北条のお屋敷の地下牢獄では繁一、勝男、行長、康利、宗時、そして傍らには繁一がフランソワと呼んでいる女性が座している。その様子を波香の仲間となったキーリアタイプのクローン人間が遠くから見張っていた。
「当主とあろうものがなんという体たらくじゃ。こともあろうに牢獄に閉じ込められ女と馬鍬って日々を送るなどとは」
「わっはっは。これもまた人生じゃ」
「おぬしに当主の座を譲ったのがどうやら間違いだったようだな」
「まあ、そういうな勝男殿」
勝男に責め立てられるが繁一はまったく気にしていない様子だった。
「宗時、お前がついていながらこの有様とは」
今度は矛先を宗時に向ける勝男。
「全く面目次第もありません」
「で、これからどうするのじゃ?まさかこのままあの女に北条の当主の座を受け渡すつもりじゃなかろうな?」
勝男はジロリと宗時を見、そして視線を繁一に移した。
「うむ、それもまた一考か?わははは」
「バカな。お前の後はこの康利に当主をやってもらう予定だったのじゃぞ?」
「......」
康利はただ黙って目を瞑って下を向いている。
「ほぅ、康利がのぅ。まだ早い気もするが」
「あ?あの女はどう見てもまだ30代じゃろが!康利は50じゃぞ?ちょうどいいじゃろが!」」
「73号.....波香はワシらが造り出した最高傑作なのじゃ!そこらの人間には敵うまい。のぅ宗時?」
繁一は勝ち誇りニヤっと宗時の方を見る。だが宗時は黙ったままだった。
「造り出した?どういうことじゃ?やはりあれは普通の人間じゃないのじゃな?」
「あや、しまった」
「お館様、あれはやはりクローン人間なんですね?奥方様の?」
今まで黙っていた康利が口を開く。
「......ああ、そうじゃ。何か悪いか?」
「.....クローン人間の製造は日本では禁じられております」
「そんなのわかっとるわい!」
「......自分の造り出したものに地下牢獄へと追いやられるとはなんと情けない」
勝男は両手で顔を覆いかぶさった。
「ソロソロオジカンデゴザイマス」
勝男達が入っている牢獄へキーリアが顔を出す。
「わかっとるわい!」
勝男達は繁一と宗時、フランソワを残し牢獄を出て行く。
「......我々の当主がクローン人間じゃと?」
「......」「......」
勝男はぼやくが行長と康利は黙ったままである。
「世間に知られたらとんだ笑いものじゃ。ん?クローン人間ということはもともとは存在していなかったということじゃな?」
「戸籍上はどうなっているのでしょうかね」
「もともと存在していないものを始末しても何も問題はない。そうじゃろ?行長?康利?」
「まあ、そうですね」
勝男のその一言に何かを悟ったような行長と康利であった。
「ナニヲハナシテイル?」
その会話に護送しているキーリアは反応する。
「ひっ!な、なんでもないぞ!」
「ナミカサマニガイスルモノハハイジョセヨ。ソレガワタシノシメイダ。ソコントコロヨロシク」
「は、ははは」
ジロリと勝男を睨むキーリアに勝男は腰が引けていた。
「と、とにかくじゃ。ここは一旦このお屋敷を出て、緊急で会議を行わなければならない。そうじゃろ?行長、康利?」
「ですな」「わかりました」
「康利、一族の主だったものを集めてくれ。ワシのところに集まるようにと」
「わかりました」
勝男達が大広間に到着すると波香がエカトミリオと待っていた。
「おかえりなさいませ」
「う、うむ」
「父と話して納得していただきましたかしら?」
「納得なぞするわけがなかろう!」
「あら、そう」
「ワシ達はこれにて失礼する!」
波香の話など聞く耳を持たないかのように勝男達はいそいそと玄関へと向かうがそこへキーリアが立ちはだかった。
「む、な、なんだ!」
行く手を阻まれた勝男は何事かと思い波香の方を振り返る。
「納得してないのにこのまま返すわけにはいかないのよね」
波香は勝男を見て不敵に笑う。
「な、なんだ貴様!悪役令嬢にでもなったつもりか!?クローン人間のくせに!」
「ふ~ん、そういうこと言うんだ?」
「事実じゃろが!」
「では、話し合いましょう?あなたが馬鹿にしているクローン人間の私が北条の当主にふさわしくないのかどうか。私を説き伏せてみせたら私は当主の座を辞退します」
「よ、よかろう!」「勝男様!」
康利が止めるがその場の勢いで勝男は波香の挑発に乗ってしまうのである。
◇
内装の豪華な部屋で波香達と勝男は各々の席に着く。
お茶を持って来たメイドを見て去って行くその姿を再度見て勝男はつぶやいた。
「どいつもこいつも同じ顔をしやがってホント気味が悪いわい」
「さて、始めましょうか。エカちゃん、お願い」
そう言う波香の隣にはエカトミリオが座っている。
