北条のお屋敷内のクローン人間達全員と一通り面談を終えた波香は汐海と美菜に一部のクローンの今後の身の振り方の相談を任せていた。
「汐海先輩、結婚ってどうですか?いいものですか?」
図体は大人だがその質問の内容は世の中の事を何も知らないまるで生まれてきた赤ん坊のような話し方だった。汐海はその後輩と呼ぶべきクローンに親身になって応える。
「ん。いいぞ。少なくとも私はな、そう思っている。好きな......愛している人とHして一緒に暮らす......うん、とてもいい」
「愛している?H?......わからない......」
「んー。とりあえず社会に出て見ることだ。そしていろんな人と出会い誰かに心を惹かれることがあるかもしれん。それが恋なのだ。そして自分をその心惹かれた人にアピールし無事結ばれれば愛し合うことができるかもしれん。そしてHだ!」
「......よくわからないし、とても面倒くさいです。そうしないとダメなんですか?」
「いや、ダメってことはないが......」
「とりあえず私はいろんな資格を取りたいと思います。そして社会に出て働きたい」
「う、うむ。そうだな」
「今日はここまででいいです。ありがとうございました」
「うん、またいつでも相談しにきてくれ」
「はい」
ようやく一息ついたところで汐海は部屋を出て休憩所へと向かう。そこにはすでに美菜が紅茶を飲んで休憩していた。
「汐海お疲れっ!」
「うむ。美菜はもう終わったのか?」
「終わったよっ。汐海は?」
「私の方は後3人残っている」
「そうなんだ」
「うむ」
「どうしたの?何かあった?」
美菜は汐海のテンションの低さを感じ取っていた。
「うむ......美菜は最近どうだ?彼氏とうまくいってるのか?」
「うん、いってるよっ。ちょっとHは物足りないけどまあ、しょうがない。求めすぎたらまた逃げられちゃうからねっ」
「は、ははは」
「なんで?汐海はうまくいってないの?」
「いや、私のほうも順調だ」
「そっか、良かったね」
「うむ......私達の仲間は全部が全部、私達と同じようなことを望んではいないのだろうか?」
「うん、そうだね。私もいろんな人の相談に乗ってそう感じた」
「そうか......美菜はどういうアドバイスをしたのだ?」
「うん、いろいろやってみて自分の好きな事をすればいいって言ったよ?もちろん犯罪以外で」
「そうか、なるほどな」
「自分の考えを全部押し付けてもね。結局はその人の人生なんだしさ。好きにすればいいと思う」
「うむ、美菜といるとたまに感銘を受けることがあるな」
「あはは、たまにね。まあ、誉め言葉として受け取っておく」
「うむ。そうか私は自分の考えを押し付けていたか。いかんな」
「......前から言おうと思ってたんだけどさ。汐海って真面目だよね?」
「真面目?私がか?私みたいのを真面目って言うのか?」
「うん」
「意味がわからんな」
「まあ、それはさておき、これからどうするの?会社も辞めちゃったしさ。貯金もそろそろなくなってきたんだけど」
「波香会長......総帥が言うには私達が相談や教育している間は自腹で給付金を私と美菜に支給すると言っていたぞ?」
「どれくらい支給されるの?」
「んー、これくらいって言ってたな」
汐海は右手で5本指を立て左手で丸を作り美菜に見せた。
「!!そんなに?会社で働いていた時より多いじゃん?」
「確かにそう言っていたぞ?」
「......このお屋敷でずっと働きたいね?」
「ははは、そうだな。ここにいれば私の目標としている貯金金額が早く達成できるだろうな......そしたらムフフ。欲しかった赤ちゃんが作れる」
「赤ちゃんかあ」
「赤ちゃんができたらまずはオシャレな赤ちゃんの寝床のオリを買う。そして赤ちゃんが寝ながら見つめる鳥のオモチャを買うのだ。そのオモチャは回転しながら実際の取りみたいにピヨピヨと鳴くのだ。赤ちゃんはその鳥のさえずりの心地よさにスヤスヤと眠ることができるのだ。そうだ!服も買わないとな!可愛いやつ」
「ちょっと汐海っ!」
「ハッ!す、すまん、いろいろと妄想してしまった」
「あはは、生まれる前から親バカが確定してるよっ」
「む、親バカとはなんだ?」
美菜にバカにされたような言い方をされたので汐海はムッとして答えた。
「んー可愛がりすぎることかな?」
「可愛がりすぎて何が悪いのだ?」
「まあ、そうだけどさ。物事には限度があるってこと」
「それを美菜が言うのか?美菜には言われたくないのだが......」
「なんでよっ!」
汐海と美菜はそのうちに口論と発展していた。そこをちょうど波香が通りがかる。
「ちょっとあなた達何を言い合っているのよ?」
「あ!総帥!」
「そ、総帥って......やめてよ、今まで通りで呼んでくれない?」
「じゃあ、会長って......言っても会長ではないし」
「波香でいいわよ」
「じゃあ、波香......殿」
「はい」
波香はにっこりと答える。
「えっと、波哉香殿は元気ですか?」
「なんなのよ、急に。元気だと思うわよ」
「可愛いですか?」
「うん、とっても」
「いいですな」
「何?しおみん子供欲しいの?って欲しいって言ってたわね」
「うむ」
「で、どうなの?」
