「もしもし?タオ?うん......ママに反対されちゃって......」
自分の部屋に戻り波哉香は我那部野の携帯に電話をする。
『そうか......じゃあ、仕方ないな』
「え?ヤダよ。私、タオと岐阜に行きたい」
『でも、親に反対されたんじゃ仕方ねえだろ』
「なんでぇー?あきらめるの?」
『......』
「ふぅん......じゃあタオは例えば私の親に交際を反対されたら私と別れるんだ?」
『それは飛躍すぎだろ!......俺達はまだ中学生なんだし泊りで男と2人きりで旅行するのは心配だっていうお前の親の気持ちはわかる』
「なんで?なんで私達まだ中学生なのにタオはそんなに物分かりがいいの?......私は!......私はタオといたいのに......」
『俺だってお前と一緒にいたいよ』
「......私、行くから絶対。明日10時頃駅で待ってて。ママが会社に行ったのを見計らって抜け出していくから」
『おいおい、大丈夫なのか?』
「わからない。でも今はタオと一緒に岐阜に行くことだけしか......考えられないの」
『......わかった。でもなハヤカ、一応俺は駅で待つが無理はしないでくれ。もしダメなら電話くれればいいから』
「......うん」
その後、二人は他の話を30分ほど話し電話をきるのであった。
◇
「ダメだダメだダメだ!!」
波香はリビングで時哉と隼に波哉香がボーイフレンドと岐阜に旅行したいと言ってきたことを話すと時哉は憤慨する。時哉の横で隼も不快な表情をしていた。
「あの子の事だから反対しても絶対行こうとすると思うのよ。だから阻止しましょう」
「もちろんだ!」「うん!」
時哉と隼の鼻息は荒い。波哉香の事が大好きな2人は他の男に取られたくないのだ。
「でも、パパは学校休みなの?」
「休みじゃないけど大丈夫だ!」
「僕も学校休みだよ!」
「.....そう。私も会社は休みではないけど急な仕事があるわけじゃなし.....」
「3人でハヤカを押入れにでも閉じ込めるか?」
「なにそれ?そんなことはしたくないわ」
「じゃあどうするんだ?」
「......最終的にはそうなっちゃうのかしらね」
波香は何も良い案が浮かばずにハアと深いため息をついた。
◇
「じゃあ、行ってくるわね」
「いってらっしゃあい!」「いってらっしゃい」
翌日波香は会社へ行くフリをする。波哉香と隼に見送られた後、路地裏に姿を隠した。おそらく反対側には時哉も波香と同じように身を潜めているハズだ。
「今日はハヤブサはどこかにでかけないの?」
「うん、でかけないよ。だからお姉ちゃんに勉強教えて欲しいな。わからないところがあるんだ!」
「.....ごめん。今日、この後友達と買い物に行く約束をしてるんだ」
波哉香は実の弟に心苦しいが嘘をつく。
「え~~~!!」
「だから、また今度ね」
「最近、お姉ちゃん全然僕に勉強教えてくれないじゃんか!」
「ほんと、ごめん」
ダダダッ......
