※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

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第131話

 中学生となった波哉香。朝の登校は弟の隼(はやぶさ)を隼の登校メンバーのいるところまで送って行くのが毎日の日課となっていた。

 

 「じゃあね隼。みんなと一緒に気をつけて行くんだよ」

 「うん、おねえちゃんも気を付けて」

 

 弟を登校メンバーの年長者に無事に引き渡し波哉香は一息つく。今度は美樹との待ち合わせ場所へと足を急いだ。その道中にどこからともなく選挙の宣伝カーらしきものから声が聞こえてくる。

 

 『さとうじゃぎ!さとうじゃぎ!を宜しくお願いします!!あなたの街をもっともっと住みやすいところにしませんか!わたしならやります!なんでもやります!!だからどうかどうか!!あなたの清き一票を!!わたしに!!わたしにください!!さとうじゃぎ!!さとうじゃぎを何卒宜しくお願いします!!!』

 

 「うざっ」

 

 しばし耳を塞ぎながら波哉香は歩く。するとコンビニエンスストアの前の木の下で美樹を見つけた。

 

 「波哉香!おはよう!」

 「おはよっ」

 

 そして二人並んで歩き出す。

 

 「ねえねえ、昨日の宿題やってきた?」

 「うん、やってきたよ」

 

 「私、わからないところあったんだ。学校についたら教えてくれる?」

 「うん、もちろん!」

 

 「ありがとう波哉香。いつも悪いね」

 「ううん、いいよ」

 

 何かにつけて美樹は波哉香に頼りっぱなしだった。それは幼稚園の時からずっとだ。波哉香は母である波香から『自分が得にならないような友達と関わるのはやめなさい』と言われていた。波哉香は美樹と友達でいることをやめたら損すると思っているので友達でいるのだ。なにしろ他に親しい友達がいないのだから。

 

 「......にしても選挙。うるさいね?」

 「そうそう、さっきもぎゃあぎゃあうるさかったよ?昨日の夜も宿題やってた時、家の近所にきてさあ。参ったよ」

 

 「『さとうじゃぎ!さとうじゃぎ!』ってなんでもするって言ってたけど本当になんでもするのかな?」

 「さあ?私は『さとうじゃぎ』さんに絶対に1票いれないけどね。五月蠅くて近所迷惑だっての。まあ、私にはまだ選挙権ないけどね」

 

 「あははは」

 

 そんな他愛もない話をしながらやがて学校に着いた。風紀委員の今川伊吹が校門前で子分らしき者を従えて登校してくる者の服装チェックをしていた。

 

 「あら、おはようございます。北条さんに早瀬さん」

 

 「おはようございます」

 「おはようございます」

 

 「ん?北条さんそのスカート短くなくて?」

 「えっ?」

 

 伊吹に指摘され波哉香は自分のスカートを見る。

 

 「.....縮んだのかな?」

 「とにかく明日は校則の規定内の長さのスカートを履いて来てくださいね」

 

 「はあい」

 

 波哉香はとりあえずその場はそう返事して美樹と供にスタスタと校舎内に入って行く。

 

 「......相変わらず波哉香には厳しいね」

 「ったく、私は今川さんとやりあうつもりはないってのに」

 

 「何かライバル視してるよね、波哉香の事」

 「いい迷惑だって」

 

 「先週も今川さんに告白した男子がいたみたいよ?」

 「へー全く興味がないけど」

 

 「ふふふ、波哉香も今川さんのこと少しは意識してるでしょ?」

 「へ?全然!向こうが勝手に私を目の敵にしてるだけだよ?最初から最後まで」

 

 そういって波哉香はくせッ毛である自分の頭の髪をくるくるといじる。

 

 ぺかっ......はらり

 

 玄関に着き波哉香が下駄箱の扉を開けると手紙らしきものが落ちてきた。

 

 「ふぁ??」

 

 波哉香はそれを拾い上げ手紙を開くとそこには『愛』という一文字だけ書かれていた。

 

 「なにこれ??」

 「わわ、ひょっとしてラブレター?」

 

 「ラブレターっていうかこれは怪文書でしょ!気持ち悪いし迷惑この上ない!」

 

 ぽいっ

 

 波哉香はゴミ箱にその手紙を投げ入れた。

 

 

  ◇

 

 

 「え~、今日からみんなの新しい仲間を紹介する!......入って」

 