「お金がもう少しで目標額に届くのでそれから本気の子作りセックスを行おうと思っているのだ」
「お金?もう充分に貯まっているんじゃないの?」
「いやまだだ。今のところ中学生くらいの学費が貯まっている」
「.....どういう計算してるのか全くわからないけど働きながら払えばいいんじゃないの?先にお金を貯めてからにしたいの?」
「あ!」
「......南は何も言わなかったの?」
「旦那は私のしたいようにさせてくれるので......」
「あ、そう。で、みなりんはどお?彼とうまくいってる?」
「うん、いってるよぉ」
「そお、それはよかった」
「うん!」
「ところで、他の人達の様子はどうかしら?」
「何人かはやりたいことを見つけてそれぞれの目標に向かって頑張るような話をしていました」
「うん、そう。私やあなた達がいいお手本となるように日頃の振る舞いも気をつけなければならないわね。私達が笑顔で楽しそうに日常生活を送っていればみんなも私達のようになりたいと思ってくれるのじゃないかしら」
「なるほど......波香殿」
「なに?」
「余計な心配なのかもしれないがお金の方は大丈夫なのか?」
「ん、大丈夫よ。その辺は心配しないで」
「そうか、それは良かった」
その後、しばらく3人は他愛のない話をしてそれぞれのやるべきことの確認をするのであった。
◇
「ふぅ。もう何もでんわい」
「はぁ......くたぁ」
地下牢獄で一心不乱に腰を振り続けていた繁一はようやく人心地ついて腰を下ろす。フランソワと繁一が呼んでいた女性はようやく繁一から解放されぐったりとしていた。
「のぅ、宗時」
傍らに見て見ぬふりで横たわっている宗時に繁一は声をかける。
「はっ、なんでしょう、お館様」
横たわっていた宗時は繁一に呼ばれささっと姿勢を正しその場で座りなおした。
「ワシは間違っていたのか?」
「......私はなんとも言えませんがお館様がそれだけ奥方様を想っていたという想いだけはわかります」
「お前の妻は元気か?」
「昨年、他界しました」
「お、そうだったか。それは悲しいな」
「はい」
「お前も造るか?確か、
「いえ、私は......」
「なんじゃ?寂しくないのか?」
「私の妻の代わりなどはおりません。それにこの世に妻は存在しなくとも妻は私のここに永遠に生き続けます」
宗時は自分の胸を差し繁一に言い切った。
「ほぅ、つまりワシのしたことは間違っていた......と言いたいのじゃな?」
「間違っているとは思いません。......強いて一言で言うなれば『夢、幻の如く成り』といったところでありましょうか」
「う~む、なるほどな......たわけがっ!ワシに意見するなど百年早いわ!!」
......パチャ
繁一は湯呑茶碗に入っていた飲み残したお茶を宗時にぶっかける。
「......っはっはっは、懐かしいですな」
「わっはっはっは」
繁一にお茶をぶっかけられた宗時は笑い出し繁一もまた豪快に笑いだし2人はしばらくの間大笑いしていたのであった。
「......さて、宗時、ここを出るとするかの」
「はっ」
繁一は全裸であったが服装を整え傍らの女性にも服を着るように命じる。そしてその女性は自分の着た服のワンピースのポケットからカギを繁一に渡した。繁一はそのカギを宗時に渡す。
カチャカチャカチャ.......キィ......
牢屋の中からカギを使い宗時は扉を開けた。なぜか門番はいない。
「さあ、参りましょう。波香様のところへ」
「......そうじゃな」
宗時に促され繁一達は波香のもとへと向かうのであった。
◇
谷敬一郎と結婚し大阪へと居を移した香織は忙しい毎日に追われていた。波香達が神崎電子を離脱すると聞いていたが香織は神崎電子の大阪支店の支店長を引き受けていた。前科者が企業の支店長になったということでマスメディアから叩かれたりもしたが結局それが話題になり関係者の思惑通りに事が運んでいたのだ。
「ふぅ、とりあえず、これで落ち着いたかな」
大きな荷物の整理が終わり香織は支店長用に用意された机の椅子に座る。
「支店長、お疲れ様です」
夫である敬一郎は前の会社を辞め神崎電子の大阪支店で香織と働くこととなった。妻に労いの言葉を贈る。
「敬一郎さん、今日はどんな予定ですか?」
「九州に大量の受注品があるのでその検品と出荷の準備だけで1日が終わりそうです」
「そうですか」
「支店長は?」
「今日は募集した女性事務員の面接があります。3名ほど......ですね」
「ふむ、そうですか。良い人が来るといいですね」
「はい」
神崎電子大阪支店はまだ香織と谷の2人しかいない。とりあえず女性事務員1人を雇うことを香織は社長である神崎恵美から許されていた。
面接の時間、午前10時近くになりある女性がやってきた。その女性を見て香織は驚く。
「会長!来たんですか!?」
「え?」
香織は波香が自分を訪ねてわざわざ大阪へとやって来たのではないかと驚きと喜びの感情を爆発させてそう言ったがその女性は波香ではなかった。
「あの私、今日10時に面接に来た
「あ、あれ?あ、あなたが丹羽さん?」
「はい」
「大変失礼しました!私が支店長の谷香織です!ささ、どうぞこちらへ......」
香織は別人だと気づき丹羽を面接のする部屋へと誘うのであった。
(続く)