※この作品はR-18です。

もう悪役令嬢なんて言わせない!   作:億田夢人

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第135話

 北条の地下の研究施設では白衣ではなく軍服を着た科学者が試験官とにらめっこしていた。その科学者に波香は声をかける。

 

 「どう?大河原、進んでる?」

 「はい、理論上はこれで問題ないかと思われますがなにぶんテストができませんのでなんとも」

 

 「大河原の理論上ならヒトの死亡の原因3割近い病気がこの薬で治るのね.....」

 「はい、いかなる『がん』もたちまちのうちの完治するハズです」

 

 「......テストはあのジジィでやってみたら?」

 

 波香が顎で指し示す方向には北条繁一がお気に入りのクローンの女生徒ともに椅子に座っていた。

 

 「......しかし繁一様のお身体はがんに犯されておりません。テストにはならないかと」

 「そう、残念ね」

 

 「被験者というかそれに代わる物で結構な数のテストを行なってある程度の数字を出さないと厚労省の承認はおりません」

 「わかってるわ。......確かグループ内に病院を経営してる一族の者がいたわね」

 

 「はい、2つほどありますが2つともがん患者は扱っておりません」

 「そう......さてどうしたものかしらね」

 

 「そんなの簡単じゃろ。身近にがん患者がいなければ造り出せば良い」

 「え?」「は?」

 

 椅子に座りながらお気に入りのクローンに陰部をしゃぶらせていた繁一は不意に言葉を発す。

 

 「大河原。確かがん患者のDNAも保存してあるじゃろ?」

 「はい、あります」

 「まさかがん患者のクローン人間を造るってこと?」

 

 「そうじゃ」

 「そんなのダメよ!もうクローン人間は造らないって決めたんだから!」

 

 泣きそうな顔をして繁一に怒鳴る波香。

 

 「じゃあ、どうする?このまま新薬のテストもままならぬまま時が過ぎていくのを待つか?そんなことをしていたら他のところに出し抜かれるわい」

 「......大河原。あなたの見立てでは......この薬の成功率は何パーセントあるの?」

 

 「はい、正直に申し上げて95.8%です。......ただ副作用として記憶障害になる確率は30%超......ございます」

 「え?がんは完治するけどそのかわり記憶障害になる確率が30%あるってこと?」

 

 「そうです」

 「記憶障害ってどんな症状なのかしら?」

 

 「ズバリ申し上げて記憶喪失です」

 「がんが治る代わりに今までの記憶がなくなるということかしら?」

 

 「そういうことです」

 「さっき問題ないって言ってたけど問題大アリじゃない」

 

 「ですが、がんが治るのです。命を失うことに比べたら記憶を失うくらいは......」

 「......大河原。ヒトはいつかは死ぬのよ?良い思い出と供に死ねるならそれは良い死に方だと思わない?」

 

 「お言葉ですが波香様。ヒトは死んだら終わりなのです。今までが良い思い出だろうと悪い思い出であろうと再び命を与えられて生きられることは可能性です。私はその可能性に賭けたい」

 「なるほどね。......確かに一理ある。いいでしょう。それに70%は副作用が起こらないのでしょ?」

 

 「はい」

 「私が汐海達とがん患者を扱っている病院にかけあってみる」

 

 「え?いきなりですか?」

 「うん」

 

 「何かでテストをしてからの方が......それに法に触れることになります」

 「何を言っているの?クローンをここで製造していたんだから北条はとっくに法律違反を犯しています」

 

 「それはそうですが......」

 「私達がうまくやるから。......お義父、宗時様の姿が見えないけれどどこいったの?」

 

 「はっ、宗時は着替えを取りに一旦自宅へと戻りました。すぐに戻るそうです」

 「まあ、あのクソジジィに付き合わされて長い間、牢獄にいたんだからお疲れになっているのでしょう。しばらく休養していいと伝えておいて」

 

 「はっ」

 

 大河原は波香に一礼をする。それと同時に大河原の内ポケットから携帯のアラームが鳴った。再び大河原は波香に一礼をすると携帯電話に出た。

 

 「ん?どうした?なに?ん......ん、そうか、ちょっと待て」

 

 電話を中断すると大河原は波香の方に振り向く。

 

 「波香様。1号......香織が面会を求めていますがどうしますか?」

 「え?かおりんが?うん、会う。通しなさい」

 

 「はっ!......お会いになるそうだ。お通ししろ」

 

 大河原がそう伝えると波香は香織に会うべく応接室に向かった。応接室に着くと香織はすでに波香のことを待ちかねていた。

 

 「かおりん!久しぶり!」

 「会長......じゃなかった。波香様......じゃない。当主?それとも総帥と呼べばいいのですか?」

 

 「はは、波香でいいわよ」

 「じゃあ、波香様。お久しぶりです。会社をクビになりました」

 

 「そう......やっぱり。ごめんね」

 「いいえ。でも神崎社長は泣きながら謝ってましたよ」

 