「では、私が進行役を務めさせていただきます。申し遅れましたが私はエカトミリオと申す者です。以後、お見知りおきを」
「う、うむ」
「では最初の議題から......波香様が当主にふさわしくないという理由をお聞かせ願えますか?」
「そんなの決まっているじゃろが!クローン人間だからじゃ!」
「クローン人間だと当主になってはいけないのですか?」
「当たり前じゃろ?人間の社会に出て来るな!クローンごときが!」
「それは勝男様の偏見ではないでしょうか?人間の社会と言っても中には社会にまったく貢献していない人間もいるわけですし」
「少なくとも北条の人間にはそのような人間は一人としていない!」
「では、言い方を変えます。波香様は北条家のどの人達よりも優れています。優れた者が当主になる......当たり前のことだと私は考えますが?」
「......では聞こう。この女のどこが優れているのだ?」
「はい。波香様は幼少の頃から学問、武術を極めておられます」
「はん!どの程度、極めたのか知らんがここにいる次期当主候補だった康利はな、T大の大学院まで行き経済学を極めておる。その女は大学なぞ出ておらんのだろう?」
「H大卒でございます」
「ん?H大?」
「海外にあるH大です」
「あの世界で一番と言われるH大か?」
「そうです。さらに波香様はいろんな資格をお持ちです。弁護士の資格を除き、ほぼ全ての資格を所持しています」
「す、全て......それは本当なのか?」
「調べればすぐにわかる嘘を私はつきません。全て本当です」
「......」
「さらに学問のみならず波香様は空手と合気道の有段者でもあります」
「む、むぅ。ま、まあ人というのは肩書だけではわからんからな。これまで何を成し遂げてきたかということじゃ!」
「そうですか。それでも波香様はそれなりの事を成し遂げてきたと思いますが」
「何を成し遂げたのじゃ?そこに座っているだけじゃろが!ここにいる康利はな、業績の振るわなかった銀行をわずか3年で立て直し頭取まで上り詰めた男じゃ!どうじゃ!敵わんじゃろ!?」
「単純に比較になるかどうかそれでは判断がつきませんが波香様は高校の教師をやっていた時期がありましてそこの生徒全員を志望する大学に合格させた実績がございます」
「ふん、どうせ3流大学じゃろが」
「いえ、主にT大です。それとH大に受かった学生もおりました」
「な、なんじゃと?」
「そのことから人を指導するリーダー的な存在、当主にはうってつけかと」
「......」
「また神崎電子という数年赤字続きだった会社を波香様は1年足らずで経営を立て直し今や登る竜のごとき勢いでございます」
「あの今、話題になっている会社か」
「はい。......どうでしょう?波香様がこの北条の当主にふさわしいか納得していただきましたか?」
「うぬぬぬ......納得はせんが......当主になって何をするつもりじゃ?何が望みなんじゃ?何をたくらんでおる!?」
勝男のその問いにエカトミリオを制して今度は波香が応える。
「......私の望みはここにいる全ての人達が幸せになること。そして北条グループの繁栄」
「ほ、本当か?」
「ええ。......少なくともあなたに悪役令嬢だなんて言わせるつもりはないわ」
「......」
波香の圧倒的な能力の誇示と今までの実績に勝男達は文句のつけどころがなかった。
「......わ、わかった。今のところはお前が当主代理で構わん。だがワシの一存では決められん。残りの一族と相談して精査させてくれ」
「ええ、構わないわ。ただ私は当主の座を降りるつもりはないので」
「......」
こうして勝男達は北条のお屋敷から去って行った。その後ろ姿を波香とエカトミリオは見送る。
「意外と話のわかる人達だったわね」
「はい、マインドコントロールは必要ありませんでした」
無表情でそう応えるエカトミリオを見て波香はクスっと笑う。
「でも、この程度で論破されてしまうのか......あの人たちが北条の上を主にしているのだとしたら繁栄もしないわけだわ」
「......」
「あなた達のほうがよっぽど使えそうだわ」
波香はエカトミリオを見てそう言うがすぐに失言に気が付き訂正する。
「あ、ごめん、エカちゃん。道具みたいに言って。あなた達とならうまくやれそうだわ。です」
「いいえ、私は波香様に絶対の忠誠を誓っています。我々の幸せを真っ先に考えてくれている。それがわかった時から.......ですから道具のように使っていただいて構いません」
「エカちゃん......一緒に幸せになろうね」
「はい」
波香はそう言いエカトミリオを抱き寄せる。エカトミリオは波香にされるがまま抱かれそして目を瞑った。
(続く)