※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

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第127話

 北条のお屋敷の大広場では総勢300名ほどの人で溢れかえっていた。人と言ってもその大半はクローン人間だが。

 

 「私が北条家第30代当主、北条波香だ」

 

 ぱちぱちぱち

 

 いつまでたっても拍手が鳴りやまない。拍手をしているのは主にクローン人間達だった。

 

 スー......

 

 波香は鳴りやまない拍手に恐縮しながらそっと両手を広げて下ろす。するとクローン人間達は拍手をするのを止めていく。

 

 「ねえ、パパ。ママにそっくりなひとがたくさんいるんだけどあのひとたち、だれなの?」

 「うん?え、え~と、親戚だよ」

 

 「え~~~!?あんなにたくさん?」

 「そうだよ」

 

 「わたし、ママとまちがえちゃいそう」

 「ハ、ハハハ。間違えないよ。いくらそっくりだと言っても本当のママをハヤカは間違えたりしない。そうだろ?」

 

 「そ、そうかなあ」

 

 波香が演説している後ろで時哉と波哉香はそんなことを話していた。

 

 「......中には私が当主になるのを望まぬ者もいるかもしれない。だが私はここにいるみんなの幸せの為ならばどんな苦労も厭わない。どんな些細な事でもいい。何か悩みや困ったことがあるなら私に相談してほしい。力になることを約束しよう」

 「オオオオオオ!!」

 

 波香の公約に場内は騒然となる。

 

 「北条家は愚かな研究の為に時間の浪費と散財を繰り返してきた。その愚かな研究が私達を生んだ。私達は自らの存在価値に悩んだ。何のために生まれてきたのか?と。そう私達はただ漠然と生きてはいけないのだ。何か目標がなければ生きてはいけないのだ。そこで私達は目標を掲げなければならない。我が北条家が他の財閥の追随を許さないほどの力を見せつけてやろうではないか。その為にはみんなの力が必要なのだ。私はみんなの幸せの為には全力を尽くす。だからみんなの力を私に貸して欲しい!!」

 「波香様、バンザイ!!」

 

 波香の配下になることを許された大河原が調子に乗って音頭を取る。そうすると他のクローン達も合掌し始めた。

 「ナミカサマ、バンザイ!!」「ナミカサマ、バンザイ!!」「ナミカサマ、バンザイ!!」

 

 スー......

 

 波香は鳴りやまない歓声に恐縮しながらそっと両手を広げて下ろす。するとクローン人間達は声をあげるのを止めていく。

 

 「みんなで幸せになりましょう!!」

 

 ウオオオオオオォォォォォ!!

 

 北条のお屋敷の大広間では大歓声がいつまでも鳴り響いていた。

 

 

  ◇

 

 

 (頃合いを見て北条波香をクビにしなさい)

 

 神崎恵美は椅子に持たれながら父の言った言葉を思い出していた。

 

 「そんなの私に出来るわけがない」

 

 高校の時に交際していた当時恋人だった時哉を奪われた時は波香のことを良くは思わなかった。しかしその時から波香は恵美に対してどんなことでも親身になって力になってくれたのである。今の自分がいるのも波香のおかげなのだ。そんな恩人を切ることは出来ない。

 

 アールグレイの紅茶をすすりながら今月の売上計画に目を通していると総務兼人事部長の間宮が社長室を訪れた。

 

 「しゃ、社長、ちょっとよろしいですか?」

 「はい、いいですよ」

 

 間宮は狼狽えながら某経済新聞を恵美に見せた。

 

 『北条財閥の総帥に北条波香が就任!!』

 『若干30代でありながら名門北条家の流れを汲む名家のトップに!!』

 

 「え!?そ、そんな......」

 

 その新聞には写真付きでその写真は恵美の良く知っている師匠の写真が掲載されていた。

 

 「やっぱり社長も御存知なかったのですね」

 「え、ええ」

 

 「会長はこの会社を辞めるのでしょうか?」

 「え!?そんなの聞いてないけど?」

 

 「......」

 

 こんこん

 

 恵美と間宮が呆然と立ち尽くしていると社長室の扉を叩く音がする。

 

 「はい、どうぞ」

 

 今度は一里塚、細田、品川が社長室を訪れた。

 

 「会長はこの会社辞めるんですか!?」

 

 一里塚が恵美と間宮にいきんで問う。

 

 「......まだ、わかりません。本人からの連絡もありませんし......」

 「......」

 

 5人が新聞を見つめながらただ茫然と立ち尽くしていた。どれくらいの時がたったのか定かではないがしばらくしたらその5人が集まっているところへタイミング良く波香が出社してきた。隣の会長室の扉が開く音がしたので誰もがもしやと思い一斉に隣の会長室に向かって社長室を飛び出した。

 

 バターーン!!