 波哉香のクラス担任の市ケ瀬冴子(いちがせさえこ)先生から紹介され大柄な男の子が教室内に入ってきた。

 

 「我那部野太鳳(がなぶのたお)です。よろしくだぎゃあ!」

 

 「......ぷっ!あははは」「わはははは」「だぎゃあって!」

 

 その男の子の挨拶で教室内は大爆笑の渦に叩き込まれる。

 

 「みんな!静かに!!笑うんじゃありません!彼の言ったことは立派な方言です」

 「わかりましたぎゃあ!」

 

 「うあははは!!」「はははは!!」

 

 がっ

 

 自分の挨拶を笑われた我那部野は黒板のチョーク入れの箱をおもむろに掴み大爆笑しているクラスメイトの席に行った。

 

 「よぉ」

 「ん??えっ?おれ?」

 

 バッサアアアア......

 

 我那部野は箱に入っているチョークの粉をそのクラスメイトの顔に投げつけた。

 

 「うぉっはっは!ごほっごほっ!」

 

 真っ白な顔面になったそのクラスメイトに我那部野は再び挨拶をした。

 

 「よぉ、バカ殿様。これからよろしくな」

 「......」

 

 騒々しかった教室内は静まり返る。

 

 「先生、俺の席はどこ?」

 「う、うん、そうだな。早瀬の後ろの席が空いているからそこで」

 

 そう言いながら市ケ瀬は美樹を指さした。我那部野はそこに向かって行く。

 

 「ひっ!」

 

 美樹は鬼か何かの生贄になるような顔をしていた。助けを求めるかのように隣の席の波哉香の顔を見つめる。

 

 「ははは、美樹、御愁傷様」

 

 「よおし、これから授業を始める!」

 「せんせえ!」

 

 すかさず我那部野が手を挙げた。

 

 「う、なんだ?」

 「俺、教科書まだないんだけど?」

 

 「そ、そうか」

 「あ、私、波哉香に見せてもらうので我那部野くんに私の教科書貸します」

 

 「お、そうか早瀬。すまんがそうしてくれ」

 「はい」

 

 美樹は後ろを振り返り我那部野に自分の教科書を渡した。

 

 「はい、どうぞ」

 「悪いな、サル」

 

 「は?」

 

 美樹は自分の耳を疑う。だが確かに彼は言った『サル』と。しかし美樹は今までそう呼ばれたことはない。無論、動物の猿に似ているわけでもない。美樹は似ている動物は何もないのだ。

 

 首を傾げながら美樹は隣の席の波哉香の席と自分の席をくっつけた。

 

 「ね、なんか美樹『サル』って言われてなかった?」

 

 笑いをこらえながら波哉香は美樹に話しかけた。

 

 「あ、波哉香にも聞こえた?やっぱりそう言ってたよね?」

 「うん、あははは、なんなんだろう。美樹はサルに似てないのにねえ」

 

 そう言いながら波哉香はチラッと後ろを見ると我那部野と目が合った。

 

 「うわっ、目があっちゃった」

 「よぉ、あんた名前は?」

 

 我那部野はツンツンと波哉香の背中を人差し指でつっつく。

 

 「ちょっ、それセクハラだから!私は波哉香。北条波哉香。我那部野君、これからよろしく」

 「おう、俺の事は覇王でいいぞ?よろしくな!うわっはっは」

 

 「......美樹、なんなのこの人?」

 「さあ?」

 

 「2人とも仲いいんだな?休み時間になったらいろいろと校内を案内してくれよ?」

 「えっ?」「は?」

 

 「まあ、そんな嫌そうな顔すんなよ?礼はするからよ?」

 「......いいよ。案内してあげる。けどお礼なんかいらないから」

 

 波哉香はきっぱりと言い放つ。

 

 「美樹もついてきて?」

 「う、うん」

 

 「あ、そうだ。あの変な手紙。我那部野君じゃないよね?」

 「あ?手紙?なんのことだ?」

 

 「......知らなければいい」

 「??」

 

 そして次の休み時間に3人は校舎内をウロウロし始める。

 

 「ここがトイレ。.....まあ、見りゃわかるけど」

 「お、してく?連れション?」

 

 「バッ!セクハラ!!」

 「わっはっは、俺、してくからちょっと待ってて......漏れそう」

 

 「ったく」

 「......最初、ちょっと怖かったけど我那部野君て面白い人なのかな?」

 

 「さあ?あいつはどうであれ私は全く興味がない」

 「......波哉香っていつもそれね?」

 

