したの」

 

 「それはなんですか?」

 「自分の父とも言える存在、北条繁一を超えること、とか」

 

 「自分を造り出した人を超える?」

 「.....ええ」

 

 「それはなぜですか?」

 「なぜって......なんとなくかな?」

 

 「あなたはなんとなくで自分の仲間でもある私達や自分を造ってくれたマスターでもある人を攻撃するのですか?」

 「うっ......それは」

 

 「あなたは自分さえ幸せになればいいんですね?他のクローンや人間達もあなたが幸せになる為の踏み台にすぎないのですね?」

 「自分だけじゃない!トキヤやしおみん達だって」

 

 「それはあなたのお仲間じゃないですか。所詮、あなたの所有物。それらの存在はあなた自身と言っても過言ではないですよね?」

 「そ、それは......」

 

 「あなたに直接関係ないものはどうでもいい。私にはそういうふうに感じます。今までのあなたの行動からしてみれば......ですね」

 「じゃ、じゃあ、どうすればいいの?私はどうすればいいのよ!!」

 

 

 波香のその言葉にエカトミリオの口元が緩むのであった。

 

 

 (続く)

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。