「ううん......あ?」
直江徹は見慣れない天井を見つめ薬品の匂いのする部屋で目覚めた。
「そうか、僕は......ここは病院なんだ」
どうやら自分はチンピラ達にボコボコにされ病院に運ばれたことを理解する。
「お、直江、起きたのか」
直江が寝ているベッドの横で上杉は椅子に座っていた。
「上杉さん!?」
「......すまない私のせいでこんな目に合わせてしまって」
「違いますよ。悪いのはうちの先輩達です。僕は先輩達が上杉さんを襲う計画を知っていたのにやめさせることができませんでした」
「いや、それはキミの責任ではない。キミの先輩たちを咎めたとしても計画を止めることなどできないだろう。だからキミは黙って見過ごし事が起きてから私を助けようとしたのだろう?」
「......はい。本当は見て見ぬふりをしようかと思ったんです。先輩たちに逆らえば剣道部はおろか学校にいることさえ辛くなりそうだから......でも、僕には見て見ぬふりはできなかった......」
「キミのその勇気と正義感は称賛に値する。......どうだ?私の学校に転校してこないか?」
「上杉さんの学校に?」
「そうだ、編入試験さえ合格すれば学費はタダだ。......まあ、生活費はかかるがな。......キミさえよければ私のマンションにしばらくの間、一緒に住んでもいいぞ?」
「え?僕が上杉さんと一緒に住む!?」
「ああ」
「でも、上杉さんのご両親は大丈夫なんですか?」
「ああ、心配はいらない。私は一人暮らしだ」
「一人暮らしなんですか?」
「ああ、キミと私でふたり暮らしになるな!」
「でも、そんな僕達まだ会ったばかりなのに......」
「大丈夫だ。キミを信用している」
「でも、僕だって男なんですよ?」
「それは百も承知の上だが?」
「......」
「でも、言っておくが編入試験は難しいぞ?今の話は編入試験に受かってからの話なんだがな」
「それは多分心配いらないと思います。僕はずっと自分の学校で学年トップを維持していますので」
「なんと!」
直江が目覚めてからの30分、上杉と話し込んでいるところに波哉香と我那部野が病室に入ってきた。波哉香達は事情徴収のために警察署に呼ばれ先ほど解放されたのだ。
「あ!直江君、起きたんだね」
「あ、はい。ええと、あなた達は?」
「私の学校の後輩だ。北条に我那部野だ」
「よろしくね!」「......」
「あなた達が上杉先輩を助けてくれたんですね。ありがとうございます」
ベッドに上半身を起こし直江はペコっと頭を下げる。
「ううん、私じゃなくてこの人が一人でやっつけたの!」
波哉香はドヤ顔で自分の彼氏である我那部野を前にださせる。
「とっとと」
前につんのめる形で我那部野が波哉香の前にでた。
「我那部野さんありがとうございました」
「......お前、弱すぎるぞ?弱いのに5人相手に突っ込んでいくなんて無謀を通り越して自殺行為だ」
「あ、はは。そうですよね」
「我那部野、まあ、そう言うな。彼は彼なりに頑張ったんだ」
上杉は直江をかばう。我那部野は舌打ちをしてそれ以上、物を言うのはやめた。
「直江がもしうちの学校に来てくれるなら私と一緒に剣道をやらないか?」
「上杉さんと?」
「ああ、私はもうすぐ卒業だが卒業してからもOGとして指導するぞ?」
「......はは、上杉さんって本当に剣道好きなんですね」
「ああ、私にはこれしかないからな」
上杉はそう言って上段から竹刀を振り下ろすジェスチャーをする。
「え?直江君、私達の学校に来るの?」
「上杉さんに誘われてるんですがどうしようかと」
「でも、うちの編入試験は難しいよ?」
「それなら心配無用だろう。なにしろ直江は学年トップを維持してるらしいぞ?もし直江が来たら北条も今川もうかうかしてられないな」
上杉は愉快そうに笑う。
「なぬ?学年トップ?直江君は私と同じ1年だよね?むむむ」
一転して波哉香の顔が険しくなる。
「年明け早々に試験は行われる。うちの学校は毎月1回編入試験を行っているからな。優秀な生徒に対して門は広いのだ」
「そんなに頻繁にやっているんですね」
上杉の説明を受けて直江はどうやらやる気になっているようだ。
「もし、直江君がうちの学校に来ても私、負けないからね!」
「え?」
「はは、北条はうちの学校の学年トップの常連らしいぞ?」
「北条さんが......僕だって負けませんよ!......そちらの学校に受かるかわかりませんが」