 「......メグミちゃん。あ、1人あなたのところに働きたいって人がいたでしょ?私達に似てる人」

 「あ、はい。来ました。とても優秀な人でしたよ」

 

 「あの人はどうなった?」

 「一緒にクビになりました。彼女は大阪で他に仕事を探すと言ってました。今も多分大阪にいると思います」

 

 「そうなんだ」

 「......あの人は波香様の手による者だったんですか?」

 

 「うん、ここで職業訓練して巣立っていった人」

 「そうだったんですか」

 

 「じゃあ、かおりん、今は何も仕事してないの?」

 「はい、恥ずかしながら。プーというやつです」

 

 「旦那さん......谷さんは?」

 「今、職安に行ってます」

 

 「そう......ね、かおりん」

 「はい?」

 

 「今、私達はあるプロジェクトを実行中なの。手伝ってもらえる?」

 「はい、私でよければ」

 

 こうして同じクローン人間でも異質な存在の1号、37号、73号、403号の4人は再び北条のお屋敷に集結する。波香はこれから北条のお屋敷全体でとりかかるプロジェクトの詳細を香織に説明しはじめるのであった。

 

 

  ◇

 

 

 「なあ、お前の好きな奴って前田なのか?」

 

 授業の合間の休み時間、唐突に我那部野は波哉香に言った。

 

 「は?そんなわけないでしょ」

 「だよな。前田ごときが『決して結ばれることはない』ってお前に言わせないよな」

 

 「私が言ったことよく覚えてるね」

 「当たり前だろ。お前の言ったことは絶対忘れない。その顔も身体も毎日、目に焼き付けてるぜ」

 

 「なんか、きもちわるい」

 「言っとけよ!」

 

 そんな会話の後、我那部野はホワイトボードを持っていく生徒に視線を移す。

 

 「おい!」

 「ひっ!」

 

 突然、我那部野に大声で話しかけられた生徒はビックリして目を丸くしている。

 

 「それ、どこか持っていくのか?」

 「え、う、うん、視聴覚室に......先生に頼まれて」

 

 「俺が持って行ってやるよ」

 「え?でも、悪いし」

 

 「いいから貸せ!」

 

 我那部野は強引にその生徒からホワイトボードを奪うとがらがらと視聴覚室へと運んで行った。

 

 「......親切でやっているんだろうけどなんだか『かつあげ』に見える」

 

 ボソッと波哉香はそう独り言を言うと隣の席の美樹はそれを聞いてクスっと笑う。

 

 「あはは、確かに」

 「ねえ、美樹」

 

 「なに?」

 「あれって本当に我那部野くんの真の姿なのかな?」

 

 「そうなんじゃない?いい人だよね、我那部野くんて」

 「まあ、以前、計算しているってことを本人から聞いてはいるんだけどね」

 

 「え?計算してる?」

 「うん、人に親切にしておいてその見返りを期待してるみたいな」

 

 「へー。我那部野くんて計算高い男なんだ」

 「うん、ただの粗暴な男ではないね」

 

 「あららら、もしかして波哉香」

 「なに?」

 

 「ギャップ萌えしてるんじゃない?」

 「は?するかっ!」

 

 「あはは、でも、実際のところどうなの?」

 「どうなのって何が?」

 

 「我那部野くんと付き合う?」

 「......はー。どうしたものか。マイナス点をなんとか探しだしてみてはいるんだけど見つからないんだよね」

 

 「へー、それって欠点がないってこと?」

 「......うん、あるって言えば『顔が好みじゃない』とか?」

 

 「それでいいんじゃない?私には最も重要なことに思えるけど」

 「......でも、実は顔もそんなにイヤではないんだよなー。好みでもないけど」

 

 「へー」

 「もうさ、最近家に帰ったらあいつのことばかり考えて、全然勉強が進まないよー」

 

 「え?波哉香それって......」

 「ん?」

 

 「落ちてんじゃない?」

 「は?」

 

 「それ絶対、恋に落ちてるよー波哉香!」

 「は?は?え?え?」

 

 がらっ

 

 「は~い、静かに~!授業始めんぞ!」

 

 クラス担任でもある市ケ瀬冴子は喧騒うずまく教室内を見渡しながら叫びスタスタと教壇に向かった。

 

 「ん?我那部野はどうした?」

 

 我那部野の席に本人がいないことに気が付き冴子は問いかける。が誰も応える生徒はいない。

 

 「ん?」

 「......我那部野くんはホワイトボードを視聴覚室に運びに行きました。他の先生に頼まれたようです」

 

 波哉香は冴子にそう説明した。

 

 「そうか、ならしばらく待とう」

 

 が、10分待っても我那部野は帰ってくる様子はなかった。

 

 「遅いな。北条、ちょっと探しに行ってくれないか?」

 「え?なんで私?」

 

 「我那部野の前の席じゃないか。それに仲が良いのだろ?」

 「べ、別に仲が良いってことは......わかりました。行ってきます。このままじゃ授業が進まないんでみんなに迷惑ですよね。すぐ連れてきます。あ、授業は始めてて結構です」