 

 ノックもせずにみんな会長室へとなだれ込んでいく。案の定、会長室の机の椅子には波香が座っていた。

 

 「あら?」

 「師匠!!まさか、この会社を辞める気じゃないですよね!?」

 

 恵美が波香に問いただすと波香は恵美の顔を見ずに下を向いて答えた。

 

 「......ごめんなさい。今からそのことについて話に行こうと思ったのだけれど」

 「嫌ですよ!!辞めないでください!!」

 

 「そうだ!辞めないでください!!折角、一緒に働けることになったのに!」

 

 恵美に続いて品川が絶叫している。

 

 「会長......やめないでぇ」

 

 一里塚と細田に至ってはもう涙ぐんでいた。

 

 「......」

 

 間宮はただ無言で立っているだけだったが瞳は心なしか潤んでいるようだった。

 

 「お家のことだから詳しい事情は話せないのだけれど北条のお家のこじれた事情は私しか解決できないの。......ううん、違うわね。解決できるかどうかわからないけど私が動かないと事態は収拾しないの。わかってとは言えないけれどこれが私の取るべき道なのよ」

 「どうしても辞める気なんですか?」

 

 「ええ、ごめんなさい」

 「......神崎グループを敵に回してもですか?」

 

 「ごめんなさい。本当に社長のお父様には散々お世話になっておきながらこんな形でお別れすることになるなんて......本当にごめんなさい」

 「う......」

 

 その時、恵美は父の言葉を思い出していた。

 

 (逆にあの女を利用してやったのだ)

 

 「そ、そうですよ。少しでも申し訳ないと思っているのなら辞めないでください!!」

 「ごめんなさい」

 

 「会長が辞めるのなら僕も......」

 「品川!それはダメだ!」

 

 品川の呟きは波香に一喝される。

 

 「え!?ええ!?どうしてですか?」

 「お前はここに残ってちゃんと仕事をまっとうしろ!」

 

 「そんな!僕は会長がいるからこの会社に入ったんですよ!」

 「私もです!」

 

 品川と細田は声をあらげる。それはまるで妊娠したから責任を取ってくれと言わんばかりの剣幕であった。

 

 「お前ら~」

 「......私もかな?」

 

 一里塚は控えめに言葉を発したが一里塚の眼差しは明らかに波香を責めていた。

 

 「私がいるからとかじゃなくて自分の人生だからちゃんと自分で決めなさいよ」

 「自分で決めるのだから先生......会長の傍で働きたいんです!!」「私も!!」

 

 「......品川、細田。私を困らせないでくれ。私だってお前達と働きたい。お前達やここにいるみんなとならこの会社をもっともっと大きくできるだろう。だけど北条の本家の問題は私じゃないと無理なんだ。いや、私がするべきことなんだ。だから......」

 「イヤだ!!やめないでくれ~~~~!!」

 

 波香の言葉を遮り品川は波香に飛びついた。

 

 「うわっ」

 「やめないで~!」

 

 次に細田が一里塚が恵美がそして最後に間宮が波香に抱きついてきて波香は身動きが取れなくなっていた。

 

 「うわっ!品川!変なとこを揉むな!触るな!!」

 「だって今日が最後なんでしょ?ちょっとくらいいいじゃないですか!!」

 

 品川はどさくさに紛れて波香のお尻を揉みしだいている。

 

 「ちょっと!お前、細田の前だろ!」

 「今日はいいです!許します!大輔くんと私も同じ気持ちだから.....」

 

 細田は品川の浮気?に許可を出した。ますます調子に乗って品川は波香のありとあらゆるところを揉みしだいていく。

 

 「う、うはっ!くすぐったい!やめろ!......あははは」

 

 

  ◇

 

 

 「頭取!見ましたか今朝の新聞!?」

 「ああ、見たよ」

 

 ここは北条財閥グループの中のひとつのH都市銀行。銀髪でオールバックの男が缶コーヒーを片手に新聞を読んでいた。

 

 「この女、何者なんですか?」

 「......だいぶ前に見たことがある。多分、本家の人間なんだろう」

 

 「そうなんですか」

 「......ああ」

 

 その頭取と呼ばれた男は北条康利(ほうじょうやすとし)。51歳で仕事もプライベートも油が乗り切っていた。

 

 「私は認めんがな。こんな若干30代の小娘に本家の当主が務まるとは思えん」

 「そうですよね!」

 

 「鈴木。明日私は本家に行こうと思う。私の留守中はお前が代理でやっておけ」

 「はっ!承知いたしました!」

 

 (しかし、一体なぜこんなことが?お館様はどうなってしまったのだ?噂通り新薬の被検体をして身体でも悪くなされたのであろうか?まあ、いい。本家にいけば何かわかるだろう)

 

 康利はそう思っていたが内心穏やかではなかった。本家の当主というのは絶対的な権力を持っている。このままにしていたら自分がこの30代の小娘に従わなければならないのだ。繁一が隠居したなら次の当主はてっきり自分だと思っていた。繁一には跡継ぎがいない。その事実は北条財閥グループ内で知れ渡っていたのだ。

 

 後日、康利は北条財閥のグループ内で仲の良い実力者数名と供に本家を訪れるのだがそこで彼らは奇妙な光景を目にするのであった。

 

 

 (続く)

 

 

 

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