波哉香は自分の部屋に駆け込む。そして前日に用意しておいた旅行バックを担いだ。そして部屋を出ると波哉香の前に隼が立ちはだかっていた。
「......お姉ちゃん。買い物に行くって言ってたけどその重そうなバックは何?」
「こ、これは......」
「彼氏と旅行に行くんでしょ?」
「......」
「昨日ママが言ってた。お姉ちゃんが彼氏と岐阜に行きたいって」
「お願い!行かせてハヤブサ!帰って来たらなんでもするから!」
「え!?なんでも?」
「うんうん!だからいいでしょ?」
「なんでもって......本当になんでもいいの?」
「あ......エッチなこと以外ね!」
「ふぅん......じゃあ、ダメだ」
「......は?あんたお姉ちゃんにエッチなことしたいの?」
「うん、したいよ」
「......ちなみにどんなことしたいの?」
「お姉ちゃんのおっぱいを揉みたい」
「はあああ!?お姉ちゃんだよ?私、あんたのお姉ちゃんだよ?」
「うん、そうだね」
隼は顔を赤らめてはいたがしっかりと波哉香の顔を見て言った。薄々感じてはいたがどうやら弟は姉である自分を異性として見ているようだ。
「......はあ、そうなんだ。わかった。じゃあ、帰って来たら30秒揉ませてあげるから、それでいいでしょ?」
「え~それじゃあ、すぐじゃん」
「じゃあ、1分。1分はどお?それ以上はちょっとムリ」
「う~ん、わかった。それでいいよ」
「ありがと!お土産買ってくるからね!」
隼から解放されドタドタと玄関まで走りエレベータのボタンを押そうとする波哉香。がその手を時哉は掴む。時哉は波香との打ち合わせた場所でじっと待機していることができずに北条家から一番近くのエレベータまで様子を見に来ていたのだ。
「きゃっ!!パ、パパ!?」
「ハヤカ、お前はまだ中学生だろ?男と旅行なんて親として許すわけにはいかない!」
「......放してよ。パパ」
「自分の部屋に戻るなら放そう」
「......私、行くよ?絶対。こんなに好きになったの......パパ以外に初めてなんだから」
「そのパパの言う事なら聞くよな?」
「......じゃあ、パパ、私と結婚してくれる!?」
「え!?」
「ママと別れて私と結婚してよ!」
「そんなのできるわけないだろ!」
「できないよね?できないんだよね?じゃあ、私が会いたい人のところへ行くの邪魔しないでよ!」
波哉香はそう言っているうちに涙が出てくるのだ。おそらくこの言葉で自分の大好きな異性として見ていた父との関係は今までとは違ったものになると予感したからである。
「話がずれているよハヤカ。俺はお前の親として心配だから止めているんだ。中学生のハヤカが男と泊りで旅行なんて早すぎる」
「そんなの......早いか遅いかの違いでしょ?私にとっては今が全てなんだよ!」
「もし今、ハヤカがその男と泊って変なことにでもなったらパパは気が狂いそうになる」
「変なことはしないから、行かせてよ!」
「ダメだ!」
「......パパだって中学生の時ママとの結婚を許して欲しいっておじぃちゃんに言ったんでしょ?」
「ああ、言ったけど俺は中学生の時、ママに変なことはしなかったぞ!」
「私もしないから!」
「ダメだ!信用できない!」
「自分の娘が信用できないの!?」
「信用できない!」
「パ、パパのバカア!!」
キッと波哉香は涙を流しながら自分の父親を睨みつける。時哉は自分の娘の激昂が初めてのことなので少し動揺してしまう。その瞬間波哉香の手を握っていた時哉の手の力が一瞬弱まってしまった。波哉香はその隙を見逃さず時哉の手を空いている手の手刀で叩き伏せた。
バシッ!!
「しまった!」
ダダダッ!!ダンダンダン!
波哉香はエレベータの横の非常階段から下へと駆け下がる。それを必死に追う時哉。
「待て!ハヤカ!!」
「パパなんてキライ!ダイッキライ!!」
「ぐっ......」
波哉香の声に精神的ダメージを食らい続けた時哉は徐々に波哉香との距離が開きつつある。やがて時哉は日頃の運動不足がたたり足がもつれて階段から転げ落ちてしまう。
ズルッ......ドドドドドドッ!
「ぐわっ!」
「え!?」
自分の後ろで父親が転んだので一瞬、気にかけるが波哉香はすぐに前を向きどんどんどん階段を下って行く。
「......ごめん、パパ......さようなら私の初恋」
波哉香はようやく1Fまで降りるとエントランスのオートロックの自動ドアを解放させる。するとその自動ドアの後ろに波香が立っていた。
「やっぱり会社へ行ってなかったんだね」
波哉香は自分の母親をラスボスとの戦いに臨むような目つきで睨む。
「まあね。大体こうなるんじゃないかと思ったわ」
「私、行くよ?絶対」
「絶対に行かせないわ」
「ふぅん、じゃあ、どうする?」
「今帰るなら許してあげる」
「......帰らないって行ったら?」
「そうね......親子関係は解消。勘当するわ」
「え!?......それでも......それでも私はタオと一緒に岐阜に行く!!」
「あらそう。なら仕方ないわね。力ずくでも行かせない」
やはり言葉での説得は無理だと判断した波香は戦闘態勢を取る。波哉香も負けじと戦闘態勢を取った。
「でやあぁあああ!」
先制攻撃で回し蹴りを波香に対して繰り出す波哉香。しかしそれを波香は余裕で交わす。
「あらあら。親に対して回し蹴りを繰り出す娘になんて育てたつもりはありません!」
「くっ!」
しかしその回し蹴りは最初からヒットするなんて波哉香は考えておらず本命はその回転を利用した水面蹴りであった。
ズシャアアアア!