 「まあね」

 「おまたー」

 

 洗った手を振りながら我那部野は2人の前に現れる。

 

 「おかえり。次行くよ?」

 「はいはい」

 

 3人は階段を降り風が吹きずさぶ廊下を抜け学生食堂へと足を運んだ。

 

 「ここが学食ね」

 「うおぉーすげえな。俺ら中学生なのに食堂があるとは」

 

 「ここの学校はちょっと特殊なの。それは転校手続きの時、説明されなかった?」

 「されたようなそうでないような......」

 

 「あっそ。まあ、うどん、そばは150円、定食は各種300円から食べられるのでお好きなのをどうぞ」

 「ちなみにお前ら今日は昼、どうすんだ?」

 

 「私達はいつもお弁当だから」

 「そうなのか。親に作ってもらったのか?」

 

 「まあね、たまに自分でも作るけど」

 「いいな。そういうの憧れるぜ」

 

 「......もしかして我那部野君」

 「なんだ?」

 

 「いや、なんでもない。私にはカンケーないし」

 「なんなんだ?」

 

 波哉香は我那部野に親はいないのかと聞こうと思ったがやめた。聞いたら聞いたでもしいなかったら可哀そうと思う自分が面倒くさいからだ。伊吹の時、そういう気持ちになって結局面倒なことになってしまったからある意味トラウマとなっているのである。

 

 「じゃあ、授業が始まるのでこれで終わりね」

 「おう、サンキュー。ありがとな」

 

 「いいえ。さ、教室に戻ろう」

 

 波哉香は美樹と我那部野にそう言うと歩き出した。が、我那部野はついてこない。

 

 「我那部野君?行くよ?」

 「俺、うどんでも食ってくわ」

 

 「は?バカ?食堂はお昼休みじゃないとやってないよ」

 「なんだ、そうなのか」

 

 頭を掻きながらしぶしぶと我那部野は波哉香達の後ろをついて歩きだした。

 

 波哉香はなんかおかしくてクスっと少しだけ笑うのであった。

 

 

  ◇

 

 

 「じゃあ、がんばってね」

 「波香様もお元気で!ありがとうございました!」

 

 北条のお屋敷では外で働きたいと希望する最後のクローン人間が研修及び教育を経て人間社会へと旅立って行った。

 

 「波香殿、あの方の勤務先は?」

 

 波香の隣でクローンを見送った汐海が尋ねる。汐海と美菜はクローンの講師を買ってでていた。教え子達が旅立っていくのを見送るのは感無量のようだった。

 

 「H市役所だそうよ」

 

 「なんと公務員か!試験受かったのか?」

 「軽くね」

 

 「ううむ、公務員かあ。給料が安定しているからいいそうだな」

 「そうみたいね」

 

 「.....今からなれるかな?公務員?」

 「あなたが?」

 

 「うむ」

 「無理、年齢制限あるから」

 

 「そうかあ」

 「これからのこと心配してるの?」

 

 「私も美菜も波香殿にこのままお世話になるのは少々気が引けてな。もうそろそろマズイのだろう?」

 

 汐海の言う通り波香のというよりもこのお屋敷全体の貯えはほぼなくなっていた。

 

 「そうね、まあ、なんとかなるとは思うけど」

 

 波香はそう言い、遠くを見つめていた。

 

 

  ◇

 

 

 「谷香織はクビにしなさい」

 「でも、お父様、香織さんはよくやってくれています。クビにする理由がありません」

 

 神崎家では夕食時に恵美と喜一郎が言い争いをしていた。

 

 「谷はもともと北条家の者だろう?それに前科者でもある」

 「そんな......最初は前科者だって構わないって言ってたじゃないですか?むしろ笑っていい宣伝になるって......」

 

 「昔と今とでは状況が違うのだ。このまま谷を大阪の支店長にしておくと後々、面倒なことになりそうだから言っている」

 「面倒なことってなんですか?」

 

 「わからん。......わからないが数々の成功を収めてきた私の勘がそう言っている」

 「そんな......」

 

 神崎グループの総帥である自分の父と会社の自分の部下たちへの情との間に挟まれその重圧に恵美は押しつぶされそうになっていた。

 

 「......あ、私もうダメかも」

 

 ちゃり~~~ん

 

 恵美は自分の手に持っていたフォークを床に落とした。

 

 

 (続く)

 

 

 

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