 

 「ああ、頼む」

 

 波哉香はすぐに席を立ち駆け足で教室を出て行く。

 

 「ったくぅ。あいつ何やってんの!」

 

 視聴覚室に着くと我那部野が運んでいったホワイトボードは既にそこにあったが我那部野の姿はそこにはなかった。

 

 「あいつ、どこ行ったのよ」

 

 きょろきょろと辺りを見渡すが中庭から人の声が聞こえてきたので身を乗り出して廊下の窓から中庭を見た。すると見覚えのある大柄な女生徒が我那部野と対峙している。

 

 「え?あ、あの子は?」

 

 大柄な女生徒とは武田美乃梨であった。美乃梨と我那部野はお互いにファイティングポーズを取りじりじりと間合いを取っている。

 

 「なにやってんの!美乃梨ちゃあ~ん!我那部野く~~~ん!」

 「あ!波哉香ちゃん!久しぶり!」

 

 波哉香に気が付いた美乃梨は波哉香に手を振る。その隙に我那部野は攻撃を仕掛けようとするが思いとどまり上げていた拳をすっとおろした。

 

 「そこに行くから2人とも待ってて!」

 

 急いで波哉香はその場から廊下を駆け出し階段を飛び降りるように降りていき2人の待つ中庭へと急いだ。中庭に着くなり美乃梨に飛びついた。

 

 「どうしたの美乃梨ちゃん!?この学校に転校してきたの?」

 「うん、そう」

 

 「やった!また一緒に勉強できるね!」「うん!」

 「なんだ2人とも知り合いかよ」

 

 「って、我那部野くん、なんであんた美乃梨ちゃんと戦ってんのよ?」

 「そいつが俺に仕掛けてきたんだよ」

 

 「そうなの?美乃梨ちゃん?」

 「だってその人、前、弱いものイジメをしてたんだよ」

 

 「え?」

 「だから弱いものイジメじゃねえって!」

 

 「??なんだかよくわからないけど授業はもう始まってんのよ!行くよ!じゃあ美乃梨ちゃん、また後でね。後でどこのクラスになったか教えて?」

 

 「うん」

 

 波哉香は我那部野の学生服の袖を掴みグイグイ引っ張って自分の教室に戻っていく。

 

 「......へぇ」

 

 その姿をニヤニヤしながら美乃梨は眺めていた。

 

 

  ◇

 

 

 冴子の古典の授業が終わるなや否や波哉香は後ろの席の我那部野に話しかけた。

 

 「ねえ」

 「なんだ?」

 

 「さっき弱いものイジメとか言ってたけど?」

 「ああ、武田とは前に京都の保育園で一緒だったんだ。今からかなり前だな」

 

 「へー。で、弱いものイジメって?」

 「弱いものイジメじゃねえ!逆だよ逆!弱いものを守ってたんだ!」

 

 「へー。でもさ、あなたが勝ったんでしょ?その......喧嘩になったかどうだかわからないけどその争いみたいなのは?」

 「まあ、当然だ」

 

 「.....まあ、どうしてもやむを得ない場合は仕方ないけど暴力で解決しようって言うのは私は好きじゃないな。他に解決策はないか考えたほうがいいんじゃない?それに美乃梨ちゃんから見たら結果として弱いものイジメに見えたんじゃないかなあ」

 「......お前がそう言うならそうするよ」

 

 「は?何?」

 

 我那部野の言葉に波哉香は何か身体が震えるような快感を感じた。

 

 「だからお前がそう言うならそうするよって言ったんだ」

 「ほー.......」

 

 赤の他人が自分の言いなりになる。そんな初めての体験に波哉香の全身はゾクゾクと震えだし止まらなくなっている。

 

 「......はー、なんだかお腹すいちゃった。お昼は焼きそばパンが食べたいなっ、と」

 

 語尾のところで波哉香は我那部野の顔を覗き込んで言う。

 

 「お、おう!昼になったら買ってきてやるよ。ひとつでいいんだな?」

 「え~。美樹は食べる?何かパン?」

 

 「......私はいいよ。ちょっと波哉香!」

 

 美樹は波哉香を手招きし波哉香の耳元で話しはじめる。

 

 「我那部野くんをそんなパシリみたいに使っていいの?」

 「だって私の言いなりになって面白いんだもん」

 

 「やめなよ。悪いよ」

 「じゃあさ。私、我那部野くんと付き合う」

 

 「え~~!?」

 「だって付き合ったら私の為になんでもしてくれそうなんだもん」

 

 「ちょ、ちょっと!そんなので決めていいの?」

 「いい~んです!」

 

 「は、波哉香と我那部野くんが、つ、付き合う......の?」

 

 美樹は波哉香と我那部野を応援するような感じではいたが実際にそうなってみると信じられない様子であったようだ。そして終始ニヤニヤが止まらない波哉香を見て美樹はしばし呆然とするのであった。

 

 

 (続く)

 

 

 

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