「テメーは負けとけ!」
ポンと我那部野は直江の頭を軽く殴る。
「あたっ!」
「ちょっと、タオ!」
それを波哉香が止める。その様子を見て直江はこの二人はただならぬ仲だと瞬時に理解した。
「学年トップの才女に勇猛果敢な男子ですか......お似合いですね」
「お!似合うか?似合うか?そうだろうそうだろう、お前いい奴だな!?」
我那部野は先ほどの態度とはうって変わって満面の笑顔で直江に近づく。
「もう、タオってば」
そんな我那部野の態度に波哉香は笑いを隠し切れない。
「いいですね。ラブラブじゃないですか」
羨ましそうに直江が言ったところですかさず上杉が口を挟んできた。
「えっと、そのう、直江は彼女とかいるのか?」
「いません」
「!!そうか、いないか。いないのか......うふふふ」
「??」
「あ、先輩?もしかして直江君?」
「は?そ、そんなことはないぞ!.....あ、なくもなくはないが」
上杉は波哉香に突っ込まれ、否定するが直江が自分を見つめていたのでどう話していいのかわからなくなるのであった。
◇
__話は30分前に遡る。
波哉香と我那部野が事情徴収のため警察署を解放されてからの事だ。
「コンビニで何か買って行こうか?お見舞いに?」
「......そうだな」
しばらくの間、2人は無言で歩く。
「.....どうして偽名を使ってるの?」
「恥ずかしいからだ。歴史上の大人物と同性同名だからな」
「別にそんなの......胸を張ってればいいのに。タオはタオだよ?」
「この名前のせいで結構イヤなこともあったんだ」
「そうなんだ?」
「ああ」
「......じゃあ、これ以上のことを聞くのはやめておく。前にも言ったけど私はタオが好き。今のタオが好きなの」
「おう、ありがとなハヤカ」
「うん!」
「......あいつら、松永達とは小学生からのダチでな。ま、いわゆる悪ガキ仲間ってところだ」
「悪ガキ?」
「ああ。よくいたずらしたもんだ」
「ふぅん。でも小さいころの話でしょ?今、タオはすごく真面目だもんね。素行不良に見えるけどやってることは正反対!」
「なんだ?茶化してるのか?」
「へへ、まあ、そうかな?でも、私の自慢の彼氏だよ?」
「......もう一回言ってくれるか?」
我那部野は立ち止まりワナワナと震えていた。
「私の自慢の彼氏!!」
「......」
我那部野は目を瞑ってただ立っていた。彼はどうやら感動の荒しの坩堝へと叩き込まれたようだ。
「......ハヤカ」
我那部野は真面目な顔をして波哉香ににじり寄る。
「え?なに?......ここで?」
「大丈夫だ。誰も見てない」
「......ん」
波哉香は我那部野にされるがままキスをされる。
「......はあ......これで何回目かな?」
「......さあな......俺はお前とこれからも何回もしたい」
「......私もだよ」
二人は上杉と直江のいる病院まで手を繋いで歩いて行く。
◇
「お前達はこれからどうするのだ?」
「私達はこれから......」
上杉に問われ波哉香は我那部野の顔を見ておもむろに話し出す。
「タオの生まれたところに行く予定です」
「そうか。......私も観光がてら一緒に行っていいか?このまま帰るのも......いや、それは無粋だな。2人の邪魔になりそうだ。すまん今のは忘れてくれ」
「えっと......」
波哉香は我那部野の顔を伺う。我那部野の顔はあまり険しくなく波哉香に一任するといった表情が波哉香には読み取れた。
「いいですよ」
「え?いいのか?なんだかすまんな」
「いえいえ、旅は道連れって言いますし」
「そうか、ではお言葉に甘えるとしよう。......そうだ直江」
「はい?」
「これは私の連絡先だ。何かあったら連絡してくれ」
上杉はそう言い、自分の連絡先を書いた紙きれを直江に渡した。
「あ、はい......編入試験の件、自分の親に相談してみます」
「そうだな。退院したら私に連絡してくれ」
「はい!」
こうして波哉香、我那部野、上杉の3人は直江の入院先の病院を後にした。辺りはすっかり暗くなっている。
バスを降り人気のない盆地の停留所で3人は降りた。
「随分と静かなところだね」
波哉香はあたりを見回し畑と山を見てそう言った。
「......ああ。ここからもう少し歩くと俺の家があったところだ」
「え?あったところ?」
「来たぞ!!」
ガササササッ!!