「はっ!!」
それも波香はひょいとジャンプで交わした。
「くっ!全く隙が無い。.......勝てるだろうか?私はママに......この人に!」
息つく暇もなく波哉香は波香に手刀を振りかざし、これまた空振りに終わるも回転し裏手刀を繰り出していく。
ひゅん!ひゅん!ひゅん!
「はっ!はっ!はっ!」
波香はそれを受けることなく全て間合いで避ける。
「はい!はい!はい!」
いつの間にか波哉香の手刀は握り拳に変形し空手の正拳好きも織り交ぜていくが波香は受けようとせずすべてかわし身でいなしている。
「......ムダな動きが多すぎる。時間のムダだしあんたを引きずり倒して家に連れ戻すことにするわね」
波香はそういうと自分の娘に踵落としを敢行する。
「はああああ!!」
「そんなの当たらないよ!」
波哉香は半身で身体を入れ替え波香の踵落としを見切って避けた。が、これもやはりダミーの攻撃で本命は次の波香の得意とする膝蹴りだったのだ。
「10年後きやがれ!!」
ドシャアアア!!
空振りした右足の着地と同時に今度は左膝を思い切り自らの身体ごと突き上げる波香。その左膝が波哉香のアゴにヒットしたと思いきやヒットしてはいなかった。
「せいやああああ!!!」
くるん!ドギャアアン!!
波哉香はなんとそのタイミングに合わせてムーンサルトキックを放っていたのだ。そのキックもまた精度があり確実に波香の顎を狙っていた。
「うわ!」
身体ごと宙に浮いている波香は身をよじって顎への直撃を避けることしかできず両者は勢いあまってその場に倒れこんだ。
ドサッ!ドサッ!
「っつう」「あいたたたた......」
立ち上がり再び構える2人。そこへ時哉が波香へと援軍に加わった。
「はあはあ、ゴメン、ナミカちゃん、転んじゃって」
「トキヤ。2人がかりでハヤカを捕まえるわよ」
「おう!」
じりじりと波哉香に近づく二人。波哉香は半歩づつ下がる。そしてきびすを返してその場を逃げるのであった。
「!!逃がすかああ!!」
すかさず時哉は波哉香を追う。波香はその2人と違う方向に向かって走り出す。駅のある方向だ。
波哉香を追従する時哉であったが2つ3つの角を曲がると波哉香の姿を完全に見失ってしまう。
「くそっ!あいつこんなに速かったか?」
◇
「はあはあはあ......撒いたかな?」
後ろを振り返り自分の父親が追って来ないことに波哉香はひとまず安心する。そして駅の券売機の場所にたどり着くとそこは波香がいるのだ。
「はー。......もぅ」
「何度阻止してもあんたは絶対諦めないんでしょ?」
半ばあきらめ顔で波香は波哉香に言う。
「諦めない!」
「はあ、私達だって暇じゃないんだから......これ、持っていきなさい」
ぽ~んと波香は波哉香に箱を投げ渡す。
「??なにこれ?あ!!」
その箱を見た途端、波哉香は顔を赤らめる。
「ママ、これって」
「もしもの時は彼につけてもらいなさい。いいわね?」
「う、うん。......ありがとうママ」
「ちゃんと無事に帰ってきなさいよ?」
「うん!お土産買って来るね!」
そう言って波哉香は切符を買い波香に手を振って改札を通り過ぎて行く。その姿が見えなくなるまで波香はそこに立っていた。
「我那部野君」
「おああ!は、はい!!」
改札の横の柱に隠れていた我那部野に波香は気づいていて不意に声をかけられた我那部野の声は高かった。
「ハヤカのこと宜しく頼むわね」
「はい!!それじゃ失礼します!!」
波哉香の後を追って我那部野は改札を抜けていく。波香はそんな彼を最初は笑顔で見送ったがやがて表情が険しくなるのだ。
「......我那部野太鳳。お前は一体何者なんだ?」
(続く)