「なにやつ!?」
上杉の気配を察知した声で波哉香達は一斉にみまがえる。10人、いや20人くらいの歳の頃、波哉香達と同じかそれよりもちょっと上の男達が波哉香達を取り囲む。
「久しぶりだな。織田。......ほぅ。随分とイイ女を2人を連れてるな?」
大男が男たちの後方からのっしのっしと現れた。
「てめぇ、
「さっき、マツ(松永のこと)から連絡があってな。お前がこっちに帰ってきてると」
「......そんなザコども大勢連れてきてどうするつもりだ?」
「うはは、そんなの決まってるだろ?」
「てめぇ、ハヤカに何かしてみろ?皆殺しにしてやる!」
六角の言葉で大勢の男たちが波哉香達に襲い掛かった。序盤こそ波哉香達は襲いくる敵を薙ぎ払っていたが所詮は多勢に無勢。波哉香と上杉そして我那部野は男達に囚われてしまう。
「.....てこずらせやがって!......その分、たっぷり楽しませてもらうぜ!」
六角は傷だらけの手でズボンのベルトをカチャカチャと外しながら波哉香に近づく。そして波哉香の上着に手をかけ思い切り引き裂いた。
ビリビリビリィ!
「きゃあああ!!」
ビリィ~~~!!
波哉香のシャツもブラジャーも剥ぎ取られ白い乳房が露わとなった。
「ひっ!!」
「や、やめろおおおお!!」
「んお!いいオッパイしてるじゃないか!」
もぎゅ
六角は波哉香の右の乳房を鷲掴みにする。
「イヤアアアア!!」
「ヤメローーーーーーーッ!!」
.......ドゥーーーーーーーーン
__我那部野は絶叫しその瞬間辺りは霜が降りるように闇に覆われる。その後、波哉香は意識を失い自室のベッドの上で目覚めた。
「ふあああぁ......あ?私、寝てたんだっけ?」
波哉香は上半身を起こし自分の来ているパジャマを見てつぶやく。
「ん?なんか夢を見ていた??」
頭がぼーっとしている。だがいてもたってもいられなかったので波哉香はパジャマのままリビングまで行くと波香が朝食の用意をしていた。
「あら、ハヤカ、早いわね?まだ6時になってないわよ?」
「おはよママ。ねえ、なにかあった?」
「何かって何が?何もないけど?」
「あ、そう」
「どうしたの?何か変な夢でも見た?」
「夢?そうなのかな......思い出せない」
「ハヤカ、着替えたら手伝ってくれる?」
「うん、わかった」
波哉香は心にモヤモヤを抱えながら制服に着替え波香と供に朝食の用意をするのであった。
◇
「おはよ、美樹」
「波哉香、おはよう」
いつも通りコンビニの木の下で落ちあった二人はそのまま学校へと登校する。
「ねえ、何か変わったことあったっけ?」
波哉香は心のモヤモヤを美樹にぶつけてみる。
「え?特に何もないと思うけど......波哉香は何かあったの?」
美樹はきょとんとして波哉香の顔をまじまじと見る。
「ん?何もない......けど」
「あは、変なの」
二人は自分の教室に入り、仲の良いクラスメートに挨拶を交わすと自分の席についた。
「あれ?私の後ろの席って美樹だったっけ?」
「え!?そうだよ?どうしちゃったの波哉香?頭でも打ったの?今日はなんかおかしいよ?」
「ええ??」
波哉香はとてつもない違和感を味わうが自分で何がおかしいのかわからないのだ。
「......確かに私、どこかおかしいのかも......どうしよう美樹?」
「ええ!?落ち着いて波哉香」
「うううう」
__波哉香は美樹に宥められるがただオロオロとするのみであった。
(続く)